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1.林芳正外務大臣
11月10日、第2次岸田内閣が発足しました。第1次岸田内閣発足から、1ヶ月余りしかたっていないことを踏まえ、茂木前外相を幹事長に起用したことで空いた外相ポストに林芳正・元文科相を起用した以外の閣僚は全員再任となりました。
その林外相は、11日就任初の記者会見を行い、冒頭発言として次のように述べています。
【林外務大臣】外務大臣を拝命いたしました林芳正でございます。どうぞ宜しくお願いいたします。林外相は、まず日米安保を軸に「自由で開かれたインド太平洋」の実現に取り組むと述べています。これを見る限り、従来方針を踏襲する方針でいるようです。ちなみに自由で開かれた秩序の構築に向けて連携強化する国・地域としてアメリカ、オーストラリア、インド、ASEANや欧州と列挙した中に、韓国が入っていなかったのは、まぁお察しでしょうけれども、こちらも従来方針のままとみて良さそうです。
私(林大臣)は以前、防衛大臣、また参議院におきまして外交防衛委員長、また自民党におきまして外交経済連携調査会長、こういうものも務めておりまして、様々な機会を通じて、議員外交等も含めまして、各国との交流を進めてきたところでございます。今回、外務大臣を拝命しましたことは、大変光栄であり、身が引き締まる思いでございます。
現在、国際社会は時代を画する変化の中にあります。これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきました普遍的な価値、また国際秩序、こういったものに対する挑戦が厳しさを増しておりまして、また、経済的要因が安全保障を大きく左右するようになってきております。
そうした中で、岸田総理が掲げられたとおり、先輩方の努力によって、この日本への信頼というものが得られてまいりました。これを基礎にして、普遍的価値を守り抜く覚悟、日本の平和と安定を守り抜く覚悟、そして人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟、こういった三つの「覚悟」をもって、外交を展開してまいりたいと、こういうふうに思っております。
具体的には、まず、日本の外交・安保の基軸であります日米同盟を更に深化をさせまして、その抑止力・対処力を強化することが重要であるというふうに考えております。
そして「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けました取組を引き続き力強く進めてまいりたいというふうに思っております。また、この法の支配を始めとする基本的価値や原則、これに基づきました自由で開かれた秩序の構築に向けて、米国、豪州、インド、ASEANや欧州、こういったところとの連携を一層強化しまして、国際社会を主導していきたいと、こういうふうに考えております。
また、近隣諸国等との関係については、難しい問題に正面から毅然と対応しつつ、安定的な関係を築くべく取り組んでまいりたいと思っております。北朝鮮の拉致・核・ミサイル、こういった諸懸案にもしっかりと対応してまいりたいと思います。
更に、新しい時代に対応したルール作りや国際秩序の構築に向けまして、経済外交に加えて、気候変動、コロナ、軍縮不拡散といった地球規模課題への対応に主導力を発揮いたしまして、国際社会での日本の存在感、これを高めてまいりたいと思っております。
各国の外務大臣との間で信頼関係を構築しながら、これまで日本外交が積み上げてきた成果を土台にいたしまして、更なる日本外交のフロンティアを切り拓いていきたいと思います。私(林大臣)からは、冒頭、以上でございます。
2.対中関係で間違ったメッセージ
林外相は、岸田総理から9日夜に電話で外相を打診されたそうなのですけれども、すんなりと外相に決まった訳ではありません。党内重鎮からの反対があったからです。
岸田総理は茂木氏が幹事長に就任した翌日の5日夕に、安倍元総理、麻生前副総理に電話で林氏の起用案を伝え、理解を求めました。
ところが、両名は、林氏が2017年12月から日中友好議員連盟の会長を務めていることなどを問題視し、「対中関係で国際社会に間違ったメッセージを与えかねない」と慎重な姿勢を示したのですね。
それでも、岸田総理は「気心の知れた頼れる人に閣内にいてほしい」からと押し切ったのだそうです。
実際、閣内では、官房長官や財務相を細田派や麻生派から登用していて、党内では、茂木幹事長や高市政調会長が「ポスト岸田」候補とみられているのに対し、岸田派は、側近の木原誠二氏が官房副長官がいるくらいです。
そこで、岸田派のナンバー2で、農水、文科、防衛の各大臣をそつなくこなし、2012年9月の党総裁選にも出馬経験がある林氏を重要閣僚に据えることで、ポスト岸田として名乗りをあげさせる狙いがあるのではないかという観測もあります。
林外相も、中国との距離感で自身への懸念が党内にあることは承知しているようで、8日のBSフジの番組で「知中派でもいいが、 媚中派ではいけない。相手をよく知っているのは知らないより良い」と述べています。
3.知中派でもいいが媚中派はいけない
林外相が中国に近いとされることへの懸念は党内だけではなく、世間でもそうみる向きがあります。
冒頭取り上げた林外相の記者会見でも質疑応答で、朝日新聞が「大臣は超党派議連の日中議連の会長をして、パイプを期待する一方で、党内の保守派を中心に、かなり中国に対する姿勢について警戒する声があるがどう思うか」と質問したのですね。
これに対し林外相は、無用の誤解を避けるため、日中友好議連の会長を辞めると答えました。
