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1.TPPへの加入を正式申請した中国
9月16日、中国政府はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加入を正式に申請したと発表しました。
この日、中国の王文涛商務相がTPPへの加入を正式に申請するための書面を、協定の取りまとめ役のニュージーランドの担当相に提出したと発表しました。
TPPには日本をはじめ11ヶ国が参加していて、2月にイギリスが加入を申請しています。
中国政府のTPP加入申請について、日本政府関係者は「協定の取りまとめ役のニュージーランドを通じて、事実関係を確認中だ」と述べています。
もっとも、ニュージーランド政府は、JNNの取材に対し、中国から北京にあるニュージーランド大使館に書類申請があり、中国の商務相からニュージーランドの担当相に電話で確認があったと述べ、今後、中国のTPP加盟に向けた手続きを開始するかどうか、議長国である日本を含め、加盟国全体で判断していくとしています。
2.新規に加入できるような状態ですかね
中国のTPP加入判断については、日本も慎重に見極める考えで、そもそも無理ではないかという見方もあります。
9月17日、麻生太郎財務相は閣議後記者会見で「新規に加入できるような状態ですかね、今の中国は? TPPの入会の項目をよく読んだら分かるけど、国有企業のルールの話とか、えらく細かく書いてある……受け入れる側の11ヶ国から見てこのルール通りにやる? ほんと?」と疑問を呈しています。
また、TPPを担当する西村経済再生担当大臣はこれまで中国が、TPPの高いレベルのルールや市場アクセスを満たす決意があるのか見極めなければならないという考えを示していますし、別の日本の政府関係者は「TPPの加盟には日本を含む締約国の合意が必要で今後、議論することになる。ただ、ハードルは高い。中国は国有企業の優遇措置をとっているほか、国境を越えたデータの自由な移転が確保されておらず、TPPが求める高い基準をクリアできるか見極めていく必要がある」とコメントしています。
実際、複数の日本の通商関係者は、中国がTPPに加盟するのはかなり難しいとの見方を示していて、「TPP水準を守らないなら加盟させない」と述べています。
3.中国のTPP加盟に於ける課題
ご存じのとおり、TPPは多国間の大型連携協定の1つで、関税だけでなく、サービスや投資の自由化を進めるもので、データを扱う電子商取引や知的財産などの分野でもルールを定めて貿易の活性化をめざしています。
中国のTPP加入に当たって、早くも問題になりそうな事がいくつか指摘されています。
一点目はデータを巡るルールです。TPPはデータ流通の透明性や公平性を確保する原則を定めています。これは既存の多くの自由貿易協定(FTA)が盛り込めなかったもので、専門家の間では「TPPスタンダード」と呼ばれています。例えば、ある国が外資企業に対しサーバーを自国内に設置するのを義務付けることや、ソフトウエアの設計図にあたる「ソースコード」の開示要求を禁止しています。
実際、日中韓やASEANなど15ヶ国が参加し、2020年11月に署名したRCEP(地域的な包括的経済連携)協定では、TPP水準のデータのルールはつくれませんでした。妥結を急ぎ、厳しい規制に慎重姿勢を示す中国に配慮したとも言われています。
中国は、企業や個人による国境を越えた自由なデータの流通には否定的です。
国際経済法を研究する上智大の川瀬剛志教授は、データ安全法などで統制を強化する中国は「RCEPレベルが限界だ」とと指摘しています。
二点目は、強制労働の撤廃や、団体交渉権の承認など、労働に関するルールです。ウイグル族への人権侵害が国際世論の反発を招いていることは広く知られています。加盟交渉でこれが問題視されることは間違いないでしょう。
更に、国有企業への補助金や政府調達の手法など、中国国内の制度改革が必要なテーマもあります。
TPPは適正な競争を行うため、国有企業を補助金などで優遇することを禁じ、政府調達でも国内外企業の差別を原則的に無くすよう求めています。これまで中国は安全保障を理由に外資系の排除を進めてきましたし、逆に国有企業の増強を続けてきました。このまま続けるのなら、交渉は難航するでしょうね。
