

1.起源の追加調査を
5月25日、WHOの年次総会でアメリカのベセラ厚生長官が演説しました。
その中でベセラ厚生長官は武漢ウイルスの起源に関して次の様に述べました。
現在のパンデミックを理解し、将来の生物学的脅威の検出、準備、対応に向けて、さらに努力しなければならない。このようにベセラ厚生長官は、これまでの起源調査は「透明性が低く、科学的根拠に基づかず、独立性もない」と指摘しています。
COVIDの起源に関する研究のフェーズ2は、透明性が高く、科学的根拠に基づいた委託条件で開始されなければならず、国際的な専門家に、ウイルスの発生源と発生初期を完全に評価する独立性を与えなければならない。
WHOのメンバー国として、私たちは一致団結して、最大の試練であるCOVIDとの戦いを終わらせる必要がある。
私たちは、国際保健規則の下での義務を完全に実施し、順守する必要がある。
また、透明性を高め、パンデミックの可能性がある感染症の発生に関する重要な情報を直ちに共有し、衝撃に耐えられるように保健システムを強化する必要がある。
目の前にある多くの課題に取り組むためには、グローバルな協力が鍵となる。非国家主体とのコラボレーションを継続し、台湾には世界保健総会のオブザーバーとして参加してもらう必要がある。
2.可能性は二つ
5月26日、アメリカのバイデン大統領は声明で、武漢ウイルスの起源に関して追加の調査をし、90日以内に報告するよう情報当局に指示したと発表しました。
バイデン大統領は、3月にサリバン大統領補佐官を通じて情報当局に武漢ウイルスの起源に関する情報を分析するよう指示してたのですけれども、5月になり「二つの可能性に収斂されているが、明確な結論に達していない」との報告を受けたとのことです。
二つの可能性というのは、「動物から人間に広がったシナリオ」と「中国の研究機関から流出したシナリオ」です。けれども、どちらの可能性が高いかについては、情報機関ごとの見解は一致せず、それゆえに、再度追加調査を指示したということのようです。
ただ、普通、情報機関は安全保障上、具体的な調査内容を表にすることはありません。その意味では今回バイデン氏が情報機関への指示を公に発表したのは異例の対応といえるのですけれども、これは、期間を区切った調査指示を公にすることで、事実解明に向けた強い意思表示をするとともに、中国にも政治的なメッセージを送る狙いがあったとみられています。
武漢ウイルスの研究所流出説については、トランプ前政権の時から指摘され、トランプ前大統領自身も「研究所から発生したという説がある」と科学者や情報機関が流出説を調査していると明らかにしていたのですけれども、当時はトランプ前大統領の政治的動機が反映されているという見方が強く、公衆衛生専門家や民主党は流出説を懐疑的に見る人々が多かったようです。
また当時のマスコミもあろうことかトランプが言ったからと、研究所起源説は「陰謀論」として一笑に付していました。
3.精査されるべき三つの要素
ところが、バイデン政権でも、武漢ウイルスをめぐる中国の対応に強い不満を募らせ、パンデミック初期段階で各国と情報を共有しなかったことを繰り返し批判していました。
1月15日、アメリカ国務省は「武漢ウイルス研究所での活動」というファクトシート(あるテーマや商品などの情報を、図表や統計資料などを用い、読みやすく簡潔にまとめた文書)を公表しました。
そのファクトシートでは、武漢ウイルスの出所について、さらに精査されるべき要素として、次の3つを上げています。
◆武漢ウイルス研究所(WIV)内での病気。このようにファクトシートは述べ、今回の発表について、起源についてまだ隠されていることのほんの一部に過ぎないとし、信頼できる調査を行うには、施設、サンプル、人員、記録を含む武漢の研究所への完全で透明なアクセスが必要だとしています。
・米国政府は、WIV内部の複数の研究者が、最初に確認されたアウトブレイクの症例よりも前の2019年秋に、COVID-19と一般的な季節性疾患の両方に一致する症状で体調を崩したと考える根拠を持っています。このことは、WIVのスタッフや学生の間でSARS-CoV-2やSARS関連ウイルスへの感染は「ゼロ」だったというWIV上級研究員のShi Zhengli氏の公的な主張の信憑性に疑問を投げかけている。
・研究室での偶発的な感染は、2004年に北京で発生した9人が感染し1人が死亡したSARSをはじめとして、中国やその他の地域で過去に何度もウイルスの大流行を引き起こしている。
・中国共産党は、独立したジャーナリスト、調査員、国際保健当局が、2019年秋に発病した研究者を含むWIVの研究者にインタビューすることを妨げています。ウイルスの起源に関する信頼できる調査には、これらの研究者へのインタビューと、これまで報告されていなかった病気についての完全な説明が含まれていなければならない。
