開発が進む人工肉

今日はこの話題です。
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1.広がる人工肉


近年、世界各国で人工肉の開発・商品化が加速しています。

アメリカでは、ベンチャー企業などが人工肉の開発に力を入れており、数年前から人工肉のパテや、それらを使ったハンバーガーが販売されるようになっています。

2019年に入ってからは、バーガーキングやマクドナルドも、人口肉のパテを使ったハンバーガーの販売に乗り出しています。

人口肉の開発が加速したのは、FAO(国連食糧農業機関)の試算発表が発端だとされています。

もう10年以上も前になりますけれども、2009年9月、FAO(国連食糧農業機関)は「世界の人口が91億人に達すると予測されている2050年までに、世界全体の食肉生産を現在比74%増産しなければ、タンパク質クライシスに陥る可能性がある」との試算を発表しました。

つまり「2050年までに世界中の食肉生産量を現在の約2億7000万トンから約4億7000万トンへと、2億トン増産する必要がある」と警告した訳です。

この結果は世界中の農業関係者に衝撃を与えました。牛や豚など家畜の飼育には、餌となる牧草や穀物を栽培するために大量の水や広大な土地が必要です。

例えば、牛肉の場合、牛肉1㎏の生産には10㎏の飼料用穀物が必要とされていますけれども、体重650㎏の成牛1頭を育てるには、単純計算で6.5トンの飼料用穀物が必要になります。

食肉生産量を2050年までに2億トン増産するためには、飼料用穀物生産量を20億トン増産する必要がでてきます。

けれども、ここで問題になるのは、穀物増産の為の農地です。

農業関係識者の間では「2005―2050年の間を合計しても農地面積は1桁%程度しか拡大できない」とされています。一説には、アマゾン地域などの熱帯雨林の開発により2桁%の拡大が可能とも言われていますけれども、仮にそうしたとして今度はそこに供給できる淡水資源を確保できるかという問題があります。また熱帯雨林を開発すれば地球の酸素供給が十分できなくなるのではないかとの指摘もあります。

こうした事を背景に、肉の代用品の開発が急がれ、人工肉の開発に拍車がかかるモチベーションになったとされています。

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2.植物由来人工肉


日本では1960年代から人工肉の研究が始まっていました。当時はバイオテクノロジーのレベルが低く、中々開発が進まなかったのですけれども、近年のバイオテクノロジーの進歩もあり、2010年代から人口肉の実用化に向けた開発が急速に進みました。

人工肉は大きく「植物肉」と「培養肉」に二分されます。前者は大豆や小麦などの植物性タンパク質を肉状に加工した食品で、「代替肉」とも呼ばれます。後者は牛や豚などの家畜から採取した細胞を培養した食品で、家畜を屠殺せずに家畜由来の肉を生産できることから「クリーンミート」とも呼ばれています。

「植物肉」で有名なのはアメリカの植物肉ベンチャーのビヨンド・ミート社です。

のビヨンド・ミート社は、2009年にシリコンバレーで創業し、大豆やエンドウ豆由来の植物肉開発に成功。2016年にハンバーグ用パティ「ビヨンドバーガー」を発売。この商品のヒットで急成長しました。

ビヨンド・ミート社はハリウッド・スターのレオナルド・ディカプリオやマイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツの資本参加でも知られる「食品テクノロジー企業」であり、2019年5月2日にナスダックに上場しています。

この会社が開発した植物肉は、牛肉の分子構造をMRIにかけて分析した結果をもとに、牛肉の食感に近いエンドウ豆のタンパク質の成分など、すべて植物由来の成分からつくられています。

また、脂身に関しては、ココナッツオイル・圧縮キャノーラ油・ひまわり油によって「代替肉汁」が再現され、赤身の色合いには、赤かぶの色素が使用されています。

現在、ビヨンド・ミート社はアメリカ国内のハンバーガーショップやレストランだけではなく、カナダやイスラエルのレストラン・食品スーパーへもビヨンドバーガーを供給しているそうです。

また、2011年に創業した植物肉ベンチャーのインポッシブル・フーズもハンバーグ用パティ「インポッシブルバーガー」を発売しています。大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングへこのパテを供給しています。

更に、スイスの食品大手ネスレも植物肉「インクレディブルバーガー」を開発、2019年4月から発売しています。

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3.中国の珍肉


世界屈指の食肉消費国である中国では、大小さまざまな企業が研究開発を進め、この植物由来の人工肉が急速に普及しています。

2019年創業の「ジェンミート(珍肉)」は、人工肉で作ったハンバーガーを始め、団子にギョーザにチキンナゲットといった商品を開発しています。

「ジェンミート(珍肉)」は人工肉の研究開発で急成長したフードテック企業で、業界をリードする企業の一つです。「ジェンミート(珍肉)」の呂中茗CEOは「100%非遺伝子組み換え大豆を原料にした人工肉です。タンパク質は全て良質な植物性で、動物性の成分は一切入っていません。色、香り、味すべて植物由来の原料を組み合わせたものです……本物の肉に近い味や食感を再現するため、約10年にわたる研究の蓄積がある」と自信をみせています。

中国で人工肉の開発が急ピッチで進む背景には、消費者の間で高まる健康志向に加え、米中対立や武漢ウイルスなどの影響により、肉の供給が不足することへの危機感が高まっているからと見られています。

それに加え、習近平指導部が2060年までの「脱炭素化」を目標にする中、家畜を必要としない人工肉は温室効果ガスの排出量削減にもつながるることから注目が集まっています。

