

1.中国製ワクチンから離れる東南アジア
中国製ワクチンに陰りが出てきています。
8月20日、ニューヨーク・タイムズは、中国製ワクチンが東南アジア諸国で忌避され始めた状況を報じています。
その骨子は次の通りです。
・インドネシアでは、7月以前にシノバック社のワクチンを2回受けていた医療従事者の10%が新型コロナに感染したことが判明した。その結果、インドネシア政府はシノバック社ワクチンの使用を停止し、同ワクチンをすでに2回受けた医療従事者にも米国のモデルナのワクチンを追加接種することを決定した。現在、中国国内で承認済みの中国製ワクチンは、次の5つがあります。
・タイでも、シノバック社ワクチンを受けた人の新型コロナウイルスへの抗体が70%にしか達せず、アルファ型(イギリスで最初に発見された変種コロナウイルス)にはほとんど効果がないという調査結果が判明した。タイは、イギリスとスウェーデンの合弁企業アストラゼネカ社製のワクチンの導入へと切り替えた。
・カンボジアも、これまでは中国製ワクチンだけを使用していたが、7月に入ってからは、すでに中国製ワクチンを接種している医療従事者にアストラゼネカ社ワクチンの追加接種を実施するようになった。
・マレーシアでは保健大臣が、中国製ワクチンはもう輸入せず、現在の在庫がなくなり次第、米国や欧州のワクチンの使用へ切り替えると発表した。
・フィリピンではドゥテルテ大統領がバイデン政権からのワクチン贈与(米ジョンソン・エンド・ジョンソン社製やモデルナ社製のワクチン合計2000万回分)を受け入れると発表した。その結果、それまでの中国製ワクチンへの依存が大幅に減ることになる。
(1)中国医薬集団(シノファーム)北京生物研究所、6月22日に中国政府が公表した「対外輸出できる新型コロナウイルスワクチン製品リストの公布に関する公告」では(1)~(4)のワクチンが掲載され、中国政府は、リストに掲載されたワクチンの生産企業が自社で輸出することを支持すると表明しています。
(2)中国医薬集団(シノファーム)武漢生物製品研究所、
(3)北京科興中維生物技術(シノバック・バイオテック)
(4)康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)
(5)安徽智飛竜科馬生物製薬 ★緊急使用として承認
更に、7月12日、中国外交部は記者会見で、これまでの中国製ワクチンの海外供給実績について、「中国は100を超える国と国際機関に対し、5億回分以上のワクチンとその原液を提供した。これは全世界の新型コロナワクチンの総生産量の6分の1にあたる」と発言していたのですけれども、何のことはない、その時すでに東南アジア諸国は中国製ワクチンに見切りをつけ、他社製への乗り換え始めていたという訳です。
2.北朝鮮も拒否
中国製ワクチンを拒否しているのは、北朝鮮もそうです。
9月1日、国連児童基金(ユニセフ)は、北朝鮮がシノバック・バイオテックのワクチン約300万回分の供給を拒否したと明らかにしました。
ユニセフは、COVAXの供給を管理しているのですけれども、北朝鮮は、苦しんでいる国にワクチンが行き渡らない世界の問題点を指摘し、感染拡大がより深刻な国に回すべきだと回答したそうです。
こんな回答を聞けば、まるで武漢ウイルス禍など問題になってないようにも聞こえますし、実際、北朝鮮は「これまで感染者は出ていない」と主張しています。
8月28日、北朝鮮で行われた「青年節」では、様々な行事が行われ、参加者は金正恩総書記と写真撮影をしたのだそうです。
その時、多くの若者がノーマスクのまま歓声を上げるなどしていた裏で、金総書記が出席していない行事では、参加者はしっかりとマスクをしていたといわれています。
感染者が出ていないとしている手前、マスク姿は拙いのでしょうけれども、金総書記の傍でノーマスク、しかも歓声を上げるなんて、感染リスクを上げるだけです。
3.ゲロった金正恩
その金正恩総書記は、武漢ウイルスのワクチンを接種しているとも見られています。
デイリーNKの内部情報筋が伝えたところによると、金正恩総書記は「5月、地方の特閣でワクチン接種を受け、高熱や嘔吐など強い副反応が出たため、しばらく静養を余儀なくされた」と高位幹部の間で噂されているそうです。
