

1.日米外務・防衛閣僚オンライン会合
来月7日にアメリカで開催予定だった外務・防衛閣僚会合「2+2」がオンライン形式での開催に変更されることが明らかになりました。
日米「2+2」については、今年3月に東京都内で開催されたのに続いて、年内にもう一度、実施する方向で検討が進められていたのですけれども、日米両国の政治日程から年内の開催が難しくなったため、林外相と岸防衛相が年明けにアメリカを訪問し、来月7日に行う方向で調整が進められていました。
これが突然のオンライン会談となった訳です。
政府関係者によれば、「2+2」がオンライン会談になったことを受け、岸防衛相の訪米は見送られる方向となりました。ただ、林外相は来月4日からニューヨークの国連本部で開かれる核拡散防止条約(NPT再検討会議)への出席にむけ、ぎりぎりまで調整を進めると報じられています。
岸田総理は来月17日の通常国会までに訪米し、バイデン大統領との会談を目指していると言われていますけれども、複数の政府関係者によると「オミクロン株の影響で相当厳しい」との見通しを示しているほか、アメリカ側からも「バイデン大統領も高齢のため避けた方がいいのではないか」との意向が伝えられているようです。
そもそも、首脳会談前の露払いにあたる「2+2」がオンラインになったのですから、この時点で対面での日米首脳会談はほぼ無くなったとみてよいのではないかと思います。
やはり、北京冬季五輪に対して明確に「外交ボイコット」と公言できなかったことなど、バイデン政権側から、岸田政権に一定の不信感が持たれているからではないかと思います。
2.新たな日米共同作戦計画
それでも「2+2」そのものがキャンセルにならなかったのは、勿論、行う必要があるからです。
複数の日本政府関係者によると、自衛隊とアメリカ軍が、台湾有事を想定した新たな日米共同作戦計画の原案を策定したことが分かったと報じられています。
これは、台湾有事の緊迫度が高まった初動段階で、九州から台湾まで続く南西諸島にアメリカが臨時基地を設置して海兵隊を投入するというものです。
臨時基地には高機動の砲兵ロケットシステムを配備し、自衛隊は弾薬や燃料などの補給を担当。後方支援も行うとしています。
この計画を年明けの「2+2」で正式な計画策定に向けた作業開始に合意する見通しだと報じられています。
台湾有事が迫っているとされる中、流石に日本にとっての安全保障に直結する事項は先延ばしには出来ません。
3.遠征前進基地作戦
今年4月、アメリカ海兵隊のデイヴィッド・バーガー司令官は、『フォース・デザイン2030:年次改訂版(Force Design 2030 Annual Update)』を発表しました。
これは1年前に公表された改編構想をアップデートしたもので、海兵隊の将来像をより具体化したものです。
この中で、アメリカ海兵隊が従来の強襲揚陸作戦による戦力投射から脱却し、対艦ミサイルを含む分散型拠点を一時的に敵対勢力の影響下にある海域内の島嶼や沿岸部に前進配備することによって、海軍のシーコントロールを図るという作戦構想の転換を図っています。
この分散型拠点を前進配備するという作戦は「遠征前進基地作戦(EABO: Expeditionary Advanced Base Operation)」と呼ばれ、それを実現する部隊として「海兵沿岸連隊(MLR: Marine Littoral Regiment)」を配置するとしています。
従来の強襲揚陸作戦が海上・航空優勢を獲得してから行われるのに対し、遠征前進基地作戦(EABO)は、海上・航空優勢獲得のために作戦する艦隊をサポートするもので、拮抗する敵対勢力が存在する中での作戦行動となります。
そのため、海兵隊が一時的に小規模かつ分散した拠点を前進させることが主眼となり、その拠点は、対艦火力、局地防空、航空燃料・弾薬の再補給に必要な能力を有し、かつ、迅速に展開できる機動性に富んだものとなります。
そして、海兵沿岸連隊(MLR: Marine Littoral Regiment)は遠征前進基地作戦(EABO)を実現するために特化された部隊です。
現存する3個海兵連隊を改編してハワイ、沖縄及びグアムに配置するものとみられています。
それぞれの海兵沿岸連隊は歩兵大隊及び長射程対艦ミサイル中隊を基幹とする沿岸戦闘団(Littoral Combat Team: LCT)を中心とし、防空、対空監視警戒、航空燃料・弾薬再補給を任務とする沿岸防空大隊(Littoral Anti-Air Battalion)及び兵站大隊(Combat Logistics Battalion)から編成されます。
報道によれば、2022年までに仮編成を完結、実際の部隊活動などを通じて検証を進めつつ、続く2個連隊を改編していく計画とされています。
一方、陸自も近年、南西地域の防衛態勢整備に注力。2016年に与那国島に警戒監視のための部隊を新編したのに続き、奄美大島と宮古島に新たな部隊を配置、現在も石垣島での部隊新編の準備を進めています。
特に奄美大島と宮古島に配置された部隊は、それぞれ中隊規模の歩兵部隊、地対艦ミサイル部隊及び地対空ミサイル部隊で、海兵隊ほどの機動力はないものの、その戦闘力と機能は海兵沿岸連隊と同じ質を持っています。
更に、これら部隊を事前に島嶼部に配置することで、有事における後続部隊の来援を容易にする効果もあります。
このように陸自の動きもアメリカ軍の遠征前進基地作戦(EABO)構想とリンクしているのではないかと思います。

