

1.北戴河会議開幕
中国で「北戴河会議」が今年も始まったと報じられています。
北戴河会議とは、例年、8月上旬ごろに北京に近い河北省の避暑地である北戴河に現役指導部と一線を退いた長老らが非公式に集まり、党の重要人事や政策を話し合う会議のことです。日程や会議の内容は公開されることはないのですけれども、要人が北戴河入りしたことや、北戴河を離れ別の会議に出席するなどの動向は報じられることから、会議が開始間近もしくは既に終了したと推測されています。
北戴河会議は、建国の父、毛沢東時代に始まったとされ、文化大革命時に一旦廃止されたものの、鄧小平時代に復活。その後、2003年ないし2004年に、当時の胡錦濤国家主席が北戴河会議を再び廃止。けれども、長老などの反対で復活し、2012年8月に再び開催されました。これ以後、習近平政権になってからは毎年開催されています。
今年の北戴河会議では、習近平国家主席が、来年秋に開く5年に1度の共産党大会に向け、3期目をにらんで人事案の調整を進めると見られています。
2.七上八下
中国の最高指導部の人事を占う上で注目されるのは、党大会時の年齢が67歳以下であれば留任(上=入る)、68歳以上であれば離任(下=出る)という「七上八下」と呼ばれる暗黙のルールです。
習近平主席はすでに68歳で、この暗黙のルールに従うなら来年秋に引退を迫られることになります。これについて、党内からは「七上八下は江沢民元総書記時代につくられた内規で、絶対視するものではない」との意見もでているそうで、習近平主席は自身を例外にするつもりだとも見られています。
実際、習近平政権は国家主席の3選禁止規定を既に憲法から削除するなど、従来の人事ルールを変更していますし、このルールに従えば、政治局常務委員では、習近平、栗戦書、韓正の3氏が外れなければならないところ、韓正氏についても続投の観測があるそうです。
更に、習近平主席は共産党主席制を復活させ、そのポストに自身は就くのではないかとの見方も出ています。
党主席は、かつて党の最高位として毛沢東らが務めていたのですけれども、文化大革命の終結後、鄧小平が改革開放政策を進めると同時に、権力集中の弊害を避けるため指導体制への変更を実施。現在は総書記を中心として最高指導部の合議を原則とする集団指導体制に移行しています。
中国指導部関係筋の話によると、もし、習近平主席が党主席に復活すれば、同時に1~3人の党副主席も復活させ、党最高指導部の政治局常務委員を現行の7人から3~5人に減らすのではないかとの見通しも伝えられています。
これまで政治局常務委員は、採決で同数となるのを避けるために、奇数だったのですけれども、もしも、習近平国家主席が党主席として全権を握れば、政治局常務委員など奇数だろうが何だろうが関係ありません。
3.注目を集める次期首相人事
その一方、李克強首相は、来年秋の段階では68歳には達しないものの、憲法で首相は2期までと定められていることから、首相から退かざるを得ず、また政治局常務委員としても、4期目となるのを理由に、残留できない可能性が高いと見られています。
そういった背景から、首相の後任人事にも、関心が集まっています。
首相は副首相から選ぶのが慣例なのですけれども、現在、副首相の席には韓正氏、孫春蘭氏、劉鶴氏、胡春華氏の4氏が就いています。
けれども、「七上八下」ルールに従えば、彼らのうち韓正氏、孫春蘭氏、劉鶴氏の3氏が「八下」となり、その座から降りることになります。必然的に今年58歳の胡春華氏だけが残ることになるのですけれども、胡春華氏が首相に昇格すれば、副首相4人全員を変えることになります。もし、その4人が胡春華氏と同年代かそれ以下になれば、一気に世代交代が進むことになります。
けれども、習近平主席が「七上八下」ルールを撤廃してしまえば、今の副首相の誰かを残すことも出来るでしょうし、世代交代にもブレーキを掛けることが可能になります。
胡春華副首相は、李克強首相や胡錦濤前総書記らと同じ党の青年組織、共産主義青年団(共青団)の流れをくむ人物です。党内では行政手腕を評価する声も多いのですけれども、習近平主席と距離があるとの見方が絶えず、「胡春華氏外し」を巡り、党内でせめぎ合いが起きているとの見方もあるそうです。
現在、習近平主席は李克強首相の後継候補として年内にも側近を副首相に就けようとしているとの観測が出ています。
その候補として、習近平主席が浙江省トップを務めたときからの側近である陳敏爾・重慶市共産党委員会書記(60)や李強・上海市党委員会書記(61)、李希・広東省党委員会書記(64)らの名前が挙がっているようです。
4.2049年の反撃を目論む共青団
この習近平主席の思惑に対し、共青団は長期を見据えた人事で対抗しようとしています。
中国メディアによると、共産党は若手幹部の登用を進め、局長級ポストに就いた80年代生まれの幹部9人のうち、6人が共青団出身者です。
今年2月に雲南省投資促進局の局長に就任した段穎氏は、雲南省の地方の経済関連部署で経験を積んだ叩き上げで、2017年から共青団の雲南省委員会の副書記を務めていました。1982年生まれの38歳で、中国で最も若い局長級幹部です。
中国北部の山西省では山西省共青団トップの書記を務めていたことがある黄巍氏が山西省臨汾市の共産党委員会の副書記に転じています。
また、2009年に28歳という当時の最年少市長となった周森鋒氏も共青団出身者で、現在は共青団湖北省委員会書記の地位にあります。
更に16歳の若さで習近平国家主席の母校、清華大学に入学した董玉毅氏も注目株で、経済成長が遅れている内モンゴル自治区や青海省の地方組織幹部を歴任し、現在は青海省の共青団トップを務めています。
共青団の勢いは局長に止まりません。
副局長級ポストまで広げると、80年代生まれは80人規模まで増え、そのうち6割が共青団出身者と言われています。
筆頭格は15歳で政府直属の最高研究機関「中国科学院」傘下の中国科学技術大学に入った周密氏で、彼は中国科学技術大学がある安徽省の共青団の副書記を務めた後、2014年に安徽省宣城市の副市長に当時最年少で就きました。2020年からは新疆ウイグル自治区のホータン地区の共産党委員会副書記も兼ねて経済支援の陣頭指揮をとっています。
更に、清華大学の博士号を持つ劉冲氏は7月末に海南省文昌市の共産党委員会の副書記となり注目を集めています。
これまで共青団は党エリートを養成する役割を担い、胡錦濤前国家主席、李克強首相らを輩出してきました。出身者は「団派」と呼ばれて結束が強いことで知られています。
共青団は高校や大学を基盤としていて、高学歴化が進むなかで大半の学生が共青団に加入する仕組みになっています。2017年末で8000万人を越える規模を抱え、「共青団に代わる党エリートの養成組織はない」とまで言われ、建国100年を迎える2049年までには世代交代は必須で、その時には共青団が指導部の中心となっているのではないかとも目されています。
2049年といえば、今から28年も先の話になります。確かにいくら習近平主席が終身主席としてその座を手中に収めたとしても、28年後には、現在68歳の習近平主席も96歳になっています。
どんなに無限の権力を握れたとしても、人の命は無限にはなりません。長い目でみればいずれ習近平時代にも終わりは来る。
今現在でさえ、米中対立、天災などで中国国内は揺らぎまくっています。
建国100年を迎える2049年。
果たして、その時に国家主席、あるいは党主席の席に座っているのは誰なのか。もしかしたら、その時は「主席」という名ですらないのかもしれません。
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