武漢ウイルスの感染増強抗体と人工抗体

今日はこの話題です。
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1.大阪大学が感染増強抗体を発見


5月25日、大阪大学の荒瀬尚教授を中心とした研究グループは、武漢ウイルス患者の抗体を解析することにより、武漢ウイルスに感染すると感染を防御する中和抗体ばかりでなく、感染性を高める感染増強抗体が産生されていることを発見したと発表しました。

今回の研究成果のポイントは次の通りです。
・新型コロナウイルスに感染すると、感染を防ぐ中和抗体ばかりでなく、感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産生されることを発見
・感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合すると、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が高くなることが判明
・感染増強抗体は中和抗体の感染を防ぐ作用を減弱させることが判明した。
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者では、感染増強抗体の高い産生が認められた。また、非感染者においても感染増強抗体を少量持っている場合があることが判明した。
・感染増強抗体の産生を解析することで、重症化しやすい人を検査できる可能性がある。また、本研究成果は、感染増強抗体の産生を誘導しないワクチン開発に対しても重要である。
今回初めて発見された感染増強抗体の産生についてですけれども、感染増強抗体があると何が拙いのかというと、抗体依存性免疫増強(ADE)を引き起こす可能性があると懸念されるからです。

抗体依存性免疫増強(ADE)とは、ワクチンや過去の感染によって獲得した抗体がワクチンの対象となったウイルスや、過去のウイルスに似たようなウイルスに感染したときに、その抗体が生体にとって悪い作用を及ぼし、感染・炎症が重篤化してしまい、重症化をひきおこす現象です。

折角、ワクチンを打って免疫を獲得したと思ったところが、逆に感染を促進する抗体によって、重症化するリスクがあるということです。

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2.中和抗体


では、ワクチンは逆効果になるのかというと、もちろんそんなことはありません。感染を阻害する抗体、いわゆる「中和抗体」が出来るからです。この中和抗体を作るというのがワクチンの本来の目的になります。

中和抗体とは感染微生物が人の受容体に結合できないように代わりに毒素に結合してくれる抗体のことです。いわゆるウイルスがヒトの細胞に結合する部位に先回りして"蓋"をすることで人の細胞にくっつかないようにする訳です。

5月12日、横浜市立大学の研究グループは、ファイザー製の武漢ウイルスワクチンを2回接種した人の90%以上が変異株に対する「中和抗体」を保有していたとの研究結果を発表しました。

これは、現在のワクチンは従来株に対する有効性は確立しているものの、変異株に対する効果は良く分かっていないため、国内で最も多く見つかっている英国株のほか、南アフリカ株やインド株など7種類の変異株に対するワクチン接種効果を調べたのですね。

その結果、ワクチンの2回の接種を終えた人は接種1週間後に99%が従来株(欧州型)に対する中和抗体を保有していて、英国株や南アフリカ株、ブラジル株の3つの株に対しては、90~94%の人が中和抗体を持っていたことが分かりました。更に、インド株についても97%の人が抗体を持っていたそうです。

研究グループによると、7種類の変異株と従来株の全ての株に対して中和抗体があった人は約90%に達し、その割合は接種1回目より2回目の方が目立って高くなるとしています。

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3.非感染者でも感染増強抗体を持っている


では、感染増強抗体と中和抗体の間にはどういう関係があるのか。

エボラ出血熱のマウス実験では血清中に中和抗体と感染増強抗体が同時に混在し、その割合で重症度が異なることが解っていて、また人の血清でも同様な傾向が認められています。

このことから、ワクチンを作成するときは変異をさせて感染増強抗体を誘導しないワクチンが理想的だという報告(エボラウイルス表面糖蛋白質の機能解析)がされています。

今回の大阪大学の研究では、武漢ウイルス感染患者の感染増強抗体と中和抗体を測定し、その差を解析した結果、重症患者では感染増強抗体が高い傾向があったとし、更に、非感染者でも感染増強抗体を持っている人が存在することが判明したとしています。

これらから考えると武漢ウイルスも、エボラ出血熱と同様に中和抗体と感染増強抗体の割合で、重症化の度合いが異なってくるのではないかと思われます。

ただ、気になるのは件の大阪大学の研究報告に「感染増強抗体を持っている人の感染やワクチン投与によって、感染増強抗体の産生が高まる可能性が考えられる」と記載されていることです。これはワクチンを打つことで、より感染増強抗体が作られる可能性があるということです。実際には個人差はあるでしょうけれども、運が悪ければ重症化する可能性があるということであり、2回目、3回目とワクチン接種を重ねることでよりその危険性が高まる懸念があります。

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4.人工抗体


5月14日、広島大学の研究グループが武漢ウイルスに対する中和抗体を10日間で人工的に作り出す技術を開発したと発表しました。

広島大学大学院医系科学研究科の保田朋波流教授の研究グループは、武漢ウイルスに感染、回復した重症度の異なる23歳から93歳までの約20人の患者を対象に血液を採取し、血清中に含まれる抗体を分析しました。

その結果、重症者の8割が中和抗体を獲得していたのに対し軽症者では2~3割にとどまっていたことから、重症患者の血液から中和抗体を作る免疫細胞を選別・単離し、これらの免疫細胞から抗体を作る遺伝子を取り出して増幅。中和抗体を人工的に作製することに成功したとのことです。

そして、これら人工抗体から、従来型の武漢ウイルスに強く結合する32種類の人工抗体を最終的に選び出して解析したところ、選抜した人工抗体の97%は武漢型だけでなく英国型のウイルスにも強く結合し、南アフリカ型でも63%が結合したとしています。

今回の成果について研究グループは、独自技術により、変異株への効果も期待できる高性能の人工抗体を10日間で取得できるようになったと強調し、今後は重症化予防や重症患者らを対象にした治療薬開発につなげる研究を続ける方針のようです。

この人工中和抗体がワクチンにも適用できるのかどうか分かりませんけれども、人工抗体を接取することが出来るなら、わざわざワクチンを使って"疑似感染"させる必要もありませんし、そうでなくても今のワクチンに人工抗体を添加することが出来れば、相対的に感染増強抗体の割合を減らして、重症化リスクを減らすことにならないかと思ってしまいます。

今後の研究に期待ですね。

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