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1.何ら決まっていない
11月24日、林芳正外相は会見を行い、中国からの訪中打診やテニスの彭帥氏失踪問題、北京冬季五輪のボイコットについて質問を受けました。
そのやり取りを外務省のサイトから引用すると次の通りです。
日中関係(大臣への訪中要請)林外相の答えは、「何ら決まっていない」、「注視する」、「何ら決まっていない」。本当にこの通りであれば、何もしていないことになります。
【読売新聞 阿部記者】先日のテレビ番組で、林大臣から、中国の王毅(おう・き)外務大臣と先日の電話会談で、訪中のお誘いがあったというお話があったかと思うんですけれども、今後、どういうふうに対応されていくお考えか、お聞かせください。
【林外務大臣】先般18日の日中外相電話会談で、王国務委員からは、私(林大臣)の訪中について要請があったところでありますが、まだ現時点において何ら決まっていないという状況です。
【産経新聞 千葉記者】今の質問と関連してなんですけれども、本日、自民党の外交部会で佐藤正久外交部会長が、その王毅国務委員からの招聘について、北京五輪の開会式の外交的ボイコットが議論されている中で、外務大臣の訪中というのは、完璧に間違ったメッセージを海外に出すことに他ならないと、おっしゃいまして、慎重な対応を大臣に求められておられますけれども、大臣としてこの訪問が、誤ったメッセージを国際的に発することになるというふうなお考えをとるのかどうか、その辺のご見解をお願いしたのですけれども。
【林外務大臣】先ほど申し上げたように、私(林大臣)の訪中については、現時点において、まだ何ら決まっていないということでございます。
その上で申し上げますと、中国に対しては、普遍的価値を共有する国々とも連携して、主張すべきは毅然として主張し、責任ある行動を求めると同時に、対話を続けて、共通の諸課題について協力しいくと、こういう姿勢で臨みたいと思っております。
中国女子テニス選手の失踪問題
【共同通信 前田記者】中国のテニス選手への問題をめぐっての政府の対応を伺いたいんですけれども、欧米から批判が出ている中、日本政府として、その真相解明ですとか、どういった対応をされるのかお聞かせください。
【林外務大臣】中国の女子テニス選手である、彭(ほう)選手をめぐる状況については、これまで多数の関係者が懸念の声を上げてきていると認識をしております。政府としては、一刻も早く、こうした懸念が払拭をされることを強く望んでおりまして、関連の状況を注視していきたいと、こういうふうに考えております。
北京冬季オリンピック/パラリンピック
【共同通信 前田記者】関連で、北京五輪のボイコットに関してお伺いしたいんですが、こういったテニスの問題ですとか、あと人権状況というのがあると思うんですけど、そういった中で、政府として、外交上のボイコットというのは御検討されているのでしょうか。
【林外務大臣】我が国として、国際社会における普遍的価値である、自由とか基本的人権の尊重、そして、法の支配、これが中国においても保障されるということが重要であると考えておりまして、こうした我が国の立場については、これまでも様々なレベルで中国側に直接働きかけを行ってきております。いずれにしても、北京冬季大会への、日本政府の対応については、現時点で何ら決まっていないということでございます。
2.間違ったメッセージ出すことに他ならない
会見で記者からの質問にもありましたけれども、林外相の訪中には党内で反対意見が上がっています。
24日、自民党外交部会長の佐藤正久元外務副大臣は、外交部会や領土特命委員会などの合同会議で、「この時期の外相の訪中は慎重の上にも慎重を期していただきたい……北京五輪開会式の外交的ボイコットが議論されている中で、日本の外相訪中は完璧に間違ったメッセージを海外に出すことに他ならない」と釘を刺しています。
これを問われた林外相の答えは「中国に対して、主張すべきは毅然として主張し、対話を続けて協力していく」です。
佐藤外交部会長は、訪中という行動そのものが誤ったメッセージになると問うているのに対し、林外相は、対話して言うべきはいう、と答えているのですね。話が微妙にズレています。対話が前提になっている時点で本心では訪中したいのではないかと訝ってしまいます。
もっとも、こうした反対の声がそれなりに官邸に届いているのか、松野官房長官も林外相の訪中について「現時点で何ら決まっていない。調整も行っていない」と語っています。
ただ、対話だけで解決する相手であれば、そもそもこんな問題になっていません。
テニスの彭帥氏失踪問題にしても、中国政府は、外交問題ではないと言い繕いながらも、ツッコミどころ満載の動画や写真を出してきたのも、国際社会が問題視し、女子テニス協会(WTA)が中国からの撤退も辞さないという態度で臨んでいるからでしょう。
つまり、毅然として主張するだけでは駄目で、その裏付けとなる行動が必要になるということです。
3.日中友好議員連盟とは何か
林外相は先日、要らぬ誤解を生むという理由で、日中友好議員連盟の会長を辞任しましたけれども、この議員連盟には長い歴史があります。
日中友好議員連盟が今の名称で発足したのは、日中国交樹立の翌年の1973年のことです。前身である「日中貿易促進議員連盟」は、日中両国の貿易と中国との国交を求める親中派議員の集まりだったこともあり、日中友好議員連盟も、政府の政策を親北京政権へと変えるために活発に動いたという経緯があります。
中国政府は日中友好議員連盟を「中日友好団体」と公式に呼び、日本に中国側の政策や要求などの最初の伝達相手としてきました。
今年の1月28日、中国の孔鉉佑駐日大使は日中友好協会、日中文化交流協会、日中友好議員連盟、日中経済協会、日中協会、日中友好会館など友好団体の責任者とビデオでの交流会を開いています。
