

1.もう起こったことなんだ
8月18日、アメリカのバイデン大統領はABCテレビのインタビューに応じました。
インタビューの内容はもちろんアフガニスタン撤退のことです。
インタビュアーを務めたABCワシントン支局長のジョージ・ステファノプロス氏は、クリントン政権で広報担当大統領補佐官、大統領政策・戦略担当上級顧問を務めた人物で素人ではありません。
畢竟、その質問も鋭く、バイデン大統領の撤退判断にミスはなかったのか厳しく追及するものでした。
タリバンの進攻から撤退までの一連のことについて、ステファノブロス氏が、情報、計画、実行、判断のどれが失敗したのかと詰め寄ると、バイデン大統領は「もう起こったことなんだ」と答えにならない答えをしていました。
そして、「今回の撤退は、どんな形であれ、もっとうまく処理できたのではないか? ミスはなかったのか?」と問われたバイデン大統領は「混乱を招かずに脱出する方法があったという考えは理解できない。どうしてそんなことになったのか、私にはわからない」と答えています。
まぁ、軍や情報部はきちんと情報を上げていたのでしょうけれども、バイデン氏自身に具体的な撤退のイメージや不測の事態の想定がなかったのではないかと思わざるを得ません。
また、ステファノプロス氏が中国はすでに台湾に「ほら、アメリカ人はあてにならないだろう」と言っていることに言及すると、バイデン大統領は「NATOや日米同盟などと、アフガニスタンとの関係は比較の対象にすらならない……我々は同盟国との間のすべての義務を果たす。もしNATOの同盟国が侵略されたら対応する。それは日本も同じ。韓国でも同じ。台湾…でも同じだ」と述べ、同盟を重視する立場を強調しました。
それでも、ステファノプロス氏が「今のアメリカは信頼できない、アメリカは約束を守らない…」と言う人がいると食い下がると、バイデン大統領は「誰がそんなことをいうんだ。私はこの決断をする前にすべての同盟国、ヨーロッパのNATO同盟国と会った。彼らは同意してくれた」と反論しています。
この質問は結構痛いところを突いたのではないかと思います。
2.アメリカ史上最大の恥だ
インタビューで、バイデン大統領は、アフガニスタン国内に1万人から1万5千人のアメリカ人のうち、撤退を希望する人が全員が撤退するまで、軍隊を留めることを約束しましたけれども、アフガニスタンの同盟国はどうかと問われると「脱出可能な全員と、脱出すべき全員を脱出させる」と答えるに止めました。要するに脱出希望者全員ではなく、「脱出させたい人」を可能な限り脱出させるということです。
17日、FOXニュースの番組に出演したトランプ前大統領は、アフガニスタンからの米軍撤退について「出て行くのは良いことだが、バイデンほどひどい撤退の仕方をした者はいない。アメリカ史上最大の恥だ」と批判しています。
トランプ前大統領は「我々は条件付きの合意で5月1日までに撤退しようとした。アメリカ軍を残すべきだと言う人たちがいたが、あの国を守るために年間420億ドルを費やし、何も得ていない……私はタリバンの指導者と何度も話した。私は最初に、『アメリカ国民に万が一のことがあったり、アメリカ国内に足を踏み入れようとしたりしたら、どの国も受けたことがないほどの打撃を与える』と伝えた。その後の会話はよい内容だった」とタリバン政治部門トップのバラダル幹部との会話を明らかにしました。
バイデン大統領に対する批判の声はトランプ前大統領ら共和党関係者だけでなく、身内の民主党からも上がっています。トム・カーパー上院議員は「撤退は暴力と不安定さを防ぐため慎重に計画されるべきだった」との声明を発表。ロイター通信が17日公表した世論調査でもバイデン氏の支持率は46%と、前週の53%から7ポイント下落。他の世論調査でも軒並み下落し、不支持率と拮抗する状態になっています。
3.イギリスが有志連合軍をまとめ上げられたと考えるのは幻想だ
更に、バイデン氏批判の声はイギリスでも起こっています。
