

1.G7共同声明
6月13日、イギリスで行われたG7サミットは閉幕しました。
発表された共同声明では、中国に対して人権尊重、香港の高度の自治を求めたほか、東・南シナ海での一方的措置に反対する姿勢を示しました。
また、武漢ウイルスの起源についても、世界保健機関(WHO)による時宜にかなった透明かつ専門家による科学に基づいた調査」を求めています。
アメリカのバイデン大統領は記者団に対し、「我々が競っているのは中国自体ではなく、世界中の独裁的な政府だ。急速に変化する21世紀において、民主主義が独裁体制と競えるかどうかだ……私自身が(中国の)習近平国家主席に伝えたように、われわれは対立を望んでいるわけではない。協力できる分野では協力する。同意できない場合は率直に伝え、相違のある行為には対処する」とし、武漢ウイルスの起源を巡っては「我々は研究所にアクセスできていない」とし、「動物や環境と接したコウモリが原因になったのか、それとも研究所での実験で問題が生じたのか」どうか、まだ明確になっていないと述べています。
2.グローバルな責任及び国際的な行動
共同声明で中国について触れられている部分は、主に「グローバルな責任及び国際的な行動」の章になります。該当する節を引用すると次の通りです。
48.我々は、ここカービスベイで我々と共に会合したインド太平洋地域及びアフリカからの国々、すなわち、豪州、インド、南アフリカ及び大韓民国の首脳と共に署名した「開かれた社会に関する声明」に反映されているとおり、国際システムにおける開かれた社会としての我々の共通の価値を推進するために協働する。もう中国を名指しで批判しています。これがG7サミットの共同声明で出されたということは、この線でG7各国の意志が統一されたことを意味します。
さらにこれに加え、我々は、偽情報を含む民主主義への外国からの脅威に対抗するためにG7即応メカニズムを強化することを通じたものも含む民主主義支援に関する協力の強化、メディアの自由の強化及びジャーナリストの保護の確保、信教又は信条の自由の支持、あらゆる形態の人種差別の非難、紛争下において文民が保護されない場合を含む人権侵害への対処、「二国間関係における恣意的拘束の利用に反対する宣言」の強化やそのパートナーシップ行動計画の歓迎によるものを含む恣意的拘束の慣行への反対並びに不正な資金活動に関する情報の共有、ペーパーカンパニーの悪用への対処及び不正な行為者による不動産化を含む資産隠し能力の制限を含め腐敗に対する行動の必要性の認識にコミットする。
我々は、安全で活力のある市民空間を確保することにより平和的で公正で包摂性のある社会の成長を支援する。我々の側でも、B7(ビジネス)、CS7(市民社会)、L7(労働)、S7(科学)、W7(女性)、Y7(若者)を含む社会のあらゆる分野を代表する外部のエンゲージメント・グループの観点と専門性からのインプットにより我々の議論は裨益している。我々は、これらの団体による我々の幅広い政策的な優先事項に関する検討と提言に感謝する。
49.我々は、大国や主要エコノミーが担うルールに基づく国際システム及び国際法を堅持するという特別の責任を認識する。
我々は、全てのパートナーと共に、またG20、国連及びより広い国際社会の一員として、この点における役割を果たすことにコミットし、他者に対し同様の行動を促す。
我々はこれを、我々の共通のアジェンダ及び民主的な価値に基づき行う。
中国に関して、そして世界経済における競争に関して、我々は引き続き、世界経済の公正で透明性のある作用を損なう非市場主義政策及び慣行という課題に対する共同のアプローチについて協議する。
多国間システムにおけるそれぞれの責任の文脈において、我々は、相互の利益になる場合には、共通のグローバルな課題において、特に気候変動枠組条約COP26その他の多国間での議論で気候変動及び生物多様性の損失に対処するに当たり、協力する。
同時に、そうした協力をする際にも、我々は中国に対し、特に新疆との関係における人権及び基本的自由の尊重、また、英中共同声明及び香港基本法に明記された香港における人権、自由及び高度の自治の尊重を求めること等により、我々の価値を促進する。
60.我々は、包摂的で法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋を維持することの重要性を改めて表明する。我々は、台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的な解決を促す。我々は、東シナ海及び南シナ海の状況を引き続き深刻に懸念しており、現状を変更し、緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する。
3.サミットでネットワークを遮断
共同声明で明らかなように、今回のサミットでは、各国首脳が武漢ウイルスの感染拡大や、ワクチン提供、インフラ投資計画、台湾海峡問題など、中国と関わる議題が数多く話し合われました。
ところがその際、会議室のネットワーク接続が一時遮断されたことが明らかになりました。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、今回のホスト国であるイギリスは、中国当局による盗聴の可能性を警戒して、サミット会議室の通信ネットワークとWi-Fiを一時遮断したそうです。
中国の人権問題をめぐって、共同声明でどこまで踏み込んだ表現をするのかで各国の立場は真っ二つにわかれ、協議では、激しいやりとりがあったと伝えられています。
アメリカの政府関係者によると、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働が行われている疑いについて、バイデン大統領が、「共同声明で明確に提起すべき」と主張し、日本やイギリスなど4ヶ国が支持した一方で、ドイツやイタリアは、中国との協力関係を強調し、敵視するような表現は避けたいと強く反発したようです。
まぁ、ドイツは中国なしでは自動車産業が立ち行かないですし、イタリアもG7で唯一『一帯一路』構想に参加しています。中国からみれば、ドイツ、イタリアは切り崩しの最大のターゲットとなっていることは間違いありません。
それを考えると、G7サミットでの中国を巡る各国とのやり取りの様子が盗聴されると、その内容そのものが中国に対する弱みになってしまうことは十分考えられます。
にも拘わらず、発表された共同声明では、中国政府への対抗姿勢が鮮明に打ち出されています。相当な駆け引きが行われたと思われますけれども、その内容を遮断して漏らさないようにしたイギリスの判断は正しかったと思います。
4.反中統一戦線
今回のG7共同声明に対し、在英中国大使館は「下心をもって中国を中傷し、みだりに内政に干渉した……事実を曲げ、善悪を逆さまにした言論を発表した」と首脳声明を批判。その上で、G7各国について「アメリカなど少数の国の腹黒い魂胆がさらに露見した……小派閥の強権政治を行い、人為的な対立と分裂を作り出した」とする談話を発表しました。
また、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報も14日、「G7コミュニケは見せ物だが、中国人は買わない。(G7 communiqué makes a show but Chinese don’t buy it」という社説を掲載しています。
件の社説は、G7共同声明の中国に対する表現はアメリカの対中声明のそれとはややソフトになっていることを指摘し、アメリカは自身の対中論調を西側主要国に押し付けることは出来ないとした上で、中国はそんな声明に怯える必要はないと説いています。
そして、アメリカの対中戦略とヨーロッパのそれとの違いは乗り越えられない程大きなものであり、アメリカがどのような「反中統一戦線」を見せようとも、それは弱いものだ、と断じています。
確かに、西側諸国を反中で固めるのは簡単ではありませんけれども、逆にいえば、中国は「反中統一戦線」が強固に纏まってしまうことを恐れているとも言えます。
その意味では、今回のG7首脳会合は、西側諸国の反中戦線を構築する途上の会議であるともいえ、それゆえに内容を盗聴させないようネットを遮断したのは賢明だったと思いますね。
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