この回答に、今度はNHKの記者が、無用の混乱とは何か問うたところ、林外相は「様々なご意見等が、間接的に報道等を通じて寄せられておるということを承知しておりますので、そういった誤解を避けるため」と答えました。
要するに批判の声が届いているから辞めるということです。
その批判の声の中には勿論、安倍元総理と麻生前副総裁が、日中友好議員連盟の会長職にあったことを問題視していたというのもあったでしょう。けれども、日中議連の会長を退いたからといって、それで中国との関係が一切合切無くなる訳ではありませんからね。
林外相は「知中派でもいいが、 媚中派はいけない」といっていますけれども、そう言っただけで林外相に対する対中姿勢の疑念が払拭されるほど世の中甘くありません。
果たして林外相自身が知中派なのか、それとも媚中派なのかは、これからの本人の行動に掛かっています。
4.中国に敗北宣言をした岸田総理
ただ、いくら林外相が日中友好議員連盟の会長を辞職したとしても、間違っている、間違ってないは別として、外相についた時点で、中国に何某かのメッセージを送ったことは変わりません。
巷では対中融和メッセージなのではないかと疑念が持たれている訳ですけれども、筆者はそれとは別のメッセージを送った可能性もあるのではないかと危惧しています。それは岸田総理の対中敗北宣言です。
今回の総選挙では、甘利幹事長が小選挙区で敗北し、比例復活したものの幹事長を辞職することになりました。甘利氏は経済安全保障を訴え、それを主導してきた人物で中国にとっては目の上のたんこぶだった筈です。
甘利氏の小選挙区敗北については、甘利陣営は、過去の都市再生機構をめぐる口利き金銭授受疑惑が蒸し返され、公明党の支持母体である創価学会の婦人部がそれに拒絶反応を示して票の伸び悩みにつながったのではないかと見ているそうですけれども、これは要するに、選挙で公明党が動くか動かないかで当落を左右する可能性があるということです。
ここでもし、中国が公明党に工作して甘利氏を積極的に応援しないようにさせることが出来れば、その分、甘利氏の落選確率が上がることになります。
ジャーナリストの門田隆将氏によると、公明党は今回の選挙で、大阪の自民候補者のうち、これまで敢然と中国批判をしてきた大阪14区の自民党長尾敬氏だけ推薦しなかったとして、これが共産党の手口だとツイートしています。
これが本当であれば、中国は公明党を使って、気に入らない自民党候補者を間接的に落選させることが出来るということになります。
ここからは筆者の妄想に過ぎませんけれども、この"現実"を知った岸田総理は、林氏を外相に就任させることで中国に対して、「これ以上、自民党議員に対する落選工作を止めてください」と敗北宣言したのではないか、ということです。
なぜ、そんな敗北宣言をしたかというと、もちろん来年参院選があるからです。そこでまた同じように公明党経由で落選工作されたら堪ったものではありませんからね。
大阪14区の自民党長尾敬氏への公明党のやり方が波紋。ウイグル人ジェノサイド等で対中非難決議を始め敢然と中国批判をしてきた長尾氏。だが公明は“ジェノサイドの証拠はない”と山口那津男代表が言い放つ程の媚中。案の定、公明党は大阪の自民候補者で長尾氏だけ推薦せず。中国共産党の手口が恐ろしい。 pic.twitter.com/9ZriIN4ERH
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) October 20, 2021
5.勝負は参院選が終わってから
となると、自民は公明と手を切ればよいではないかとい意見も当然出てきます。
こちらのブログでは、メルマガ「週刊正論」11月10号掲載の論考を紹介し、自民は公明と手を切れと主張しています。
件の記事では、「甘利氏が小選挙区で敗北したことで、公明・学会の支援がないと幹事長といえども小選挙区では勝利できないとの印象を自民党内に植え付けてしまった」と甘利氏の責任を追及しながらも「軍事力を急速に拡大しているのは中国だ。その現実に目を背けて、防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有に公明党が反対するというなら、連立の解消も考えるべきだろう」と述べています。
これは正にそのとおり。正論です。
けれども、そうして次の参院選で惨敗してしまったら、元も子もありません。
それを考えると、岸田総理はその辺りの計算をした上で、あえて林氏を外相に持ってきたのではないかという気もします。
つまり、林氏を外相に置くことで、「次期総裁候補に岸田派をねじ込む」と同時に、「中国に許しを請うて圧力を弱める」ことを狙った一石二鳥の戦術なのではないか。もしそうだとしたら、岸田総理もそれなりの策士だといえなくもありません。
けれども、その反面、中国のいいなりになるリスクを抱え込むというデメリットは避けられませんし、それを甘受できるのかとなるとかなり微妙だと思います。
もし、岸田総理が、参院選までは中国のいいなりになった「フリ」をしておいて、いざ参院選に勝利した暁には、盛大に公明を切ってしまうなんて荒業をしようとしているのであれば、それこそ"大策士"の深謀遠慮になるかもしれません。
ただ、岸田総理がそこまで計算して動いているのかどうかは分かりません。
いずれにせよ、参院選後に内閣改造をするのか。改造するとしてどう改造するのか。その辺りが非常に重要な注目ポイントになるのではないかと思いますね。
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