崩壊した韓国の民主主義

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2021-12-12 204901.jpg


1.言論仲裁法改正案


K防疫が崩壊している韓国ですけれども、民主主義も崩壊に瀕しているという指摘も出ています。

12月10日、民主主義サミットに参加した文在寅大統領はビデオメッセージで、「今日、民主主義は民主主義内部から脅威を受けている」と指摘しました。

文大統領は、防疫対策と個人の自由との衝突、偽ニュースによる憎悪の拡散、自由競争により拡大する格差といった問題点を列挙し、「個人の自由と表現の自由は確固として保障するが、『全員のための自由』と調和しなければならない……偽ニュースから民主主義を守る自浄能力の強化……新型コロナウイルス対策で生じる格差の最小化」などを呼び掛けました。

表現の自由は保障するが、全員のための自由とも調和しないといけないという言い回しは、一見もっともに見えますけれども、そこには裏があるのではないかと見ています。

それは何かというと、韓国与党「共に民主党」が成立を狙う「言論仲裁法」の改正です。

言論仲裁法は、2005年に盧武鉉政権下で、虚偽報道による被害者を救済するため2005年に制定された法律のですけれども、これに「損害額の5倍を超えない罰金を科す」との条文を追加しメディアに懲罰的な罰金を科せるよう改正しようというものです。勿論、「損害額」の認定次第で、いくらでも罰金を課すことができます。

共に民主党は、この改正法案を可決・成立を目指していたのですけれども、野党は反発。9月29日に特別委員会を設定して再協議すると先送りしています。委員会の活動期限は12月31日までですから年内に話が纏まるかが一つのポイントだと思いますけれども、文大統領は「民主主義内部からの脅威」を口実にこの改正法案を可決させる後押しに使っているのではないかということです。


2.表現の自由を保護する国際法的基準に合わない


この改正法案には国内外からも批判の声があがりました。

今年9月、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)とイギリスに本部を置く人権団体「アーティクル19」と韓国の進歩ネットワークセンター、社団法人オープンネットの国内外の人権団体が言論仲裁法改正案に懸念を示す書簡を文在寅大統領と国会に送っています。

書簡では1990年に韓国が批准した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」19条を根拠に言論仲裁法改正案を具体的に批判。「過度な裁量権を許容する曖昧な法律は任意的な決定につながり、表現の自由を保護する国際法的基準にも合わない」と述べています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は特に、虚偽・捏造報道に被害額の最大5倍まで損害賠償を可能にした改正案第30条2と「虚偽・捏造報道」を定義した第2条17の3号を問題視。改正案に明示された「虚偽・捏造報道」に関する定義と「事実と誤認するよう操作した情報」という文言が曖昧で「国際法下で保護される意見や風刺、パロディを処罰するのに使用される可能性がある」とし、「報道機関が自己検閲を通じて訴訟誘発の可能性がある報道を回避することになる」とも指摘しています。

更に、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は文在寅政権に懸念を表明。世界新聞協会(WAN-IFRA)、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)、ソウル外信記者クラブ(SFCC)など、世界のメディア関連団体も法案の廃棄を求めています。

報道被害と認定するのは文化体育観光部という省庁の傘下にある言論委員会とのことですから、改定案が可決すれば、政府によるメディア支配が強まることは間違いありません。


3.韓国民主主義の崩壊


では、この改正法案に対し、国民から反対の声が上がっているかというと全然上がっていません。

世論調査機関リアルメーターが8月2日に発表した調査によると、改正案に56.5%が賛成し,反対の35.5%を大きく上回りました。また、韓国リサーチやエムブレインパブリックなど4つの世論調査会社が8月30日から3日間かけて行った調査でも、「メディアの自律性と編集権を侵害するなど、否定的な影響が大きい」として否定的な意見の人が46%、「フェイクニュースの抑止など、メディアの信頼度を高める前向きな影響が大きい」として肯定的な人が43%。「分からない・無回答」は11%で、賛否が拮抗しています。

これについて、韓国ウォッチャーの鈴置貴史氏は「韓国人のメディア不信は日本人と同様かそれ以上で、「記者(キジャ)」に「ごみ(スレギ)」を足した「キレギ」という表現がネット上で定着しています。日本語の『マスゴミ』に相当します。『キレギ』を憎む人々は、いい加減なことを書き散らすメディアは天文学的な罰金で懲らしめてやればいい、と考えるのです」と述べています。

鈴置氏は、1987年の「民主化」は本当の民主化だったのかと疑義を呈し、その本質は「政府が学生をいとも簡単に殺し、たわいもない政府批判さえ言うに言えない、陰鬱な空気への反発だったと思います」と指摘しています。そして「もう、拷問も検閲もなくなった。喫茶店で政治を語る時に後ろを振り返る必要もない。これで十分ではないか。『キレギ』の報道の自由など、自分とは関係ないと考える人が多いのでしょう」と指摘しています。

