

1.輸出管理の厳格運用は見直さない
7月2日、加藤官房長官は記者会見で、表明から2年を迎えた韓国への半導体材料の輸出管理の厳格運用について、見直すことは難しいとの認識を示しました。
加藤官房長官は、韓国への輸出管理について安全保障の観点から実施していると説明し、「韓国側の輸出管理の状況などを総合的に評価し、実効性を見極めながら運用していくのが基本的な考え方だ……政策対話を通じた韓国における輸出管理の実効性の確認は大変、難しい状況になっている」と述べ、「日韓関係を健全な関係に戻すためにも外交当局間の意思疎通を維持しつつ、日本の一貫した立場に基づき、引き続き韓国側に適切な対応を強く求めていく」と、日韓関係全般についても非常に厳しい状況にあるとの認識を示し、両国間の懸案解決のために韓国からの具体的な提案が重要だとの立場を強調しました。
安全保障の観点から普通に輸出管理を徹底しているのに、韓国での輸出管理の実効性の確認が出来ないのであれば、輸出管理の緩和、ホワイト国への復帰などできるはずがないというのは当然の判断です。
2.言うほど進んでいない国産化
日本が韓国向けの輸出規制を強めると公表したのは2019年7月で、対象品目は、韓国が主力輸出品とする半導体の製造で使う「レジスト」と高純度の「フッ化水素」、スマートフォンなどの画面に使う「フッ化ポリイミド」です。
文在寅政権は、この措置に対抗して、日本への依存度が高かった半導体の素材や部品、製造装置の国産化や調達先の多角化に向けた支援に乗り出しました。化学メーカーのソルブレインはフッ化水素の国産化に成功したとするなど、文政権は「脱日本が着実に進んでいる」と成果をアピールしています。
では、その脱日本がどれくらい進んでいるかというと、言うほど進んでいないというのが現実です。
これら3品目について、措置前である2018年と措置後である2020年の推移を見ればそれがはっきりします。
レジストは、措置前の2018年に3億2000万ドルを輸入していたのが、措置後の2020年には3億8000万ドルに増加しました。このうち日本からの輸入は3億ドルから3億3000万ドルに増加。輸入シェアは93.2%から86.5%と低下はしたものの、日本が圧倒的なシェアを占めています。
次にフッ化水素はというと、輸入額はトータルで2018年の1億6000万ドルから7000万ドルに半減。国別シェアは中国が2018年の52.0%から2020年には74.9%に高まった一方、日本は41.9%から12.8%に大きくシェアを落としています。
まぁ、フッ化水素は純度といった質の問題がありますけれども、それを問わなければ、国産化または代替が進んだといってよいと思います。
最後にフッ化ポリイミドは、輸入額が2018年の2334万ドルから2020年の3771万ドルに大きく増加。日本からの輸入シェアは2018年の84.5%から2020年には93.8%と高まっています。こちらは国産化も他国への代替も進んでいません。
韓国のシンクタンク、産業研究院のキム・ヤンペン専門研究員は「輸入額の増加は、半導体市場が全体的に拡大し需要が増えたため」とし、「輸入の割合をみると日本への依存度が少しずつ低くなっているのは明確な事実だ」と述べていますけれども、2年かけて90何%を80何%にしたくらいで国産化したと胸を張るのはまだ早い気がします。
また、キム専門研究員は「過去2年間、わが国の産業に被害がほぼなかった。日本の輸出規制の目標達成が事実上失敗したとみるべきだ」と指摘していますけれども、日本はあくまでも「安全保障の観点」から輸出管理を行っているだけで、別に韓国の産業にダメージを与えるために行っている訳ではありません。それが被害がなかったから日本の目的達成は失敗した、という見解を示すのは、韓国側が日本の輸出管理を単なる報復か何かと捉えていることを如実に示しています。
3.素部装独立運動
7月1日、韓国大統領府の朴洙賢(パク・スヒョン)国民疎通首席は、2年前に日本が韓国に対する輸出規制厳格化を発表した当時、文在寅大統領が激怒していたとフェイスブックに投稿しました。
これは、2019年7月、日本が素材・部品・装備に対する輸出規制を行うと、韓国大統領府 の参謀陣は幾度も討論した結果、大統領に報告する草案を用意しました。
