

1.オリンピックは支持率の上昇につながらなかった
ANNが8月21~22日に世論調査を行いました。それによると、菅内閣の支持率は25.8%と、先月の前回調査から3.8ポイント下がり、政権発足以来最低となり、「支持しない」は48.7%と政権発足以来、最も高くなりました。
支持しない理由で最も多かったのは「政策に期待が持てないから」が60.2%で、「政府の新型コロナ対策を評価しない」も61%に上っていること、更に、感染拡大を抑えるため、ロックダウンなど個人の行動を制限する措置が取れるよう「法律を見直す必要がある」と答えた人が67%、病院に武漢ウイルス感染患者の受け入れを強く求めるため法律を見直すかについても73%が「法律を見直す必要がある」と回答していますから、やはり政府の武漢ウイルス対策に対する不満が高まっているものと思われます。
当初菅総理が描いていたオリンピック・パラリンピックで世論が盛り上がるのを追い風に、総裁選挙が行われる前に衆院解散を行って総選挙で勝利した余勢をかって総裁選で無投票再選するというシナリオに暗雲が垂れ込めてきた形です。
自民党内からは、「オリンピックが支持率の上昇につながらなかった」と落胆の声が聞かれ、官邸関係者は「このままでは9月解散はできないのでは」と危機感を露わにしています。
更には、自民党のある中堅議員は「菅総理のもとでは選挙は勝てないという印象が根付いてきた」と声を上げ、党内若手議員を中心に、9月に総裁選挙を行った上で、衆院選に臨むべきとの意見も出始めているそうです。
2.菅以外なら誰でもいい
先日の横浜市長選では、菅総理が全面支援した小此木氏は、菅総理の地元選挙区の神奈川2区(西区・南区・港南区)でさえも全て山中氏に敗北。いわば民意は菅総理にノーを突き付けたともいえる訳です。
横浜市長選から一夜明けた23日朝、記者団から総裁選への対応を改めて問われた菅総理は「私、時期が来れば出馬させていただくというのは当然だ、という趣旨の話をさせていただいた。その考え方に変わりありません」と出馬への意欲を見せています。
一部報道では、総裁選の日程は今月26日に「9月17日告示、29日投開票」で決定される見通しとされていますけれども、現在の緊急事態宣言解除が9月12日を目途となっていることを考えると、党員投票含めたフルスペックの総裁選をすることを想定しているのかもしれません。
ただ、問題はその先の総選挙です。
既に自民党内では、菅総理を選挙の顔にして、秋の総選挙で戦えるのかという疑念が沸き起こっており、それを克服するためには菅総理が総裁選での政策論争で地力を示す以外にないとの見方も出ているようです。
これらについて、官邸筋は「強気な首相だったが、今は『菅以外なら誰でもいい』という流れに傾くことを警戒している」と漏らしています。
正直、菅総理はかなり追い込まれているといってよいでしょう。

3.総裁選に備えて全国を回っておけ
今のところ、総裁選には下村博文政調会長、高市早苗前総務相が立候補の意欲を表明していますけれども、昨秋の総裁選で敗れた岸田文雄前政調会長も出馬する方向で調整に入ったと伝えられています。
岸田氏は総裁選の日程が確定した段階で正式な出馬表明に踏み切る方針だと見られていますけれども、19日の岸田派会合では早期決断を求める意見が相次いだそうです。
岸田氏について、麻生副総理は、岸田氏をたびたび財務大臣室に呼んでは「総裁選に備えて、全国を回っておけよ」などと、叱咤激励しているという話も出ています。
けれども、麻生副総理は安倍前総理と共に前回の総裁選で菅総理を推し、また自派閥にも河野担当相という総裁候補を抱えています。それがなぜ、このような動きを見せるのか。
これについて、菅総理と二階幹事長が描いていた総裁選無投票再選のシナリオが影響しているという見方があります。
8月3日、自民党は総裁選挙管理委員会の初会合を行っているのですけれども、二階幹事長はこの日の会見で「複数の候補になり得るかどうか見通しがない。現職が再選される可能性が極めて高い状況なのは誰もが承知の通りだ」と菅総理の無投票再選を匂わせました。
二階派の閣僚経験者によると、二階幹事長は菅総理に、支持率が低くても9月に総裁選をやれば無投票再選できると持ちかけ、強行突破に動いたようなのですね。
