

1.中国恒大集団不安
中国・恒大不安が世界中に波及し始めています。
週明け20日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均が急落。前週末比614.41ドル安の3万3970.47ドルで取引を終えました。下落したのは3営業日連続です。
同じく、20日の欧州株式相場はほぼ全面安の展開。ドイツの主要40銘柄でつくる株価指数DAXは一時3%下げ、取引時間中としては5月19日以来ほぼ4ヶ月ぶりの安値水準となりました。
欧州株は現地時間の午後にかけて一段安となり、主要国の株価指数は前週末比で2~3%程度下げて推移。フランスのCAC40、英FTSE100種総合株価指数はそれぞれ7月半ば以来、約2ヶ月ぶりの安値水準となり、金融や機械、自動車など幅広い銘柄が売られています。
また、21日の東京株式市場でも日経平均株価は大幅反落し、前週末比660円34銭安の2万9839円71銭で取引を終えています。
これは、中国企業である中国恒大集団の経営悪化への懸念が強まり、運用リスク回避のための売りが膨らんだためです。
中国恒大集団は、過剰債務に陥っており、発行した社債の利払い日が迫っていることから、資金繰りに行き詰まるのではないかという不安が高まっており、下請け企業や取引銀行に経営不安が広がる恐れもあるとされています。
中国恒大株が上場する香港市場では、この日ハンセン指数が年初来安値を更新し、恒大集団が一時2割安と急落しました。
これを切っ掛けに投資家心理が悪化し、世界に波及したと見られています。
2.格下げされる中国恒大集団
中国恒大集団とは、中国最大級の不動産開発大手で、280以上の都市で事業を展開し、ここ数十年で不動産開発事業で急成長してきた民間企業です。
事業の中核は不動産業ですけれども、近年は多角化を進めていて、ミネラルウオーターや食品販売や、観光業、インターネット関連サービス、保険、ヘルスケアにも投資。子ども向けのテーマパークも建設しています。
更に、2019年には電気自動車開発を手掛け、「恒大新能源汽車集団(Evergrande NEV)」を設立しました。もっとも、今のところ、市場に投入されている車はありません。
中国恒大集団は、ここ数年、中国国内の不動産バブルを追い風に買収を積極的に行ってきたのですけれども、今月に入ってから、負債総額が1兆9700億元(約33兆5000億円)に膨れ上がっていることを公表し、「デフォルト(債務不履行)に陥るリスク」があると警告しました。
9月7日、格付会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、中国恒大集団の格付けを「Caa1」から、「デフォルトに陥っている可能性、あるいはそれに非常に近い状態」を示唆する「Ca」へと引き下げ。中国恒大集団の流動性およびデフォルトリスクは「増大」していると指摘し、同じく格付会社のフィッチ・レーティングスも格付けを「CCC+」から、「CC」に引き下げ、デフォルトなどの可能性があることを示唆しました。
中国恒大集団の株価は、今年になって約80%下落。請負業者やサプライヤーからは支払いが滞っているとの苦情が聞かれ、また債権者からも返済を求める声が上がってます。
9月13日、中国恒大集団は経営破綻は回避できると主張したのですけれども、翌14日、「否定的な報道が続いている」ことから今月も不動産販売に悪影響が出ているとして、キャッシュフローと流動性が大きく圧迫されかねないとの考えを示したこともあり、深センの本社には、多数の投資家が抗議に押し掛ける事態となりました。
3.不動産で返済
9月18日、中国恒大集団は満期を過ぎた資産運用商品(理財商品)について、現金に代わり不動産資産の大幅値引きという形で返済する手続きを開始しました。
投資家は住宅物件が28%、オフィスが46%、駐車スペースは52%のディスカウント価格で不動産投資が可能になり、既に購入した住宅の支払いについて割引を受けることも出来るようです。
ブルームバーグによると、中国恒大の多くの社員を含む7万人余りが理財商品を購入しており、現金で返済を望む場合、四半期ごとに金利と元本の10%の支払いを受ける選択も可能とされています。
中国恒大集団と投資家は、約1300億元(約2兆2000億円)の返済に関して合意したと言われていますけれども、キャッシュではなく、不動産資産での返済になっている時点でキャッシュがないことが丸わかりです。
4.三道紅線
中国はこの数年、自国の不動産バブルに対する圧縮政策を行ってきました。
にも拘わらず、一向に下がらない不動産価格に業を煮やして、2020年に不動産融資制限政策「三道紅線」という政策を打ち出しました。
これはその名と通り3本のレッドラインを意味し、その3本とは次の通りです。
(1)資産負債比率70%超この条件を満たした不動産企業に対しては銀行からの融資を制限するというものです。
(2)純負債資本倍率100%超
(3)手元資金の短期債務倍率が100%を割り込む
これにより、中国恒大集団に、実は3000億ドル(1.95兆元)以上の債務があることが明らかになりました。中国恒大集団はこれらのレッドラインを超えていたため、銀行からの融資が制限されることとなったのですね。
そこで、中国恒大集団は昨年から今年にかけて手持ち不動産を3~5割の値引きで投げ売りして、償還金や返済の穴埋めに充てようとしたのですけれども、間に合いませんでした。
5.公的支援とデフォルト
巷では、今後の展開として2つのシナリオがあるとされています。
一つ目は、公的支援が実施されるケースです。
1997年のアジア金融危機への対応の為、中国政府は1999年に4つの資産運用会社を設立しました。これは、不良債権管理に重点を置いた国有の金融資産管理会社なのですけれども、その一つに「華融資産管理」というのがあります。
この華融資産管理は、2020年に1029億元という記録的な赤字を計上し、デフォルト寸前まで追い込まれました。
けれども、国有銀行の不良債権の受け皿として作られた華融資産管理を破綻させてしまうと金融危機を引き起こすのではないかと懸念されたことから、今年8月、国有金融大手「中国中信集団」を通じた増資で破綻を回避しました。
これと同様に中国政府が救済するのではないかというシナリオです。
ただ、中国恒大集団は民間企業であることと、この8~9月の中国政府の動きをみると、華融資産管理の時のような救済はしないであろうという受け止めが強まっているようです。
一部では、破産再編に向けた委員会設立が模索されているという情報もあり、広東省当局が編制した再編チームが中国恒大集団に派遣され、財務状況の調査を進めているとも言われています。
2つ目のシナリオは、救済が見送られ、大規模なデフォルトが発生するというものです。
ブルームバーグによると、ドル建て債券保有者は投資額の25%ほどが回収されるだろうとアナリストは見ているそうで、主要住宅プロジェクトは国有デベロッパーが引き継ぐ形で完成させ、住宅引き渡しとサプライヤーへの支払いをまず守ろうとするだろうとしています。
けれども、当然ながら、不動産セクターを中心に中国の他の企業、金融機関、個人などにデフォルトが連鎖し、信用収縮が発生するケースもあり得ます。
中国恒大集団の債務には外国人向けドル建て債券195億ドルも含まれていますから、この場合は、国際市場に対しても影響が及ぶことになります。
既に、ドミノ倒産については、中小不動産企業は昨年だけで500企業以上も倒産しているそうですし、さきの「3つのレッドライン」のいずれかを越えている大手・中堅の不動産デベロッパーは60近くあるとされています。
また、不動産投資は中国のGDPの2割を占めるといわれていることを考えると、不動産セクターが弾けるだけでも世界に少なくない影響が及ぶ可能性があります。
中国発第二のリーマンショックになるのか。要警戒です。

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