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1.台湾のTPP加入申請
9月22日、台湾はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加入を申請しました。
翌23日、これを受けて台湾で通商交渉を担当するトウ振中政務委員らが記者会見しました。
会見の中でトウ政務委員は、台湾の貿易額のうちTPPの参加国が占める割合は24%に上るとし「加入を目指すのは台湾の利益のためであり、長期的な経済発展の戦略だ」と意義を強調しました。
先週、同じくTPP加入を申請した中国について、トウ政務委員は「台湾の申請は中国とは無関係だ……もし中国が先に加入すれば台湾にとって相当なリスクだ」との認識を示した上で、「TPPが求めるのは開放の度合いであり、協定のルールを順守する気があるかどうかだ。われわれは完全な市場主義で、民主主義と法治を基礎とし、私有財産も尊重している。中国の状況がどうかは皆さんが知っていると思う」と述べました。
これは、「1つの中国」の原則を堅持する中国が台湾の加入に対して反発してくることが予想されていることで、これを牽制した形です。
現在、台湾は東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本産の一部の食品の輸入規制を続けているのですけれども、日本側は「科学的根拠に基づかない一方的な措置で、国際的な貿易ルールに違反している」として規制の撤廃を求めています。
これが台湾のTPP加入の妨げになる可能性が取り沙汰されており、トウ政務委員は「日本がこの問題に相当強い関心を持っているのはわかっている。今後の加入交渉の段階で日本がこの問題を取り上げるならわれわれは当然向き合う必要がある。台湾住民の健康と、科学的根拠と国際的なルールの3つの原則のもと、適切に処理する」と述べています。
台湾では「食の安全」が政争の具となったり、メディアが核物質に汚染された食品という意味で「核食」という表現を使って世論の不安を煽ることもあるそうで、トウ政務委員は「この機会に皆さんに言っておきたいが、福島の食品がすなわち核に汚染された食品ということは決してなく、すなわち『核食』というわけでも決してない」と強調しました。
2.防空識別圏に侵入した中国機
台湾のTPP加入申請について、中国は早速反応しました。
23日、中国外務省の趙立堅報道官は記者会見で、台湾のTPP加入申請について「公的な性質を持つあらゆる協定や組織への参加に断固反対する」と反発しました。
また、同じく23日、中国は台湾の防空識別圏に戦闘機などを侵入させました。台湾の国防部によると、ADIZに侵入したのは、中国軍の戦闘機「殲16」14機、対潜哨戒機「運8」2機など合計24機(19機+5機)。台湾の南西空域を中心に侵入し、威嚇行為を続けたそうです。
航路を見ると、始めの19機のうち、H-6爆撃機2機、Y—8輸送機1機、Y—8対潜哨戒機2機の5機は台湾の東側迄侵入していますから、それなりの抗議レベルかと思われます。ただ台湾本島を周回まではしていないので、即有事の可能性は低いと思われます。
これに対し、台湾の通商交渉トップである鄧振中・政務委員は、記者会見で「台湾のTPP参加は、台湾の利益と経済発展のために行うものだ。中国の反対があっても、それは彼らの問題だ」などと切り捨て、TPP加盟に強い意欲をみせています。
中国は、「一つの中国」原則を認めない蔡政権に対し、国際社会で台湾を孤立させる戦略を取っているのですけれども、中国自身の「戦狼外交」が仇となって、各国は反発しています。
それどころか、欧米などは台湾へ接近。8月にはアメリカが台湾への武器売却を承認しましたし、欧州連合(EU)も16日に、EU初のインド太平洋戦略の詳細を公表し、台湾との貿易・投資関係強化を目指す方針を明記しています。
習近平国家主席は、台湾問題の解決を「共産党の歴史的な責務」と位置付けていることから、台湾のTPP加入は習近平政権を脅かしかねない懸念もあります。
3.台湾のTPP加盟申請を歓迎
一方、台湾のTPP加入申請について、日本は歓迎の意向を示しました。