◆WIVでの研究。
・WIVの研究者たちは、少なくとも2016年から開始し、COVID-19の発生前に中止した形跡はないが、2020年1月にWIVがSARS-CoV-2に最も近いサンプル(96.2%類似)として特定したコウモリ型コロナウイルスRaTG13を用いた実験を行った。WIVは、2003年のSARS発生後、国際的なコロナウイルス研究の中心となり、その後、マウス、コウモリ、パンゴリンなどの動物を研究している。
・WIVは、キメラウイルスを作るための「機能獲得」研究を行ってきたという実績がある。しかしWIVは、COVID-19ウイルスに最も類似したウイルスを研究した記録については、透明性や一貫性がない。その中には、2013年にSARSのような症状で複数の鉱山労働者が死亡した後、雲南省の洞窟から採取した「RaTG13」も含まれている。
・WHOの調査官は、COVID-19が発生する前にWIVが行ったコウモリや他のコロナウイルスに関する研究の記録にアクセスする必要がある。徹底した調査の一環として、WIVがRaTG13やその他のウイルスに関する研究記録を改竄し、オンラインで削除した理由を完全に説明しなければならない。
◆WIVにおける秘密の軍事活動。
・北京では秘密主義と非開示主義が当たり前になっている。米国は長年にわたり、中国が過去に行った生物兵器の研究について公に懸念を表明してきたが、北京は生物兵器禁止条約の下で明確な義務を負っているにもかかわらず、それを文書化せず、明らかに排除していない。
・WIVは民間の機関であるにもかかわらず、米国はWIVが中国の軍部と出版物や秘密プロジェクトで協力していると判断している。WIVは、少なくとも2017年以降、中国軍に代わって実験動物実験を含む機密研究に従事している。
・WIVでの民間研究に資金提供または協力した米国およびその他のドナーは、研究資金がWIVでの中国軍の秘密プロジェクトに流用されていないかどうかを判断する権利と義務を有している。
4.中国が起源調査を妨害している
アメリカでは、武漢ウイルスの研究所由来説がどんどん取り上げています。
先日、ウォールストリートジャーナルの記者マイケルゴードン氏は、CBSNAMに出演し、次のように述べています。
マイケル・ゴードン :ご指摘のとおり、国務省は1月15日、武漢ウイルス研究所にファクトシートを発行しました。そしてそこで彼らは、米国政府は2019年秋に一部の研究者が病気になったと信じる理由があると述べました。マイケル・ゴードン氏は自然由来説、研究所由来説のどちらも状況証拠にしか過ぎないとしながらも、中国が起源調査を妨害していると指摘しています。
【中略】
マリー・グリーン(司会):ウイルスが実験室から漏れたのとウイルスが漏れたのとの間には違いがあります。少なくとも現時点では、私が理解しているように、これは一種のことであるとは誰も示唆していません。これが起こった場合、それは意図的なものでしたね。
マイケル・ゴードン :その通りです。つまり、現時点では、これらは2つの理論、2つの主要な理論にすぎず、どちらも証明されていません。一つの理論は、それがコウモリから別の動物、そして人間へと跳躍したというものです。それは証明されていません。
彼らはそれを探すためのあらゆる努力にもかかわらず、ウイルスの保因者である動物を見つけたことがありません。それにはさまざまな理由があります。中国人自身は、それが早い段階で注目を集めた生鮮市場から来たのではないと言っています。それは、彼らが生鮮市場で発生する前に症例を見つけたので、彼らはそれがそこで始まることができなかったことを知っているからです。
そして、ラボがあります。そして理論は、中国人が遺伝子工学を行っていたということでも、生物兵器やその種のものを作っているということでもありません。理論は、2012年に洞窟で同様のウイルスが発見されたため、中国南西部から研究所にウイルスを持ち込み、研究と作業を行い、ワクチンを見つけようとしていたというものです。そして、それに対する治療法を見つけようとする過程で、彼らはうっかりそれを漏らしました。それがラボ理論が保持していることです。
マリー・グリーン(司会):【略】あなたは、事件についてのこの諜報機関が諜報機関コミュニティの何人かの人々によって質問されているとあなたの作品に書いています。誰もがそれの強さについて確信しているわけではありません。インテリジェンスコミュニティがこれをどのように受け入れているか、または彼らの考えは何であるかを説明できますか?
