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1.燃料棒の破損はよくある現象
6月14日、フランスの電力公社(EDF)は、自身が建設に携わった中国・広東省の台山原子力発電所で、原子炉内の放射性希ガス濃度が上昇し、大気放出したことを明らかにしました。
仏紙フィガロなどによると、汚染濃度は5月末の時点で、フランスの基準で48時間以内の運転停止が必要とされる値の2倍に達していたようです。
また、この日、アメリカのCNNは、燃料棒を製造したフランスの電力公社(EDF)の子会社であるフラマトムが、アメリカエネルギー省宛に、中国安全規制当局が原発の運転停止を避けるため、原発周辺の放射線量の許容値を引き上げるなど「差し迫った放射線の脅威」を警告する書面を送っていたとし、書面を受け取ったアメリカ政府は、台山原発での放射性物質漏れに関する報告を受けて調査していると報道しています。
アメリカの当局者によると、アメリカ政府内の懸念は大きく、国家安全保障会議(NSC)が複数回開かれたそうで、バイデン政権はこの状況についてフランス政府、エネルギー省の専門家と協議し、更に中国政府にも接触しているとも伝えられています。
こうした中、16日、中国当局は原因は燃料棒5本の破損だったと発表したのですけれども、こうした問題は「よくある現象」で、懸念には及ばないと公表しました。
一方、フラマトム社はCNNに対し、台山原発の「パフォーマンスに関する問題の解決を支援している……入手可能なデータによると、発電所は安全の範囲内で運転している。我々のチームは状況を評価し、可能性のある問題に対応する解決策を提案できるよう関連する専門家と協力している」という声明を出しています。
台山原発で、実際の設備やサービスの設計、提供を担ったフラマトム社が、このような声明を出すのみならず、アメリカ政府に支援を要請していることを考えれば、いくら中国当局が「よくある現象」といっても、何か問題が起こっていると考えるのが普通だと思います。
2.加圧水型炉
広東省の台山原発は、加圧水型炉(EPR)で、「第3世代プラス」と呼ばれる原子炉です。
「第3世代」の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)や改良型加圧水型軽水炉(APWR)などに続く次世代型として世界の原子力メーカーのトップを切り、アレバの前身であるフラマトム社とドイツの旧シーメンス社の原子力部門が80年代末に共同で開発に着手しました。
基本構想では出力の大型化(160万キロワット級)をはじめ、高燃焼度による燃料利用率の向上、原子炉寿命の長期化(設計寿命約60年)、長い運転サイクル(最大24カ月)、短い燃料交換期間(16日程度)などによって経済性も大幅に改善されています。
また、安全性も飛躍的に向上しています。事故で炉心溶融(メルトダウン)が起きても溶け落ちた核燃料は「コアキャッチャー」と呼ばれる巨大な受け皿に流れ込み、上部にある貯水タンクの蓋は高温になると溶けて弁が開き、コアキャッチャーを水が満たして溶け落ちた燃料を冷やす構造になっています。
更に、加圧水型炉(EPR)が備える4基の主ディーゼル発電機と2基の副発電機はいずれも原子炉の向かい側に設けられた高気密防水機能が施された別の建屋に収納されていて、電源や原子炉の冷却機能を喪失しないようになっています。
加えて、2001年9月のアメリカ同時多発テロを切っ掛けに航空機の衝突にも耐えられるよう、建屋の壁は強化コンクリート製で厚みは2メートル以上、その内側の格納容器の壁も同じ厚さとされ、全長73メートル・525人乗りの超大型旅客機「エアバスA380」が激突しても壊れない強固な構造となっています。
加圧水型炉(EPR)は、1980年代末の開発着手から数えて既に30年以上経過していますけれども、当初のEPR建設受注は順調でした。
2004年4月にフィンランドの電力会社テオリスーデン・ボイマ・オイ(TVO)が南部にあるオルキルオト原発に新設する3号機に加圧水型炉(EPR)の採用を決定。これが加圧水型炉(EPR)の第1号プロジェクトとして2005年に着工、2009年に完成と計画されました。
ところが、本格着工から1年も経たない2006年7月、打設するコンクリートの水分含有量が基準より多いという欠陥が見つかったほか、プラントの詳細設計や機器製造の遅れなどを理由に完成予定が1年ずれ込みました。更にその5ヶ月後には冷却系配管が納期に間に合わず、完成は2011年になるとされ、工期延長が繰り返されました。
そうこうするうちに、発注元のテオリスーデン・ボイマ・オイ(TVO)社と受注側のアレバ・シーメンス連合が対立。作業の遅れによる追加経費の支払いについて争うようになり、2013年にはアレバ・シーメンス連合がテオリスーデン・ボイマ・オイ(TVO)社を相手取り、建設に必要な手続きを大幅に遅らせたとして26億ユーロ(約3500億円)の損害賠償を請求する事態に発展しました。
結局、両社は2018年に和解したのですけれども、これらグダグダによって、工期は延びに延びて、現在、運転開始予定は2022年2月となっています。
3.ゴリ押し稼働だった台山原発
今回問題となった台山原発は、1号機が2009年、2号機が2010年に本格着工。2018年6月末から1号機が試運転を開始し、2018年12月にはフル出力による168時間の連続運転も含めたすべての機能試験をクリアし、営業運転に入っています。
こうして、台山原発は世界初の加圧水型炉(EPR)となった訳ですけれども、これについて中国広核集団有限公司(CGN)は、フィンランドのオルキルオト原発建設での作業経験が初期段階の建設工事に活かされたと述べています。
けれども、その実態は、安全性を度外視した「ゴリ押し稼働」だったという指摘があります。
こちらのBusiness Journalの2016年7月の記事によると、2015年4月にアレバ(子会社のアレバNP)が行った圧力試験で、加圧水型炉(EPR)の屋根と底の部分に脆弱性が見つかり、既に採用を決めていたフィンランドとフランスの原発建設計画が中断したにも関わらず、台山原発は建設を強行して完成させたそうです。
当時、台山原発から130キロしか離れていない香港では、市民団体らによる反対運動が展開され、中国広核集団側は、「稼働までには数年にわたっての十分な安全検査を行う」と答えたのですけれども、香港独立系メディア「傳真社」は、「中国側が、最低2年は必要とされる安全検査を1年未満に短縮し、来年中に原発を稼働させるよう現場に要請した」という原発建設に関わるフランス人技師の証言を伝えました。
中国なら、さもありなんという話です。
今回の放射性希ガスの大気放出や燃料棒の破損についても、ネット等では本当はずっと深刻で、中国は何かを隠しているんじゃないかと言われていますけれども、武漢ウイルスの対応等々みても、都合の悪いことは、埋めて隠してしまうような国ですからね。警戒は必要だと思います。
それに武漢ウイルスは起源を誤魔化すことができたとしても、原発事故となるとそうはいきません。放射能はいくらでも検出されてしまいます。
中国の隠蔽体質がまた一つ露わになりそうな台山原発事故疑惑。世界が中国を見る眼は増々厳しくなると思いますね。
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