4.なぜTPPに加入したいのか
では、なぜ中国は、それほどハードルが高いTPPの加入を申請したのか。
これについて前述の上智大・川瀬教授は「国際的なルール形成の場で、より存在感や発言力を強めていこうとしている」と分析しています。
国際的な通商などのルールづくりに積極的に参画して影響力を発揮し、自国の政治や経済、産業に有利な仕組みを広げる狙いがあるというのですね。
また、TPPへの復帰に消極的なアメリカに対し、先に加入することで、もしアメリカがTPP加入を求めたときの交渉カードにしようとしているのではないか、とかRCEPも含めTPPにより関与することで地域貿易の主導権を強めていこうとしているのではないかといった指摘もあります。
TPPは域内の人口が約5.1億人 、 国内総生産(GDP)が約11.2兆ドル(約1200兆円)と、RCEPや日欧経済連携協定(EPA)などと並ぶ世界有数の大型貿易協定です。
中国はここに手を入れてきたわけです。
5.ルールを捻じ曲げるいつものやり方
このようにTPPのルールを守れるのか疑われている中国ですけれども、あの国のことですから、そのルールそのものを捻じ曲げてくることも考えられます。
9月16日、世界銀行はビジネス環境の国別ランキングを示し注目度の高い年次報告書「ビジネス環境の現状(Doing Business)」の発刊を取りやめると発表しました。
その理由として、世界銀行は声明で内部監査と外部調査で「元理事や現・元職員の行動に倫理的問題」が指摘されたため今回の決定に至ったと発表しました。
その倫理的問題とは何かというと、2017年発行の報告書で、当時のゲオルギエワ最高経営責任者(CEO)とジム・ヨン・キム世界銀行総裁が、中国のランクを引き上げるよう職員に「不当な圧力」をかけていたことが外部調査で判明したというのですね。
この結果、実際の報告書では、ランキングが本来の85位から、前年並みの78位に不正に引き上げられたということです
調査は世銀倫理委員会の委託で法律事務所ウィルマーヘイルが実施。報告書では、当時のキム総裁の周辺から中国のスコアを上げるために報告書の方法を変更するよう「直接的および間接的な圧力」があり、これはキム氏の指示によるものだった可能性が高いと指摘しています。
また、ゲオルギエワ氏らからも、中国のデータに具体的な変更を加えてランキングを上げるよう圧力が掛かったということです。
その理由として報告書は、世界銀行が各国に出資金の増額を求めていた時期に、有力な拠出国である中国に配慮した可能性を指摘しています。
これに対し、ゲオルギエワ氏は、調査結果と解釈に根本的に同意できないと反論し、IMF理事会に説明を行ったことを明らかにする一方、キム氏は沈黙しています。
このように、中国は国際機関に圧力を掛けて自分に都合のよいように結果を捻じ曲げてきます。
これは、WHOによる武漢ウイルスの起源調査での中国の態度をみれば明らかです。
WHO調査団のリーダーを務めたデンマークのピーター・ベン・エンバレク博士は、8月12日放送のデンマークのドキュメンタリー番組「ザ・ウイルス・ミステリー」の中で、起源報告書の作成について「最初、彼ら(中国人研究者たち)は、報告書に研究所について一切入れたがらなかった。我々は、入れたいと主張した。ウイルスの起源に関する問題の一部だからだ」と述べ、議論の末、中国人研究者たちは「研究所流出説」についてさらなる具体調査をすることを報告書でレコメンドしないという条件で、報告書の中で「研究所流出説」について論じてもいいと折れたと告白しています。
それを考えると、中国がいくらTPPのルールを守れる筈がないように見えたとしても、油断してはならないと思います。
もっとも、TPP加盟国オーストラリアのテハン貿易相は9月17日の声明で、2国間で「解決すべき重要な問題がある」と述べ、中国が制裁関税を解かない限り、交渉入りに応じられないとの立場を示唆していますし、また、今回の世界銀行の声明が9月16日に発表されたことも、中国のTPP加入申請に対する牽制だと見えなくもありません。
中国のTPP加入がどうなるかは勿論のこと、その裏で如何なる工作を仕掛けてくるのか。そちらにも目を配らせておく必要があるのではないかと思いますね。
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