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1.率直にいって相当遅れている
12月25日、ロバート・エイブラムス前在韓米軍司令官がボイス・オブ・アメリカ(VOA)の放送に出演し、戦時作戦統制権(戦作権)転換に否定的な見方を示しました。
戦時作戦統制権とは、その名の通り、戦争時に軍隊の作戦を指揮する権限ですけれども、韓国の戦時作戦統制権は朝鮮戦争が勃発した1950年以来、国連軍司令官や在韓米軍司令官が掌握していました。予定では、2020年代半ばに韓国に返還されることになっています。
このボイス・オブ・アメリカ(VOA)の放送で、戦作権転換のための要件を尋ねられたロバート・エイブラムス前在韓米軍司令官は「韓国が戦略打撃能力を取得し、韓国型統合空中ミサイル防衛体系を開発して配備しなければいけない……これは率直にいって相当遅れている……私は2019年まで大きな進展はないと評価した。実際、私は何度か明らかにした……2019年、同盟は以前の3年を合わせたものより大きく進展した。核心要素は重要な軍事的力量を習得することだ」と答えました。
そして、エイブラムス氏は作戦計画の最新化のための新しい戦略企画指針(SPG)の承認に関連し、北朝鮮の脅威と共に中国の浮上を指摘しています。
エイブラムス氏は「中国共産党の統制と指揮を受ける人民解放軍がある。2010年以降、朝鮮半島とその周辺で中国がその存在感を大きく強めたことはよく知られている……過去3年間に中国が韓国防空識別圏を侵犯した事例は300%増え、北方限界線(NLL)に沿って違法操業をする中国漁船の増加も目撃している……これらすべてのものは作戦計画で扱わなければいけない……現在の戦略計画指針にはない内容だ」と指摘しました。
この3年で、北朝鮮だけでなく中国の脅威が浮上してきているにも関わらず、現在の戦略計画の指針には入っていないというのですね。
2.文在寅の夢潰える
韓国政府は戦時作戦統制権の移管について、来年までに韓国軍が主導する「未来連合司令部」の運用能力に対する第2、3段階の検証をすべて終える計画を立てていました。
未来連合司令部の運用検証は、戦時を仮定したシミュレーションを通じて、韓国軍が初期対応、全面戦争、反撃などの状況に応じて、作戦、情報 軍需、通信の4分野の指揮システムを運用できるか評価することになっていました。
韓国政府は、今年の合同軍事演習で、第2段階の完全運用能力(FOC)の検証が武漢ウイルスの影響で行えなかったことから、韓国政府は今年できなかった第2段階検証を最終の第3段階の完全任務遂行能力(FMC)検証と共に来年に実施することをアメリカに求めていました。
ところが10月14日に行われた米韓安保協議会議(SCM)で、アメリカは来年に第2段階の検証すら行うことは難しいと通達していました。
何でも国防部関係者によると「韓米間で、『第2段階検証を来年できる』、『いや、できない』と押し問答があり、引き続き協議を行うことを決めた」という状況だったそうです。
文大統領は「自主国防」を掲げ、任期中に戦時作戦統制権をアメリカ軍から韓国軍に取り戻すことを目標にしてきたのですけれども、その実現は、ほぼ不可能となった訳です。
3.泥仕合の大統領選
となると、焦点は次の大統領ということになるのですけれども、来年3月の韓国大統領選は早くもグダグダです。
世論調査会社サザンポストがCBSの依頼で今月24日から25日までの2日間、全国満18歳以上男女1010人を対象に電話面接調査を実施した結果、来年3月の大統領選挙で李在明(イ・ジェミョン)候補の支持率は36.6%、尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補は27.7%。続いて、アン・チョルス候補4.1%、シム・サンジョン候補3.9%の順でした。
また、17~19日に掛けて行われた韓国リサーチとKBSの世論調査でも、李候補の支持率は33.7%、尹候補は34.2%で両候補とも35%を割っています。
両候補の好感度では、李候補の好感度は39.3%、尹候補も好感度は38.0%であるのに対し、非好感度となると李候補は59.1%、尹候補は60.5%に達しています。
李候補は、大庄洞(テジャンドン)開発スキャンダルと息子の違法賭博疑惑を抱え、尹候補は妻の経歴詐称疑惑があり、互いにネガティブキャンペーンをするなど、泥仕合の様相を呈しています。
