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1.中国軍の台湾上陸は困難
12月13日、台湾国防部は中国が台湾に軍隊を上陸させ、港や空港を占拠して台湾に全面的に侵攻することは、中国の兵士や物資の輸送能力を踏まえると難しいとする議会への報告書を発表しました。
報告では、中国の輸送能力は限られているため、全軍を一度に上陸させることはできず、港湾施設を使用する必要がある「非標準的な」ロールオン、ロールオフ船や空港を必要とする輸送航空機に頼らざるを得ないと指摘し、「しかし、港湾や空港は国軍が強力に防衛しており、短時間で占領することは容易ではない。上陸作戦は極めて高いリスクに直面することになる」と述べています。
そして、上陸部隊は台湾海峡を越えて武器、食料、医薬品を補給する必要があることから兵站の問題についても「国軍は台湾海峡を天然の堀として活用し、共産軍の補給を断ち、上陸部隊の戦闘力と耐久力を著しく低下させる共同迎撃作戦が可能である」と、その課題にも触れています。
そして「アメリカと日本の軍事基地は台湾の近くにあり、中国共産党の攻撃は必然的に厳しく監視され、さらに外国の軍事介入を防ぐために戦力を温存する必要がある」とし、更に、インドや南シナ海など、中国の国境にある他の紛争地域を監視するために、軍の一部を予備として維持する必要があることから、「台湾との戦いに全力を傾けるのは難しい」と述べています。
蔡英文総統は、台湾を攻撃しにくくするために、軍の近代化プログラムを監督し、軍の機動力を高め、攻撃部隊を破壊するための長距離ミサイルなどの精密兵器を提供しているのですけれども、専門家によれば、中国は完全な侵略をしなくても、封鎖や標的ミサイル攻撃など、台湾を屈服させるための他の手段を自由に使えると述べています。
2.中国の台湾進攻シナリオ
実際に中国と台湾の軍隊が激突した場合を想定し、結果を予測した詳細な研究は当然ながらあります。
中でも有名なものは、アメリカ・タフツ大学の政治学者マイケル・ベックリーによるものと、アメリカ・バージニア州アーリントンにある非営利研究機関「プロジェクト2049研究所」フェローのイアン・イーストン氏の著書『中国侵攻の脅威/台湾防衛とアジアにおけるアメリカの戦略』です。
それによると、中国側のシナリオは次のようなものです。
1)ミサイルによる先制攻撃。台湾の沿岸部にミサイルの雨を降らせる。標的は空軍基地や通信系統、レーダー設備、交通の要所、官公庁などこれらの研究は、人民解放軍の出した統計や訓練マニュアル、計画文書などを分析し、アメリカ国防総省と台湾国防部がそれぞれに行ったシミュレーションなどの情報も踏まえてのもので、それなりの裏付けがあるものとされています。
2)ひそかに台湾島内に潜伏していた中国側のスパイや特殊部隊が要人の暗殺作戦を開始。標的は蔡総統や民進党の幹部、閣僚、主要な言論人や科学者、技術者とその家族など
3)上記1)、2)により台湾空軍機の大部分を地上で破壊し、指揮系統を混乱させて制空権を確保し、台湾社会を麻痺させる
4)本格的な上陸作戦開始。何万隻もの船が動員され、総勢100万の部隊を乗せて台湾海峡を渡る。護衛の戦闘爆撃機も出撃する。
5)混乱し分断された台湾の兵士たちは、やがて弾薬も尽きて海岸から退却する
6)上陸した中国軍は海岸線に拠点を築き、さらに内陸部を目指す。
7)中国空軍機の空爆と、地上の侵攻部隊とで、孤立した台湾兵の残党を次々に敗走させる。上陸から1週間で台北を占領する。
8)2週間で戒厳令を発し、島全体をアメリカや日本からの反撃に備える前線基地とする
3.迎え撃つ台湾
この中国側の台湾軍事侵攻シナリオに対し、アメリカの外交専門誌「フォーリン・ポリシー」のタナー・グリーア記者は、前述の研究を下敷きに台湾はアメリカからの直接的な支援がなくても、攻めてきた中国軍を制圧できると反論しています。