この交流会に林芳正氏は日中友好議員連盟の会長として出席し、「中国のコロナ対策や経済成長の成果を積極的に評価し、北京冬季オリンピックに協力し、両国の世論基盤を改善して、友好事業を絶えず新たに発展させ、良好な雰囲気で2022年の日中国交正常化50周年を迎えたい」と述べたとされています。
今年の1月といえば、武漢ウイルスが猛威を振るい、WHOが起源調査で中国武漢に乗り込んだ時期です。そのときに中国の武漢ウイルス対策を評価し、北京五輪に協力すると発言しているのですね。
まぁ、日中友好議員連盟会長としての発言だと割り引いたとしても、「中国に寄り過ぎるのではないか」と党内から懸念されるのも、宜なるかな、だと思います。
4.中国は日中友好団体を利用している
この日中友好議員連盟をはじめとする日本の対中友好団体にアメリカが警戒感を示しています。
2019年1月、国防総省国防情報局(DIA)は「中国の軍事力」という調査報告書で「中国共産党と人民解放軍が日本の中国への世論や政策を中国側に有利に動かすために日中友好7団体を利用することがある」と述べ、連邦議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」も年次報告書などで、中国の日本に対する政治工作に言及し、友好7団体が関与することがあると指摘しています。
日中友好7団体とは、中国側が公式に中日友好団体と呼んでいる以下の7組織のことを指すと思われます。
・日中友好協会更に、2019年6月、ワシントンの研究機関「ジェームスタウン財団」が「中国共産党による日本での影響力作戦についての予備調査」という報告書を発表しています。それによると、中国共産党の統一戦線工作部の日本での関連団体としては、日本中国和平統一促進会が主体で、関係組織として全日本華僑華人中国平和統一促進会や全日本華人促進中国平和統一協議会があり、日中友好7団体も統一戦線工作部と関わりを持つことがあると報告しています。
・日本国際貿易促進協会
・日本中国文化交流協会
・日中友好議員連盟
・日中経済協議会
・日中協会
・日中友好会館
更に、「友好団体側は、統一戦線工作部との協力や接触に気がつかない場合もあり、違法活動をしているというわけでもない。だが、統一戦線工作部側は日本側の政界や世論への影響力行使のために常にこれら友好団体を利用しようとしている」とも指摘しています。
サイレントかノイジーだか分かりませんけれども、中国が日本に工作していることをアメリカも懸念している訳です。
その意味では、岸田政権があまりに中国寄りの発言や行動をすると、バイデン政権に、米中で二股を掛けているように見られかねないとも限りません。
5.外交的ボイコットは日本独自で判断
11月24日、自民党の高市早苗政調会長は東京都内で講演し、北京冬季五輪への「外交的ボイコット」を日本政府が行うべきかについて「アメリカや欧州がどうだからというよりは、日本政府が独自で判断しなければならない。相当高度な政治判断をしないといけない問題だ」と述べました。
一方、中国政府によるウイグル自治区や香港などでの人権侵害行為を非難する決議については「通常国会でできなかったことは大変恥じている」と語っています。
高市政調会長をして、「日本政府が独自で判断しなければならない」と述べたということは、岸田政権のかなり上の方からの統一した方針だと見た方がよいかもしれません。米英が外交ボイコットを検討していると表明している向こうを張って、日本は独自判断だということの外交的リスクを負ってでも、今は態度を明らかにしない判断をしているということです。
その理由は何か明らかではありませんけれども、今の段階で日本もボイコットを表明すると、米英日そして欧州と西側主要国が挙ってボイコットする流れになることは予想できます。そうなった場合、面子を潰された習近平主席が、自らのこの失態を取り返して、3選に繋げるために、台湾進攻を本当にやるかもしれないことも考えられなくもありません。
あるいは岸田政権は、そうしたことを危惧して、あえてギリギリまでブレーキ役として態度を表明していないのかもしれません。
6.岸田総理は策士か
総選挙挟んでまだ二ヶ月ほどの岸田政権ですけれども、早くも一部識者からは親中政権だと批判されています。果たして本当のところはどうなのか。
これまで過去のエントリーでも何度か取り上げましたけれども、林外相の言動など、親中的発言があることは事実です。ただ、岸防衛相をそのまま留任させ、防衛力強化を指示するなど、丸々全て親中の動きをしている訳でもありません。
高市政調会長にしても、外交ボイコットは日本独自の判断だと述べる一方で、政府が来年の通常国会に提出を目指す経済安全保障推進法案に関しては、リスクを最小化するための法律の備えだけはしなければいけない」と、中国への先端技術流出を防ぐ意欲をしめしています。
このチグハグさをどう捉えるべきなのか。
勿論、単純に、安倍・菅路線から転換する過渡期だという見方もあると思います。その場合は、ゆっくりと目立たず、文句も出ないような形で気づいたらすっかり自分好みに変えているということにもなり、それならそれで、岸田総理にも強かな策士の面があるということになります。
表では大人しそうな顔をしていながら、裏ではしっかりと策を弄している。そんな面があると仮定すると、岸田政権は、口では親中発言をベラベラいう裏で、行動としては対中安保強化に動くという具合に、面従腹背的に裏表を使い分けている可能性も出てきます。
まぁ、これは半分以上筆者の期待込みの見方だとは思いますけれども、もしも岸田総理が、口で友好、実態は強硬というように、意図して、虚実を巧みに操っているのだとしたら、柔和な外面とは裏腹に中々に喰えない策士だといえます。
とはいえ、北京冬季五輪は来年2月です。最初の踏み絵まで残された時間はそう多くはありません。
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