両候補ともに非好感度が好感度を大きく上回っているのは、この互いの批判合戦が影響しているものと思われます。
そんな中、李候補は、文在寅大統領との違いを強調し始めています。
12月25日、李候補は聯合ニュースTVに出演し、「文大統領がクリーンに行政をするというのは国民が認めた」としながらも「いくつかの事件のため国民は公正性に若干の疑問を持つ……クリーン、公正性、実力、この3つをすべて備えてこそ本当に立派な政治家」と批判しました。
そして、李候補は自身のアイデンティティーについて「総量で見ると、私は保守色がもっと多いようだ……進歩政党と見るのは難しく、中道保守に近い……速度が速いため進歩のように見えたりするが、私が主に話すことは『法に基づいてしよう、公正にして信頼が可能な社会を作ろう』だ……私はもともと企業寄りの人間……今までは専門官僚が『これをしろ、あれをしろ』と決めたが、そのようにできない。規制の転換と大々的な投資を通して経済が成長する道に行きたい」と強調しました。
そして翌26日、李候補はKBSに出演し、「国民の生活と国政遂行にプラスになるのなら陣営を分けずに最大限に有能な人を使わなければいけない。内閣も我々の陣営にいる人の中から選べば人が不足して問題が生じた」と、文政権が批判を受けてきた「回転ドア人事」を批判してみせました。
このように李候補が文大統領との差別化をし始めたことについて、「与党内部の分裂にある程度の収拾がついた」と判断しているのではないかと見られているようです。
12月26日、韓国与党の共に民主党は、同党離党者が結成した開かれた民主党との統合を宣言していますけれども、李候補側の関係者は「李洛淵元代表と最近会って党内選挙の後遺症を解消し、開かれた民主党との合流も目の前に近づいた……固まった陣営の基盤で政治の舞台を拡張する」と述べています。
けれども、いくら内部分裂の危険が去ったからといって、それが文大統領との差別化を行う理由にはなりません。差別化を行うのは、文大統領路線を踏襲しても、大統領選に勝てないと考えているからでしょう。
4.李在明の差別化戦略
李候補の文大統領との差別化戦略は対日関係にも及んでいるかもしれません。
12月27日、李候補は、相星孝一駐韓日本大使と会談し、「両国の政治的判断は時計によって変わることがあり、そのため国家間の関係ということも現実的に時には揺らぐこともあると思う」と語り、日韓関係について「基本的に相互関係」として「未来志向的にお互い平和に共存・繁栄することを希望する」と述べました。
李候補は日本の小説『大望(山岡荘八著『徳川家康』)』と『雪国』を印象深く読んだとして「日本を旅行したとき、日本国民は非常に親切で謙遜だった。日本に対する印象が本当にとても変わった」と伝え、相星大使には「われわれの大使様」「韓国文化に対する関心も深いそうで、多少の同僚意識が感じられることもある」と言葉を掛けたそうです。
李在明といえば、日本に対し強硬な発言を行うことで知られていました。2016年には、日韓軍事情報保護協定締結を批判し「軍事的な側面から見れば日本は敵性国家だ」と発言。今年11月に外信記者クラブで行われた会見でも「大陸進出の欲望がふと垣間見えることがある」と述べ、つい先日も「終戦宣言に反対すれば親日を超えた反逆行為だ」と主張していました。
それが、徳川家康や雪国が印象深いだの、日本に対する印象が変わっただの、われわれの大使様だの、コロッと態度を変える。ちょっと信用できません。
今回の相星大使との会談で李候補は岸田総理との会談を提案したそうですけれども、自分の都合ばかりで日本の韓国に対する不信感を考慮していないように見えて仕方ありません。
文大統領との差別化を図るのは勝手ですけれども、文大統領が日本に対してやらかした結果としての負の遺産はそのまま引き継がなくてはなりません。少なくとも日本はそう見ています。
仮に李候補が次の大統領になるとしても、文大統領との差別化を行った結果、大統領になれたとしたら、文大統領から引き継ぐことになる負の遺産の解消は勿論のこと、対米関係、対中関係もどうするのかと問われることになります。
日本としては誰が大統領になろうが、国際条約を守れという原理原則を立て、守れない者とは距離を置く対応で良いのではないかと思いますね。
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