更に、鈴置氏は欧米の韓国専門家の間でも「韓国の民主主義の崩壊」が話題になっているとし、「台湾の民主主義が着実に進化しているのに、韓国で後退するのはなぜか」との議論も始まっていると述べています。

鈴置氏によると、韓国で民主主義が後退している理由とされる説には大きく次の3つがあるそうです。

儒教説:日本が統治するまで、韓国人は法治を軽視する儒教をベースに国を運営してきた。その発想が現在でも根強いため、法律をベースに運営される成熟した民主主義には到達しないのだ。

傲慢説:韓国人は「高度の民主化を実現した」と信じ込み、外の世界に広がる成熟した民主主義の存在に気付きもしない。

米国離れ説:1987年のクーデターで権力を握った全斗煥政権は民主化運動を弾圧したらアメリカから見はなされかねなかった。そこで不本意ながら民主化を宣言した。ところが今や、韓国人の多くは「米中を天秤にとって操る国力を備えた」と考えている。もう、民主化の後退による「見捨てられ」を心配する必要もない。

これら3つの説をみて筆者は、韓国は自身の歴史や社会に対する自己評価が高すぎるがあまり、それに安住している。たとえ一時的に変えたとしても、単に自分に都合がよいからそうしただけで、本質は変える必要はないと考えているのではないかという印象を受けました。

昨日のエントリー「民主主義の境界」で、国ごとに民主主義が違うと考えると民主主義とそれ以外の境界が曖昧になると述べましたけれども、民主主義サミットに参加した韓国の民主主義は、境界の中なのか、それとも外なのか。ちょっと微妙な感じですね。


4.韓国は民主主義の境界を超えるか


仮に韓国の民主主義が境界ギリギリまたは外にあるのであれば、隣国の中国に引き寄せられるのも無理からぬことです。

前述の鈴置氏は「韓国人が西欧型の成熟した民主主義を望まない以上、中国の台頭を恐れる心情も生まれません……韓国人が西欧型の民主主義を目指しているのなら、QUADに躊躇なく参加しているはずです。中国から圧力があろうと、自分の価値観を守るために必要なコストだからです……韓国が『離米従中』するのは地理的にも歴史的にも中国と近いという地政学的な原因に留まらない。『日本や欧米とはもはや、価値観が異なる』ことにも起因するのです。今後、韓国の民主主義が後退するほどに、中国への傾斜も増すでしょう」と指摘しています。実に納得できる指摘です。

この動きは民主主義サミットを主導したアメリカのバイデン政権にとっては看過できるものではありません。

11月18日、ロイターは「U.S.-China tech war clouds SK Hynix’s plan for a key chip factory」という記事を掲載しました。

これは、韓国の半導体メーカーのSKハイニックスが中国の無錫にある量産施設をオランダのASML社製の最新の極端紫外線リソグラフィチップ製造装置でアップグレードする計画を立てていたのをアメリカが拒絶したという内容です。

無錫工場は、SKハイニックスのDRAMチップの約半分(世界全体の15%)を製造しており、世界のエレクトロニクス産業にとって重要な役割を担っています。

けれども、バイデン政権は中国が米国および同盟国の技術を利用して、中国の軍事的近代化に役立つ最先端の半導体製造を開発するのを防ぐことに引き続き注力しているとし、懸念を示しているというのですね。

これについて、VLSIリサーチ社のダン・八チソンCEOは「EUVツールを中国に置く人は、中国に生産能力を与えることになる。一旦そこに置かれたら、その後はどこに行くかわからない。中国はいつでもそれを押収したり、やりたいことをやったりできるのだから」と述べ、アメリカの規制は外資系、国内系を問わず、中国におけるあらゆるチップ製造事業に適用されるだろうと付け加えています。

このようにアメリカは同盟国とともに中国をサプライチェーンから切り離そうとしているのですけれども、韓国がそれにすんなりと協力するとも思えません。少なくとも、文在寅政権のうちは、期待はできないでしょう。

となると、次の政権でどうなるかです。当然、アメリカは韓国に親米政権の樹立を望むでしょう。

選挙制度は民主主義であるためには必要不可欠なものですけれども、それが「言論仲裁法改正」によって、時の政府の意向に沿った報道しかされないようになってしまったら、選挙は形骸化し、自浄作用も働かなくなります。

韓国の民主主義がその境界を超えるのか否かは、米中対立。引いては米韓同盟の根幹にも繋がる話なのではないかと思いますね。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック