

1.米共和党の武漢ウイルス起源報告書
8月2日、アメリカの共和党所属のマッコール下院外交委員会筆頭理事と共和党スタッフは武漢ウイルスの起源に関し、「武漢市の研究所から流出したことを示す多くの証拠がある」と指摘する報告書を発表しました。
マッコール氏と下院外交委員会のスタッフは、昨年9月に武漢ウイルスの起源に関する報告書を発表し、そこで武漢ウイルスは武漢ウイルス研究所(WIV)から流出した可能性があると指摘していたのですけれども、その後も調査を続けていくうちに、さらに多くの情報が明らかになったことから、新たに報告書を作ったとのことです。
今回の報告書では、アウトブレイクの原因として武漢海鮮市場ではないと完全に否定できるようになったと考えていると綴られ、武漢ウイルスが2019年9月12日以前に武漢ウイルス研究所(WIV)から漏出したことを証明する証拠が多数あると考えているとまで述べています。
2.研究所流出説の六つの証拠
今回の報告書は83ページに及ぶものですけれども、冒頭のエクゼクティブサマリには武漢ウイルス研究所流出説の証拠として次の六点を挙げています。
・2019年9月12日の真夜中に、武漢ウイルス研究所(WIV)のウイルスとサンプルデータベースが説明もなく突然削除されたこと。報告書では、武漢ウイルス流出の時期を、武漢ウイルス研究所(WIV)のウイルスとサンプルデータベースが削除された日である「2019年9月12日より前のいつか」とし、データベースには、コウモリやマウスから採取したサンプルや病原体のデータからなる22000以上のエントリがあり、「データベースには、どのような動物から採取されたか、どこで採取されたか、ウイルスの分離に成功したかどうか、採取されたウイルスの種類、他の既知のウイルスとの類似性など、各サンプルに関する重要な情報が含まれていた」と主張しています。
・2019年にPRCのトップ科学者が表明した安全性への懸念と、武漢ウイルス研究所(WIV)の異常なまでの定期メンテナンス。
・2019年10月に武漢で開催された軍事ワールドゲームに参加した選手が、武漢滞在中だけでなく、帰国直後にもCOVID-19と同様の症状で体調を崩したこと。
・2019年9月から10月にかけての武漢の衛星画像で、武漢ウイルス研究所(WIV)本部周辺の地元病院の患者数が大幅に増加し、COVID-19に類似した症状の患者が異常に多くなったこと。
・早ければ2019年後半に、人民解放軍の生物兵器専門家を武漢ウイルス研究所(WIV)のバイオセーフティ・レベル4ラボ(BSL-4)の責任者に据えた可能性があること
・中国共産党および武漢ウイルス研究所(WIV)WIVで働く、または関連する科学者が、武漢ウイルス研究所(WIV)で行われている研究の種類を隠したり、隠蔽したこと
そして、異常な定期メンテナンスについては、その中に「環境空気消毒システム」と「有害廃棄物処理システム」のメンテナンス要求があったことを指摘。2年前に設立された研究所が、操業開始後すぐにこのような大規模な改修工事を行うのは異例のことであるとした上でラボのリークを防ぐためのこれらのシステムがどのように機能しているかについての懸念を示すものであると述べています。
続いて、武漢で開催された軍事ワールドゲームについては、多くのアスリートが大会中にCOVIDに似た症状で体調を崩したと報告する一方、カナダ軍のある隊員がカナダの「フィナンシャル・ポスト」紙に「1500万人の都市が封鎖されていた」と大会の様子を語っていたと報告しています。この選手は到着して12日後に発熱、悪寒、嘔吐、不眠などの重篤な症状に見舞われたそうです。
また、2019年9月から10月にかけての武漢の衛星画像では、武漢ウイルス研究所(WIV)に最も近い6つの病院のうち5つの病院で、「COVID-19の最初の報告例が出る前の2019年9月と10月に、駐車場の車の相対的な1日の量が最も多かった……このピークは、中国の検索エンジン『Baidu』で武漢の『咳』と『下痢』の検索が増加したことと対応していた……COVID-19と似た症状のウイルスが9月と10月に武漢で流行していた」と報告しています。

3.世界を巻き込む米中対立
件の報告書は、決定的証拠というよりは、状況証拠の積み上げの色彩が濃いように思いますけれども、それでもこれだけ積み上げられてしまうと、自然発生説であるという方に無理があるように見えてしまいます。
特に2019年10月に武漢で開催された軍事ワールドゲームについて、筆者は、2020年02月21日のエントリー「武漢市政府は新型コロナウイルスの流出元を知っていた」で次のように述べました。
ここからは筆者の推測(妄想)にしか過ぎないのですけれども、昨年の9月以前に、新型コロナウイルスを持った、コウモリなどの実験動物が「武漢疾病対策予防管理センター」ないしは「武漢ウイルス研究所」から流出してしまったのではないか。当時はこんな考えは「陰謀論」であり、そう断った上でのエントリーだったのですけれども、それでも、筆者は何か引っかかるところを感じたので記事にしていました。
研究所はその事実と感染リスクを武漢市政府に連絡。ミリタリーワールドゲームズ2019のホストとなる武漢市の当局は、世界各国からやってくる選手団に新型コロナウイルスを感染させ、あろうことか死なせでもしたら大問題になると考え、前もって新型コロナウイルス感染時の演習をしておいたのではないか、ということです。
【中略】
もし昨年9月より前に、研究所から新型コロナウイルスを持った実験動物が流出し、そこから10月、11月と他の動物に感染しながら変異を繰り返し、武漢を中心に新型コロナウイルスが拡散、蔓延していったと考えると時期的に辻褄があうような気もします。
その真相が明らかになることは、ほとんどないように思いますけれども、新型コロナウイルスは自然発生ではないかもしれず、仮に自然発生だったとしても、その"自然"は研究所の中だったかもしれない可能性は頭の片隅に入れておいてもよいかもしれませんね。
武漢ウイルスの起源について、今回の報告書の通りだったとすれば、筆者のこの見立ては結果として、左程外していなかったように思います。
報告書は「研究所で研究者が誤って感染し、ウイルスが外部に広がった可能性には、完全な説得力がある……一連の証拠や中国当局の隠匿は、武漢研究所がこの大流行の起源であることを強く示唆している」と結論づけ、今後の対応として、ウイルス発生の隠蔽を図った中国の意向に沿う形で「市場起源説」を唱えたアメリカの科学者の議会への召喚や、ウイルスの操作や流出に関与したとみられる中国科学院やその関連団体に制裁を科すよう述べています。
バイデン大統領は5月に情報機関に対して、ウイルスの起源を探る活動を加速させ、90日以内に報告するよう命じています。その期日は8月24日となるのですけれども、今回共和党から出た報告書はそれに対する強烈な牽制にもなっているように思います。
というのも、両報告書の結果が同じであれば、中国への制裁を含む何等かのアクションを迫られますし、異なれば、なぜ違ったのかと更に調査を求められることになるであろうからです。
更に言えば、先日、7月26日に行われた米中天津会談で、中国はアメリカに対して戦狼外交をやってみせましたから、バイデン政権としても中国に妥協できる状況にはありません。
こと武漢ウイルスに関しては、米中対立のみならず、被害を受けた全ての国を巻き込んだ大きな対立になるかもしれませんね。
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