

1.タリバンが中国への空軍基地譲渡を計画
9月7日、中国外交部の汪文斌報道官は定例記者会見で、記者から「アフガニスタンのタリバンがバグラム空軍基地の使用権を中国に譲渡し、中国が活動上の必要に使用できるようにする計画であり、現在両国間で話し合いが行われているとのインドメディアの報道があるが、これは事実か?」と問われ、「私が誰にでも言えることは、それは純粋に虚偽の情報であるということだ」と否定しました。
これは前日6日に、インドメディア「パイオニア」が「タリバンは、アメリカ軍が使用していたバグラム空軍基地は中国に、カンダハル基地はパキスタンに渡す可能性がある」と伝えたことを受けたものです。
バグラム空軍基地は、首都カブールから北に約45キロ離れた位置にあり、この20年間にわたってアフガニスタン駐留米軍の最大の基地でした。1979年からアフガニスタンとの10年戦争を繰り広げた旧ソ連軍もバグラム空軍基地を根拠地としていました。
旧ソ連のアフガニスタン撤退後は北部同盟とターリバーンがこのバグラム空軍基地を奪い合いました。タリバンは大砲や迫撃砲の射程にバグラム空軍基地を収め続け、北部同盟はこの基地からソ連製のロケット弾FROG-7で首都カブールを攻撃しました。要するに軍事的超重要拠点な訳です。
中国がバグラム空軍基地を使用することについて、アメリカの時事解説誌「USニューズ&ワールド・レポート」は、中国軍当局は今後の「一帯一路」事業に沿った海外投資計画と関連して、バグラム空軍基地に労働者や兵力、支援人員などを派遣する問題について、妥当性の検討作業を行っていると報じています。
「USニューズ&ワールド・レポート」は、アメリカのシンクタンク「スティムソンセンター」の中国プログラムディレクターであるユン・サン氏のコメントを引用し「バグラム基地進出を通じて中国は、域内への影響力拡大のための拠点を手にするだけでなく、国際社会においてアメリカの地位に決定的な打撃を与えうる……過去の経験に照らすと、中国はアメリカがバグラム基地に残していったものを喜んで手に入れようとするだろう」と述べています。
しかしながら、「中国のバグラム空軍基地進出が迫っているわけではなく、現実のものとなっても最大で2年あまりかかるだろう……また基地を丸ごと掌握するというよりは、タリバン政権の招請に沿って必要な人員や装備などを送るかたちを取るだろう」と伝えています。
2.ニッキー・ヘイリー
9月1日、アメリカのニッキー・ヘイリー元国連大使は、FOXニュースとのインタビューで「中国を監視する必要がある。なぜなら中国がバグラム空軍基地に乗り込んでくると思うからだ。中国はバグラム空軍基地を狙っていると思う。また、アフガニスタンでも動きがあり、パキスタンを利用してインドに対抗する力をつけようとしている。だから、私たちは多くの問題を抱えているのだ」と語っています。
そして、ヘイリー元国連大使は、バイデン大統領がすべきことは、同盟国を強化し、それらの関係を強化し、軍を近代化し、我々に向かってくるサイバー犯罪やテロリストの犯罪に備えていることを確認することだとし、台湾、ウクライナ、イスラエル、インド、オーストラリア、日本など、すべての同盟国との連携を即座に開始し、我々が彼らを支援し、彼らを必要としていることを再確認することだ」と主張しました。
ヘイリー元国連大使は、ジハード主義者が道徳的勝利を収めたことで、世界中で大規模な勧誘活動が行われることになると述べ、バイデン大統領がアフガニスタンから米軍を撤退させたことを非難。バイデン大統領は、すべての軍人や軍人家族の信頼と信用を失い、同盟国の信頼も失ってしまったと述べ、アフガニスタンから撤退したからといって、この戦争が終わったわけではないと強調しています。
3.アフガンの泥沼
アメリカ軍のアフガニスタン撤退は、アメリカのこの地域への影響力を低下させることになりました。
今年初めのアメリカ議会で、CIAのバーンズ長官が、現在はアルカイダやISILは米国本土を攻撃する力はないものの、アメリカ軍が撤退すると、情報を収集し、必要な対応策をとるのが難しくなるのは事実であると警告しています。
その代わりに中国がアフガニスタンへの影響力を強めてくるだろうと危惧されているのは先に述べた通りです。
中国はこれまでアメリカ軍の存在がアフガニスタンにもたらしていた治安の安定にただ乗りして、着々と投資機会を探り、タリバンとの関係を築いてきました。実際、石油や天然ガス開発に投資し、アメリカ軍撤退後は経済支援の代償にリチウムやコバルトなど産業資源の開拓権利を狙っていると見られています。
