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1.文在寅にとって日韓関係はその程度
5月17日、韓国外交部は記者団に対して送ったメッセージで「韓国政府がバイデン政権に韓日関係改善の努力を約束する代わりにシンガポール宣言の継承など、政府が望む対北政策を反映させたという報道は事実無根であるのみならず、悪意のある報道だ」と伝えました。
そして、韓米両国はバイデン政権の対北朝鮮政策見直しの全過程で緊密に協議したが、その中で韓国政府が対北朝鮮政策とその他の外交懸案を関連付けたり、そのような問題を検討したりしたことはないと説明し、事実に基づかない報道を行うことは全く国益のためにならないと強調しました。
これは、17日、韓国経済メディアの毎日経済の報道を受けてのものです。
件の記事によると、政府関係者が「アメリカが望むことは同盟強化だ。 ここに集中してくれれば対北政策では韓国の意思を最大限反映してやるという立場」と述べたことや、ある外交消息筋も「昨年末頃、米国務省で『韓日関係を改善すれば、対北朝鮮政策では韓国が望むことを聞き入れる』と韓国政府に話したと聞いている」と述べたことを紹介し、最近、対北朝鮮政策の検討を終えたバイデン政権がシンガポール宣言の継承を取り上げ、韓国政府が積極的に日韓関係改善の意志を示したことは、両政府間の利害関係が一致した結果だとしています。
記事では、バイデン政権発足以来、韓国政府の対日政策は180度変わったとし、文在寅大統領は1月に行われた1回目の慰安婦被害者の勝訴判決に「困惑している」と述べ、2月の定期人事では、慰安婦事件を担当していた裁判官を多数交代させた結果、4月の第2回目の慰安婦被害者訴訟では、原告敗訴の判決に覆されたとしています。
首脳会談の共同声明や共同宣言は何か月も前から下準備を始めるのが普通ですから、この記事の通りであれば、昨年末の段階から下交渉を始めて、文在寅政権の"対日関係改善の努力"を見た上で共同宣言の内容をリークしたということかもしれません。
5月11日、文在寅大統領は就任4周年特別演説で、「米国のバイデン新政権も、対北朝鮮政策の検討を完了しました。我々と緊密に協議した結果であります。韓半島の完全な非核化を基本目標とし、シンガポール宣言のもと、外交を通じて柔軟かつ漸進的・実用的なアプローチで解決を図るといったバイデン政権の対北朝鮮政策の方向性を歓迎いたします」と語っていますから、この段階でほぼ宣言の内容が固まったのではないかと思われます。
ついでにいえば、このときの文大統領の演説は、武漢ウイルス、ワクチンの話で始まり、続いて経済ときて、件の北朝鮮政策の件はそのあとです。ですから優先順位としては第一ではなく、念頭にあるのは、武漢ウイルスとワクチンです。あるいは米韓首脳会談でもワクチン供給の話に時間を割く可能性も考えられます。
いずれにしても、アメリカの対北政策に口出しするために日韓関係改善というカードを切ったということは、文大統領にとって日韓関係とは所詮その程度のものだということではないかと思います。
2.シンガポール宣言
では、その文在寅政権が重要視する「シンガポール宣言」とは何かというと、2018年6月12日にトランプ前大統領と北朝鮮の金正恩委員長が12日にシンガポールで署名した共同声明です。
共同声明の全文は次の通り。
ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長は2018年6月12日、初めての歴史的な首脳会談をシンガポールで行った。文在寅政権はバイデン政権に対して「シンガポール宣言の継承」を要求したということですけれども、共同声明の冒頭で「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」とあります。
トランプ大統領と金委員長は、新たな米朝関係の確立と、朝鮮半島における持続的で強固な平和体制の構築に関連する諸問題について、包括的で詳細、かつ誠実な意見交換をした。トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した。
新たな米朝関係の確立が、朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できることを認識し、トランプ大統領と金委員長は次のことを言明する。