朴首席は「日本の奇襲的な輸出規制で経済危機感と反日感情が同時に高まっていた……国民的の怒りとは異なり、青瓦台と政府の意見は『外交的方法による解決』だった。仕方ないという『現実論』だったが、結局は正面対応を避ける道だった」と明かしました。
朴首席は「多数の参謀意見に従って大統領にメッセージ草案が上がった……参謀の意見が反映されたメッセージ草案を見た文大統領の反応は『沈黙』だった……文大統領を近くで補佐した参謀は大統領の沈黙は『激しい怒り』を意味することをよく知っていた……いくらかの沈黙の末についに参謀は大統領に呼ばれ、緊急会議が招集された。大統領のお言葉が始まった」と伝えています。
朴首席によると、文大統領は参謀陣に「碁を打てますか。碁を打つときにここが勝負所だと思うときがあるでしょう? この問題を扱って、今が囲碁の勝負所だと思いませんでしたか。私は今が素部装の独立を成し遂げることができる勝負所だと考えてますが、どうしたらこのようなメッセージを建議できるでしょうか」と語り、朴首席は「文大統領の普段の話法やスタイルを考えると、予想したように途方もない叱責だった……『この危機を克服できなかったら、永遠に技術独立の道はない』という指導者の孤独な決断と強力な意志が参謀に伝えられた……そのようにして2年前、『素部装独立運動』の方向が決定された……大統領の決断と参謀のためらいの差は国民に対する信頼の有無」と回顧しました。
朴首席は「大統領も、自身の決断が韓日関係に及ぼす影響が心に引っかかったはずだ……ただし、文大統領は国民が一緒に乗り越えてくれるだろうという厚い信頼で、肩を押さえ付けられるような恐れを乗り越えたはずだ」と話しています。
朴首席は「素部装独立運動は成功裏に現在進行中」と評価した後、「素部装100大核心部品の対日依存度が31.4%から24.9%に低くなり、時価総額1兆ウォン以上の素部装関連の中堅・中小企業数も13社から31社へと2倍以上増えた」と説明し、「国民と共に『素部装独立記念日』を作り出す」としながら「素部装独立運動2周年に大統領の洞察と決断、国民に対する信頼に敬意を表わす」と締め括りました。
4.全て文在寅のせい
これを見た韓国のネットユーザーからは、「あれは歴史に残る決定だったと言える」とか「一国のリーダーは現実的な利益より国と国民の魂のために決断を下さなければならないときがある。文大統領はそのタイミングを見逃さなかった」とか「韓国経済の成長を妨害しようという日本の戦略は失敗に終わった。むしろ韓国を強くし、日本への技術的依存度を下げるきっかけとなった。反対に日本の企業は再起不可能なほどの打撃を受けた。日韓貿易戦争の勝者はわれわれだった」とか「今考えると、文大統領の決断は正しかった。これは称賛すべきだ。絶対に日本にへつらってはならない。これからは日本と対等に戦っていける」など文大統領への称賛の声が相次ぐ一方、「じゃあなぜ今は菅首相にぺこぺこしているの?」、「政権維持のため反日感情をうまく利用しているだけ」、「国民のためを思うのなら、大気汚染物質を飛ばす中国にも強硬対応してほしい」などと批判する声もあるそうです。
このエピソードに対しては、いろんな見方があるとは思いますけれども、それよりも、筆者は、なぜ今になって此の事がリークされたのかという方が気になります。
まぁ、これは穿った見方であるとは思いますけれども、単に、文政権がレームダックに陥ったということだけではなく、日本の輸出管理厳格化が一向に緩和されず、それによる韓国産業界や韓国経済がダメージを被ることになっても、それは全て文在寅大統領のせいだ、という具合に責任逃れをする準備を始めたのではないかという気もします。
果たして次の大統領が誰になるか分かりませんけれども、文在寅政権の残したツケというか負の遺産はとても軽いものとは思えません。特に日韓関係に与えたダメージは壊滅的なものであり、慰安婦問題、元募集工判決問題など、日本との間に抱える問題含め、関係修復は、ほぼ全て国内問題として解決しなければならないという、絶望的なものとなっています。
今後日本が対韓姿勢で腰砕けにならない限り、韓国はセルフ制裁というか、セルフ封じ込めに向かうレールを走ることになるのではないかと思いますね。
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