その理由は次の通りです。
・台湾海峡を渡れるのは、1年のうち気象条件が良好な4月と10月の各4週間しかない。先制攻撃で台湾側の「意表を突く」のは至難の業だ。前述の中国側のシナリオと比べて遥かに現実的かつ具体的です。これと比べると先に述べた中国側のシナリオなど、たんなる机上演習にしか見えません。
・台湾の情報機関は中国本土に深く潜入している。戦闘開始の60日以上前に台湾だけでなく日米両国も警戒態勢に入る。最初のミサイルが発射される30日以上前に、警戒は確信に変わる。
・台湾進攻を事前に察知した台湾は、軍隊の主な施設を山間部のトンネルに移し、無防備な港湾から艦船を退避させる。中国側の工作員などと思しき者の身柄を拘束する。周辺海域に機雷を敷設する。地上部隊を島内各地に分散・偽装する。島全体に戦時体制を敷き、予備役165万人に武器を配る。
・台湾島の西部海岸で上陸作戦が可能と思える場所は13ヶ所しかない。その全てで、既に備えはできている。
・開戦間近となれば、どの海岸にも容赦ない防御網が築かれている。想定される上陸地点には地下トンネルが縦横に張り巡らされている。装備品などを隠すコンクリートの地下倉庫もある。浜辺から内陸部に通じる境界に沿った地面には鋭い葉先を持つ植物が茂る。海岸地帯には化学工場が多いので、無差別に爆撃すれば有毒ガスが拡散する恐れもある。
・台北に通じるルートは厳重に警戒されており、いざ非常事態となれば爆弾を仕掛けるなどして進撃を阻む用意ができている。
・高層ビルや岩山の間にワイヤを張り渡し、ヘリコプターを墜落させる仕掛けもある。トンネルや橋、高架道などには、ぎりぎりの段階で破壊できるように弾薬が仕掛けられる。建物が密集した都市部ではおのおのの建物が小さな要塞と化し、激しい市街戦が繰り広げられるだろう。
・あと数週間で戦闘開始ともなれば、台北からの電信送金が全面的に停止され、台湾企業で働く数百万の中国人への給与支給も止まる
・上陸部隊の集結する福建省福州に到着した頃には、当地の軍事施設はミサイル攻撃を受けて瓦礫の山だ。軍隊への信頼感が薄れていく。
・揚陸艦に乗り込んでからは、この日のために台湾側が用意した潜水艦が魚雷を撃ち込んでくるかもしれない。上空の戦闘機からアメリカ製の対艦ミサイルが飛んでくるかもしれない。内陸部の地下基地を飛び立ったF16戦闘機が接近してくる。
・海峡を渡ってきた艦隊の目前に、場所によっては幅13キロの帯のような機雷の海が広がる。
・岸に向かう最初の船は突如として海面から立ち上る炎の壁に行く手を阻まれる。炎は水面下に設置された数キロに及ぶ石油パイプラインから噴き出す。
・上陸後には「有刺鉄線、鉄条網、スパイクストリップ、地雷、対戦車障害物、竹槍、倒木、トラック、廃車になった車など」の障害物が1キロ以上にわたって配置されている。
・その先の進軍は苦難の連続だ。まず台湾軍の主力部隊、そして各地の都市やジャングルに散らばる165万人の予備役、地雷原やブービートラップ、瓦礫の山などが待ち受けている。
タナー記者は、90~91年の湾岸戦争を例に挙げ、「アメリカ主導の多国籍軍は8万8500トンの銃弾を使ったが、イラクの移動式ミサイル発射車両を1台も破壊できなかった。その後のコソボ紛争でも、NATO軍の78日間にわたる空爆は、セルビア側の移動式ミサイル発射装置22台のうち、3台を破壊したにすぎない」と述べ、中国空軍の攻撃の成功率が、これ以上に高いと考える理由はないと断じています。
4.中国進攻の聖域である台湾東部
台湾軍は歴史的に、台湾東部を中国軍の攻撃からの"聖域"としてきました。なぜかというと、中国福建省と向き合う台湾本島西部の海岸は、基本的に上陸作戦を実行しやすい平坦な地形であるのに対し、台湾本島東部地域は、中国からは遠いうえに、台湾本島の中央山脈は
