岸田総理の北京五輪への政府関係者派遣見送り発言について

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2021-12-24 073301.jpg


1.政府関係者の派遣見送りを表明した岸田総理


12月24日午後5時頃、岸田総理は北京冬季五輪に閣僚など、政府関係者の派遣を見送ることを正式に発表しました。

岸田総理は「自由、基本的人権の尊重、法の支配、こうした普遍的価値について、中国においても保障されることが重要である。総合的に勘案し、適宜自ら判断を行った」と述べ、「ボイコット云々の話があったが、政府として特定の名称を用いることは考えていない」と日本が自ら判断したと強調しています。

北京冬季五輪へは、一時取り沙汰された室伏広治スポーツ庁長官も派遣せず、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長や日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長らにとどめるとのことで、事実上の外交ボイコットだと見られています。

この"事実上"の外交ボイコットについては、松野官房長官もこの日の午前の記者会見で表明していたのですけれども、アメリカでも大統領報道官が対応を説明しているのに対して、岸田総理も自ら表明しています。外務省幹部によると「首脳が表明するケースは珍しい」のだそうです。

ただ、岸田総理にしても、松野官房長官にしても"ボイコット"という言葉を使いませんでした。岸田総理が「特定の名称は使わない」と述べていることを考えると、日本は、建前としては「外交ボイコット」ではない、というスタンスを取ったということになります。

この日の前日夕方、岸田総理は自ら衆院議員会館の安倍晋三元総理の事務所を訪れ、安倍元総理と約25分間会談しています。関係者によると、安倍元総理は、北京冬季五輪への対応に関する自身の考えを伝えたようですけれども、今回の事実上の外交ボイコットについて「国際社会における同志国の戦列に加わることができた……新疆ウイグル自治区などにおける人権侵害状況に鑑み、五輪・パラリンピック出席について政治的メッセージを出すべきだと考えてきた……いずれかの段階でメッセージが出されるものと理解していたが、年内に明確なメッセージが出されたことは良かったと思う」と評価しているところを見ると、岸田総理はそれなりに根回しをした上で表明をしたのだと見てよいかと思います。




2.ここまで岸田政権が愚かとは思わなかった


年末も押し迫ったこの時期での事実上の外交ボイコット表明については、当然批判の声もあります。

ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、岸田総理が総理就任後2ヶ月半を過ぎても、対面による日米首脳会談がセットされないことを問題視し、その理由を「岸田政権に対するアメリカの不信感だ」と述べています。

アメリカは、岸田総理が「中国の人権弾圧について何を語るか」を見極めて、首脳会談の扱いを決める腹なのだと指摘する長谷川氏は、アメリカの疑心暗鬼を招くような岸田政権の姿勢は、もはや「国益に反する」と断じています。

長谷川氏は「もしも、来年の通常国会が始まる1月中旬までに日米首脳会談が実現しないとなると、一大事である。国会開会中の首相訪米は考えにくいので、5月の連休まで先延ばしせざるを得なくなる。北京冬季五輪はその前の2月20日に閉幕する。その直後が危ない」と警告し、中国に甘い顔をした岸田政権の宥和姿勢は、世界の大激動を招いてしまうかもしれず、「ここまで岸田政権が愚かとは思わなかった」と手厳しく批判しています。


3.旗幟鮮明にすることが国益にかなうとは必ずしも思わない


一方、岸田総理のこの姿勢を評価する界隈もあります。経済界です。

12月20日、経団連の十倉雅和会長は、「国益を考えて落としどころを探って、それが『曖昧だ』と言われても良いと思う。戦略の問題だ」と語り、24日には、経済同友会の桜田謙悟代表幹事が「旗幟鮮明にすることが国益にかなうとは必ずしも思わない……ボイコットと言っているわけではなく、人権問題があるので五輪については憂慮しているとか、参加について慎重に考えざるを得ないということも一切言っていないという点で良い判断をした」と評価しています。

今のところ、経済界は静観を決め込んでいます。

国際オリンピック委員会(IOC)の最上位スポンサーにはトヨタ自動車とパナソニック、ブリヂストンが名を連ねていますけれども、各社とも人権方針を掲げ、強制労働や児童労働を認めず、人権尊重の姿勢を鮮明にする一方で、スポンサーを降板するなどの対応についてコメントはしていない。こちらもボイコットするとは表明もしなければ、態度でも示していない訳です。

12月21日、経団連と中国国際経済交流センター(CCIEE)は、第7回日中企業家及び元政府高官対話をオンラインで開催し、「双方は、本年10月に開催された岸田総理と習近平国家主席の電話会談を歓迎するとともに、来年迎える日中国交正常化50周年に際し、次の50年に向け、新たな時代にふさわしい建設的かつ安定的な日中関係構築に然るべき貢献をしていくことで一致した」との共同声明を発表しました。