4.高機動ロケット砲システム「HIMARS」
今回の計画では、アメリカ海兵隊が設置する臨時基地には高機動砲兵ロケットシステムを配備するとしていますけれども、これは長射程の阻止砲撃用としてアメリカ陸軍が開発した装輪式自走多連装ロケット砲(High Mobility Artillery Rocket System:HIMARS)のことと思われます。
HIMARSは、1980年代初頭にロッキードマーチン社を中心に、米・英・仏・独・伊5カ国で共同開発された地対地ロケット弾システムである多連装ロケットシステム(MLRS:Multiple Launch Rocket System)の小型版として主にアメリカ軍の緊急展開部隊である空挺部隊と海兵隊、迅速な輸送で集中的な運用が可能な軽歩兵師団に配備されています。
HIMARSは、タイヤで移動するいわゆる装輪式車両で、車体後部にはロケット弾の発射装置が設けられています。この発射装置には、射程数十kmのGPS誘導ロケット弾「GMLRS」6発や、数百kmもの射程を有する「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)」1発を搭載することができます。
HIMARSの最大の特徴はその展開能力の高さで、自力で長距離を走破できることはもちろん、車体重量が軽いためにC-130をはじめとする各種輸送機によって空輸することもできます。
この空輸によって、例えば島嶼部など陸路では到達できないような場所にも速やかに展開できるという特徴も持っています。
更にHIMARSの展開は陸地だけではありません。船の上でも運用できます。
2017年10月にアメリカのカリフォルニア州沖で実施されたアメリカ海軍と海兵隊の合同演習である「ドーンブリッツ」では、輸送艦「アンカレッジ」の飛行甲板上から海兵隊のHIMARSがロケット弾を発射し、約70km先の地上標的に命中させています。
ですから、海自護衛艦「ひゅうが」や「いずも」の格納庫の片隅にでもHIMARSを載せておけば、飛行甲板を使わないときに、HIMARSを出してやれば簡易ミサイル艦に化けることも可能になるという訳です。

5.最前線の楽園
陸自は与那国島に警戒監視のための部隊を新編したのに続き、奄美大島と宮古島に新たな部隊を配置、現在、石垣島での部隊新編の準備を進めていると先述しましたけれども、防衛省は2022年度末に陸上自衛隊のミサイル部隊を配備する予定です。
新たに常駐するのは、地対艦・地対空ミサイルの運用部隊と、武力攻撃や大規模災害への初動対応を担う警備部隊の計500~600人規模の部隊で、駐屯地は石垣市の市街地から離れた島内のゴルフ場跡地などに作り、隊舎や弾薬庫、訓練場なども設けるとしています。
この計画について、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「The Island Paradise Near the Front Line of Tensions Over Taiwan」という記事を掲載しています。
記事では、「少し前まで日本は、領土問題や第二次世界大戦の遺産、貿易問題などで緊張が高まることがあっても、中国を主に経済的な機会としてとらえていた。北京が国家安全保障に深刻な脅威をもたらすという考えは、主に右派の先入観に基づくものだった」という考え方が変化したと述べています。
そして、この変化について、神奈川大学で日本の外交・安全保障政策を研究するコリー・ウォレス助教授による「政治的見解の変化は、日本が長年にわたり文化的、経済的、安全保障上の利益を共有してきた台湾の問題で特に顕著だ」との指摘を紹介しています。
6.時代遅れの琉球新報
12月25日、今回の台湾有事を想定した新たな日米共同作戦計画について、琉球新報は「台湾有事日米共同作戦 『軍の暴走』は認められない」という社説を掲載しました。
その内容は次のとおり。
・台湾有事が起きれば米軍が台湾軍を支援するため、米軍基地が集中する沖縄が巻き込まれる。いつものあっち系のロジックです。琉球新報が嫌がることは中国が嫌がっていることでしょうから、この計画は非常に効果があるとみてよいのではないかと思います。
・自衛隊が後方支援などを行えば、必然的に自衛隊基地も攻撃対象となる。
・軍隊は住民を守らない。
・他国の戦争への介入は明らかな憲法違反だ。
・自国を戦場にする愚を犯してはならない。
・日本政府は、有事を起こさせない真剣な外交に全力を傾注すべきだ。
けれども、先述したニューヨークタイムズ紙の記事と比べると、日本の中国に対する見方が変化しているとしたニューヨークタイムズ紙に対し、琉球新報は、戦争に巻き込まれる論とか、本土は沖縄なんてどうでもいいと思っている論で、視野の広さの違いが浮き彫りになっています。
世論の変化は選挙となって現れます。先の衆院選でも自民は前回2017年の衆院選から1議席増やし、「オール沖縄」との勢力図が2対2と同数になっています。
今後、琉球新報のような見方はどんどん時代遅れとなり、それが表にも見えてくるようになるのではないかと思いますね。
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