3000m級の山脈を擁し、中国から「死角」となっていたからです。
更に、台湾本島東側の殆どは山裾が海岸線まで迫り、上陸作戦はが困難な険峻な地形です。
前述した「プロジェクト2049研究所」が出している「Hostile Harbors:Taiwan’s Ports and PLA Invasion Plans」というレポートで、侵略の可能性がある海岸を図示していますけれども、台湾本島北部と南西部の合わせて13ヶ所が挙げられています。
ただ、台湾本島北東部で唯一、宜蘭平原だけは大規模な着上陸作戦を実行できる海岸地形と大規模な上陸部隊を展開できるスペースがあり、妨害がなければ、台北市と宜蘭をつなぐ高速道路を利用して1時間強で中国軍陸上進攻部隊は台北まで殺到することが可能とのことです。
もっとも、それは台湾側も承知していて、台湾本島の東部海域から中国軍に進攻される危険性を予測し、毎年実施される軍事演習では、中国軍の宜蘭平原着上陸を想定して演習を実施したこともあります。
そんな中、昨今、噂されているのが東沙諸島(プラタス諸島)への軍事侵攻です。
5.台湾有事は離島から始まる
東沙諸島は主に東沙島と東沙環礁、南衛灘、北衛灘からなる円形の典型的な環礁です。東沙島は東西約2800メートル、南北865メートルの大きさで、面積にしてわずか1.74平方キロメートルしかないのですけれども、環礁水域の面積は約300平方キロ。環礁の北面外縁は広く、干潮時には水面に露出するそうです。
東沙諸島は、第2次世界大戦終結までは台湾の一部として日本が支配していましたけれども、敗戦後の1947年から中華民国が管轄するようになり、現在、台湾が実効支配しています。
東沙諸島は行政上、高雄市に属しているのですけれども、東沙島には淡水があり、樹木に覆われています。全長1550メートルの滑走路を有する東沙空港があり、道路も整備され、高雄市の市営バスも運行されています。現在は、高雄市や行政院海岸巡防署(沿岸警備隊)などの職員ら約200人が駐留しています。
また、地下壕も作られているものの、まったく平坦な地形で台湾本島の防衛とは事情は大きく異なります。
防衛省防衛研究所地域研究部長の門間理良氏は、中国軍がこの東沙島を狙っていると指摘しています。
というのも、東沙諸島は中国大陸から200km、香港から南東方向330km、台湾から南西に飛行機で1時間ほどの南シナ海にあるのですけれども、バシー海峡の西側と台湾海峡の南側に位置することから、中国がこの島を軍事基地化できれば2つの海峡に睨みを利かせられるとともに、平時における南シナ海北東海域のコントロールが容易になるからです。
東京外国語大学の小笠原欣幸教授は、中国が東沙島を奪取することで、次の4つのメリットがあると指摘しています。
・台湾と国際社会に対し中国の台湾統一の意志と力を見せつける。シドニーのマッコーリー大学で安全保障問題・犯罪学部門を率い台湾の防衛政策を研究しているベン・シュリア教授は「中国が離島の1つを占領しようとしているという深刻な可能性がある……それが起きれば国際社会は何をするだろうか。アメリカはどうするだろうか」と問い掛けていますけれども、もしも東沙島に中国が軍事侵攻したとしてもアメリカおよび日本が何もしなければ、南シナ海の人工島よろしく、そのまま領有権を主張。既成事実化することになる可能性は非常に高い。
・東沙島を軍事基地化し南シナ海の入口を固めることができる。
・バイデン政権の出鼻を挫いてから、地球温暖化対策や貿易の国際ルール作りなどで協力姿勢をみせ、東沙島占領を既成事実化する。
・「台湾統一が近づいている」という宣伝戦を内外で展開して事態を動かす。
台湾危機は離島から始まるという意識はしっかりと持っているべきではないかと思いますね。
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