

1.物議を醸した入場行進の順番
7月23日に国立競技場で行われた東京五輪開会式で、台湾の入場順が話題になりました。
日本語の五十音順での入場となった今大会では、公式サイトのリストで、台湾は「チャイニーズ・タイペイ」の表記に合わせてチェコの後、チャドの前に入場すると表記されていたのですけれども、開会式本番では、「大韓民国(韓国)」の後に入場。
NHKの生中継でも、アナウンサーが「台湾です!」と紹介するなど、「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台湾」としての扱いだとして、ネット上では「粋な計らい」など賞賛の声が上がりました。
更にこの話にはちょっとしたオチがあります。
開会式を配信していた中国のIT大手テンセントが、台湾選手が入場してきた直後、約20分間にわたりスタジオの映像に切り替えました。その結果、台湾の4つ後に登場した中国選手団の入場も配信することができず、ネット上では大バッシングになったそうです。
テンセントはなぜこのような対応を行ったかについて説明していないそうですけれども、あるいは「台湾」としての入場順になっていることを知らなかったのかもしれません。
開会式翌日の24日、台湾の入場行進順について、大会組織委員会の高谷正哲スポークスパーソンは記者会見で「『タイペイ』の『タ』を取った」と述べ、五輪ではアルファベット分類の際もタイペイの「T」を取るとの合意があると説明しています。
こちらの、台湾の中華オリンピック委員会のサイトによると、中国オリンピック委員会の英語名は、1981年に結ばれたローザンヌ協定によって「チャイニーズタイペイオリンピック委員会」と定められ、1983年に当時の国際オリンピックの会長であったサマランチ氏と中華オリンピック委員会との間で、台北の英略字の都市コードTPEに基づき、「T」のグループで入場行進することで合意したと記されています。
従って、入場行進時のプラカードの表記が「チャイニーズ・タイペイ」であっても「T」のグループになる「タ」で入場させても合意どおりだということになります。
これに対し、現時点では中国政府は沈黙し、抗議の声を上げてはいません。
2.北京五輪の延期や開催地変更を要求
この日本の"建前"を守った上での台湾支持に対して、もっと露骨な態度を示したのがアメリカです。
アメリカNBCテレビは、開会式中継で、中国選手団が入場する際に表示台湾を含まない中国の地図を画面上に映し、一部で話題になりました。
これに中国は敏感に反応。中国の在米ニューヨーク総領事館は、「中国の『不完全な地図』を使用したことは、『非常に悪い影響を与え、中国国民の尊厳と感情を傷つけた』」と、抗議しました。
NBCはこの抗議に対し、今のところ静観しています。
アメリカの台湾支持はもちろん民間だけではありません。
7月23日、アメリカ上院民主党のジェフ・マークレイ氏や上院共和党のマルコ・ルビオ氏ら議会超党派議員は、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長に書簡を送り、2022年の北京冬季五輪を延期し開催地を北京市から変更するよう要請しました。
書簡では、「中国政府に行いを改めるようIOCが圧力をかけた具体的な形跡がみられない……五輪を開催する国の政府の行動が、五輪によって集める国際的な注目の制約を受けないという悪しき前例をIOCは作ろうとしている」と指摘し、議員らは、東京五輪が新型コロナウイルスで開幕4ヶ月前に延期されたことに言及した上で、IOCには大会を延期する権限があると主張しています。
これに対しIOCはコメントを出していませんけれども、アメリカは北京冬季五輪ボイコット論と合わせてじわじわと圧力を掛けています。
3.いつの間にか目前に迫る北京五輪
北京冬季五輪のボイコットについては、既に欧州議会が動いています。
7月8日、欧州議会は、新疆ウイグル自治区の人権問題が改善されない限り、2022年の北京冬季五輪をボイコットするよう加盟国に求める決議を採択しています。
これには中国メディアが反発しました。「環球時報」は「欧州議会は、西洋社会のもっとも過激で極端なイデオロギーを寄せ集め、同時に、脚光を浴び存在感を示すための、あらゆる種類の政治的悪徳ショーのための舞台を提供している」と非難しています。
けれども、北京冬季五輪は、来年2月。目前に迫っています。
そんな中、北京冬季五輪のボイコットの動きが進んでいます。ここで更に世界に喧嘩を売って本当にボイコットされてしまったら、中国の面子は丸潰れとなり、習近平主席の求心力にも影響を及ぼします。
7月23日、中国外務省の趙立堅報道官は記者会見で、「力の限り東京五輪の支持を続ける。東京五輪の成功を我々も引き継ぎたい」と述べていますけれども、中国は東京オリンピックにも事を荒立てないように相当気を使っているのではないかと思うのですね。なぜなら、中国が東京オリンピックに喧嘩を売ると、日本および西側諸国に北京冬季五輪ボイコットの口実を与えることにもなりかねないからです。
実際、今回の東京五輪開会式での「台湾」呼称での登場にも今のところ、中国政府自体は抗議の声を上げていません。
その一方で、NBCの台湾抜き中国地図には総領事館から抗議している。
中国はオリンピックについても表向き戦狼外交を見せていますけれども、細かくみれば結構苦しんでいる可能性があります。
4.パンデミック下の五輪開催
先ほども述べたとおり、来年2月から北京冬季五輪ですけれども、そもそもにして、それまでに武漢ウイルスが収束しているのかどうかという問題があります。
変異株にはワクチンの効き目が悪いのではないかと言われている中、あと半年ちょっとで、パンデミックが収まっているとはとても思えません。
まぁ、IOCは日本で開催できたのだから、北京でも開催できる筈だ、と東京五輪を出汁に使うような気がしますけれども、WHOによる武漢ウイルスの追加起源調査を拒否し、先日の洪水被害についても実態を隠蔽しているのではないかと疑われている中国でどこまできちんと対応していけるのか疑問が残ります。
パンデミック下の五輪ということで、中国は面子を掛けて東京五輪以上のものにしてみせようと躍起になってくるのではないかと思いますけれども、日本はそれを逆手にとって、東京五輪の姿をオープンにして世界に情報発信することで、開催のハードルをうんと挙げてやってもよいかと思います。
おそらく中国は、北京など開催会場だけ"綺麗"にドレッシングしてみせるのでしょうけれども、それでも限界はあります。
たとえば、変異株が北京を襲ったり、先日の洪水ではありませんけれども、開催期間に猛吹雪になって各地で被害が発生しようものなら、いくら取り繕ったとしても綻びは出てくるだろうと思います。
あるいは中国は、五輪をなんとか成功させようと、パンデミック下の五輪開催のノウハウを日本に聞いたり、サポートを依頼してくることも考えられます。
けれども、仮に、ウイグルでのジェノサイドが全く改善せず、西側各国が次々とボイコットを宣言するような状況であっても、ホイホイと中国に協力していいのかという声も当然上がってくるだろうと思われます。
そう考えると、北京冬季五輪に対する日本の態度は、いろんな意味で世界の注目を集めることになるようにも思えます。
今回の東京五輪開催については、一部でゴリ押しだなどという声があり、それも間違ってはいないと思いますけれども、もし、このまま大過なく閉幕まで持っていくことができたとしたら、今度はその経験が、中国の北京冬季五輪に対するある種のカードに変化しているかもしれません。
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