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1.バージニア州知事選の番狂わせ
11月2日、アメリカのバージニア州知事選挙が投開票され、共和党候補のグレン・ヤンキン氏が民主党候補で元知事のマコーリフ氏を破って当選しました。
この結果は全米で大きな驚きを持って報じられました。なぜなら、ヤンキン氏が勝利したのはバージニア州だったからです。
アメリカ東部バージニア州は、首都ワシントンDCのすぐ南にあります。政治的には民主党が強く、過去5回の知事選で民主党候補が4回勝利しています。2020年の大統領選挙では、民主党のバイデン氏が共和党のトランプ氏に10ポイントの差をつけて勝利したブルーステートです。
選挙戦の序盤は元知事のマコーリフ氏が知名度を生かし優位に進めていたのですけれども、ヤンキン氏が徐々に支持を伸ばし、最後に逆転勝利を収めました。
圧倒的なブルーステートで、知名度抜群の元州知事を相手に共和党候補が勝利した。この結果は、来年11月の中間選挙に向け共和党にとって大きな弾みとなる一方で民主党にとっては大きな打撃になると見られています。
2.トランプと距離を取る選挙戦略
トランプ前大統領の支持を得て共和党の予備選挙を勝ち抜いたヤンキン氏は巧みな選挙戦を繰り広げました。
元カーライル・グループのCEO(共同最高経営責任者)であるものの、政治家としては無名のヤンキン氏はまず、人当たりの良い実業家としての人物像をバージニア州の住民に認知させることから選挙戦をスタートしました。
一方、民主党のマコーリフ氏は、ヤンキン氏とトランプ前大統領の結びつきを強調。バイデン大統領やハリス副大統領、オバマ元大統領も応援演説に駆けつけ党を挙げて支援しました。民主党はヤンキン氏を「ドナルド・トランプの延長」と位置づけ、彼がトランプの支持を受け入れたことを批判しました。
投票日前日になってもマコーリフ氏は、ヤンキン氏の選挙運動を締めくくったのは、FOXニュースで放送されたトランプ前大統領のヤンキン支持動画だったと攻撃したのですね。
けれども、ヤンキン氏は、トランプ前大統領と手を組んではいるが、無条件に支持している訳ではないと主張。公正な選挙を訴え、投票システムの監査を支持する一方で「ジョー・バイデンは大統領選に正当に勝利しなかった」とするトランプ前大統領の主張までは支持しないという具合につかず離れず丁度良い距離を保ちました。
こうすることで、トランプ支持層のみならず、郊外の無党派層へのアピールを行うことに成功しました。
大富豪でもあるヤンキン氏は、選挙戦で、経済と資金に関する問題に焦点を絞り続けました。ヤンキン氏は選挙戦初日から、州のガソリン税の課税停止と食料品への課税の撤廃を公約に掲げ、燃料と食料の価格高騰に直面する人々に訴えました。
こうする中、別の争点も注目されていきました。批判的人種理論です。
3.批判的人種理論
「批判的人種理論(critical race theory, CRT)」とは、1970年代半ばに黒人の弁護士で大学教授だったデリック・ベルらが唱えたとされている学説です。
この理論では、人種差別は差別的な考え方を持つ個人の「心の問題」以上に、「社会そのものにある」とし、長年の公民権運動やその後の諸改革にもかかわらず、人種的な差別や格差が根強く残っているのは、制度や構造が生み出しているとする見方です。
2019年8月、ニューヨーク・タイムズは「1619プロジェクト」という特集企画を組みました。「1619プロジェクト」の1619とは、アフリカ黒人奴隷がはじめて米国独立前のバージニア植民地に連れてこられた年を指しており、それからちょうど400年目を意識した特集だと思われます。
特集では、アメリカ史は黒人迫害を軸に展開してきたという視点から、アメリカの「真の建国」は1619年だとし、1776年のアメリカ独立の主要な動機のひとつは奴隷制維持だったとまで断じ、歴史学会のみならずアメリカ社会に賛否両論の波紋を広げました。
