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1.六中全会で採択された歴史決議
11月11日、中国・北京で8日から開かれていた共産党の「6中全会」は、4日間の日程を終え閉会しました。
6中全会とは第6回目の中国共産党中央委員会全体会議の略称で中国共産党の重要方針を決める会議です。
中国共産党の最高決定機関は党大会なのですけれども、5年に1度しか開かれないため、党大会が閉幕している間は、この中央委員会の全体会議が党の全てを指導することになっています。
1992年に開かれた14回党大会以降、中央委員会は1期ごとに7回の全体会議を開くことが定着しました。
党大会の間に開かれる計7回の中全会はおおよそ次の目的で行われています。
一中全会(党大会閉幕直後) :新しく選出された中央委員の顔合わせ、党執行部人事の決定。今回の六中全会が注目されているのは、これまでの党の歴史を総括する「歴史決議」を採択したからです。
二中全会(翌年春) :新体制下での国務院(政府)人事の決定。
三中全会(新政権発足約1年後):政策方針、とくに経済政策について議論。
四中全会(毎年秋) :党指導部が最も重要だと考えるテーマを議論。人事の調整。
五中全会(毎年秋) :同上
六中全会(毎年秋) :同上
七中全会(党大会直前) :5年間の総括と次回党大会の準備
2.習近平の新時代
歴史決議とは、中国共産党が過去の政治路線や思想について振り返り、新たな方針を指し示すための決議のことです。
最初は1945年に毛沢東が指導して起草した「若干の歴史問題に関する決議」で、この決議では毛沢東以外の有力幹部による過去の党方針を批判しつつ「毛の政治路線が完全に正確だ」と結論づけました。
二度目は1981年に鄧小平がまとめた「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」で、毛沢東が発動して中国を大混乱に陥れた文化大革命を批判。過去の計画経済を「科学的な経営管理などを無視し、大量の損失をもたらした」とし、市場主義経済に乗り出す意義を明記したことで、毛沢東時代への決別と鄧小平時代の幕開けを打ち出しました。
今回、40年振り三度目となる歴史決議の詳しい内容は明らかになってはいないのですけれども、歴史決議の概要を含めたコミュニケ(公報)によると、党100年の歴史を振り返り「習近平同志を核心とする党中央は、偉大な歴史的精神と政治的な勇気で強い責任を持ち、長い間解決したくてもできなかった難題を解決してきた……中華民族の偉大な復興という正しい道を切り開き、先進国が数百年かけて行った工業化の過程をわずか数十年で成し遂げ、経済の急速な発展と社会の長期的な安定という2つの奇跡を生み出した」として、共産党による統治の正統性を強調しています。
そして「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に貫徹し……第2の100年の奮闘目標の達成と、中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現に向けてたゆまず奮闘しなければならない」と習近平主席の「新時代」が始まると締め括っています。
3.歴史決議に頓挫した習近平
これについて、朝日新聞は、過去、歴史決議が採択されたのは、毛沢東と鄧小平の過去2回だけであることから、「習氏は今回、毛と鄧に並ぶ歴史的指導者として自らを位置づけた」として「歴史決議の採択は、党大会に向けて、自らの権威を盤石にする狙いがあるとみられている」と分析し、今回の採択で、習近平国家主席は過去の不文律を破っての3期目就任を固めたと報じています。
ただ、今回の歴史決議によって、本当に習近平主席が毛沢東と鄧小平に並んだのかというと、違う見方もあります。
評論家の石平氏は今回の歴史決議の中味をみると、中国建国以来の歴史を六段階に分け、1~2段階を毛沢東時代、3段階を鄧小平時代、4段階を江沢民時代、5段階を胡錦濤時代、そして6段階で習近平となっている点を指摘し、習近平主席は自身を毛沢東と鄧小平に並ぶ指導者になるという目論見は頓挫したと述べています。
この点については、アジア政治外交史を専門とする川島真・東大教授も「毛沢東、鄧小平と自らを並べて権威化したが、江沢民、胡錦濤の時代への評価も一段下げながらポジティブなものだった」と述べています。
今回の決議で、習近平主席が毛沢東や鄧小平に並ぶことが出来なかったことについて、石平氏は「今の共産党高官の多くは江沢民、胡錦濤時代に登用された者達であり、彼らが抵抗した」ということと「習近平主席には、そもそも毛沢東や鄧小平と肩を並べるだけの成果を出していない」という2点を挙げています。