これについて、政治評論家・有馬晴海氏は、「菅首相のコロナ失政が続いても、自民党に代わりの有力な総理総裁候補がいないのは事実。だから安倍氏と麻生氏は菅再選を支持する条件として自分たちの言うことに従わない二階幹事長の交代を要求していた。ところが、菅首相は要求を飲まないばかりか、逆に二階氏の戦略に乗った。無投票再選なら二階氏がこの先も幹事長続投になってしまう……安倍・麻生会談では、誰でもいいから総裁選に出馬させて菅首相の無投票再選を阻止することを確認したはずです。2人が高市支持に回るとは限りません。総裁選に複数の候補が出馬しさえすれば、自分たちが誰を支持するかでキングメーカーになれるし、評判の悪い菅首相はどんどん不利になっていく。それが彼らの狙いです」と分析しています。
4.総裁選はいつ行われるのか
こうした状況を受け、党内各議員も動き始めました。
ある閣僚経験者は「高市の出馬宣言で、"女性総理候補の最右翼"を自任する野田聖子も親しい議員に声をかけて推薦人集めを始めた。若手からも、河野太郎に近い議員たちが『政策論争を戦わせるべき』と主張して候補擁立の動きを見せている。選挙に弱い議員は誰が首相になれば選挙に有利になるかで選ぶから、収拾がつかなくなる」とコメントしています。
ただ既に出馬表明している、高市氏、下村政調会長について、高市氏はまず推薦人20人を集めるという高いハードルがあります。また下村氏は党三役の政調会長であり、菅総理を支える側です。
しかも、菅総理は総裁選への出馬を明言している中で、自分が出るというのは、菅総理への裏切りであり、党内論理からは許されるものではありません。筋が通らない。これは河野担当相にしても同じです。
また、河野担当相についていえば、派閥の長である麻生副総理、そして安倍前総理からの評判も今一つという報道もあります。
ある麻生派担当記者は「麻生氏は、パフォーマンスに走りがちな河野氏を評価していません。ワクチンについても、例えば、7月中旬には『9月末までに12歳以上の希望者全員分をカバーできる量を確保する』と大見得を切りながら、少し後の説明では『10月上旬までに12歳以上の8割が接種できる量を自治体に配布する』と変わった。残りの2割はどうなったのか、明確な説明はありません。さらに河野氏は、麻生氏以上に、同じ神奈川県の菅首相と近い関係。そうしたことからも、河野氏を担ぐのは早いと判断しているようです」と述べています。
また、安倍前総理も「河野さんほど、口だけのパフォーマンスのやつはいない。ミスの責任はとらないし、彼はダメだ」と辛口評価を下していると週刊誌が報じています。
これがどこまで本当かどうかは分かりませんけれども、現在、河野担当相は菅総理を支える立場である以上、出馬自体が裏切りになることには変わりありません。
仮に、下村政調会長、河野担当相が出馬を見送り、高市氏が推薦人を集められず出馬断念したとしても、自派閥で推薦人を集められる岸田氏が出れば、総裁選になります。
前出の有馬氏は「高市氏が推薦人20人の確保にメドが立てば、岸田氏ら他の候補も出馬に動くでしょう。菅総理はパラリンピック閉会後、総裁選が無投票にならないと判断した段階で解散を打つに違いありません。総選挙を乗り切ってみせるしか生き残る道がないからです」と述べています。
ただ、これには先の横浜市長選の結果が重く圧し掛かります。
このまま菅総理で総選挙に臨んだ場合、自民党が大敗する恐れもあるからです。単に議席を減らすだけでなく、自公で過半数割れとなると菅総理は責任を取って辞任することになるでしょう。
これは、五輪開催によって支持率を上げようとしたときよりも更に分の悪い賭けになるのではないかと思います。
また、一方で、総裁選を先送りするのではないかという観測もあるようです。
政治ジャーナリストの伊藤惇夫氏は、「二階氏が本当に菅氏を守ろうとするなら、8月26日がポイントになります。この日に総裁選の日程が決定しますが、『現在検討されている9月17日告示、29日投開票では、菅氏にとって厳しい』とみて、先送りするはずです。もし予定どおりに総裁選をやるのなら、二階氏は『菅氏と距離を置くことを決めた』といえると思います」と述べています。
ただ、総裁選を先送りしたところで、それで状況が良くなるとも思えません。
菅内閣の支持率は五輪開催でさえ上がっていません。あと支持率が上がるとすれば、奇跡的に武漢ウイルスが収束して見せることくらいですけれども、衆院任期満了である10月21日までに収束するかと考えるとまずあり得ないでしょう。
果たして総裁選が9月29日に行われるのか。注目ポイントだと思います。
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