この「1619プロジェクト」は、批判的人種理論に基づいたものとされ、全米の小・中学校の歴史の授業で利用されることを想定した双方向的なコンテンツとなっているそうです。
4.国家を分裂させるもの
これに対し、奴隷制や人種隔離政策を教えることで愛国心が損なわれてきたとして、保守派が猛反発しました。
2020年9月9日、トランプ前大統領は「私は、米連邦政府から『批判的人種理論』を直ちに追放する。この理論を聞くにつけ、反吐が出る。現状を報告せよ。直ちに消滅させる」とツイート。2020年9月22日には批判的人種理論を「国家を分裂させるもの」とし、連邦政府機関内での「アメリカ社会構造が人種差別的である」ことを示唆するトレーニングを禁止する大統領令を出しました。この大統領令はバイデン大統領が就任後取りやめたのですけれども、既に全米に「批判的人種理論」批判が飛び火しています。
フロリダ州を含む共和党が多数派を占める南部や中西部などの州議会は、公立学校での「批判的人種理論」に基づく教育の禁止をこの1~2年の間に導入し、50州のおよそ半数の州で「批判的人種理論」や「人種的正義」を教えることに規制を設けています。
更に、各州では「批判的人種理論」を支持した教育委員会の委員の罷免運動が起こっているほか、ネバダ州などの一部では、「批判的人種理論」に基づいた話を小中高校での教員がしないように監視カメラを付ける案すら提案されています。
保守系のフォックス・ニューズはコメンテイターやキャスターを総動員して「批判的人種理論」が「白人を見たらレイシストだと主張する考え方だ」と批判。この話題は、2020年1年間で132回、2021年の6月の第3週までに1701回も取り上げられました。
バージニア州知事選でも批判的人種理論は大きな争点の一つとなりました。
民主党のマコーリフ候補は、批判的人種理論をめぐる議論は「犬笛戦術」だとし、9月に行われた討論会で「保護者らが学校に対して発言し、教える内容を決めるべきだとは思わない」と述べたのですね。
ヤンキン氏の選挙陣営はこのチャンスをとらえ、教育への投資や保護者の権利拡大、武漢ウイルス感染のピークを過ぎた後の学校再開といった計画をぶち上げました。最終的には、沈黙を求められたと感じた保護者らが、投票日にヤンキン氏支持に回ったとも言われています。
5.アメリカを分断する3つの勢力
昨今、今のアメリカは共和党と民主党、保守とリベラルという具合に2つに分断されているという見方が其処此処で言われるようになっていますけれども、ジャーナリストの高濱賛氏はアメリカ在住者の肌感覚として、「2つの勢力」が拮抗しているのではなく、「3つの勢力」が拮抗して3分断されていると述べています。
3つの勢力とは保守、リベラル、そしてその両者でもない「中間無党派」で、カリフォルニア大学バークレイ校の政治学者の一人は、「中間無党派層が今のアメリカのバランスを保っているコモンセンス(良識)になっている。2020年の大統領選、上下両院選で民主党を勝たせたのは、この層が民主党に票を入れたからだ」と指摘しているそうです。
高濱氏は、この3つの勢力がそれぞれ3分の1ずつを占めているように述べていますけれども、最近のアメリカ国民の政党支持登録では、民主、共和両党有権者はともに30%前後である一方、無党派層が40%超と最も多くなっています。
確かに中間無党派層が3分の1もいれば、共和党と民主党のどちらかに加担すれば、その加担した方が勝利するのも道理です。
その意味では、ヤンキン氏が、トランプ前大統領と微妙な距離感を保つことで、「中間無党派」にアピールし、彼らを味方につけるという選挙戦略は見事に成功したといえるのではないかと思います。
ヤンキン氏の勝利について、PRコンサルティング企業ファイアハウス・ストラテジーズのマイケル・ホプキンズ上級副社長は彼の勝利は「トランプのお陰ではなく、トランプと手を組んだにもかかわらず」達成されたものと言えると指摘。
