麻生、キャンベル、レッドライン

今日はこの話題です。
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1.令和 3年版防衛白書


7月13日、今年の防衛白書が閣議で報告されました。

今年の防衛白書には、アメリカと中国の関係を分析する項目(第Ⅰ部第2章第3節)が初めて設けられ、「政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化し、相互にけん制する動きが表面化している」としたうえで、両国の軍事的なパワーバランスの変化が、インド太平洋地域の平和と安定に影響を与えうると指摘しました。

そして、台湾に対し中国が軍事活動を活発化させる中、アメリカのバイデン政権がトランプ政権と同様に軍事面で支援する姿勢を鮮明にしていると分析するとともに、台湾情勢の安定は「わが国の安全保障はもとより、国際社会の安定にとっても重要だ」と明記されています。

勿論、防衛白書では、各国の最新の軍事動向や国防政策を分析していて、このうち中国については31ページを割いて記述しています。

そこでは「透明性を欠いたまま、継続的に高い水準で国防費を増加させ、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している」と指摘し、海警局に武器の使用を認めた「海警法」は、法律が適用される海域が曖昧で「主権などが認められていない事項について法を執行すれば国際法に違反する」としています。

更に、沖縄県の尖閣諸島周辺で、去年、海警局の船が57時間以上にわたって領海に侵入したことなどを指摘し「独自の主張をする中国の活動は、そもそも国際法違反であり、力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に継続し、事態をエスカレートさせる行動は全く容認できない」と厳しく批判しています。

白書について、岸防衛相は閣議後の記者会見で「中国が軍事力の強化を急速に進める中で、中台の軍事バランスは全体として中国に有利な方向に変化をしている。こうした中で、台湾を支援する姿勢を明確にするアメリカに、中国が反発を示している状況を客観的に分析した……台湾を巡る情勢は一層緊張感を持って注視していく。国の防衛には国民の理解と支援が不可欠であり、1人でも多くの人に理解を深めてもらいたい」と述べ、日本の防衛力の整備について「わが国を取り巻く安全保障環境は非常に厳しく、これまでとは抜本的に発想を変えることも必要だ」と強調しました。


2.台湾に手出しするな


これに対し、いつものように中国は反発。7月13日、中国外務省の趙立堅副報道局長は記者会見で、「強烈な不満と断固たる反対」を表明し、「中国はいかなる国も台湾問題に手出しすることを断じて許さない」と宣言しました。

趙報道官は尖閣諸島が「中国領土の不可分な一部」だとして中国側の活動を正当化。中国の海警法に関しては日本を含む諸外国が類似の法律を制定していると述べ、「日本の嘘つき外交やダブルスタンダードは終わりにしよう……中国の内政に乱暴に干渉し、中国の正常な国防建設や軍事活動を不当に非難し、中国の脅威を誇張している」と対日批判を展開し、「自由で開かれたインド太平洋」構想を踏まえた日米などの安全保障協力に関しても「集団的対抗の推進が趣旨で、ごみの山に捨てられるべきだ」と主張しました。

嘘つき外交やダブルスタンダード外交をやっている国に、嘘つきとかダブルスタンダードとか言われても鼻白むだけですけれども、日本が台湾に態度を明確にするにつれ、中国は口での強気とは裏腹に行動面での弱気がちらほら見え始めています。

先日、麻生副総理が中国が台湾に侵攻した場合、日本が存立危機事態になることもあり得るとし、その時は日米で台湾を防衛しなければならないと述べ、話題になりましたけれども、どうもこの麻生発言が中国に衝撃を与えているそうです。

ジャーナリストの加賀孝英氏によると、中国の習近平主席は「報告を聞いて、習主席は驚き、『本当に麻生がそう言ったのか?』と何度も確認し、絶句したらしい。麻生発言は中国にすさまじい衝撃を与えている」という外事警察幹部のコメントを紹介しています。

