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1.中国の主権に対する乱暴な干渉
5月6日、中国外務省の汪文斌副報道局長は記者会見で、台湾問題に言及し新疆ウイグル自治区の人権状況や香港情勢に「重大な懸念」を表明したG7外相会議の共同声明について「根拠なく中国を非難」し、「中国の主権に対する乱暴な干渉であり、中国は強く非難する」と述べました。
また、G7が台湾の世界保健機関(WHO)の討論会や総会に参加することを支持したことについても、「一つの中国」の原則に沿って対処されるべきだと反発しました。
むきになって即座に反論するあたり、G7共同声明はそれなりに牽制になったということです。
2.中国との関係を支配したいアメリカの野心の欠如
G7の共同声明については、機関紙も早速反論を始めています。
5月6日、環球時報は、「G7声明は、中国との関係を支配する米国の野心の欠如を示している」という記事を掲載。中国外交大学国際関係研究所の李海東教授の次のようなコメントを紹介しています。
「中国が本当に気にしているのは、アメリカの協力の意志が実現するかどうかだ……米国の中国に対する行動には、封じ込めの意図が反映されている。アメリカの外交は、世界に対立と分裂をもたらした責任を回避するために、自らの行動を説明するのにこの強力な言葉を使いたがらない」
「複雑な国際問題に直面したとき、中国はアメリカと協力することを望んでいるが、ワシントンは協力を競争の角度から見ており、潜在的なパートナーを押しのけている……バイデン政権は短期的には協力し、長期的には競争するという政策転換を行っている」
「バイデン政権が自らの力と国際的な現実を明確に理解するには時間がかかるだろう。中国と1対1でぶつかっても、何のメリットもない」
「欧州には、中国と対峙する必要性も意志もない。また、G7グループの中でも、まとまった中国政策をとるのは難しい……バイデン政権は、同盟国へのコミットメントや中国との協力関係が、彼らが退陣した後の共和党政権でも維持されるという保証はない」
バイデン政権の対中方針に沿って同盟国が動くとは限らないし、アメリカ単独で中国と激突してもメリットはない、と遠回しに中国と対決するなと言っています。
3.ワシントンは冷戦の勝利を再現できない
また、同じく6日、環球時報は、「ワシントンは冷戦の勝利を再現できない」という社説を掲載し、アメリカが次の3点を最も心配していると述べています。
第一に、中国の継続的な発展と力の拡大は、米国の圧倒的な優位性に挑戦することになる。もし中国が泥沼にはまり、混乱に陥り、この傾向が不可逆的であることが証明されれば、ワシントンは安堵のため息をつき、安心するだろう。しかし、世界共通の予測では、中国は今後も発展を続け、中国の経済総体が米国を超えるのは時間の問題であると言われています。一部の米国エリートにとって、中国の台頭は、ソ連の崩壊に似た地政学的イベントに相当する。環球時報は、上記理由を挙げ、同盟国を集めようとするアメリカの努力は限界に達しており、アメリカの同盟国の中で、中国とロシアに同時に立ち向かおうとする国はないとし、中国とロシアは、アメリカの戦略を妨害する能力を持っていると述べています。
第二に、米国の同盟システムは見かけほど有用ではなく、一部の重要な同盟国はイデオロギーでワシントンに応えるだけで、中国を包囲するためにワシントンを支援する実際の行動をとることには消極的である。中国市場がますます大きくなるにつれ、多くの米国の同盟国と中国との間の貿易は、すでに同盟国と米国との間の貿易を上回っており、この傾向はさらに悪化するだろう。ワシントンは、これらの同盟国を「西側諸国の共通の利益のために」自己犠牲を払うように動員することがより困難になるでしょう。
第三に、中国とロシアの戦略的パートナーシップの連携が深まり、米国の覇権主義に立ち向かう「真の同盟国」となる可能性がある。このことは、米中露のゲームにさらなる不確実性をもたらすだろう。
これは裏を返せば、中国政府がロシアとの協力関係を強化することでアメリカに対抗できると考えているということです。
つまり、バイデン政権にとって、いかに中露関係を強化させないかというのが対中戦略の鍵の一つであるともいえます。
4.ロシアはアメリカと異なり融和を目指している
バイデン大統領は、4月28日の施政方針演説で、ロシアによるアメリカへのサイバー攻撃や選挙干渉には敢然と対応するとした一方で、対立の激化は望まないと述べ、気候変動問題や軍備管理問題など一部の分野では協力も可能だとの意向を示しました。
これに対し、ロシアのコサチョフ上院副議長は4月29日、自身のフェイスブック上で「全体的には期待が持てる演説だ……ただしそれは、これまでアメリカが一度も力の行使という脅しをしていなかった場合の話だ」と釘を刺しました。
また、ペスコフ大統領報道官もこの日、ロシア国営テレビの番組で、バイデン氏はアメリカが民主主義陣営のリーダーを担う意思を示したとし、「一極化世界を目指そうとしている……ロシアはアメリカと異なり、他国との敵対ではなく融和を目指している」などとも主張しました。
要するに、バイデン氏の施政方針演説など信用していないということです。
昨年の大統領選の最中、トランプ前大統領はバイデン氏のことを「急進左派の操り人形だ」と批判していたことがありましたけれども、バイデン氏が"操り人形だ"というのはいろんな所で言われていることです。
実際、アメリカはロシアに対し、4月15日、ロシアがサイバー攻撃などの敵対行為を行ったとして、ロシア政府関係者や数十のロシア企業などを対象とした制裁措置を発表していますからね。いくら対立の激化は望まないと言ったとしても、それをロシアが信用できないと警戒するのも分からなくもありません。
5.撒き餌としての対中強硬政策
件の施政方針演説で、バイデン大統領は、中国の習近平国家主席に少なくとも10回は言及しているのですけれども、実は、準備していた原稿は直前で大幅に加筆され、習主席を「専制主義者」と呼ぶ文言も追加されたのだそうです。
演説全体も、中国を意識し、中国に勝つというメッセージが込められていたと思いますけれども、その中でバイデン氏は「与野党で喧嘩している場合ではない、この間にも中国が力をつけているのだ!」と訴えていました。
実際、演説では民主党の議員が拍手する一方で、共和党議員の多くは拍手せず、座ったままの姿も見られたそうです。連邦議会は与野党でくっきりと分断されていることは間違いありません。
これでは、バイデン政権が行いたい政策とて、ろくすっぽできないのではないかと思われます。
筆者は、その打開策として「対中政策」を大きく掲げているのではないかと見ています。
対中政策は、共和・民主問わず協力が得られる可能性が高いものの一つです。なぜなら、中国がアメリカの国益を脅かしていることが明らかになってきたからです。
故にバイデン政権は「対中政策」を掲げて、共和党の協力を取り付けて、ひとまずの実績を出すことに専念しているのではないかと思っています。
そうして、国民からの支持を集め、次の中間選挙で勝って議席を確保してから、初めてやりたいことをするのではないか。つまり、今の対中強硬政策も、その他政策を進めるための「撒き餌」としても使っているのではないかということです。
ある意味、したたかだとは思いますけれども、それでどこまでうまくいくのか。中国は話し合いごときで自説を曲げ、妥協する国ではありませんからね。やはりどこかの場面で衝突する時がくるのではないかと思います。
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