民主主義の境界

今日はこの話題です。
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1.民主主義サミット閉幕


12月10日、アメリカが日本やヨーロッパの首脳など111の国・地域の指導者らを招待したオンライン形式の「民主主義サミット」が10日、2日間の日程を終えて閉幕しました。

サミットでは、各国指導者らが「権威主義に対する防衛」、「汚職への対応と闘い」、「人権の促進」という三つのテーマに基づき、それぞれの国内情勢について報告し、民主主義を促進する考えを示しました。

バイデン大統領は演説で「我々の責務は、専制主義を押し返して自分たちの民主主義を強化するだけではない」と述べ、世界各地での民主主義の拡大に貢献するとの考えを示し、来年は対面式のサミットを開催し、各国指導者が約束した内容について、それぞれ1年間の取り組みの成果を報告することになるとの考えを示しています。

その手始めとして、アメリカはオーストラリア、デンマーク、ノルウェーとともに共同声明を発表し、反体制派の監視など人権侵害につながりかねない技術の拡散を防ぐため、輸出管理のあり方をめぐる行動規範の作成に向けて協力することを確認したとしています。


2.日本の取り組み


民主主義サミットには、勿論、日本の岸田総理も参加し、首脳プレナリー・セッションにて、民主主義を含めた普遍的価値を重視する立場から、民主主義を守り、世界における人権を促進するために重視していると発言しました。

その概要は次の通りです。
(1) 自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を損なう行動に対しては、有志国が一致してワンボイスで臨んでいかなければならない。深刻な人権状況については、これからもしっかりと声を上げていく。また、北朝鮮による拉致問題は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であるとともに、基本的人権の侵害という国際社会全体の問題でもある。

(2) 各国の歴史的経緯を尊重することこそが、民主主義の定着に寄与する。我が国はこうした信念の下、アジアの国々における和平プロセス、平和の定着、復興の後押しなど、二国間対話を通じ、各国の自主的な取組を後押ししてきた。現在、アジアを中心に世界各地74を超える国々に対し、人材育成、メディアの自由の強化、選挙、司法を含む各種制度の構築・整備支援を行っており、引き続き、各国の民主化に向けた取組を支援していく。

(3) 健全な民主主義の発展のためには、その中核的な土台として、中間層が質・量両面で分厚くなっていくことが不可欠である。しかしながら、金融資本主義経済の急激な展開が、格差の拡大や国際社会の分断など多くの弊害を生み、世界の多くの国で、健全な民主主義に歪みをもたらしつつある。日本は、デジタルとグリーンをキーワードとする経済社会の歴史的変革の中で、成長も分配も実現する「新しい資本主義」の実現に取り組み、健全な民主主義の中核である中間層を守るとともに、気候変動などの地球規模の課題や「人」を大切にした未来に向けた投資に、力強く取り組んでいく。

(4) 人権に関する取組を進めるために、中谷元議員を総理補佐官に任命した。また、企業における人権尊重の取組も、企業の予見可能性を確保しつつ、積極的に進めていく。国際機関との連携も重要であり、国際機関に対して約1,400万ドルを拠出することを決定した。

(5) 日本は、強靭な民主主義、基本的人権の尊重を、多くの国・地域に広げ、根付かせていくために、国際社会と共に歩んでいく決意である。
このように日本も民主主義サミットのテーマに沿って取り組んでいく姿勢を示しています。




3.民主主義の線引き


アメリカは今回のサミットに中国やロシアを招待しなかった一方、台湾を招きました。

台湾からは唐鳳(オードリー・タン)政務委員が出席し、「コロナ禍において、権威主義の政権が公衆衛生や集団の利益を名目に人権侵害を正当化し、世界的に民主主義が後退する兆しが見られるが、台湾は感染や嘘の情報の広がりをロックダウンや削除という措置をとらないで抑え込んだ……市民が率先して開発した技術を公的部門と民間企業が手を携えて拡充したもので、こうした3者の協力関係がわれわれの誇りであり、皆さんと共有したい……市民を信頼しなければ、市民からの信頼は得られない」と述べ、武漢ウイルスを口実にした権威主義的な動きに警告を発しました。

国家が強権を発動することに中国の影を感じたのでしょうか、唐鳳(オードリー・タン)氏は「台湾は世界で権威主義に対抗する最前線に揺るぎなく立ち続けてきた」と強調しています。

民主主義サミットが各国の民主主義を推進して、"その結果を毎年報告する会"になるのだとすると、この会に入っている国は民主主義国家であり、入っていない国は民主主義国家ではないという単純な線引きになりかねないように思います。