マイケル・ゴードン :【略】さて、研究室の3人がケアを求めたという情報-まあ、ある人は、この情報はおそらくその地域の第三国から来たものだと言いました。それは知性の世界ではそれほど珍しいことではありません。たとえば、アメリカはイスラエルから中東に関する多くの情報を入手しています。それはそれが悪い知性であるという意味ではありません。時々それはそれが非常に良い知性であることを意味します。
そして私が言ったように、これはせいぜい状況証拠です。それは事実を証明するものではありませんが、それは実験室の理論の方向を示しています。また、中国が調査を阻止しているという事実もあります。実際、彼らは今週だけ調査を行っており、WHOはCOVID-19の起源に関する中国でのさらなる調査をサポートしていません。また、バイデン政権の関係者の中には、ラボ理論にはメリットがあるのではないかと考えるようになりました。彼らは自問しているので、もしそれが自然界から生じたのなら、なぜ中国は調査を防ぐためにこれらすべての努力をするのでしょうか?
【中略】
マイケル・ゴードン :ラボのディレクターがCOVID-19に感染したことはないと言っているにもかかわらず、彼らはラボで働いていたスタッフの医療記録を持っていません。彼らは中国人が提供すると約束した地域からの血液サンプルを持っていません。
【後略】
5.陰謀論から仮説へと格上げされた人工ウイルス説
今や、アメリカのマスコミや世論は、武漢ウイルス人工説を陰謀論から一つの仮説へと格上げした感があります。
アメリカ食品医薬品局(FDA)の元責任者であるスコット・ゴットリーブ氏は、CNBCに対し「研究室から生まれた可能性を示唆する人々のリストは、増え続けている」と述べ、1年前は、動物仮説を支持することは、最も可能性の高いシナリオだったので、非常に理にかなっていたが、ウイルスが人間に感染した動物である「中間宿主」と呼ばれるものはまだ発見されていないことや、増え続ける「状況証拠」を指摘した上で、「仮に、本当に中国の研究所で作られたとしたら、そうだとは言わないが、内部告発者が出るか、中国の体制が変わらない限り、私たちは知ることができないだろう」と述べています。
更に、5月中旬、学術誌「Science」に、約15人の専門家が「パンデミックの起源を明らかにするためには、さらなる研究が必要である」という論文を発表。実験室での動物由来説や偶発的由来説は「どちらも有効である」としながらも、「同等の考慮がなされていない」と指摘し、どちらも「十分なデータが揃うまでは真剣に検討すべき」であり、「公衆衛生機関や研究所がデータを公開すること」を呼びかけています。
更に、26日、フェイスブックが、ウェブサイトに掲載した発表文で、「新型コロナウイルスの起源に関する現行の調査や公衆衛生専門家との協議を踏まえ、ウイルスが人工的に作られたとする主張について、今後は当社のアプリから削除しないことにした」と明らかにしています。
武漢ウイルス人工説が公の議論となり、状況証拠が積み上がるにつれ、中国に対して調査させろという世界的な声は増々高まる筈です。
世界の武漢ウイルス禍への対応は転換点を迎えつつあるのかもしれません。
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