共同声明には「双方は、コロナによって傷んだ世界経済の回復には、自由で開かれた国際経済秩序の再構築、強靱かつ安定的なサプライチェーンの確保、知的財産権の保護、経済政策の予見可能性の維持が不可欠であること、そして、信頼性のあるデータ流通の実現が必要であることを確認した」と記されており、これを見る限り、日本企業が北京五輪のボイコットは、おろかサプライチェーンから中国を切り離すなど夢々思ってなどいないことが分かります。

まぁ、日本企業にとって中国は重要市場であるだけに、米中対立に巻き込まれないよう慎重になっているのではないかと思いますけれども、それが世界に通じるかどうかは分かりません。


4.約束した内容を日本側が実行に移すよう望んでいる


筆者は、12月18日のエントリー「台湾は中国の一部ではない」で、日本が北京冬季五輪をボイコットするなら中国国内の邦人企業に制裁を加えると脅しているという話があることを紹介しましたけれども、今回の岸田総理の事実上の外交ボイコット表明を聞いたとき、「中国と水面下での話し合いがついたのだな」と直感的に思いました。

なぜなら、事実上の外交ボイコットに対する日中双方のコメントが符号しているからです。

12月24日、中国外交部の趙立堅報道官は定例記者会見で、記者の質問に答えた際、「中国側は日本オリンピック委員会などの関係者と日本選手が北京冬季五輪・パラリンピックに参加することを歓迎する。日本政府の態度表明に注視しており、『中日両国は互いの五輪開催を支持し合い、スポーツを政治化しない』と約束した内容を日本側が実行に移すよう望んでいる……中国側は各方面と共に、より団結をという五輪精神を実践し、世界に向けて簡素で、安全で、素晴らしい大会を実施できるものと自信を持っている」と述べています。

日本オリンピック委員会などの関係者と日本選手が北京冬季五輪に参加することを「歓迎」し、「スポーツを政治化しない」と"約束"した内容を日本側が実行することを望む、です。

筆者には、まるで、答え合わせになっているかのような発言に聞こえます。

つまり、日本は中国と水面下交渉で、政府関係者は派遣しないが、日本政府としては「スポーツを政治化しない」、つまり「外交ボイコット」とは決して表明しないし、そう扱わないと約束したのではないかということです。

更に、中国は、その"約束"を反故にされることがないように、外交ボイコットではないという宣言を、下っ端ではなく、日本のトップ、すなわち岸田総理自ら表明せよ、と要求したのではないかとさえ。

そう考えると岸田総理みずから「ボイコット云々の話があったが、政府として特定の名称を用いることは考えていない」と発言したことも辻褄が合うように思います。

また、この中国報道官の会見は日本時間午後4時頃と岸田総理の表明直前であったことを考えると、「日本政府の態度表明に注視しており」との文言は、岸田総理が「外交ボイコットではない」と表明するのかを「注視」していると釘を刺したとも見ることが出来るようにも思います。

一方、中国は日本にその約束と引き換えに、中国国内の邦人企業に制裁を加えることを止め、日中企業家及び元政府高官対話を行い、共同声明を出したのではないかという訳です。




5.日米首脳会談実現が一つの目安


仮に、この推測通りだったとしても、世界からは"米中二股外交"と見做される危険があります。

12月23日、自民党外交部会の佐藤正久部会長は外交調査会との合同会議で、「外交ボイコット」に関し、「『米中二股外交』『こうもり外交』とのやゆが出てくることを避けるためにも早く態度を表明すべきだ」と主張し、外交ボイコットに踏み切ることを早期に決めるよう政府に要請することを決定していました。

岸田総理は翌日に、事実上の外交ボイコットを表明した訳ですけれども、建前上は「外交ボイコット」ではない形を取っています。

ただ、これが世界に理解されるのかどうか。

先に取り上げたジャーナリストの長谷川幸洋氏は、来年の通常国会が始まる1月中旬までに日米首脳会談が実現しなければ一大事だと指摘していますけれども、筆者もこれがどうなるかが一つの目安になるのではないかと思います。

もし、1月中旬までに日米首脳会談が実現すれば、今回の日本の対応も一応の了解を得たと見做せるのではないかと思いますけれども、それでも一定の不信感が残る可能性はあります。

果たして、岸田政権の外交舵取りが吉とでるのか凶と出るのか。まだ予断は許さないと思いますね。

※12:20追伸 こんな報道でてきました。やはりアメリカは許さないようですね。



  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック