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1.ロシアのウクライナ侵略懸念
12月8日、アメリカのバイデン大統領は、ロシアが国境周辺に軍を集め緊張が高まるウクライナ情勢について、ロシアが侵攻した場合にアメリカ軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べ、「アメリカが一方的に武力を使用してロシアのウクライナ侵略に対抗するという考えは予想できることではない。われわれはNATO同盟国に道徳的義務と法的義務があるが、その義務はウクライナにまで及ばない」と派兵を否定しました。またその一方で「一度も見たことのない深刻な経済制裁」を警告しました。
バイデン大統領とプーチン大統領は前日の7日、2時間にわたりビデオでの首脳会談を行っています。
会談は、無論、ロシアがウクライナの東側国境に沿って大幅に軍を増強させていることを受けたもので、この地域の緊張を緩和させるのが目的です。
プーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目論むウクライナ政府が挑発していると非難し、北大西洋条約機構(NATO)の東方への勢力拡大と、ロシア周辺への攻撃用兵器の配備を行わない保証を求めていました。
今回のバイデン大統領の発言は、この時のプーチン大統領の要求を一部飲んだ結果だと見ることもできるかと思います。
アメリカ情報当局によるとロシアは最近ウクライナ東部・南部・北部国境地域にロシア軍10万人を配置したとし、ワシントン・ポスト紙はロシアが早ければ来年初めにも17万5000人の兵力を動員してウクライナへの軍事攻撃を準備するだろうと報道しています。
同じく、ウクライナ政府関係者も、ロシアが来年1月末に大規模侵攻を計画しているかもしれないと警戒を強めていますけれども、アメリカ政府関係者は、プーチン大統領が侵攻を決断したかどうかはまだ明らかではないとしています。
2.ウクライナのNATO加盟阻止
ロシアの動きの意図については様々な観測が出ています。
その一つにウクライナのNATO加盟阻止というものがあります。
12月10日、ロシア外務省は声明で、NATOがウクライナとジョージアを将来的に加盟国に迎えるとの合意を取り消すことや、ロシアとの国境付近での軍事演習中止などを求める意向を明らかにしています。
地図をみれば明らかなとおり、黒海の北に位置するウクライナと黒海とカスピ海に挟まれたジョージアはロシア西部と国境を接しています。もし、これらの国がNATOに加盟すれば安全保障上の脅威となり得えます。それゆえにNATOに加盟させないために武力で威嚇しているという分析です。
ウクライナのNATO加盟については、過去を振り返れば2008年のNATO首脳会議で当時アメリカのブッシュ大統領がウクライナとジョージアのNATO加盟を促進する具体的なロードマップを提案しました。その時はフランスとドイツが「ロシアを不必要に刺激する」として反対し、結果、NATO首脳宣言文には具体的時期には言及せずに「加盟」だけが記されました。
従って、ロシアがウクライナをNATOに加盟させるなと、アメリカに要求することは、まったく筋がないわけでもありません。
その他の観測としては、プーチン大統領がアメリカの関心を引こうとしているというものもあります。
イギリスのエコノミスト紙は4月にロシアが戦力増強を試みると6月にジュネーブでバイデン大統領とプーチン大統領の初の首脳会談が開かれ、今回もまた戦力を集結させるとオンライン首脳会談が行われた点に注目。プーチン大統領が武力示威を試みるたびにアメリカとの交渉テーブルが整えられたと分析しています。
トランプ政権でウクライナ担当特別代表を務めたカート・ボルカー氏は「プーチン大統領が頭の中に描く特定の最終状態はないだろう、権力の地位を創出し、機会を作ってそれを利用することを望むもの」とコメントしています。
3.中国が台湾を侵攻しても米軍は出てこない
緊迫するウクライナ情勢について、ワシントン・ポスト紙は「ロシアが自国領土と見なすウクライナを占領する場合、中国の台湾に対する類似の措置もやはり大胆になりえる」と指摘しています。
というのも、ロシアがウクライナに侵攻すれば、欧米は対ロシアにも備えなければならなくなり、南シナ海、東シナ海における対中抑止力は低下します。それに加えてアメリカがウクライナに派兵もしないとなれば、台湾を軍事侵攻してもアメリカは何もしないのではないかという推測が成り立つからです。
