

1.熱海の土石流被害
懸命の救助活動が続く熱海の土石流被害。被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
7月5日、静岡県の川勝平太知事は、熱海市伊豆山地区の被災地を視察し、現場の状態や安否不明者の捜索・救助活動の状況を確認しました。川勝知事は、警察や消防、自衛隊が手作業で捜索を続ける現場を視察し、「疲労に耐えて頑張ってくれている。安否の分からない方々の情報をなるべく早く確認したい」と述べ、逢初川の激しい濁流を見て「いかに水の貯蓄量が巨大だったかが分かる」と指摘しました。
川勝知事は、土石流の起点となった逢初川上部も訪れ、えぐれた山肌に盛り土と見られる土がある様子を確認し、「まさに天変地異。原因は長雨の貯蓄だが、噴き出た水が盛り土を一緒に押し流し、被害を拡大した」との認識を示しました。
現場写真を見る限りでも、逢初川の最上流部の山の壁面は逆三角形型にむき出しになり、下流には周囲の色とは異なる黒い土が流れ出ていて、「盛り土」が崩落したのだなと分かります。
崩落現場はもともと山林の奥まで進入路がつながり、土を積んだダンプカーがしきりに出入りしていた場所でした。
市や複数の関係者によると、盛り土部分の土地は2007年、神奈川県の業者が本県の土採取等規制条例に基づく届けを熱海市に提出し、残土処理場として利用していたのですけれども、10年程前に一帯の山林とともに別業者に所有権が移転。2016年以降、南西側に隣接して大規模太陽光発電所が建設されました。
現場周辺をドローンで撮影した地質学者の塩坂邦雄氏は、太陽光発電所の建設で土中に浸透できなくなった大量の雨水が、進入路伝いに盛り土部分に流入した可能性に言及。「森林自体は健全な山。これまで崩落せず踏みとどまってきたが、開発でたがが外れたのではないか」と保水力の低下を指摘。
また、土石流のメカニズムに詳しい今泉文寿静岡大農学部教授は、発生原因の究明には詳細な調査が必要とした上で、「盛土が土石流の規模を大きくした可能性は十分考えられる」と述べています。
2.盛土の工法は不適切
7月7日、被害拡大の焦点となっている「盛土」について、静岡県の難波喬司副知事が「工法が不適切だった」との見解を示しました。
静岡県は盛り土を作る場合に必要とされる水を抜くための排水溝や管がないとみられることがわかったとしていますけれども、難波副知事は、盛り土の量に着目。「届出は3万6270立方メートルになっております。5.4万立方メートルということですので、これは違っております。これだけのものが盛られると申請が出されていたのではないか。その上にどんどんどんどん積まれていって…」と元の計画よりもおよそ1.5倍の盛り土が行われた可能性や、高さや段の積み方も申請時の計画とは違うと指摘しました。
そして、この状態では、仮に事前の計画通りの排水設備や堤防があったとしても災害に耐えることはできないと分析しています。
難波副知事は、「災害を甚大化させたのは、ここにあった盛り土、この5万を超える盛り土であったことは推定ではなくて確実」とまで断言していますけれども、難波副知事は、国土交通省港湾局計画課長、国土交通省大臣官房技術参事官、京都大学経営管理大学院客員教授などを歴任した土木技術の専門家であり、しかも修士論文は「降雨時の斜面安定の不確実性について」だったそうですから、今回の被害については、専門家中の専門家といってよいと思います。したがって、その指摘は非常に重く受け止めるべきでしょう。
3.原因を徹底調査すべし
当初、3万6270立方メートルと届出されていた盛土が、なぜ5.4万立方メートルにまで膨れ上がったのかの経緯については、未だ不明なのだそうですけれども、盛土を行った業者は県から再三再四、是正勧告を受けていたことが明らかになっています。
県などによると、業者は盛土の計画を届けてからわずか1ヶ月後、より広い面積に手を入れていると判明し、県が森林法違反と判断し、工事一時中止と森林の復旧を指導しました。
業者は復旧に応じたのですけれども、2010年8月、今度は土に木くずや産業廃棄物が混じっていると発覚。市と県が撤去を指導しました。それでも、業者は盛土を続け、市は10月までに2度にわたり搬入中止を要請し、11月になって、ようやく関連企業が木くずを搬出しました。
業者は、工事終了時に「完了届」を市に出す必要があるのですけれども、業者はこれを提出しないまま2011年2月に所有者が別の個人に変更されたそうです。
もっとも、難波副知事は件の業者が当時、届け出以上の盛土をしていたかについては、県と市が指導などで現場をチェックしていたとして、可能性は高くないとしているようです。
ただ、盛土をした業者は「普通の民間会社ではない」という話もあるようで、色々と裏があるかもしれません。
難波副知事は「土石流の成分分析やレーザー光を使うなどの調査で土石流の規模や原因をはっきりさせたい」とし、チームを編成して調査を進めるとしていますけれども、盛土に関わった業者と膨れ上がった盛土の経緯についても徹底的に調査を進めていただきたいと思います。
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