

1.パンデミックの脅威に直面するのはこれが最後ではない
5月24日、世界保健機関(WHO)の第74回年次総会がオンライン形式で始まりました。主なテーマは、現在の武漢ウイルスパンデミックを迅速に収束させる必要性と、次のパンデミックに備える必要性です。
総会の開会式でテドロス事務局長は、「報告はまだ完了していないが、少なくとも11万5000人の医療従事者が他者を保護して最も高い代償を払ったと考えている。医療従事者は真の英雄だ」と11万5000人の医療従事者が武漢ウイルス感染症によって死亡したと明らかにしました。
テドロス事務局長は「世界は依然として非常に危険な状態にある」と述べ、今年の感染者が既に昨年1年間の合計を上回っており、死者数も今後3週間のうちに昨年1年間を超えるだろうと指摘。現在、世界のワクチン接種の75%が、わずか10ヶ国に集中している点を挙げ、「恥ずべき不公平だ。ワクチンを手にした少数の国々が、世界のその他の命運を左右している……公平に分配されていれば、我々はもっとよい状況にいられたはずだ」とこれまで接種されたワクチンを合わせれば、世界の医療従事者や高齢者に接種するのに十分な量だったと語りました。
そして、「世界がパンデミックの脅威に直面するのは、これが最後ではない。……今回のウイルスよりも感染力が強く、致死率の高い別のウイルスが出現するだろう……我々の前には、共に行動するか、無防備の状態になるかという選択肢がおかれているのだ」と訴えました。
テドロス事務局長の語った内容そのものは至極正論であり、ワクチンの分配など、各国が協調して対応するべきという論はその通りだと思いますけれども、WHO自身が中国寄りだと批判されていることに加え、中国政府もWHOに対し満足に調査させないなど隠蔽が疑われていることもあり、彼の訴えがどこまでまともに受け取ってもらえるのか微妙な感じを受けます。
しかも各国で、武漢ウイルスが研究所由来だとか、中国が開発した生物兵器だなどという説が取り沙汰されている昨今、「武漢ウイルスよりも感染力が強く、致死率の高い別のウイルスが出現する」などと言われてしまうと、何か裏情報でも掴んでいるのかなどと穿ってしまいたくなりますし、案の定、一部のネットでは、「チャイナから何か教えてもらったのか」とか「犯行予告だろ」などという声が上がっています。
2.BGCの二重盲検試験
現状を見る限りでは、WHOがワクチンの公平な分配を訴えても、絶対数が不足している以上、すぐにどうなるものとも思えません。
では、現状のまま指を加えてワクチンが届くのを待っているしかないのかということになりますけれども、ちょっと気になる報告があります。
これはプレプリントサーバーである「medRxiv」に5月24日に投稿された「 A DOUBLE-BLIND RANDOMIZED TRIAL OF BCG VACCINATION AGAINST COVID19 IN INDIVIDUALS AT RISK(リスクがある個人を対象としたcovid19に対するbcgワクチン接種の二重盲検無作為試験)」という論文です。
内容は題名の通り、武漢ウイルスに対するBCGワクチンの有効性を追跡調査した研究です。
研究は、基礎疾患があり、かつ高齢という武漢ウイルスに罹患するリスクが高い人達から、ツベルクリン反応陽性、血液悪性腫瘍、武漢ウイルス陽性、ステロイド、固形悪性腫瘍および化学療法を受けている人を除外した301名を対象とし、その内、148人にBCG(カルメット・ゲラン桿菌モスクワ株361-I)を接取し、残りはプラセボとしました。
そして、彼らを3ヶ月、4.5ヶ月、6ヶ月と追跡し、武漢ウイルスに新規感染した割合を比較したのですね。
その結果、6ヶ月の追跡期間中に、プラセボワクチン接種対照と比較して、BCG接種群は、武漢ウイルス感染症を発症する相対リスクが68%減少することが分かったそうです。
BCGについては、昨年3月29日のエントリー「BCGは武漢ウイルスのワクチンとなるか」で取り上げ、BCGが武漢ウイルスに効くかもしれないと述べたことがあります。
論文が示した相対リスク68%減というのは、ファイザーやモデルナワクチンの有効性九十何パーセントに比べれば大したことはないのかもしれませんけれども、それでも、日本人の大半が既にBCGを接取していることやBCGの安全性を考えると、朗報だと思います。
もっとも、論文は、今回の研究はその規模が小さいため、重症型の武漢ウイルスに対するBCGワクチン接種の影響に関して結論を出すことはできないとしています。
ただ、BGCが武漢ウイルスに対してそれなりに有効であるならば、たとえワクチン接種が進まなくても、ある程度以上の「時間稼ぎ」が期待できることになりますし、BCGでもそこそこ大丈夫だと分かれば、多少なりとも安心材料になると思います。
今後とも、是非、母数を増やしての継続研究を期待したいですね。

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ゆうや