双減政策と三座大山

今日はこの話題です。
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1.双減政策


7月24日、中国政府は、教育改革政策「双減」政策を打ち出し、教育・学習支援サービス産業の非営利化を決定しました。

「双減」とは、一言で言えば「中国版ゆとり教育」のことで、 具体的には宿題と学習塾の2つを減らす、という政策です。

中国共産党と国務院が発表したこの政策は「義務教育段階の学生の宿題負担と課外授業負担のさらなる軽減に関する意見」という名称で公開され、全30条あります。

その主な内容(抜粋)は次の通りです。
1.指針となるイデオロギー
「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想」の指導を堅持

2.動作原理
生徒を中心とした対応を堅持し、教育法規に従い、生徒の心身の健全な成長を重視し、生徒の休息権を保護し、学校の教育と授業の全体的な質を向上させ、社会の関心と期待に積極的に応え、保護者の負担を軽減する。

3.政策の目標
学生の宿題や校外学習の過度な負担、家庭の教育費とそれに伴う親のエネルギー負担は、1年以内に効果的に軽減され、3年以内には大きな成果が得られ、教育に対する人々の満足度も大幅に向上する。

4.健全な宿題管理体制
難易度が国家基準を超えないようにする。 学校での宿題を公表し、品質監督を強化する体制を整えること。 宿題を保護者に課したり、偽装したりすることや、保護者に宿題のチェックや添削を依頼することは厳禁。

5.宿題の総量を分類して明確にする。
学校は、小学校1、2年生では文章による宿題を出さない。小学校3~6年生では文章による宿題の平均所要時間は60分以内、中学校では文章による宿題の平均所要時間は90分以内。

6.宿題デザインの質の向上
重層的で柔軟性のある個人的な宿題を奨励し、反復的で懲罰的な宿題を排除する。

7.宿題の指導を強化。
教師は、小学生が基本的な文章の宿題を学校で完成させ、中学生が文章の宿題のほとんどを学校で完成させるように指導すること。学生は、自分の宿題をマークして修正することを要求されるべきではない。

8.放課後の時間を科学的に利用。
学校や保護者は、生徒が放課後に残った書き物の宿題をこなし、必要な授業を受け、無理のない範囲で家事をし、適度な運動をし、読書や文学活動をするように指導する。努力しても筆記試験を終えることができない個々の学生は、時間通りに就寝すること。

9.アフタースクールのサービスが利用できるようにする。
学校は、校内の生徒の多様な学習ニーズを満たすために、生徒が自主的に放課後のサービスに参加するように指導しています。
学校は特別なニーズのある生徒のために延長ケアサービスを提供すること

10.アフタースクールサービスの質の向上
学校は、放課後のサービスをより魅力的なものにするための実施計画を立てるべきである。放課後のサービスタイムは、新しいレッスンのために使われるべきではありません。

11.アフタースクールサービスのチャネル拡大
教育部門は、地域の優秀な教師を対象とした放課後サービスを、教師の力量が弱い学校に提供することができます。

12.無料オンライン学習サービスの強化・改善
教育部門は、豊富で質の高いオンライン教育・指導リソースを収集・開発し、学生に無料で提供し、教育リソースのバランスのとれた発展と教育の公平性を促進しなければならない。 すべての地方自治体は、学生が無料のオンライン品質教育リソースを利用できるよう努力を強化する必要がある。

13.機関の厳格な承認を主張する。
すべての地方自治体は、義務教育の生徒を対象とした教科別の学校外教育機関を新たに認可せず、既存の教科別教育機関は非営利機関として統一・登録される。オンラインの科目別教育機関の原簿については、承認制に変更する。
科目訓練機関は資金調達のために上場してはならず、資本化は厳しく禁止される。
上場企業は、株式市場での資金調達によって科目訓練機関に投資したり、科目訓練機関の資産を購入してはならない。
外国人投資家は、M&A、委託事業、フランチャイズチェーン、変動持分事業体の利用などによって科目訓練機関を保有したり参加したりしてはならない。