9月23日、訪米中の茂木外相はオンライン記者会見で、台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟申請について「歓迎したい……台湾は自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、密接な経済関係を有する極めて重要なパートナーだ……台湾がTPPの高いレベルを完全に満たすかどうかしっかりと見極める必要がある」と述べました。
台湾に対し"パートナー"と国という表現こそ使っていませんけれども、TPPに台湾だけ加入すれば、ほぼほぼ国家扱いになります。
しかも、茂木氏は中国による加盟申請に関しては「高いレベルを満たす用意ができているかしっかり見極める必要がある」と述べるにとどめ、「歓迎」といった表現は使っていないことを考えると、台湾のTPP加入の可能性は十分にあると見てよいのではないかと思います。
更に翌24日には、閣議後にそれぞれ会見した加藤官房長官、麻生太郎財務相、西村再生相、梶山弘志経産相は、台湾のTPP加入を揃って「歓迎したい」と語りました。
実際、先に取り上げた、台湾側のTPP加入申請の記者会見で、TPP加入申請をこの時期に行った理由を問われたトウ政務委員は「今年は日本がTPPの議長国だ。台湾と日本は多くの分野で協力しあい、助け合う関係だ」と、台湾の加入実現に向けた日本の後押しに期待感を示していますし、台湾の蔡総統も、これまで加入に向けた協力を繰り返し日本に求めています。
つまり、日本が議長国であるうちがTPP加入の最大のチャンスだと見ているということです。
4.台湾のTPP加入は大きな対中カード
ただ、台湾がTPPの条件をクリアしたとしても、実際に加入できるかについては、いくつかの懸念事項があります。
一つは、東南アジアでTPPに参加する国の反応です。
台湾のTPP加盟について、東南アジアでTPPに参加する他の国はいまのところ明確な反応を示していません。唯一、ベトナム外務省が「ほかの参加国と緊密に協議を行っていく」と述べているくらいです。
その一方、中国のTPP加盟については、歓迎の意向を示している国もあります。たとえばマレーシアは、今月16日に中国がTPPへの加入申請をした際には「2国間の貿易や投資をさらにレベルの高いものにすると考えている」と述べ、政府として歓迎する意向を国営通信を通じて示しました。
また、シンガポールも、中国の王毅外相が申請の直前に訪問した際、中国が加入を検討していることに対し、歓迎する意向を伝えています。
東南アジア各国にとって中国は、ASEAN域外では最大の貿易相手国で、経済的な結びつきが強いことから、中国を敵に回したくないという意向が働いているように見えなくもありません。
9月19日のエントリー「TPPに食指を伸ばす中国」で、中国は地域貿易の主導権を取る狙いがあり、場合によってはルールを捻じ曲げてくるのではないかと述べたことがありますけれども、台湾というパラメータを考慮すると、TPPに加入している東南アジア各国に圧力を掛けて、台湾のTPP加入を阻止しようと目論んでいるのかもしれません。
要するに、中国は自分がTPPに入れないことは十分分かっているが、TPP加入申請することで、台湾のTPP加入に口出しする権利を手に入れようと、あえて申請したのではないかということです。
もしそうであれば、議長国である日本の判断と動きは非常に重要になってきます。日本がTPPに参加する東南アジア各国を取りまとめて台湾のTPP加入にまで、持っていくのか。逆に台湾は日本にそこまで期待しているのかもしれません。
もう一つの懸念事項は、次の日本の総理が誰になるかという点です。
台湾のTPP加入に議長国の日本が大きな役割を持っているであろうことはいうまでもありませんけれども、それを本当に推進する気持ちと実力が次の総理にあるのかという点です。
誰をとは言いませんけれども、もしも、中国に甘い総理だとか、優柔不断な総理であれば、台湾のTPP加入という"火中の栗"をわざわざ拾いにいかないことが考えられます。
なんだかんだ理由をつけて、時間稼ぎして議長国から外れてしまえば、当分何もしなくても言い訳はいくらでも立ちますから。
こうして考えると、台湾のTPP加入は大きな対中カードともいえるのですけれども、それを日本が使い切れるのか。大きな選択を求められているのではないかと思いますね。
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