これについて、ジャーナリストの長谷川幸洋氏は「中国が台湾に侵攻しても、米軍は出てこない可能性が高い」と述べています。その理由は次の3つ。
・シミュレーションで米軍が勝ったことがない筆者は12月16日のエントリー「台湾有事は離島から始まる」で中国の台湾進攻は離島から行うのではないかと述べたことがありますけれども、長谷川氏がいう1番目の「シミュレーションで米軍が勝ったことがない」というのは、おそらくこの離島防衛のことではないかと思われます。
・台湾問題で米国人の死者が出たわけではない
・アフガニスタンから撤退したばかりの米国は、戦争疲れしている
10月26日、アメリカのシンクタンク「新アメリカ安全保障センター」が2025年に中国軍が、台湾南西の東沙諸島に攻め込み占領するシナリオでシミュレーションを行ったところ、アメリカと台湾側にとって「中国に東沙諸島を放棄させ、原状を回復するための選択肢はほとんど見つからなかった」とし、経済制裁などは時間がかかりすぎ、積極的な軍事対応を取れば、望まない戦争へとエスカレートする危険があったと発表しています。
4.台湾有事は日本有事発言はアメリカを牽制していた
台湾にとって有事にアメリカ軍が出て来てくれるかというのは、国家存亡に関わる重要な事です。果たしてアメリカが本気で台湾を守ってくれるのかについて、気になる報道があります。先日行われた民主主義サミットです。
12月10日、民主主義サミット最終日のパネル討論会中に、台湾の唐鳳(オードリー・タン)政務委員の説明スライド動画から画像が消され、音声だけになる"事件"がありました。
消されたのは、南アフリカの非政府組織(NGO)の国ごとの市民の権利の開放度を示す世界地図で、台湾が人民の権利で「開放的」を示す緑色だった一方、中国はアジア地域ではラオスやベトナム、北朝鮮と並んで「閉鎖的」を示す赤色となっていました。市民の権利の開放度で区分した結果、必然的に、台湾と中国が違う色で塗られていた訳です。
ある関係者はアメリカの当局者らはこの地図に肝をつぶし、ホワイトハウスの要請で約1分後に映らなくなったと話しています。
なんでも、地図が画面に出た途端、アメリカ当局者の間で電子メールが飛び交い、国家安全保障会議(NSC)の担当者は怒って国務省に連絡を入れ、台湾が個別の国であることを示しているように見えるとの懸念を伝えたのだそうです。アメリカ政府は台湾当局に苦情を伝えたものの、逆に台湾側は、画像が消されたことに怒り心頭だったとのことです。
この事件について、アメリカ国務省はスクリーンの共有で「混乱」があったため映像だけ消されとし「単なる手違い」とコメントしました。また、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)の報道官も「ホワイトハウスがタン氏の動画遮断を一切指示していない」と述べ、画面共有を巡る混乱が原因だとして民主主義サミットのウェブサイトで全映像を視聴できると説明しました。
けれども傍からみればただの「言い訳」にしか聞こえません。
一方、台湾外交部は「技術的問題」と指摘し、タン氏のプレゼン資料は前もってアメリカ側に提供していると説明。「台湾とアメリカはこの技術的問題について、完全な情報交換を行っており、双方は強固な相互信頼、強固で友好的な関係を有している」と"大人"のコメントをしていますけれども、アメリカに対する不信感が生まれたことは否定できないと思います。
これについて、張陽チャンネルの張陽氏はアメリカメディアの報道を引きながら、先のアフガン撤退で失敗したアメリカは、同盟国の中で疑われるようになった自身のリーダーシップを挽回するために、今回の民主主義サミットを利用したのではないか、台湾は中国を牽制するために只のカードとして使っているのではないか、と指摘しています。
そして、先日、安倍元総理が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟有事だ」という発言は、中国よりもアメリカを牽制する意味合いがあるのではないかと付け加えています。
確かにそんな気もしてきます。
先日のアフガン撤退で、同盟国の信頼が揺らぎ、それを取り戻そうとして、民主主義サミットをやったら、更に同盟国から疑いの目を向けられるとなれば、やることなすこと裏目です。
バイデン大統領が同盟国にとっても"逆神"だとはいいませんけれども、それだけに安倍元総理の発言は重要であり、ある意味、日本と台湾の安全保障にとっての"重し"になっているかもしれないという見方はどこかに持っておいてもよいのではないかと思いますね。
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