

1.千年に一度の暴雨
中国で起こっている記録的豪雨の被害が拡大しています。
中国中部の黄河のほとりに位置する人口1200万人の河南省鄭州市では、洪水などによる死者33人、8人が行方不明。20万人以上が避難しています。
地下鉄の駅やトンネルが浸水。数百人が電車内に閉じ込められ、車両によっては、水位がかかとから腰、首の高さまで徐々に上昇する場所もありました。パニックに陥った乗客が上に伸び上がって空気を求めたり、背の低い人を引き上げて助けたりしました。
ネットでは、現場の様子が続々と動画で上がっていて、とんでもない状況になっていることが分かります。
22日現在、鄭州市の広域で交通が麻痺し、冠水が深刻な一部地域では救援活動が難航しているようです。
鄭州の気象局は「千年に一度の暴雨」だとして、警戒を呼びかけています。中国メディアによると、鄭州市では、20日午後4~5時の1時間で201.9ミリの雨が降り、中国全土での観測史上最大を記録。17日以降の3日間で、なんと鄭州市の年間雨量にほぼ匹敵する617ミリの雨量を計測したそうです。
2.自然は都市圏構想を上回る
河南省は、河北省、山東省、山西省、安徽省の一部を加えた中原経済圏構想を担う主体として位置づけられ、国策として開発が進められてきましたけれども、河南省の省都である鄭州市は、中国の発展を支える意味で重要な役目を担っています。
中国人の世帯所得は2010年から2018年にかけて大きく伸びました。年間収入は138000元(約200万円)から197000元(約300万円)の人口が3400万人から3億1100万人に増え、更にその上の階層になる年収197000元以上297000元(約430万円)は、1000万人から6300万人に増加しました。
この二つの層は、大体、中流階級と見られているのですけれども、既にこの中流階級が4億人近くいる訳です。
この人達は、生活の質的向上を求め始めており、その要求に応えるためには、中流階級の生活の舞台として、効率の高い近代都市が必要になっているのですけれども、この4億に対してそれを収容できるだけの都市が圧倒的に足りないのが現状です。
そこで、既存の「超大都市」とは別に、それに次ぐレベルの大都市およびその周辺の都市を連携し、一線級都市と肩を並べる「世界級」の都市をつくろうという「都市圏」構想が生まれました。
現在、その「都市圏」構想の中核を担う地方主要都市として次の都市が挙げられます。
①成都(1.5選都市)中国では首都およびそれに準じる機能を持つ都市を「1選都市」、各省や自治区の省都およびそれに準じる都市で有力なものを「1.5選都市」という具合に都市をランク付けして呼ぶことがよくあるそうです。
②武漢(1.5選都市)
③鄭州(1.5選都市)
④西安(1.5選都市)
⑤長沙(1.5選都市)
⑥厦門(1.5選都市)
⑦北京(1選都市)
⑧上海(1選都市)
⑨広州(1選都市)
⑩深圳(1選都市)
⑪青島(1.5選都市)
⑫瀋陽(1.5選都市)
⑬杭州(1.5選都市)
⑭天津(1.5選都市)
⑮重慶(1.5選都市)
これらの中でも四川省の成都、湖北省の武漢、陝西省の西安、河南省の鄭州など内陸部の都市は近年目覚ましい発展を遂げ人口が急増、都市のGDPも大幅に増加しています。
けれども、偶然なのか必然なのか、近年中国を襲う、水害その他の災害は見事にこれらの都市を直撃しています。
昨年は、成都、武漢、西安が大洪水に見舞われ、今年は鄭州がやられました。
いくら金を掛けて都市開発を進めたとしても、今回の鄭州の豪雨のように、一年分の雨が三日で降ってしまう程の雨はさすがに都市計画には入っていなかったと思われます。
昨年から中国を襲う水害は、中国の中産階級を痛めつけているともいえます。

3.決壊するダム
豪雨の被害はそれだけではありません。ダムも決壊しています。
7月18日、内モンゴル自治区フルンボイル市では、永安ダム、新発ダムの2つのダムが相次いで決壊しました。
中国メディアによると、上流にある別のダムがあふれ、大量の水が流れ込み決壊したとのことで、現地では事前に人々を緊急避難場所に移動させていたお陰で、死傷者の報告は今のところありませんけれども、茶色く濁った水は下流の市街地に達して多くの住宅や農地が水没しました。
