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1.台湾有事は日本有事
12月1日、台湾北部の台北市の張栄発基金会国際会議センターで開催された「影響力論壇(=インパクト・フォーラム)」で、安倍元総理がオンライン方式で「新時代の日台関係」と題する基調講演を行いました。
フォーラムは台湾の民間シンクタンクである財団法人国策研究院文教基金会が主催し、現地の立法委員(国会議員)や学者らが出席しました。
安倍元総理は講演の中で、「日本と台湾がこれから直面する環境は緊張をはらんだものとなる……尖閣諸島や与那国島は、台湾から離れていない。台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある。この点の認識を習近平主席は断じて見誤るべきではない」と語り、中国側が軍事的手段に訴えた場合、「世界経済に影響し、中国も深手を負う。私たちは経済力、軍事力を充実させて決意を示すと同時に、理性的に、中国が自国の国益を第一に考えるなら、中台関係には平和しかないと説かねばならない」と強調しました。
また、台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)加入については、「台湾の参加を支持する。台湾には資格が十二分に備わっている」と述べ、WHOなど国際機関への参加についても、「台湾はふさわしい発言権を手にしていくべきだ」と語りました。
台湾側の出席者からは、岸田政権の林芳正外相に中国から訪中要請があったことについて質問があったのですけれども、安倍元総理は「日中関係は重要であり、外相間の対話は行わねばならない。訪中については何も決まってないと承知している……日本としては言うべきことは中国に言いながら、日中関係を発展させていきたい。同時に、地域の平和と安定に資する形で進めていかねばならない」と答えました。
林外相が訪中要請があったことをバラシてから大分経つのに、本当にまだ何も決まってないのであれば、岸田政権内は相当に混乱しているのかもしれません。
それと比べて、この安倍元総理の講演は、わずか15分くらいのものだったにも拘わらず、ポイントをついた明解で中身の濃いものであり、十分に「インパクト」があるものいってよいのではないかと思います。
2.一方的な主張は受け入れられない
安倍元総理のこの講演は、実際に「インパクト」を与えました。いわずとしれた中国です。
安倍元総理が講演した当日の1日、中国外交部の汪文斌報道官は、定例記者会見で安倍元総理の発言に対してコメントを求められると「国際関係の基本準則と中日4大政治文書の原則を無視して、台湾問題に対して公然とでまかせを言いながら口出しをし、中国の内政に対してでたらめなことを言った……中国はこれに対して強い不満を表し、断固として反対する……外交チャネルを通じて厳正な交渉を提起した」と述べ、「台湾は中国の神聖な領土で、他の人が勝手に手を出すことは絶対に容認しない」とし「中国人民のマジノ線に挑戦すれば、必ず頭が割られて血が流れるだろう」と激しく批判しました。
そしてその日の夜には華春瑩外務次官補が垂秀夫駐中国大使を呼び出し、安倍元総理の発言は「中国の内政に乱暴に干渉し、中国の主権を挑発し、台湾独立勢力の後押しをするものだ」と断固とした反対を表明したそうです。
これまで何度か述べてきましたけれども、中国が4つの政治文書を持ち出すときは、最大限の強い抗議の現れとされていますし、更にその日の夜に駐中国大使を呼び出して抗議したことを考えると、安倍元総理の発言は相当なインパクトを与えたことが分かります。
まぁ、それにしても「頭を割られて血を流すだろう」などと、およそ外交官の発言とは思えないほどの下品さです。一部では翻訳の問題ではないかと言われるくらいですからね。酷いものです。
もっとも、中国に呼び出された垂秀夫大使も黙って中国の文句を聞いていた訳ではないようです。
在中国日本大使館の発表によると、垂秀夫大使は「台湾を巡る状況について日本国内にこうした考え方があることは中国として理解すべきだ。一方的な主張は受け入れられない」と反論し、「政府を離れた方の発言について政府として発言する立場にない」とも述べたようです。
3.政権をしっかり支えていく
親中とも言われる岸田政権に対し、安倍元総理の明解な対中姿勢は、ともすれば相容れないのではないかとも思えるのですけれども、その安倍元総理は岸田政権を支える意向を示しています。
11月30日、安倍元総理は、総理官邸を訪れ、岸田総理と約20分会談したのですけれども、安倍元総理は会談後記者団に「会長になったので、挨拶に伺った。党内最大の政策グループとして、これからも政権をしっかり支えていくことを派の総意として伝えた」と語りました。
岸田総理は安倍元総理と麻生副総裁の反対にも拘わらず林芳正氏を外相に起用したことで、安倍氏・麻生氏とハレーションを起こしているのではないかという見方もあったのですけれども、安倍元総理は、政権を支えると発言し、懐の深さを見せています。
4.最初の人事は非常に重要だ
ただ、そんな安倍元総理ですけれども、腹の底ではどうかというと、少し違うかもしれません。
12月1日、安倍元総理は日経新聞のインタビューに応じたのですけれども、そこで、発足から2ヶ月近くたった岸田政権への評価を問われ、「岸田文雄首相は総裁選で勝利し衆院選も勝ち抜いて大きな自信になったと思う。岸田政権は国民の信を得た。選挙を通じて『新しい資本主義』をはじめ、首相の考えを述べ公約も示した。その上で勝利をおさめて自信のもとに人事を行われた……最初の人事は非常に重要だ。岸田政権が何をめざすか、党をどう運営するのかを人事で示していくことになるから思うようにやられたのではないか」と答えています。
中々に意味深な発言です。岸田政権が何を目指すのかは人事をみれば分かるとし、岸田総理はその人事を「思うようにやった」と指摘しているのですね。これは、無論、自身の反対を押し切って起用した林外相のことも含んでいるのだと思われますけれども、その思うようにやった今がこの現状です。
また、安倍元総理は、安全保障政策についても「安保政策の基本はなんといっても日米同盟のさらなる強化だ。有志国との連携をさらに強めていく必要もある」と述べています。親中姿勢をみせたことで、未だ訪米もできない岸田総理にとっては耳の痛い発言ではないかと思います。
11月30日に行われた岸田総理と安倍元総理の面談では、当然電話では話せないようなことが話された筈です。これは単なる筆者の妄想にしか過ぎませんけれども、安倍元総理は、岸田政権の親中姿勢を咎め、親米親台に軸足を移すよう勧告したのではないかと思ってしまいます。
なぜなら、安倍元総理は、岸田政権を支えるといっておきながら、台湾を支持する姿勢を公にしているからです。要するに、親米・親台が岸田政権を支える柱になると考えているということであり、裏を返せば、親中姿勢では岸田政権は倒れると見ているということです。
昨日のエントリーでは岸田政権はその親中振りに対する逆風に動揺していると述べましたけれども、そのタイミングを狙って、安倍元総理が岸田総理に詰め寄ったのだとすれば、やはり勝機を決して逃さないセンスを感じます。
果たして岸田総理の軸足は動くのか。今後の動きに注目していきたいと思います。
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