

1.アフガン難民受け入れ要請
8月18日、欧州連合(EU)・欧州委員会のヨハンソン委員は、タリバンが実権を掌握したアフガニスタン情勢をめぐって声明を出し、「差し迫った脅威」にさらされているアフガニスタン人を保護するため、難民の受け入れ拡大をEU加盟国に要請したことを明らかにしました。
その一方、ヨハンソン氏は「密航業者による安全ではない非正規のルートを通じて人々がEUに向かうのを防がなくてはならない」と述べ、アフガニスタン国内の避難民支援や近隣国との連携で、欧州流入を未然に阻止する必要性を訴えました。
アフガニスタンでは、アメリカ軍の撤退方針が明らかになった2月以降、欧州連合の欧州庇護支援事務所(EASO)には多くの難民申請が寄せられるようになっていて、5月には月4648件に達していたと報じられています。
8月16日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が、仏独をはじめとする欧州各国は共同で、難民認定はできない不法移民の新たな大波に「確固たる対応」をするとしながら、「欧州だけでは責任を負えない」と付け加えています。
翌17日、イギリスはアフガニスタンの難民を最大2万人受け入れるとの計画を発表しました。
イギリス政府の新たな計画は、今後数年の間に、最大2万人のアフガニスタン人に対しイギリスで定住できるようにするというもので、1年目は5000人を対象とし、成人女性と少女、その他の困難度の高い人を優先するとしています。
ボリス・ジョンソン首相は、「過去20年間、アフガニスタンをよりよい場所にするため、私たちと共に努力したすべての人々に対し、イギリスは恩義がある……そうした人たちの多くは、特に女性は、早急な支援を必要としている。そうした人々と家族を対象に、イギリスがここで安全に暮らすための道を整備したことを誇らしく思う」と述べました。
ただし、プリティ・パテル内相はデイリー・テレグラフへの寄稿で、「イギリスだけでは不可能だ」と主張し、他の国々に支援を強く求めています。
こうした発言の背景には、タリバンの支配を恐れるアフガニスタン人が、大量の難民となって流出するのではという危惧があります。EUの推計によると、2015年以降、難民申請を行ったアフガニスタン国民は約57万人に達するそうです。
EU加盟国の外相は8月17日に緊急会合を開き、タリバンの政権掌握がもたらす安全保障面の影響について議論していますけれども、ドイツのハイコ・マース外相によると、この会合の主要議題は、アフガニスタン在住のEU市民およびEU関連施設で働くアフガニスタン人スタッフの国外退避、タリバンへの対応、そして、アフガニスタン難民が大量に逃れてきた場合いかにして地域の不安定化を防ぐかだと明かし、「我々は、事態の進展を注視している。現在アフガニスタンで権力を行使している者たちの正当性は、その行動によって判断される……とりわけアフガニスタン周辺地域の安定化は重要だ。近隣諸国がさらなる難民の流入に直面するのは確実だからだ」と述べています。
ドイツのメルケル首相は、「アフガニスタンの難民が向かう先としてまず考えられる近隣諸国をサポートする取り組みだ」と述べ、アフガニスタンの隣国のイランやパキスタン、あるいは北部で国境を接するウズベキスタンやタジキスタンがより多くのアフガニスタン難民を受け入れられるよう、これら近隣諸国を支援すると表明しています。
2.大使館職員の国外退避
8月17日、日本政府はアフガニスタンの大使館職員12人をイギリスの軍用機でUAE(アラブ首長国連邦)のドバイに退避させました。
アフガニスタンの首都カブールにある日本大使館は15日をもって一時閉鎖し、トルコのイスタンブールに臨時事務所を設けて業務を継続するとしています。
外務省によりますと、アフガニスタンにはまだ若干名の日本人が残っているということですけれども、それだけではありません。
複数の関係者によると、日本大使館や国際協力機構(JICA)事務所で働いてきたアフガニスタン人のスタッフやその家族が、国外に退避する見通しが立たないまま、アフガニスタン国内にとどまっていることが明らかになっています。
日本外務省の幹部によると、現地スタッフの退避は先週から議論をしていたものの、航空機の手配ができず、棚上げ状態になっているそうです。実際、退避するにして、家族も一緒に退避する必要があることから、人数も多くあり移動手段を確保する目途が立たないといった事情もあるようです。
3.退避進まぬ現地職員
現地職員が退避できないのは日本だけではありません。
