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1.私はあなたの家に行った
11月18日、女子プロテニスのツアーを統括する女子テニス協会(Women's Tennis Association,WTA)のスティーブ・サイモン最高経営責任者(CEO)は、ダブルス元世界ランク1位の彭帥(ホウスイ)氏への対処に問題があった場合、中国でのトーナメント開催から撤退する用意があると警告しました。
事の発端は、11月2日、彭帥(ホウスイ)氏が中国交流サイトの微博(ウェイボ)で、中国共産党の幹部だった張高麗元副首相から性行為を強要され、合意の上で不倫関係を持ったと暴露したことから始まりました。
彭帥(ホウスイ)氏の告発によれば、2人が出会ったのは張氏が天津市のトップだった十数年前にさかのぼります。その後、張氏が中央に進出したことにより、不貞関係に一旦終止符が打たれたのですけれども、張氏の引退後、再び関係が復活したのだそうです。
彭帥(ホウスイ)氏は「私はあなたの家に行った。あなたの夫人と一緒に。あなたは私を自分の部屋に引き入れた。そして10数年前と同じように、性的関係を結んだ」と投稿。あろうことか、夫人がいる張氏の自宅で行為に及んだことも告白し、関係が悪化してからは「何度も自分はまだ人間なのかと自問自答しましたが、言葉になりませんでした。歩く死体になったような気分でした」などと、当時の心境が綴られていました。
件の投稿は約30分後には削除されたのですけれども、投稿のスクリーンショットがインターネット上で拡散し、大きな話題となりました。
この告発後、彭帥氏は消息不明となったことで、その身を案じる声が世界中で高まり、大坂なおみ選手やセリーナ・ウィリアムズ選手なども安否を心配するコメントを出しています。
この事態を受けて、14日、女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン最高経営責任者(CEO)が「女子プロテニス選手の彭帥に関して、このところ中国で起こっている出来事に深い懸念を抱いている……適切な対応を期待する。つまり徹底的かつ公正、透明な調査を行うべきだ」との声明文を発表していたのですね。
18日の声明はこれに重ねたもので、きちんと対応しなければ撤退すると強硬に訴えた訳です。
女子テニス協会(WTA)は中国・深センと2030年までシーズン最終戦の開催契約を結ぶなど中国との取引は数十億円に達しています。けれども、サイモン最高経営責任者はCNNのインタビューに対し「われわれは喜んでビジネスを撤退させ、それに伴う全ての複雑な問題に対処したい。これは間違いなく、ビジネスよりも大きな問題だからだ。女性はリスペクトされるべきであり、抑圧されるべきではない」と問題解決を求める明確な姿勢を打ち出しました。
2.女子テニス協会を全面的に支持する
この彭帥氏の消息不明問題について、他の組織・国も懸念を表明し始めました。
11月15日、男子プロテニスツアーを統括する「プロテニス協会(Association of Tennins Professionals,ATP)」は、彭帥氏の失踪について中国に調査を求めている女子テニス協会(WTA)に支持を表明しました。
プロテニス協会(ATP)のアンドレア・ガウデンツィ会長は、声明で「我々にとっては、テニスコミュニティーの安全が何よりも大事……彭帥選手の安全と行方について、とても心配している……彭帥への性的暴行疑惑について、完全かつ平等で透明性のある調査を求めるWTAを全面的に支持する」と述べています。
更に19日、アメリカのジェン・サキ大統領報道官は、彭帥氏の所在についての「独立し、検証可能な証拠」を中国政府が提供することをバイデン政権が求めていると述べ、更に国連も性的暴行疑惑について完全に透明性のある調査を要求しています。
3.安全と行方への懸念が高まっただけ
もっとも、彭帥氏が告白して直ぐの段階では、女子テニス協会(WTA)サイモンCEOも中国テニス協会などから彭帥氏の身柄が安全であることを確認したと語っていました。
18日には、中国メディア『中国国際テレビ(CGTN)』が、彭帥氏がサイモンCEOに宛てたメールとする文面のスクリーンショットをツイッターで公開。その文章は「性的被害を含むWTAの発表は真実ではありません。私は行方不明ではなく、危険な状態でもありません。家で休んでいるだけで全て順調です」という文面でした。