18日に緊急招集されたイギリス下院では、与野党双方から批判が噴出。イギリス兵としてアフガニスタンに駐留した経験を持つ、保守党のタジェンダット下院外交委員会委員長は「私が共に戦ったアフガンの男たちを『逃げた』と言い張り、彼らの勇気に疑問を呈する最高司令官の姿勢は恥ずべきこと」と述べ、混乱の原因はアフガニスタン政権と治安部隊にあるとするバイデン大統領を痛烈に批判しました。
また、元閣僚や野党議員からも「バイデン政権は現地で何が起きているかを見ずに一方的に撤退を決め、皆を火中に投げ入れた」、「アメリカ軍撤退は完全な間違い」などと直接的に批判する声が相次ぎました。
更に、批判の矛先はジョンソン首相にも向けられ、メイ前首相はじめ多くの与野党議員は、首相の指導力不足に事態悪化の原因の一端があると糾弾しています。
ジョンソン首相は「アメリカなしでイギリスが有志連合軍をまとめ上げられたと考えるのは幻想だ」とし、撤収を決めたアメリカと歩調を合わせざるを得なかったと弁解していますけれども、バイデン大統領によれば、撤収を決断する前に全ての同盟国、ヨーロッパのNATO同盟国と会って相談していたそうですから、バイデン氏の主張が正しければ、撤収を決める前に一言いえる機会はあったことになります。
にも拘わらず、何も言わず、アメリカ軍撤収に同意したとすれば、結果論だとはいえ「指導力不足」と詰られるのも甘受しなければならないと思います。
4.民間人を緊急脱出させる経験
19日、G7外相は、アフガニスタン情勢をめぐって緊急のオンライン会議を開きました。
会議の終了後に出された声明の概要は次の通りです。
・イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、アメリカのG7外務・開発担当大臣および欧州連合(EU)上級代表は、悪化するアフガニスタンの状況について議論した。現在、大使館職員や民間人の国外退避を進めているアメリカが、日本政府に対し、自衛隊の派遣を含めた協力を要請していることが分かったと報じられていますけれども、おそらく、このG7外相会合も受けてのことではないかと思われます。
1.G7閣僚は、8月16日の国連安全保障理事会の声明を支持し、特に、暴力の停止、女性、子ども、少数民族を含む人権の尊重、アフガニスタンの将来に関する包括的な交渉の緊急性、すべての当事者が国際人道法を尊重する必要性、特に人道支援者、医療関係者、通訳者、その他の国際的なサービス提供者に関連して、我々のコミットメントを確認した。
2.G7閣僚は、タリバンに対し、退避を希望する外国人やアフガニスタン人に安全な通行を保証するよう求める。また、G7閣僚は、カブールからの避難を可能にするために、我々の間で緊密かつ効果的な協力を行うことの重要性についても議論した。タリバンは、アフガニスタンが国際安全保障に対するテロリストの脅威のホスト国にならないようにしなければならないという点で一致した。
3.G7閣僚は、アフガニスタンの危機は、アフガニスタンとその地域が直面している重大な問題への集中的な関与を含む国際的な対応を必要としていると述べた。
G7閣僚は、今後数日から数週間の間に、パートナーと協力して、包括的な政治的解決策を確保し、アフガニスタンおよび地域における救命のための人道支援とサポートを可能にし、アフガニスタンおよび国際社会におけるテロによるこれ以上の犠牲を防ぐことを目指す。
アメリカが見積もっている国外退避の対象者は、バイデン大統領によると「家族を含めて合計5万人から6万5千人」とのことですから、その内何割を受け持つのか分かりませんけれども、一度や二度の空輸で終わる数ではないことが予想されます。
日本政府が自衛隊機を出す判断をするかどうかは別として、要請そのものには応えるのではないかと思いますけれども、万単位の民間人を緊急脱出させる経験はしておいてよいと思います。
というのも、半島有事、台湾有事等々が起こったときのシミュレーションにもなり得るからです。
激変する世界と、吹き荒れる武漢ウイルス禍。日本も事実上の有事下にあると考えるべきかと思います。
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