更に、中央アジアから中東、欧州を結ぶ要所であるアフガニスタンは、中国の「一帯一路構想」の要でもあるとされており、現実に中国・パキスタン経済回路とカブールをつなぐ道路建設計画があります。
もし、これら資源開発やインフラ整備が実現すれば中国の「一帯一路構想」は大きく進むことになります。
もっとも、アメリカ軍のアフガニスタン撤退は、単なるポーズだという見方もあります。
国際政治経済学者の浜田和幸氏は、アメリカのアフガニスタン撤退は、国内世論の批判の声を受け、"撤退するフリ"をしただけだと述べています。
その証拠として浜田氏は、アメリカはアフガニスタンを手放すことは出来ないとし、CIAがパキスタンと水面下で話を進め、アメリカ軍が撤退した後、新たな活動拠点をパキスタンとアフガニスタンの国境沿いに設置すると内々に合意したというのですね。
これが本当であれば、やはりアメリカが「中国にアフガニスタンを押し付けた」説が俄然信憑性を帯びてきます。
浜田氏は、中国をアフガニスタンの泥沼に引きずりこむことで、中国を崩壊させるという長期シナリオを練っているのだと述べています。
4.躓いたタリバン政権
ただ、アフガニスタンが泥沼でいるためには、テロの温床とは言わないまでも、不安定化していてくれなくてはなりません。それを図る目安の一つにタリバンの統治がどうなるかという点があるかと思います。
9月7日、タリバンの報道担当のムジャヒド報道官はタリバンによる新しい統治の枠組みと、暫定政権の顔ぶれを発表しました。
タリバンの3代目指導者ハイバトゥラ・アクンザダ幹部を最高権威とし、2001年に崩壊した旧タリバン政権で副首相を務めたアフンド師が首相代行に就任。アメリカとの交渉役を務めてきたバラダル師が第1副首相、中国との連絡役を務めてきたハナフィー師が第2副首相に就き、旧政権で情報文化相を務めたムタキ師が外相に就任すると発表しました。
内相には、アメリカがテロ組織に指定している武装勢力「ハッカニ・ネットワーク」創設者の息子シラジュディン・ハッカニ師、国防相には故オマル師の息子ヤクーブ師が就くとしています。
発表された暫定政権の閣僚らは33人。いずれもタリバンメンバーで、崩壊した旧アフガニスタン政権の有力者や女性は含まれていません。
タリバンは国際社会の批判をかわすため、反対勢力も含めた「包括的な政権」を樹立すると約束していたのですけれども、発表された暫定政権ではタリバンが権力をほぼ独占。国際社会がタリバン主導の政府を承認するかは分かりません。
ただ、タリバンが第1副首相と第2副首相にそれぞれ米中の交渉・連絡役を務めていた人物を当てたところをみれば、タリバン暫定政権がどちらを向いた政権なのか分かるというものです。
ところがその暫定政権も第一歩を踏み出す前から躓いています。
というのも、公務員の大半が欠勤したり、退職したりしているからです。
タリバンが暫定政権を始動させた初日の8日、メディアを管轄し、文化財の保護を担ってきた情報・文化省では職員約850人のうち20人ほどしか出勤せず、女性職員は1人も来なかったのだそうです。
アメリカではあの惨めなアフガニスタン撤退を受けて、この20年は何だったのかという声も上がっているそうですけれども、その20年の民主体制の下で育った若手職員は将来を悲観し、タリバンの手足になることを拒否することを選んだようです。
まぁ、タリバンのことですから、職員の家を一つ一つ回って、無理やり登庁させるなんてこともやるかもしれませんけれども、そうすれば増々国際社会から孤立してしまうでしょう。少なくとも、西側諸国からタリバン政権を承認してもらうことは難しくなります。
20年といえば、ほぼ一世代です。それだけの期間、アフガニスタンに民主の風を吹かせて見せたのです。これを払拭するには、もう20年、あるいはそれ以上必要になるかもしれません。それは同時にイスラム原理主義を掲げるタリバンはそれだけ長期に渡って政権を維持しなければならないことを意味します。
そう考えると、確かにCIAが民主化運動を扇動するなど、まだまだアフガニスタンをかき回す余地は残っているようにも思えてきます。
果たして中国がアフガニスタンの泥沼に引きずり込まれてしまうのか。中長期で見ていく必要があるかもしれませんね。
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