ところが、サイモンCEOは、この文章が「本人が実際に書いた、あるいは本人の意思が関わっているものとは信じがたい……彼女の安全と行方への懸念が高まっただけである」と疑いの目を向けています。
そして「彭帥は中国政府の元高官による性的暴力を告発し、大きな勇気を示した」と述べ、「彼女が安全であることを示す中立で検証可能な証拠」を要求。あらゆる手段で繰り返し彼女とコンタクトを取ろうとしているが無駄に終わっていると明かした上で、彭帥氏は「抑圧や脅迫を受けることなく、自由に話すことを認められなければならない」とコメントしています。
一体、何を持ってサイモンCEOは件のメールが本物であるか疑わしいと判断したのか分かりませんけれども、ツイッターでは、他のユーザーからは、中国国際テレビ(CGTN)が掲載したスクリーンショットにはカーソルが表示されていると指摘し、彭帥氏が送ったとされるメール内の言葉遣いについても、疑問の声が上がっているそうです。
もしかしたら、サイモンCEOは、こうした指摘を耳にして、中国側の発表に疑いを抱いたのかもしれません。
4.彭帥のくまのプーさん
そんな中、11月20日、今度は中国国営メディアのジャーナリストが最近の彭帥氏だとする写真をツイッターに投稿しました。
投稿には「彭帥さんが最近、WeChatに3枚の写真とともに『良い週末を』と投稿しました。彼女の友人がやり取りした際の3枚の画像をシェアしてくれました」と記されています。
件の写真は、自宅と思われる部屋でTシャツといったラフな格好で猫と遊んだりする彭帥氏の姿があったのですけれども、この投稿を見た人たちから「北京は今とっても寒いの。たとえ暖房があっても、こんな服装は無理よ」とか、「この写真は前のものかもしれないし、実際にライブ動画を配信する必要があるんじゃない」と彭帥氏の安否が確認できるものではないと主張する声が上がっています。
これらの写真は日本のネットにも上がっていますけれども、ネットユーザーからの突っ込みで面白いと思ったのは、彭帥氏がパンダの人形を片手に自撮りしたと思われる写真で、その奥にある写真立ての中に「くまのプーさん」が映り込んでいることを指摘したことです。
ご存じの通り、今の中国では「くまのプーさん」の画像は検閲対象で表に出せないですからね。これを持って、今の画像ではないのではないか、と突っ込みが入っていました。
まぁ、これだけを持って今の写真ではないと断定できないかもしれませんけれども、あの国は、隠蔽や情報操作などお手の物ですからね。疑問を持たれても仕方ありません。
5.習体制に従え
今回の彭帥氏のツイッターでの暴露投稿について、評論家の石平氏は「中国の検閲能力からすれば、30分もの間、投稿が残ったことに疑問がある。投稿された時期が第19期中央委員会第6回総会(6中総会)直前だったことからも、権力闘争の道具になった可能性がある」と指摘しています。
2018年、中国の人気女優の范冰冰(ファン・ビンビン)氏が脱税疑惑で約4ヶ月に渡り消息不明になり、その後、脱税についてSNSで謝罪文を公表したことがありました。
また、2020年には、中国ネット通販大手アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が政府に批判的な発言をした後、約3ヶ月間、姿を消したことがあります。
これについてイギリスのBBCは范冰冰(ファン・ビンビン)氏らの「失踪」について「全く新しいことではない」とし、棒でたたく、電気ショックといった暴力や性的暴行、絶え間ない尋問などがあるという専門家の話を紹介しています。
6.五輪の中止にまで発展するとは思わない
このように、段々と大事になってきた彭帥氏失踪問題ですけれども、北京冬季五輪を控えた国際オリンピック委員会(IOC)は公式声明で「最新の報道を目にしたが、彼女の安全が保証されていることに勇気づけられた」と中国当局の発表を支持しています。
11月18日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は声明を出し、「重大な告発をする女子オリンピック選手を犠牲にし、IOCが政府の説明を鵜呑みにするとは驚きだ」と批判しました。
かねてから人権団体や専門家らが新疆ウイグル自治区などでジェノサイドが行われていると指摘しているのですけれども、中国側はこれを否定し続けています。