まぁ、習近平主席は、今、「文化大革命パート2」をやっていますけれども、あるいは、それが成果だと言い張ることがあるかもしれません。けれども、毛沢東の"元祖"文化大革命は、後の鄧小平の歴史決議で「科学的な経営管理などを無視し、大量の損失をもたらした」と批判されたシロモノです。
それを考えると、習近平の「文化大革命パート2」とて、後の世に失敗だったと批判される可能性もないとは言い切れません。
4.グレーゾーン作戦
石平氏は今後、習近平主席は、江沢民、胡錦濤時代に台頭してきた幹部を粛清し、また習近平主席に毛沢東や鄧小平に並ぶ功績をつくるために台湾併合に動き出すだろうと予測しています。
無論、台湾もそれを警戒しています。
11月9日、台湾国防部は2年に1度の「国防報告書」を公表し、中国の軍事的脅威を述べる一方で、中国が有事と判断しにくい方法で、台湾に影響を与える「グレーゾーン作戦」を企図していることを初めて指摘しました。
報告書の中で邱国正(きゅうこくせい)国防部長は、最近の周辺地域の安全情勢について、米中の戦略的競争下で中国は積極的に地政学的な影響力を拡大していると説明。グレーゾーン作戦を通じて自由で開かれた国際秩序を一方的に変えることをたくらんでいると記しました。
また、中国軍は武漢ウイルス禍において西太平洋で頻繁に軍事活動を行い、台湾海峡周辺で台湾に対する嫌がらせを行っていると強調。将来には台湾向けの軍事力の整備や実践的な演習を繰り返し、安全性を著しく脅かすだろうと危機感を示しています。
報告書では、中国は積極的にサイバー攻撃の能力を向上させていると指摘しており、有事の際には、重要インフラや指揮系統を攻撃し、社会の動乱や秩序の混乱を招き、軍や警察による治安維持や政府の運営能力を破壊すると警告しています。
また、メディア工作については、台湾が国際的に活躍する空間を狭め、中国の政治的な要求を受け入れることを目標にしていると強調し、支配力を向上させるために、伝統的メディアと新興メディアの融合を進めており、現段階では主にSNSを活用して、偽情報を大量かつ迅速に、拡散・操作している特徴があると分析しています。
国防部は立法院に送った報告書で、中国による偽情報の流布で、台湾内に協力者がいるとの見解を示し、対応として、情報の真偽や発信元を迅速に調べるほか、報道資料や公式サイトなどで随時、国内外に正しい情報を発信していくとしています。
5.同盟国をあてにするアメリカ
中国がこのような「グレーゾーン作戦」を取ってくるのは、今の段階で軍事力を行使すれば、アメリカやその他同盟国の反撃に遭い、敗北する可能性を考えているからだと思いますけれども、もし、その軍事力で上回ってしまえば、いつまでもグレーゾーン作戦をやる理由も薄くなってきます。
11月10日、アメリカのブリンケン国務長官は、ニューヨーク・タイムズ主催の対話集会で、中国が台湾の現状を武力によって破壊しようとする際には、アメリカは同盟国とともに行動をとると明言。台湾有事の際には、日本などインド太平洋の同盟諸国との連携で中国の一方的行動を阻止する考えを示しました。
アメリカは台湾について、「中国はただ一つ、台湾は中国の一部である、という中国の立場を『認識する(acknowledge)』」と述べる一方で、台湾への武器供与をコミットする「台湾関係法」を成立させるという「戦略的曖昧さ」を取っていますけれども、対話集会でアメリカの行動について「混乱がある」と質問されたブリンケン国務長官は、台湾関係法に沿って台湾の自衛能力を確実にすることがアメリカの役割であり、中国の行動を未然に阻止する「最大の抑止力だ」と強調しました。
その一方で「米国は独りではない」とし、「域内、域外の多くの国々が、武力による現状破壊を目的としたいかなる一方的な行動も注視する……彼らもそのような出来事が起きれば行動を起こす」と述べたのですね。
日本やオーストラリア、イギリスなどの同盟国をアテにしていることが丸わかりです。
バイデン政権関係者は、台湾有事を想定した抑止戦略について、日本の防衛・外交当局者との早期のすり合わせが必要と強調したそうですけれども、果たして台湾有事に日本が即応できるのか。
アフガンからの邦人撤退の顛末をみても、今の法制度で十分だとは思えません。
いまの法制度の見直しのみならず、憲法改正含めて大枠の準備を急ぐべきではないかと思いますね。
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