中国と対決するオーストラリア

今日はこの話題です。
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1.もはや中国楽観論は少数派だ


4月25日、オーストラリアのピーター・ダットン国防相は、公共放送ABCとのインタビューで台湾を巡る衝突の見通しが強まっているかと問われ、「それを軽視すべきとは思わない……人々は活動に現実的になる必要がある……活発な活動があり、台湾と中国の間に敵意があることは明白だ」と述べ、域内の同盟相手に対するいかなる脅威にも対応する高水準の準備がオーストラリア国防軍にはあると述べました。

そして、「われわれが引き続き域内の良い隣人であり続け、パートナーや同盟相手と協力し、中国や台湾との間のほか、いかなる場所においても衝突を見たい者はいないということを明確にしたい」とオーストラリア政府は平和の維持に努めると明言しました。

オーストラリアの世論の対中感情は悪化しています。

今年3月から4月に掛けて、シドニー工科大学の豪中関係研究所(ACRI)が成人2000人に対して実施した調査によると、62%が武漢ウイルス禍を受けて中国への否定的な見方が強まったと表明。63%がオーストラリア政府が対中政策でさらに強硬な路線を取るべきだと回答し、「オーストラリアの安全保障にとって中国が脅威」との答えも67%に達しました。

その一方、中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国であり、「中国との関係に恩恵がある」との回答は62%に上っています。ただ、「オーストラリアは中国に経済的に依存し過ぎ」との回答も80%に達するなど、デカップリングへの潜在的な欲求も示しました。

このように中国に厳しいオーストラリアの世論ですけれども、オーストラリアの対中観が大きく変わり始めたのは、2017年のテレビ番組が切っ掛けでした。

番組では、中国系の人物が複数の政治家に賄賂や巨額の政治献金を渡すことで、オーストラリア政治を中国に有利に操ろうとしていることを暴く調査報道でした。要するに中国の「サイレントインベージョン」を暴いた訳です。

そこに止めを刺したのが武漢ウイルスです。

オーストラリア政府が、ウイルスの発生源について国際的な調査を呼び掛けると、中国はオーストラリア産の石炭や大麦、小麦、ワイン、羊などに次々と関税や制限をかけました。オーストラリアも、中国の世界戦略「一帯一路」絡みのプロジェクトを厳しい審査にかけることを決め対立は激化しています。

アメリカン・エンタープライズ研究所のエリック・セイヤーズ客員研究員は、「アメリカと同じく、オーストラリアでも『中国の本性が見えた』という認識が高まっていると思う……もはや中国楽観論は少数派だ」とコメントしています。


2.オーストラリアの対中姿勢を高く評価する日本


このようにオーストラリアは、国家安全保障問題、人権問題、武漢ウイルスの起源をめぐって中国当局と対立を深め、両政府の閣僚は実に1年半以上接触していません。

8月12日、岸防衛相は、オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルドのインタビューで、「日本の防衛政策は特定の国を対象にしたものではない」と強調する一方で、「日本を取り巻く安全保障環境がさらに厳しくなっていることを考えると、自分の身は自分で守る体制を構築しなければならない……中国当局は武力と強迫を通して、一方的に現状を変えようとしている。同時に、それを既成事実化しようとしている」と軍拡を進める中国を牽制。日本の国会は、安全保障上の必要性から憲法改正を決めなければならないとし、「これらの課題に対応するために、自国の防衛力を強化する必要がある」と答えています。

岸防衛相は、日本政府は南シナ海と、日本との間で領土問題を抱える東シナ海における中国側の動きに注視していると述べ、中国側と台湾の軍事的格差が「年々」拡大していると指摘した上で「台湾の防衛の安定は日本の安全保障だけでなく、世界の安定にとっても非常に重要だ」と述べました。

そして、「オーストラリアは、東南アジア地域だけでなく太平洋諸島でも非常に影響力がある。……自由で開かれたインド太平洋のこのビジョンを推進する上でオーストラリアがリーダーシップを発揮することを期待したい」と述べ、北京と正直に対話する最善の方法は、個人的な会合で直接行うことだと指摘しました。

日本はオーストラリアの対中姿勢を高く評価しています。

7月21日、山上信吾・在豪日本大使はオーストラリアの「全国記者クラブ」で講演を行い、中国との貿易戦争においてオーストラリアは「途方もない圧力を前にしても、一貫性、原則性、弾力性のある方法で対応している」と高く評価し、「独りで歩いているのではない」と、日本はオーストラリアを支持するとの姿勢を示しました。