14.トレーニングサービスの動作を標準化する。
研修内容のファイリングと監督のためのシステムを確立し、学校外の研修機関における研修教材の管理方法を開発・導入する。 基準を超えて事前に研修を行うこと、科目を持たない研修機関による科目別研修を行うこと、国外で教育コースを提供することは厳禁である。 未成年者保護法の関連規定は厳格に施行されており、キャンパス外の研修機関では、国民の祝日や休息日、夏休みや冬休みの期間を利用して教科別の研修を行うことは認められていない。 研修機関は、学校の教師を高給で引き抜いてはならない。

15.恒久的な運用に対する規制を強化する。
研修機関への過剰な資本流入を厳しく規制すること。オンライントレーニングでは、生徒の視力保護に重点を置き、1回のレッスンは30分以内、レッスンの間隔は10分以内、トレーニングの終了時間は21時までとする。

16.義務教育の質とバランスのとれた発展を促進する。
集団登校、学区統治、都市と農村の学校コミュニティの建設を積極的に推進し、学校教育の活力を十分に喚起し、学校教育の全体的な水準を向上させ、都市と農村、地域と学校の間の教育水準の格差縮小を加速させる。

17.クラスルームティーチングの質の向上
学校が勝手に授業時間を増減したり、難易度を上げたり、進度を速めたりすることは許されず、試験のプレッシャーを軽減し、試験方法を改善し、試験のための早期休講、一般試験の不正、過剰な試験問題、試験の順位付けなどの行為を慎み、試験結果はグレード制で提示され、スコアのみの傾向は断固として克服される。

18.高校入学者選抜の改革を深める。
中学の学力レベル試験の結果をもとに、総合的な品質評価と組み合わせて高校の入試モデルを改善し、科目ごとの特性に応じて試験や結果の見せ方を改善することを主な目的としています。地域の中学校に割り当てられる質の高い一般高校の入学目標の割合を徐々に増やし、一般高校の入学順序を規制し、不規則な入学や悪質な競争を排除する。

19.品質評価システムの導入
地方の党委員会や各レベルの政府は、正しい業績観を確立し、昇進目標の発行や昇進率に基づく学校や教師の一方的な評価を厳禁すべきである。生徒の放課後サービスへの参加、学校外研修、研修費用の削減を評価の重要な要素とすべきである。

20.学校での放課後サービスの条件を保証する。
生徒数の規模や小中学校の人員配置基準に応じて、すべての地方自治体は認可された設置場所を調整し、教師を十分に配置しなければならない。 放課後サービスに参加している教師のパフォーマンスは、肩書きの評価、表彰・報奨、パフォーマンスペイの配分において、重要な参考資料とすべきである。

21.家庭・学校・社会の連携の仕組みの改善
家庭教育の責任をさらに明確にし、家庭と学校のコミュニケーションを緊密にし、協力の方法を革新し、共同教育コミュニティの構築を促進する。。

22.トレーニング広告をうまくコントロールしてください。
初等・中等学校および幼稚園では、商業的な広告活動を行ってはならず、初等・中等学校および幼稚園の教材、教具、練習帳、文房具、教具、学校の制服、学校のバスを利用して広告を掲載したり、偽装したりしてはならない。

23.パイロットワークの条件を明確にする。
包括的なガバナンス作業に加えて、北京、上海、瀋陽、広州、成都、鄭州、常熟、威海、南通が国家的なパイロットとして認定されており、他の省も少なくとも1つの都市を選んでパイロットプロジェクトを実施しており、その内容は第24条、第25条、第26条に記載されている。

24.教科別の学校外教育を断固として削減する。
既存の科目別研修機関は再審査・再登録され、過密化の問題に対処するために徐々に大幅に縮小される。資格を持たない機関、管理が混乱している機関、機会を利用して利益を得ている機関、虚偽の宣伝を行っている機関、利益のために学校と結託している機関、その他の深刻な問題を抱えている機関は、真剣に調査され、法律に基づいて対処される。