また、民主党のストラテジストであるマイケル・ゴードン氏は「トランプは長年、候補者を売り込むのにも、妨害するのにも影響力を発揮してきた。ヤンキンの勝利には、民主党に対して全国的に逆風が吹いていたことと、トランプが彼の支持基盤を活性化させたことの両方が影響を及ぼした」と述べています。
これらを見る限り、ヤンキン氏の勝利は共和党にとって、ほかの複数の激戦州への教訓又はモデルケースになる可能性を秘めているようにも見えます。
6.民主党に危機が迫っている
高濱氏は「サイレントな3分の1」である中間無党派が大統領選挙を左右していることを忘れてはいけないと主張していますけれども、では中間無党派はバイデン大統領に対してどう見ているのか。
世界30余の国に拠点を設けて世論調査などを行っているギャラップ社の調査ではバイデン大統領の支持率は、就任時の1月に57%でスタートしたのが7月に50%、8月に49%に下がり、9月には就任以来最低の43%まで下がりました。
一方、不支持率はというと就任時は37%と低かったものの、その後上昇して9月には53%になっています。
ここで特筆すべきは、無党派層のバイデン離れが顕著なことです。
ギャラップの調査では、民主党支持者のバイデン支持は90%、共和党支持者では6%と大きな変化はないものの、無党派層は37%で就任時の61%から大きく下落しています。
アメリカの政治・経済情報を伝えるニューズレター「ワシントンウォッチ」は10月17日号で、バイデン政権を手厳しく非難しています。
「ワシントンウォッチ」はバイデン大統領の支持率低下の原因として、内政問題では以下の"躓き"があったとしています。
1) 変異ウイルスのデルタ株が猛威を振るい、新型コロナ危機が再燃したことそして、外交では次の"失態"があったとしています。
2) 大統領が目玉政策として打ち出したインフラ投資法案が民主党内の保守派と進歩派の衝突で宙に浮いたこと
3) メキシコとの国境地帯での移民対策が「もたついている」こと
4) 銃規制強化策が進まず、警察改革も与野党交渉が決裂したこと
1) アフガン撤退で混乱を招いたこと前任のトランプ大統領と比較すると、バイデン大統領の手際の悪さが目立つ印象です。
2) 米英豪の新軍事同盟を結ぶにあたり、既存の豪仏協定を無視して原子力潜水艦の共同開発計画を進めたため、フランスが駐米大使を召還することになった不手際
3) 習近平中国主席と年内に対面会談を提案したが蹴られたこと
10月10日、ニューヨーク・タイムズは、コラムニストのチャールス・ブロウ氏による「民主党よ、危機が迫っているぞ」という論評記事を掲載しました。
記事でブロウ氏は、民主党はバイデン大統領の政策を中途半端にしたまま2022年の中間選挙へ向かっており、大統領の支持率も最近のクイニピアック大学の世論調査では38%まで低下し「真の危機に直面している」とし、「バイデンはトランプよりマシだが、それでは不充分だ。国民は悪役を排除するだけのためにバイデンに投票したわけではない。彼らはチャンピオンを求めたのだ。そのチャンピオンは未だ出現していない」と警告しています。
筆者には、バイデン大統領の一体どこがトランプ前大統領よりマシなのかさっぱり分かりませんし、今頃、チャンピオンを求めたのだなんていわれても、大統領選で何を見ていたのですかと逆に聞きたいくらいです。
早くも、アメリカ国民はバイデン氏を大統領にしたことを後悔し始めている感もしなくもありませんけれども、ぜひともその思いを中間選挙で晴らしていただきたいと思いますね。
この記事へのコメント
モンク
知事選と同時に行われた副知事選挙で
元海兵隊員の退役軍人で黒人のウインサム・シアーズ女史が
副知事に当選した事が大きな出来事として報じられています。
トランプ氏を表面に出さなかったヤンキン候補とは反対に
熱烈なトランプ支持を公言して選挙戦を戦いました。
カリブ海の島国からの移民ですが
民主党には相当の衝撃の様です。