これについても、国際オリンピック委員会(IOC)は「中国の人道的な状況は我々の権限の範囲内にない」と逃げています。
今回の彭帥氏の失踪についても、女子テニス協会(WTA)が「彼女の安全と行方への懸念が高まっただけだ」と痛烈に批判し、中国でのトーナメント開催から撤退する用意があるとまで警告しているのに対し、国際オリンピック委員会(IOC)の態度は全然違います。
この国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢をニューヨーク・タイムズ紙は疑問視。19日に「I.O.C.の弱点を突く質問」というコラムを掲載し、国際オリンピック委員会(IOC)の「彼女の安全が保証されていることに勇気づけられた」とする声明に対し、「IOCはどんなファンタジーの世界に住んでいるのか?(What world of fantasy is the I.O.C. living in?)」と皮肉り「中華人民共和国の歴史を考えれば、これくらいのことは当たり前だ。中国の歴史を考えれば、彭さんが書いたとされる今回の手紙は詐欺だと考えるのが妥当だろう」と批判しています。
そして、「IOCの支配者たちは自分たちの仲間のために立ち上がる気骨がない」とまで言っています。かなり厳しく批判していますね。
もっとも、国際オリンピック委員会(IOC)で最古参のディック・パウンド氏が「早急に良識ある方法で解決されなければ、事態が制御できなくなるかもしれない……五輪の中止にまで発展するとは思わないが、分からない」と、国際オリンピック委員会が北京冬季五輪の中止の可能性について言及していますから、IOC自身も一枚岩ではないのかもしれません。
7.高まる外交ボイコット
それに、ここまで問題が大きくなってくると、たとえ国際オリンピック委員会(IOC)が金に目がくらんで、中国の肩を持ったとしても、参加国に対してボイコットする口実を与えることは間違いありません。
11月18日、アメリカのバイデン大統領はホワイトハウスで記者団に、北京冬季五輪に政府高官らを派遣しない「外交ボイコット」を検討していることを明かしました。
また、イギリスもジョンソン首相が「外交ボイコット」を検討していて、政府内でも「活発な議論」がなされているようです。
この動きに対し、中国外務省の趙立堅副報道局長は記者会見で、「新疆問題は純粋に中国の内政であり、外国勢力の干渉は決して許せない。アメリカは新疆でジェノサイドや強制労働があると顔に泥を塗ろうとしているが、中国人民からすれば笑い話だ……北京冬季五輪の主役は世界各国の選手だ。スポーツの政治化は五輪精神に反し、各国選手の利益を損ねる」と反論しました。
もっともこの中国の理屈は、すっかり見抜かれています。
ニューヨークタイムズ紙は、19日の「Where Is Peng Shuai?」という社説で、ヒューマン・ライツ・ウォッチが、国際オリンピック委員会の主要スポンサー企業に、中国での人権侵害問題にどのように対処するか説明を求めていることについて、「中国の反応は、スポーツと政治を分離するといういつものマントラだった」と批判しています。
そして、今回もそのマントラを唱えたという訳です。
スポーツの政治化は五輪精神に反するというのなら、そのスポーツ選手である彭帥氏が失踪し「人権」問題で疑義の目を向けられている時点で政治化していますし、それは中国政府自身が招いたことです。いつものことながらのダブスタにはあきれ果てます。
中国政府が、彭帥氏の無事を主張するのであれば、疑われるばかりのメールとか写真とかで誤魔化すのではなく、彭帥氏本人を生で公の場に出し、海外メディアを相手に記者会見してしまえばそれで済む話です。
もし、彭帥氏が他の失踪者が受けたと噂される拷問を受けてないのなら出来る筈です。
11月20日、人民日報系の環球時報の胡錫進編集長は、彭帥氏が「間もなく公の場に姿を現し、活動に参加する」と自らの観測をツイートしています。この投稿が本当なのかどうか、仮に彭帥氏が姿を現したとして、どんな姿なのか。そして彼女が中国政府に都合の良い"マントラ"を唱えるのかどうか。注目したいと思います。
この記事へのコメント
インド辛え~
海外在住の日本人に、内容のホンの一部を紹介しようと、「コピペ」しようとすると(スマホで…)、上手く立ち行きませんでした!。
また、書き込みでも、某国営放送の宣伝が…、邪魔をしております!。
出来ましたら、改善対策をして頂ければ、幸いに存じ上げます!。