北朝鮮メディアによれば、金正恩総書記は5月5日に軍人家族芸術サークルの公演を鑑賞し、その後、6月4日に朝鮮労働党中央委員会第8期第1回政治局会議を主宰するまで、公開活動に空白期が生じていましたから、これもその噂の後押しになったのかもしれません。
また、金正恩総書記と直接会う高位幹部100人余りもワクチンを接種したとされているそうですから、これが本当であれば、やはり北朝鮮にも武漢ウイルスはそれなりに蔓延していると見てよいのではないかと思います。
噂ではまた、金正恩総書記が副反応のリスクを冒してまでワクチンを接種したのは、経済難を打開するため中国の習近平国家主席との会談を希望しているためで、条件が整えば、米国とも対話する意向を持っているからだとされているとのことですけれども、一説にはワクチンが誘導する抗体も数ヶ月で半減するともいわれ、ブースター接取が行われている現状を考えると、金正恩総書記がまた追加のブースター接取を行う可能性はないとはいえません。
4.陰りが見える中国のワクチン外交
中国製ワクチンのうち、シノファーム製とシノバック製の2つのワクチンは、世界保健機関(WHO)から緊急使用許可を受けています。
この2つのワクチンは、どちらも不活化ウイルスを使って患者の体内で免疫反応を誘発するという従来手法を適用し、生産されています。
ただし、今のところ治験では、この2社のワクチンはファイザーやモデルナといったmRNAワクチンに比べ有効性が低いという結果が出ています。
ブラジルで行われた治験ではシノバック製の発症予防効果は約50%、重症化予防効果は100%。シノファーム製の有効率は発症予防、入院予防ともに推定79%だそうです。
一方、ファイザー製やモデルナ製の場合、発症予防効果はどちらも90%以上で、ジョンソン・エンド・ジョンソン製の有効性研究では、中程度から重症の予防効果は66%、重症の予防効果は85%、死亡の予防効果は100%です。
はっきりと差があります。
ニューヨーク・タイムズは、中国が自国製ワクチンを使って東南アジアでの影響を拡大しようとする、いわゆる「ワクチン外交」もそれほどの効果をあげていないと指摘。
その理由の1つとして、アメリカのバイデン政権が最近、東南アジアへの外交への比重を増してきたことを挙げています。
例えば、フィリピンのドゥテルテ大統領は最近まで、アメリカとの駐留米軍地位協定を破棄する意向を示していたのですけれども、7月末には一転して継続の決定を下しています。
この決定はアメリカのワクチン供与に一因がある、とニューヨーク・タイムズは報じています。
6月3日、アメリカのバイデン大統領は、武漢ウイルス感染症ワクチンを全体で8000万回分以上配布する計画を発表しています。
ホワイトハウスによると、他国に寄贈する8000万回分のワクチンのうち、75%をワクチン分配の国際的な枠組みである「COVAX」を通じて行い、残りの25%を必要としている国に直接配布するとしています。
直接ワクチンを配布する対象は世界中なのですけれども、うち、約700万回分はアジア向けで、インド、ネパール、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、アフガニスタン、モルディブ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシア、タイ、ラオス、パプアニューギニア、台湾と太平洋諸国に送るとしています。
バイデン大統領は声明で、「我々がこうしたワクチンを共有するのは利益を得たり、譲歩を引きだそうとしたりするためではない」、「アメリカはこのウイルスとの共闘で世界のワクチンの武器庫になる」と述べていますけれども、中国のワクチン外交に対抗するものであることはいうまでもありません。
ただ、変異の度にそれに合わせたワクチンをブースター接取していくのではキリがありません。今はワクチンが主たる手段であるのは仕方ないにせよ、いずれは治療薬が開発され、そちらにシフトしていくことが予想されます。
その時の武漢ウイルスの脅威度にもよりますけれども、その時、ワクチン外交が治療薬外交に変わっていくこともないとはいえません。
それらを考えると、単に治療薬といっても、特定の株だけに効くのではなく、いろんな変異株にも効く汎用性の高い治療薬を開発するのは非常に重要なことなのではないかと思いますね。
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