原油トリガーを引け

今日はこの話題です。
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1.高騰する原油


原油価格が上昇しています。

10月20日、ニューヨーク原油先物相場は続伸し、国際的な原油価格の指標となるアメリカ産標準油種(WTI:West Texas Intermediate)の11月渡しが、前日比0.91ドル高の1バレル=83.87ドルとなり、終値で約7年ぶりの高値を更新しました。

また、東京原油市場でも、18日、取り引きの中心となる来年3月ものの先物価格が一時、5万7000円を超え、年初来高値を更新。2018年10月以来、3年ぶりの高値水準が続いています。

市場関係者は「IEA=国際エネルギー機関が来年にかけての世界の石油の需要の見通しを上方修正したことも市場に伝わり、価格上昇につながっている。本格的な冬に備えた石油の需要が根強く、買い注文は増加傾向だ」と世界的に経済活動が再開し、石油の需要が高まっている一方で、産油国の増産が追いついていないのが背景にあると説明しています。

これについて、経団連の十倉会長は定例会見で「これ以上の価格の高騰や変動は良くないと思うが、気候変動問題もあり、新たな油田の開発も抑えられているので、しばらくは高値が続くのではないか。価格の安定が経済界や人々の暮らしにとっては一番肝要だと思う」と日本経済への影響に懸念を示しました。


2.岸田総理会見


10月18日、岸田総理はこの原油価格の高騰について会見を行いました。
その内容は次の通りです。
(原油価格の高騰について)

御指摘のように、原油価格の上昇に伴って、ガソリン価格が上昇しています。先週は162円で、これは7年ぶりの高い水準です。こういった状況を受けて官房長官の方に、関係4大臣を召集することを指示いたしました。4大臣、すなわち経済財政担当大臣、経産大臣、農水大臣、それから国土交通大臣です。そして、4大臣プラス官房長官ですので、5人でしっかり連携しながら、今後の原油市場の動向、国内産業、そして国民生活への影響をまず注視していくこと。2点目として、IEA(国際エネルギー機関)等と連携して、主要な産油国へ増産の働き掛けを行うこと。そして3点目として、影響を受ける関係業界に対して必要な対応を機動的に実施していくこと。この3点を指示いたしました。是非、これに基づいて関係大臣は連携して、それぞれの担当において取組を進めてもらいたいと思っています。以上です。

(具体的な対策について)

まず、経産大臣を中心に2点目の主要な産油国への増産の働き掛け、これはまず大事だと思っています。そしてその状況を踏まえて、どのような業界、団体にどのような影響が出てくるのか、しっかり確認した上で、具体的な対応を関係大臣の中でしっかり調整してもらう、そのための連携を私の方から指示したということです。是非、しっかり実態を把握した上で、具体的な対応を検討してもらいたいと思っています。以上です。
このように、岸田総理は、松野官房長官に対し、今後の原油市場の動向や国民生活への影響の注視、主要な産油国への増産の働き掛け、影響を受ける関係業界への必要な対応の機動的実施の3点について、経済産業大臣ら関係4大臣と連携して対応するよう指示しました。


3.原油が高騰する3つの理由


では、なぜ原油価格が急騰しているかというと、大きく3つの理由が指摘されています。

一つは原油需要の回復です。2020年初頭に急減した需要は、その後景気回復と共に持ち直し、今年8月の段階で2016年水準にまで戻ってきています。

EIA(米エネルギー情報局)の8月の月報によると、2021年の世界の原油需要は、前年差+533万バレル/日と昨年の減少から増加へ転じると見込んでいます。

もう一つの理由は産油国が原油増産を躊躇っているからです。

EIA(米エネルギー情報局)の見通しとは逆に、産油国は来年に向けて原油需給が極端に逼迫するとは考えておらず、逆に供給過剰圧力が強まるリスクさえも警戒しています。

例えば、イラン核協議の行方によっては大量のイラン産原油が市場に供給される可能性や、武漢ウイルスの感染状況によれば、またぞろ原油需要が急減したりしかねないなど、先行き不透明感が強いのですね。

実際、石油輸出国機構(OPEC)が10月13日に発表した月報では、2021年の世界の石油需要の伸び見通しを日量582万バレルと従来の596万バレルから下方修正しています。

そして三つ目の理由は、天然ガス価格の急騰です。

近年、シェールガスの開発によって、天然ガスの可採埋蔵量が世界的に急増し、長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことと相まって、発電分野での天然ガスシフトが一気に進みました。

欧州の天然ガス価格は一時、原油換算で1バレル=200ドルを突破し、その後も160ドル台で高止まっています。この価格はWTI原油先物価格の約2倍に相当することから、相対的に割安な原油を発電燃料に使う動きが欧州やアジアで広がりました。。

こうしたことから、原油価格が高騰しているのですね。

11月4日には、OPEC(石油輸出国機構)と、ロシア・メキシコなど非OPECの石油産出国で構成されるOPECプラスの会合が予定されていますけれども、ここで増産に向けた何らかの合意がなされるのかどうかが注目されます。

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4.トリガー条項を発動せよ


原油価格の上昇は当然ながら物価に影響を及ぼします。

灯油や電気・ガス代などエネルギー全般の値上げはもとより、梱包資材等の石油製品価格の上昇は、食料品や日用品の価格にも転嫁されてきます。

岸田総理が原油価格高騰への対応を指示した3点は、市場・生活への影響注視と産油国への増産依頼、関係業界への対応とどちらかといえばサプライサイドを重視したもののように見えます。

勿論、供給が途絶えたら話になりませんから、それは大事なのですけれど、家計への影響も考慮すべきだという声もあります。

岸田総理も指摘したように、9月から5週連続で上昇を続けたガソリン価格は10月4日には1リッターの全国平均小売価格が160円に達しました。

こうしたことから、一部で声の上がってきたのが「トリガー条項」の発動です。

これは、租税特別措置法第八十九条『揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止』という法律で、「レギュラーガソリン1リッターあたりの価格が3ヶ月連続して160円を超えた場合、翌月からガソリン税の上乗せ分25.1円の課税を停止し、その分だけ価格を下げる」というものです。

この法律は2010年4月に成立したのですけれども、翌年の東日本大震災により、その復興財源を確保するという名目で、運用が凍結されています。

この凍結を解除すればどうかというのですね。

確かに1リッターで25円も安くなれば、家計のみならず産業界も助かるでしょう。けれども、この凍結は『東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律』第四十四条で定められているので、凍結解除にはその為の法律を作らならければならないのですね。

また財源の面では、ガソリン税を25.1円下げることで、一ヶ月当たりの税収が1000億円強減ると見られているのですけれども、このトリガー条項が解除される条件は3ヶ月連続して1リッター130円を下回った翌月からとなっていますから、最低でも4ヶ月、税収にして5000億前後は税収減になります。

けれども、岸田総理は武漢ウイルスで打撃を受けた企業や個人を救済するために数十兆円規模の経済対策を行うと主張していますから、そこにトリガー条項対策費として5000億程度を入れるのは、難しい話ではないようにも思います。

国民に給付金を配っても死蔵されるだけだ、とよく批判されますけれども、ガソリン代となれば、死蔵されることはないでしょう。

輸送費が高くなれば、物流が滞って、経済活動の回転はそれだけ鈍くなります。

経済活動活性化のためにも、トリガー条項の発動は検討してもよいのではないかと思いますね。


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