中国の人工肉の市場規模は1000億円以上ともいわれ、今後の伸びが期待されています。




4.ハードルの高い培養肉


では、培養肉のほうはどうかというと、2015年頃から開発が加速しています。

2013年、オランダ・マーストリヒト大学医学部のマーク・ポスト教授が、世界で初めてハンバーグ用パテを開発し、試食会が行われました。

2016年には、アメリカのベンチャー会社であるメンフィス・ミートが世界初のミートボールを開発。イスラエルのベンチャー、スーパー・ミートは世界初の鶏肉を開発。同じくイスラエルのベンチャー企業のアレフ・ファームズは2019年に世界初のステーキ肉を開発しています。

日本では、日清食品ホールディングスと東京大学生産技術研究所の産学共同グループが2019年3月に世界初のサイコロステーキ状牛筋開発に成功しています。

植物肉に比べて培養肉の開発が遅れているのは、技術的難易度に差があるからです。

植物肉は既存のバイオテクノロジーの応用で開発できる食肉ですけれども、培養肉はその名のとおりに肉の細胞を培養しなければなりません。

培養肉には単一の細胞を培養する「単一細胞培養」と、性質・形状・機能等が分化した細胞を立体的に組み直して培養する「立体組織細胞培養」に二分されます。

前者は、単一の細胞種を食品スケールまでに培養する技術です。既にこの技術は様々な手法が確立されていて、培養肉の開発も比較的容易になっているそうです。その一例は次の通り。
①家畜からバイオプシーにより筋組織を採取する。
②採取した筋組織を小さく分割し、筋サテライト(myosatellite)細胞を分離する。この細胞をベースに牛胎児血清(FBS)などの培養液を用いて培養し、増殖させる。培養液の成分や量、増殖環境が整っていれば、1個の細胞は1兆個以上の細胞に増殖する。
③細胞は増殖すると、自然に筋管細胞(myotube)を形成する。1つの筋管細胞は0.3mm以下にしかならないため、この筋管細胞をゲル上に重ねることにより、それぞれが自然と融合し、小さな筋組織の塊が生じる。
④作成された小さな筋組織の塊を集めて成形することで、ハンバーガーのパティなどの細胞培養肉が作成される。


もっとも、細胞培養を行っただけでは筋細胞のみの肉塊になってしまうため、食用肉にするため、味や食感、風味を向上させるためのさまざまな加工が行われるのだそうです。

一方、後者の「立体組織細胞培養」とは、細胞をその周囲の環境と3次元的に相互作用させながら培養させる手法です。

こちらは、元々、皮膚、筋肉、神経など複雑な構造・機能を持つ生命体の再生を目的とした培養技術です。従って、細胞培養から分化誘導などのプロセスが必要になるなど、培養の難易度が非常に高くなります。

けれども、そうした培養技術であるということは、最終的にはロース、ヒレ、バラと同じように血管、脂肪、筋肉などがある肉が作れることになります。

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5.培養肉の餌


それならば、植物由来の肉の生産を中心にして、培養肉は高級品の扱いにすればそれで万事解決かというとそうとも限りません。

植物肉である以上、その原料は当然植物になるからです。

植物肉の主原料は、大豆、小麦などの穀物なのですけれども穀物から抽出できるタンパク質の割合はわずか10%前後しかありません。

例えば、穀物100g中のタンパク質含有量は燕麦で13.0g、ソバの実が10.8g、トウモロコシが8.6g、小麦で13.0g、大麦は10.6gなどとなっています。他方、豆の方はもう少し含有量が高く、小豆は20.3g、いんげん豆は19.9g、エンドウ豆は21.7g。大豆に至っては33.8gもあります。

とはいえ、穀物や豆類を使った植物肉をつくるにしても、例えば、10㎏の植物肉を生産するためには穀物で100Kg、豆類で50Kgは必要になってきます。

たとえ、人工肉を生産・普及させることで家畜の頭数を増やさずに済ませることが出来たとしても、穀物そのものは増産を余儀なくされるということです。

そこで、今注目されているのが「藻」です。

藻は単位面積当たりのタンパク質収穫量が飛躍的に高く、1ヘクタール当たりの1年の収穫高は大豆の580㎏に対し、藻類のそれは10tと、実に大豆の17倍もあるのですね。

また、藻類は湾、湖、池、水槽など農地以外の場所で生産でき、湖、池、水槽など淡水環境だと生産に伴う水の大量消費もありません。

現在、東京女子医科大学 先端生命医科学研究所の清水達也教授らの研究グループは、培養した藻類を栄養源とした立体組織細胞培養による培養肉の開発に取り組んでいます。

清水教授は「1番の問題はコスト、2番は食感が課題だ」とし、5年後に1日100グラムのペースト状の「鶏肉」が出てくる装置を開発。10年後は毎日1キログラムの生産が目標だと述べています。

植物由来の人工肉だけでなく、藻を使ったより自然に近い人工肉も開発普及することでより多くの恩恵を受けられるのではないかと思いますね。

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この記事へのコメント

  • 広島のアンノウン

    いつも、ありがたく勉強&拝読しています。
    培養肉…30年前、楳図かずお氏の最後の連載作品「14歳」の冒頭部に培養肉の話が
    出てきます。その中から突然変異でチキンジョージが登場して…という展開なので
    『フィクションから出たノンフィクション』となりそうな恐さがあります。
    2021年11月02日 09:06

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