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1.中国の毒蛙戦略
11月3日、政治・経済・外交などの分野における人材のリーダーシップ養成を目的として設立された非営利の教育機関でシンクタンクである「アスペン研究所」主催の安全保障フォーラムが開催されました。
フォーラムで登壇した、アメリカ軍のミリー統合参謀本部議長は、中国による台湾侵攻は近い将来あるのかとの質問に対し「近い将来にあるとは思わない。定義づけるならば半年、12ヶ月、24ヶ月、そんな間隔だ」と1~2年以内は台湾侵攻はないとの見方を示しました。
ただしミリー氏は、中国軍が台湾統一を「歴史的任務」とする習近平指導部に対し、「武力侵攻の選択肢を提示できるよう能力を構築しているのは明らかだ」と将来的に習指導部が武力統一を選択する可能性を認めています。
中国の台湾進攻のシナリオについては、既に色んなところで検討・分析されています。
10月26日、アメリカの外交・安保専門シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」は、「The Poison Frog Strategy(毒蛙戦略)」と題する11ページの報告書を発行しました。
報告書は、中国が南シナ海の東沙諸島などの台湾の離島を占領した場合、台湾とアメリカはどのように対応するのだろうかという命題を掲げ、CNASのゲーミングラボは、中国が台湾領の東沙群島を先制的に軍事占領した状況を想定してウォーゲーム(模擬戦争)を実施したとしています。
想定シナリオは、2025年に中国人民解放軍海兵科の特殊戦司令部兵力が、訓練に偽装し事前の警告なく香港と台湾の間にある南シナ海の東沙諸島に上陸。中国軍は、現地駐留台湾軍500人を捕虜にして本土に帰還し、人民武装警察官200人と「民間人」300人を残して東沙諸島を軍事基地化すると同時に、南シナ海一帯での軍事演習を強化し、台湾に向けて経済的圧力をかけつつ、東沙諸島占領作戦は「一つの中国」の原則による「内政」であり、したがって外部の介入は「内政干渉」であると主張する、というものです。
2.日本の協力が不可欠
このシナリオに対する対抗策として「経済制裁や情報キャンペーンなどの非軍事的オプション」と「より積極的な軍事的対応」が検討されました。
前者の非軍事的オプションについては、効果を出すのに時間がかかりすぎ、かつ、中国に利益を放棄させるには弱すぎると結論づけられました。
一方、後者の積極的な軍事的対応は、米台双方が避けたい戦争へとエスカレートするリスクがあることに加え、エスカレーションの責任が米台両チームにあることから、中国の領土侵略を防ぐことの難しさが再確認されたとしています。
報告書は、中国が台湾の領土を奪うのを事前に阻止することが、最も重要な方法だとし、アメリカと台湾は、政府全体で連携した抑止策を迅速に実施し、中国の強要や侵略に対して即座に結果を出せるように準備すべきだと主張しています。
また、報告書は、このシナリオでは、日本の協力が不可欠であり、日本が協力することで、中国の自身の軍事的・外交的リスクを計算する際、その計算結果を変えさせる可能性が出てくるとしています。
そして、日本が関与することで、インドやオーストラリアとの四角関係による連携が可能になると述べています。
3.米台沿岸警備作業部会初会合
筆者は4月1日のエントリー「台湾、アメリカそしてパラオ」で、3月25日、米在台湾協会(AIT)と台北駐米経済文化代表処(TECRO)は、沿岸警備隊作業部会(CGWG)を設立するための覚書に署名したことを取り上げましたけれども、8月11日、米在台湾協会(AIT)は米台の沿岸警備作業部会の初会合が行われたことを確認したと公表しました。
台湾外交部によれば、会合はオンラインで実施され、今後も定期的に行われる予定だそうです。
この前日の10日、台湾の自由時報は、台湾の大型巡視船「嘉義」が「安平」など複数の巡視船を伴って、東部にある花蓮港の沿岸から28海里の地点で演習を行ったとし、海巡署の関係者の発言を引用する形で、10日に4000トン級巡視船「嘉義」の主導で実施された演習は、今後予定されている米沿岸警備隊との合同演習に向けた「予行演習」だったと報じました。