また、外務省関係者によると「中国からの抗議はものすごい。習氏は共産党創建100年の祝賀大会で、『台湾統一は中国の歴史的任務』『中国の強大な力を見くびるな』と傲慢に演説して台湾や日米を脅した。中国国内は熱狂したが、麻生氏は世界で初めて、習氏の演説を否定したかたちになった。習氏はメンツ丸つぶれで、党内批判にさらされている」という状況のようです。

実際、麻生発言後、中国は、軍が予定していた対日戦を想定する軍事演習を突如中止しています。

台湾問題に手出しすることを断じて許さないとか、中国の強大な力を見くびるなというのが本気であれば、麻生発言に対し、軍事演習を行ってみせ、口だけではないところを見せつけておくべきところです。

ところが実際は逆で軍事演習を中止した。言っている事とやっている事が反対です。


3.麻生発言は政府の考え


7月6日、加藤官房長官は記者会見で、台湾有事が存立危機事態になり得るとした麻生副総理の発言について「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは、個別具体的な状況に即して、さまざま情報を総合して客観的、合理的に判断する。一概に申し上げることは困難だ」と明言を避けました。

けれども、同じ6日、岸防衛相は記者会見で、一概に申し上げることは困難としながらも、「副総理のご発言は、基本的にこうした政府の考えを踏まえて行われたものであると承知をしている」と述べたのですね。

つまり、麻生副総理の発言は個人的な失言ではなく、政府の考えだと示唆した訳です。

そのくせ、台湾有事において、何が存立危機事態になるのかという肝心な部分ははぐらかしています。これも一種の「曖昧戦略」かもしれません。

その一方、防衛相は7月5日から10日に掛けて、日米豪韓共同訓練(パシフィック・ヴァンガード21)を実施。7月18日から30日に掛けて、機雷戦及び掃海の日米共同訓練を行うとしています。

麻生発言の直後、中国は軍事演習を中止し、日本は他国との軍事訓練を実施している。これらの外交メッセージは明確です。


4.キャンベル発言とレッドライン


ただ、それでも気になることがないでもありません。

7月6日、アメリカのキャンベル・インド太平洋調整官はシンクタンクのイベントで、台湾との関係について「強力で非公式な関係を支持しているが、独立は支持しない……我々は、この問題に関わる敏感さを十分に認識し、理解している」と述べました。

その一方で、キャンベル・インド太平洋調整官は「台湾は平穏な暮らしを送る権利があると確信している。国際社会で役割を果たす姿をみたい……私たちは台湾海峡を巡って抑止のメッセージを送ってきた……中国が国際秩序に完全に反する措置をとれば、国際社会がしかるべく対応をするというシグナルを発することが必要だ」と、中国を牽制する発言もしています。

台湾の独立は支持しないが、台湾海峡を巡って抑止のメッセージを送り、国際秩序に"完全に"反れば、国際社会が対応する。明確にどちらとも言わない。

このキャンベル調整官の発言は歴代のアメリカ政権が採ってきた「曖昧戦略」に基づいたものでありますし、日本とて、「1972年の日中共同声明にある通り、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持する」という公式の立場を崩してはいません。その意味では日米ともに建前を崩してはいないことになります。

更にいえば、今回のキャンベル発言は麻生発言の翌日に発せられたもので、時差を考えると殆ど同時といっていいように思います。

もし両者の発言が互いに示し合わせたものだとすれば、一方で押し、一方で引くといった具合に、中国を刺激しないよう微妙な匙加減を維持しつつ、台湾防衛に向けてサラミスライスをやっていると考えることも出来なくもありません。

少なくとも、麻生発言がこれまでの日本からは考えられなかった程の踏み込んだものであることを考えると、日米が裏で示し合わせた上で、中国が台湾軍事進攻に踏み切るレッドラインを探ろうとしているのかもしれません。

無論、中国とて、日本が、台湾有事を存立危機事態と見て動くレッドラインがどこにあるのか見極めるために、台湾海峡に軍艦を出すなり、台湾の領空侵犯を掛けるなりして挑発してくることは十分考えられます。

しばらくは、この手の神経戦が続くかもしれませんね。


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