25.校内外の資源を合理的に利用する。
学校は、放課後に生徒が興味を持つサービス活動を提供し、生徒が自らの選択で参加できるようにすることが推奨される。

26.研修費用の監督強化
学校外教育の公益性を堅持し、その重要な生活特性を十分に考慮し、義務教育段階の教科別学校外教育の料金を政府の誘導価格の管理に含め、科学的かつ合理的に価格設定方法を決定し、料金基準を明確にし、過剰な料金や過度の利益追求行為を断固として抑制する。

27.包括的かつ体系的な展開を行う。
各省(自治区、中央政府直轄市)の党委員会と政府は、「双减」作業を主要な生活プロジェクトとして取り上げ、重要な議題にし、省(自治区、中央政府直轄市)の党委員会の教育作業の指導グループの重要課題に含めるべきである。 学校の党組織は、教師の思想活動に良い仕事をし、教師の熱意と創造性を十分に発揮しなければならない。

28.部門の業務責任の明確化
教育部門は関連部門と連携し、学校外教育機関の日常的な監督を強化し、学校が「双减」をうまく行うように指導する。
宣伝部門とインターネット情報部門は世論の宣伝と指導を強化し、インターネット情報部門は教育部門、工業部門、情報技術部門と連携し、オンラインの学校外教育の監督をうまく行うこと。

29.共同でスペシャル・トリートメント・アクションを行う。
「双减」作業のための特別な調整メカニズムを確立し、特別なガバナンスアクションを組織することに注力する。 教育省は、調整メカニズムのための特別な作業組織を設置し、作業の調整とローカル作業の指導を強化する。

30.監督・検査、広報指導の強化
「双减」作業の実施とその実際の結果は、監督・監視、国民の利益を無視した特別な是正、政府の教育的義務の遂行に対する監督・評価の重要な部分を占める。 説明責任のメカニズムを確立し、場所、部門、学校、および所定の責任と対策を実施しなかった責任者は、法律と規則に従って真剣に責任を負うべきである。
教育サービスを一律「低い方」へ平均化し、勉強以外の課外活動を教師生徒共に重視する内容になっています。

流石、共産主義といったところでしょうか。


2.孟母三遷


6月30日のエントリー「寝そべり革命」でも触れましたけれども、中国ではとにかく教育費の負担が大きいと言われています。

なぜそれほど教育に金を掛けるのかというと、ぶっちゃけていえば、大学を卒業した後の「受け皿」が少ないからです。

中小企業は苦労が多く、誰もが行きたいと思う「高収入が得られる有名企業」となれば、当然その数は絞られます。これを突破するには、金と人脈に物を言わせるしかないのですけれども、その人脈さえも、いい大学に入れなければ、そのチャンスすらないのが実態です。

故に中国では「3歳から受験競争が始まる」と言われています。

中国の都市部では、多くの子どもが学外の時間のほとんどを学習塾や習い事に費やします。

義務教育期間の生徒を含む学習塾の市場規模は8000億元(13兆1200億円、1元=約16.4円換算)、参加する生徒数は延べ1億3700万人といわれています。中国教育部によれば、2020年中国で義務教育を行う学校の数は21万校を超え、在校する生徒数は1億5600万人に上ります。

中国の義務教育は日本と同じく中学校までなのですけれども、多くの高校では「初中部(中学校)」と「高中部(高校)」の両方を設置する、いわば中高一貫校形式になっています。ただし、国立高校は無く、公立と私立があります。

その公立高校も国の教育部に直属せず、すべて所在地の地方教育管理部門(省市教育庁、区県教育局)に所属しています。

中国の大学入試は、毎年6月7~9日の3日間に実施される全国大学統一入学試験によって行われます。試験科目は省によって若干異なるものの、基本的には国語、数学、外国語が必須科目で、総合理系(物理、化学、生物)あるいは総合文系(政治、歴史、地理)の入試枠で受験します。