これに対し台湾海巡署は、アメリカの艦船の参加はなかったと否定し、米台の沿岸警備作業部会が扱うのは、捜索・救助活動や違法操業・無報告・無規制の漁業の取り締まりなどの分野での協力だと説明した上で、「将来、なんらかの形で交流・協力する可能性は排除しない」と述べる一方で、沿岸警備に関する合意の内容については、双方の合意なしに開示されることはないとの声明を出しました。
この日の演習について、防衛アナリストで、台北の国防安全研究院に所属する蘇紫雲氏は、参加した巡視船は船舶自動識別装置(AIS)の送受信機をオフにしておくこともできたが、あえてそうはしなかった。それは、演習を監視している者たちがこれらの巡視船の位置を確認し、追跡できるようにすることで、彼らに米台の沿岸警備当局の協力関係を認識させる狙いがあったからだと分析しています。
4.米台作業部会に海上保安庁を参加させる
新アメリカ安全保障センターの「毒蛙戦略」報告書では、台湾防衛には日本の協力が不可欠であると述べられていましたけれども、当然ながら米台の沿岸警備隊レベルでの協力も日本は求められています。
6月8日のエントリー「地球上で最も危険な場所」で、日本戦略研究フォーラム上席研究員で元アメリカ海兵隊大佐のグラント F・ニューシャム氏は、中国の台湾進攻に対して日本は7つのステップを行う必要があると述べたことを取り上げましたけれども、その7番目にしっかりと言及されています。それは次の通りです。
7:台湾に関して以下の措置を講じる。台湾の事実上の独立は日本の安全保障上きわめて重要であり、少なくとも中国の軍事力や強制によって現状変更されないように日本は必要なことを行う、と宣言する「台湾関係法」を起草する。また、航空自衛隊と台湾空軍をグアムで一緒に訓練をさせ、海上自衛隊と台湾海軍が定期的な訓練活動を開始したり、ミサイル防衛活動および対北朝鮮制裁の違反監視活動に台湾を招く。あるいは中国空軍が威嚇のために台湾周辺を飛行した際、沖縄の航空自衛隊機を米空軍機などとともに護衛任務で台湾空軍機に合流させる。最近合意された米台の沿岸警備に関する作業部会に海上保安庁を参加させる。このように、米台の沿岸警備の作業部会に海上保安庁を参加させると述べられています。アメリカは日本にも協力させたいという意思を明確に持っているものと思われます。
5.日米台総会訓練をすべし
「毒蛙戦略」報告書は、いったん、中国に、東沙諸島を占領されてしまったら取り返すのは困難であり、上陸させないことがポイントだと指摘していますけれども、それでも、いうほど簡単な話ではないと思われます。
ただ、一つ考えられる方法としては、周辺海域に機雷を設置して船を近づけさせないという手はあるかもしれません。
もっとも、おおっぴらに機雷を設置すると、緊張を高めるから出来ないというのであれば、それならば、訓練だけでも効果はあると思います。
海上自衛隊は自身の掃海部隊の技術向上を目的に、毎年、アメリカ海軍と合同で総会訓練を行っています。今年は陸奥湾、昨年は日向湾、一昨年は伊勢湾で実施され、昨年の陸奥湾での訓練では、海に浮かぶ機雷周辺に海自隊員がヘリで降下して爆薬を取り付ける手順や、海自の掃海艇「なおしま」で機雷を探査・処理するロボットを海中に投入する動きを確認するなどの一連の訓練の模様を報道陣に公開しています。
これを東沙諸島付近の海域で実施する。これだけでも十分な牽制効果があると思います。
なんとなれば、筆者だったら、海底に遠隔操作型機雷を設置したまま、わざと置き忘れておいて、掃海に失敗した。調査、回収するまで付近の船舶の航行を禁止するとかなんとかいって、ずっと放置することを考えますね。
中国に台湾が取られると、東シナ海は「北京の海」となってシーレーンが塞がれてしまいます。日本にとって台湾進攻は自国の安全保障に直結する話であり他人事ではありません。
国土国民は自国で護るというのは基本原則であり、そのために必要なものを早急に整えておく必要があると思いますね。
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