となると、どこからが民主主義でどこからかが民主主義ではないと判断するのかが問題となってきます。

日本の外務省は民主主義サミットのテーマである「より透明な政府に向けて共に歩む(腐敗との闘い)」「より強固な民主主義に向けて共に歩む(権威主義からの防衛)」「より一層の人権尊重に向けて共に歩む(人権の促進)」のそれぞれについての取り組みを発表しているのですけれども、その前文に少し気になる文言があります。それは次の通りです。
日本は、民主主義を根付かせるためには、相手国に寄り添い共に歩むことが重要との考えに基づき、自らの経験やノウハウを共有する取組を行ってきた。今後も、二国間の取組に加え、G7やG20、OECD、国連等、多国間の枠組みを活用し、このような取組を継続していく考えである。
「民主主義を根付かせるためには、相手国に寄り添い共に歩むことが重要」となっています。つまり、各国の事情に合わせて民主主義もその形態や理念が異なってくる可能性があるとも取れる訳です。

勿論、世界には、王政から民主制に代わった国もあれば、圧制から逃れて民主国家を打ち立てた国、あるいは植民地から解放されて民主主義を手に入れた国と色々ありますから、その全てが全て同じようにはならないと思いますけれども、これは同時に民主主義とそれ以外の境界を曖昧にしてしまいます。


4.中国的民主の正体


今回の民主主義サミットのテーマの一つである「権威主義に対する防衛」をつかって、権威主義国家は民主主義国家ではないという一線を引くことは出来るかもしれませんけれども、その定義を明確にして、各国の共通理解にまで落とし込まなければ、中々うまくいかないかもしれません。

というのも中国は、自国こそが民主主義なのだと主張することで、民主主義サミットの意味を有耶無耶にするかのような戦略に出てきたように見えるからです。

12月5日、中国外交部はアメリカ民主主義の問題を指摘する文書を公表し、「アメリカの民主主義は『金権政治』に成り下がり、少数のエリートによって統治され、人種差別の問題も根深く、貧富の格差が広がっている」などと批判しています。

そして、その前日の4日には、国務院の新聞弁公室「中国的民主」と題された白書を発表しています。この白書は中国漢字2万語以上にも及ぶもので、前文で「民主は全人類に共通した価値であり、中国共産党と中国の人民が終始確固として維持する重要な理念だ……この100年の間、共産党は人民民主という旗を高く掲げてきた」と謳っています。

白書はおよそ次の5つのパートに分けて、中国の民主を解説しています。
(1)中国共産党が人民を指導し、全過程にわたる人民民主を実現
(2)科学的・効果的な制度の配置
(3)具体性を備えた現実的な民主実践
(4)広汎で本物の民主の効果的運用
(5)豊かな人類政治文明形態
白書では、中国民主の本質とは「人民民主」であり、「人民が国家の主人である」ことを核心とする、と謳ってはいるのですけれども、「中国のような大国では、14億人以上の人々の願いを真に表現し実現することは容易ではありません。強力で統一されたリーダーシップが必要です。中国共産党は常に人民中心の支配的地位を守り、人民を真に統治し、人民に依存して統治し、全体的な状況の指導的役割とすべての政党の調整を十分に発揮します」とし、

「人民民主専制の国体」は、中国人民が人民代表大会を通じて権利を行使し、中国共産党の指導の下、多党と協力することで、多党制の政治的弊害を効果的に回避することができる、としています。

つまり、国家の主人である人民を共産党が指導する、と言っている訳で、結局、「中国は共産党が支配する」ということです。

白書発表の場で、西側の記者が「米国の政治家は選挙で当選後、成果をあげなければ次に落選し排除されるが、中国の場合、人民が指導者に不満を持っても交代させる方法がないのでは?」と質問したのですけれども、これに対し、中国共産党・中央政策研究室の田培炎主任は、「アメリカの政治家は利益集団の代理人であり、有権者や国家利益を代表する者ではない。選挙のために適当な公約を言い、選挙後に公約を守らないことはよくあることだ……表面上、有権者の監督を受けているといっても、選挙に当選してしまえば有権者にはどうしようもない。ただ次の選挙を待つだけだ。投票のときだけ騒ぎ、投票後は休眠、選挙のときだけ調子のいいことを言って、選挙後は民主が取り残されているのであれば、そんなものは本当の民主ではない。中国人はそんなものは好まないし、必要としていない」と反論しました。

要するに、西側諸国の認識する「民主主義」など受け入れない、といっている訳です。

けれども、その「中国的民主」という"餃子の皮"を取ってしまえば、中から出てくるのは共産党の一党独裁専制国家です。これを忘れてはいけない。

従って、日本の民主主義サミットの取り組みとして、「民主主義を根付かせるために相手国に寄り添い共に歩むこと」を、中国に対して安易に進めても逆効果になるだけなのではないかと思います。

100%健全な民主主義などないのだとしても、出来る限りそこに向かう努力を続け、権威主義国家を遠ざけていく。それが大事なことなのではないかと思いますね。


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