中国では、大学や専攻ごとに筆記試験や面接は行われず、合否はこの統一入学試験の結果のみで判断される一発勝負です。

ただし、美術や音楽などの芸術、及び体育実技に優れた受験生に、学業成績の合格ラインを下げるという特別入試枠が設けられています。

中国でも、日本と同様、日本の小学校と中学校にあたる9年間の義務教育期間があるのですけれども、自宅から近い学校に入学するという学区制が敷かれています。けれども、中国の学校は「教員の定期異動」はなく、公立学校といっても教師の質、教育内容、カリキュラムの質が学校によって全然違うのだそうです。

また、街の中心部や昔からの市街地にある学校の生徒は元々の素養が高い事もあり、どんどん「良い学校」になっていきます。

このように中国では同じ公立学校でもレベルがバラバラであるのですけれども、少しでも「良い学校」に子供を入れたいと思っても、学区制の壁に阻まれてしまいます。それでも子供を「良い学校」に入れたいと望む親は、自らの通勤条件や経済状況を省みず「良い学校」のある学区の住宅(学区房)を購入するのだそうです。まさに孟母三遷を地で行く話です。

中国では、有名公立校がある学区域の住宅が異常な値上がりを示す事例が数多く報告されているのですけれども、その理由は少しでも子供に良い教育を受けさせたいとする親が競って有名校の学区の住宅を買うからだと言われています。

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3.三座大山


では、なぜ、今になって習近平政権は、この教育格差の縮小にメスを入れたのか。

その理由の一つとして、人口減少対策だという見方があります。

既に中国は、2016年にすべての夫婦に2人の子供を認める「二人っ子政策」にシフトしているのですけれども、人口減少は止まっていません。

そこで中央政府は、学外での塾通いを減らし、「学校内で放課後の活動」に置き換えれば、学習塾における過熱が収まり、家庭の負担を少なくすることができれば、進学に有利なのは、有名公立学校がある学区に住み、学習塾通いに大枚をはたける富裕層の子ども達という現状を改善できると見ているようです。そうすることで、若い世代の出産意欲も高まり、人口問題も解決するだろうという狙いがあるのだとも言われています。

更に、習近平政権は"英語教育とセット"になって中国に入ってこようとする「西洋の価値観」も断ち切る考えもあるのではないかとも囁かれています。

先に紹介した「義務教育における生徒の宿題負担と学外学習の負担の軽減についての意見」の第13条をみれば、学習塾の上場を禁じ、外資の教育産業への介入を制限するとしています。これはもう半ば教育産業の国有化といってよいのではないかと思います。

今回の発表を受け、週明けの7月26日、ニューヨーク市場に上場していた好未来、新東方など中国の民間教育・オンライン学習支援企業が一時的に26%以上暴落しました。もっとも、この政策の発表が事前に予想されていた23日には、「高途」「好未来」「新東方」といった中国大手教育・学習支援企業のアメリカ預託証券は63%、70%、54%と暴落していました。

今回の規制について、プロスペクト・アベニュー・キャピタルを創業した廖明氏は、「これは中国の政策優先度における分水嶺的転換だ……中国政府は最も強い社会的不満を生み出している産業を狙っている」とし、現在の焦点は「三座大山(3つの大きな山)」と呼ばれ、過度に負担がかかっている教育と医療、不動産の支出に移っていると指摘しています。

これまで国際的投資家にとって、中国で稼ぐには共産党の優先事項に歩調を合わせる必要があるというのが従来のルールだったのですけれども、もはやその共通点さえ、見いだすことが難しくなっている可能性があるという認識が彼らの間で芽生えつつあるという声もあります。

こんな強硬政策を続ければ、アメリカのバイデン大統領がデカップリングなどど叫ばずとも、国際資本自ら中国市場から逃げ出すことを誘発しかねません。

「双減」政策を打ち出した習近平政権ですけれども、果たして減るのが宿題と学習塾の二つだけで済むのかどうか。要注目です。


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