地元の当局はボートや特殊車両を使って浸水した家などに取り残された市民の救助にあたり、19日までに約1万7000人が被災したということです。
現地では22の橋が流失し、高速道路も16キロにわたって通行できない状態と報告されています。
また、河南省洛陽にある伊河灘ダムでは、長さ20メートルにわたって決壊した堤防に対し軍の部隊が土嚢を積み上げて補強をしていたのですけれども、水圧でダム全体が崩壊する危険性が高まったため、21日、水位を下げるためにダムの一部をダイナマイトで爆破し緊急放流しています。
いやはや大変な状況です。
4.水が革命を起こす
この状況に、習近平国家主席は、21日、「水害対策は重要な段階に入った。各級の幹部は終始、人命と財産の安全確保を最優先に位置付け、陣頭指揮を執り、水害対策と救援活動を速やかに組織し、被災者を適切な場所に避難させ、二次災害を厳重に防ぎ、人的・物的被害を最小限に食い止めなければならない。中国人民解放軍と武装警察部隊は地方の災害救援活動に積極的に協力しなければならない。洪水干ばつ対策本部、応急管理部、水利部、交通運輸部が統一的な計画と協調を深め、災害リスクの点検と排除に一層努め、重要インフラの防護を強化し、降雨・台風・山津波・土石流などの早期警戒・予報のレベルを高め、交通の整備と誘導に力を入れ、各種の水害対策と救援措置を綿密かつ着実に実施しなければならない」と指示しました。
更に習近平主席は「各地域と各関係部門は水害対策と救援活動にしっかりと取り組むと同時に、生産と生活の秩序も速やかに回復させなければならない。被災者の救援と衛生・防疫対策をしっかりと実施するとともに、被災による貧困への逆戻りや『大災害後の感染症の流行』を防がなければならない」と強調しています。
被害が出ている河南省鄭州には、自動車関連などの日系企業およそ10社が進出しているのですけれども、21日には日産自動車の合弁会社の工場が生産を停止。一部の企業では、従業員が出勤できないため休業となったほか、施設の一部が水につかるなどの被害が出たということです。
中国政府は2018年3月に、災害リスク管理と総合的な防災の維持や災害救助から防災への移行、自然への対応に伴う社会の総合的な防災能力の向上災害を目的とする総合的な危機管理省庁「応急管理部」を創設しているのですけれども、この「応急管理部」が先日、今年上半期の自然災害による損失について集計結果を発表しています。
それによると、今年上半期の自然災害は風・雹、洪水、地震が主で、干ばつ、低温・凍結、降雪などもさまざまな程度で発生し、各種自然災害により延べ2801万9000人が被災し、死者・行方不明者は156人、緊急避難をした人は延べ29万7000人としています。
発表では、昨年同期に比べ、被災者数、死者・行方不明者数、倒壊家屋の軒数、直接的な経済損失はそれぞれいくらか減少したということですけれども、おそらく今回の豪雨・洪水被害が加わることを考えると、年間の損失は去年を超えることも予想されます。
去年の今年でこの水害です。
去年の水害の時でも、習近平国家主席は、「人民の生命と財産を保護せよ。人民解放軍と武装警察が災難防止業務に積極的に参加せよ……各地域と部門が洪水防止業務に力を注げ……以降の早急な生産回復計画も立てなければならない」と述べていました。果たして、そこからどこまで回復したのか実際のところは分かりませんけれども、今回のような何十万人も被災するような洪水被害が続く上に、人民の救済もままならないとなると、人民の怒りがいつ共産党政府に向かうか分かりません。
中国共産党の第1回党大会初日である1921年7月23日を目前にこの大豪雨に洪水。共産党政府に対する"天意"とみる人もいるのではないかと思いますし、ここまでくると、「水の革命」というか、もはや"水が革命"を起こしてしまうのかもしれませんね。
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