アメリカとカナダは、アフガニスタン現地人職員を安全に避難させるためのプログラムを準備しています。
その一方で、韓国は現地職員を退避させる体制の準備も進んでいないようです。
バーミヤン地域で韓国外務省が進めていた文化教育事業に雇用されていたあるアフガニスタン人職員は、タリバンを避けてバーミヤンから丸3日歩いて首都カブールに着いたもののアフガニスタンを発つ飛行機に乗ることができず足止めを食らっています。
韓国は、タリバン政権が崩壊した2001年以降の20年の間に、約10億ドルの援助と陸軍医療支援団、工兵支援団、地方再建チームなどを派兵し、現地の多くの人材が韓国の部隊や病院などに雇用され、通訳や各種の業務を担っていました。
国連の元関係者は「韓国人たちは避難したが、韓国側に協力した現地人たちは脱出できずにいる……韓国政府も他の先進国のように、アフガニスタンで行った事業に雇用されていた現地人たちの安全の保障を求める声明を出し、対策に乗り出すべきだ」と対応を求めています。
現地の事情に詳しい関係者によると、韓国の政府と機関に勤めたという理由で迫害を受けることを憂慮し、脱出と移住を希望するアフガニスタン現地人は数百人に達するようです。
同じように他国政府にも脱出を希望する現地人職員が多数いると思われます。
4.アフガン事態は他人事ではない
今回のアフガニスタン事態は韓国に大きな衝撃を与えました。
なぜなら、北朝鮮と対峙している韓国の安全保障は、アメリカ軍の駐留によって保たれていることが改めて浮き彫りになったからです。
17日、中央日報は社説「アフガニスタン事態が韓米同盟の重要性を見せた」で次の様に述べています。
アフガニスタン事態は他人事でない。まず、強い軍隊を維持するのが重要だ。最近、空軍と海軍で相次ぎ起きたセクハラ事件や警戒の失敗、韓米合同演習の縮小などをみると懸念せざるを得ない。軍隊の命とされる軍規が崩れれば、アフガニスタンのようになる。しかも、北朝鮮は核兵器とミサイルを継続して増やしている。韓米同盟がどれくらい重要なのかも米軍が撤収したアフガニスタンの運命から如実にあらわれた。最近、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長が直接在韓米軍の撤収を求めたではないか。韓米同盟は韓半島(朝鮮半島)の安全保障の柱だ。政府と軍はアフガニスタン事態を他山の石にして韓米同盟の強化と強軍維持に全力を尽くしてほしい。国が分裂して安保が崩れれば、何も役に立たない。アフガニスタンに残っている在アフガニスタン韓国人や外交官らの安全な帰国にも全力を注いでほしい。
当たり前の指摘です。ただ、それが是とされるかは微妙なところです。
16日、アメリカのワシントン・ポスト紙でコラムニストを務めるマーク・ティッセン氏は「もし韓国がこのように持続的な攻撃を受ける状況になったら、アメリカの支援がなければたちまち崩壊していただろう……6・25戦争後、全てのアメリカ軍が韓半島から撤収していれば、韓半島は北朝鮮の支配下に落ちて統一していたはずだ」とコメントしました。
ところが、このツイートに「韓国軍は強く、われわれを必要としていない」、「韓国はよく訓練された軍隊を保有している」、「彼がブッシュ政権にいた事実に驚いている。彼は世界の半分しか知らない」といった反論のリツイートが続出。
これに対し、ティッセン氏は「アメリカ軍がいる理由は北朝鮮を抑制し、その結果を防ぐには今も必要だからだ……バイデンがアフガニスタンに対してしたことをトルーマンがドイツ、日本、韓国でしていれば、今の世界は非常に変わっていただろう……韓国はアメリカの支援がなければ自分を守れないので、われわれは今もそこにいる……彼らが自分たちを守れるのであれば、なぜわれわれがその地にいるのか。では日本と韓国から(米軍を)撤収させようというのか」と反論しています。
韓国は在韓米軍を必要としていないという意見がどこまでアメリカで受け入れられているか分かりませんけれども、もし、バイデン政権が不要だと判断すれば、在韓米軍撤退ということもあり得ます。
アメリカにしてみれば、対中政策において、同盟国である韓国がどう協力するのかは一つのポイントであると思いますけれども、今の文在寅政権ではその期待は薄いでしょう。
となると、次の大統領選で親米政権ができるのかどうかが一つの鍵になると思われます。
果たして中央日報社説の訴えは韓国国民に届くのか。要注目です。
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