山上大使は、台湾をめぐる緊張や中国船による日本統治下の島々への侵入などがある東シナ海の平和は、南シナ海と同様にオーストラリアの安全保障と経済的利益にとって極めて重要であると指摘しました。

更に、日本が中国との関係を良好に保っているのは、対立を避けているからであり、オーストラリアも同様のアプローチを取るべきだという一部のアナリストの指摘に対しても「私のシンプルな答えは "ノーウェイ "です。私は外交的なので、このB-U-L-Lという言葉は使いませんし、ここでは使いませんが、残念ながらそのような議論には賛同できません。なぜかというと、毎日毎日、日本は苦労しているからです。私たちには、国家の安全保障という問題があります。オーストラリア、日本、アメリカ、同じ志を持つ国々が集まり、力を合わせて、この新興勢力の台頭によって引き起こされる課題に対処しなければなりません」と否定しました。

また、山上大使は、中国のランドブリッジ社がダーウィン港を所有していることが日豪防衛演習の妨げになっているのではないか、また東京が中国企業による同様の重要資産の購入を許可することがあるのか、という質問に対して、「日本でも同じようなことがあるでしょうか?佐世保や横須賀のような港で同じことが起こるとは想像できません。しかし、それはオーストラリア政府が決めることなので、駐豪日本大使としては、日豪両国の国内政治に首を突っ込まないことにしています」と答えています。

そして「日本とオーストラリアは最前線の国であり、この問題に対処することは極めて重要です。単独ではなく、特別な責任感とリーダーシップを持って、世界の国々と協力して取り組むことが重要です」と強調し、抑止力には、伝統的な軍事的脅威だけでなく、戦闘に至らない、いわゆる「グレイゾーン戦術」も含まれると述べ、「日本の戦略家の多くは、この非対称戦争についてよく語っていました……つまり、核戦争の可能性を心配するのではなく、変装した漁師がどうやって上陸するのか、あるいは攻撃が行われるのかを本当に心配しているのです。抑止力を維持するためには、あらゆるシナリオに対応できるようにしておかなければなりません」と中国の手口に対処するよう呼び掛けています。


3.揚げ足取りすら出来ない中国


この山上大使の発言に対し、中国は即座に反応しました。

翌22日、在豪中国大使館は自身のホームページに、「先日、キャンベラで行われた外交行事で(日本大使は)第二次世界大戦における日本の軍国主義者による残忍な侵略と残虐行為を白紙に戻し、さらには美化しようと露骨に試みた……2010年、中国はGDPはすでに日本を上回ったが、残念なことに帝国の夢を抱く少数の日本人はこの現実を受け入れないようだ」と批判しました。

在豪中国大使館は、山上大使の「発言」に対して「中国大使はその場で非難した」と書いているのですけれども、当日の全国記者クラブに中国大使は参加しておらず、在豪日本大使館は、山上大使はその場では、第二次世界大戦について言及していなかったとコメントしています。

更に、山上大使と中国大使館の成競業大使が最近ともに出席したイベントは、今年4月に在オーストラリア・イスラエル大使館が主催したホロコースト犠牲者追悼イベントなのですけれども、その際、山上氏は、日本の高官が迫害に遭うユダヤ人の脱出を助けたことについて触れたものの、第二次世界大戦中の日本軍の動きについては何も言及しなかったと回答しています。

これについて、オーストラリアのABC放送は中国大使館に対して詳細を求めたのですけれども、中国当局は山上氏の発言がすべてであり、付け加えるものはないと答えました。

当日の会場にも姿を見せず、言っていないことを言ったかのように持ち出して批判する。揚げ足取りにすらならないこの批判は、まるでどこかの半島国家のようです。話になりません。

逆にいえばそれだけ痛いところを突かれたということだろうと思いますけれども、中国は正攻法で対応できないとなると、またぞろ裏技を仕掛けてくる可能性があります。カナダと同じく「人質外交」による圧力です。

2020年8月、オーストラリア人の女性ジャーナリスト成蕾(チェン・レイ)氏を突如拘束しました。そして翌2021年2月に国家機密を海外に提供した容疑で逮捕しています。

拘束後、すぐに訴追も何もせず、半年経ってから逮捕する。なにやらカナダと同じく、長々と裁判を行ってから有罪判決を下すといった「人質外交」を行っているように見えて仕方ありません。

この「人質外交」にオーストラリアがどう対応するか。カナダと合わせて注目すべきかと思います。


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