1 米国と北朝鮮は、両国民が平和と繁栄を切望していることに応じ、新たな米朝関係を確立すると約束する
2 米国と北朝鮮は、朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努力する
3 2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力すると約束する
4 米国と北朝鮮は(朝鮮戦争の米国人)捕虜や行方不明兵士の遺体の収容を約束する。これには身元特定済みの遺体の即時帰国も含まれる
史上初の米朝首脳会談が両国間の何十年にもわたる緊張状態や敵対関係を克服し、新たな未来を切り開く上で大きな意義を持つ画期的な出来事だったと認識し、トランプ大統領と金委員長は共同声明の規定を全面的かつ迅速に実行に移すと約束する。米朝首脳会談の成果を履行するため、米国と北朝鮮はマイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が主導して、できるだけ早い日程でさらなる交渉を行うと約束する。
トランプ大統領と金委員長は新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和と繁栄、安全のために協力すると約束する。
ドナルド・トランプ米大統領
金正恩・北朝鮮国務委員長
2018年6月12日
セントーサ島
シンガポール
けれども、たとえバイデン政権が「シンガポール宣言を継承」すると宣言したとしても、その中身をどこまで守ってくれるのか今一つ不透明なところがあるように思います。
というのも、バイデン氏は大統領選での公約を破っている面が見受けられるからです。例えば、建設中止を言明した国境の壁も結局、建設継続してますし、融和に傾くかと見えた対中政策もトランプ路線を継続しています。
これでは、トランプ前大統領が約束した「安全の保証を与える」とて、北朝鮮にしてみれば、本当に保証してくれるのか気が気でないのではないかと思います。
まぁ、操り人形だとも揶揄されていたバイデン氏ですから、もとよりそうだろうという見方もあるでしょうけれども、議会を敵に回しても、自説を貫いて、公約を守っていったトランプ前大統領とはこの点では大きく見劣りします。
あるいは、文在寅大統領は、バイデン政権に、シンガポール宣言を継承させたとして、北朝鮮に恩着せるかもしれませんけれども、北朝鮮が欲しいのは、宣言の保証と確実な実施であり、上っ面でシンガポール宣言がうんたらかんたらされたところで余計なお世話なのかもしれません。
3.日本に任せてほしい
アメリカが見直したという北朝鮮政策について、日本政府は当初、オバマ政権の「戦略的忍耐」への逆戻りや、米本土に届かない短中距離弾道ミサイルの容認などを警戒し、更に、日韓関係についてもアメリカが半島非核化を錦の御旗に介入してくることも警戒していたようです。
そこで日本政府は、バイデン政権に対し、水面下で働き掛けをしていたようです。
5月3日、茂木外相はロンドンで日米外相会談を行いましたけれども、バイデン政権が北朝鮮政策を見直す過程で「日本の考えも米側にしっかりインプットしてきている」と述べ、支持と歓迎を表明しています。
日韓関係についても、茂木外相は、ブリンケン氏との電話会談や3月の対面会談で「安全保障に影響が出ないよう3ヶ国の連携はしっかりやる。その代わり韓国との問題は日本に任せてほしい」と繰り返し念を押しています。
実際、外務省幹部は「米国は日本の立場を理解している。こちらが困ることは言ってこない」と語っているそうですから、それなりに水面下の動きは功を奏しているようです。
あと、欲をいえば、日本の働き掛けによって、バイデン政権の政策に一定上の影響を及ぼす程になれば、今度は逆に、北朝鮮やあるいは中国までもが日本を頼るようになる可能性だってなくはありません。
まぁ、今の日本の政権与党にそこまで望むのは高望みに過ぎるかもしれませんけれども、バイデン政権が同盟国との関係を重視するとしている以上、日本の意見も通すチャンスがきたとみるべきではないかと思います。
対北朝鮮についていえば、日本には拉致被害者救出という大きな課題がありますけれども、バイデン氏を操るとはいわないまでも、バイデン政権の政策に少しでも日本の意見を反映させられるよう試みても良いのではないかと思いますね。
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