岸田総理の所信表明に垣間見える釈明

今日はこの話題です。
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1.岸田総理の所信表明演説


12月6日、臨時国会が召集され、岸田総理が所信表明演説を行いました。

約8900字にもおよぶ演説の内容については色んなところで、紹介・論評されていますけれども、見出しだけでも11個もあります。

それは次の通りです。
一 はじめに
二 コロナ克服・新時代開拓のための経済対策
三 新型コロナ対応
四 経済回復に向けた支援
五 未来社会を切り拓く「新しい資本主義」
六 新しい資本主義の下での成長
七 新しい資本主義の下での分配
八 外交・安全保障
九 災害対応
十 憲法改正
十一 おわりに
このように、見出しの上では、2~4がコロナ対応、5~7が「新しい資本主義」、8~10が安全保障関連と大きく3つに分けられるかと思います。

これを10月8日の国会で行われた第一次岸田政権発足時の所信表明の見出しを拾うと次の通りです。
一 はじめに
二 第一の政策 新型コロナ対応
三 第二の政策 新しい資本主義の実現
四 第三の政策 国民を守り抜く、外交・安全保障
五 新しい経済対策
六 おわりに
ここでも、政策として「新型コロナ対応」、「新しい資本主義の実現」、「国民を守り抜く、外交・安全保障」と今回の所信表明とほぼ同じ3項目を挙げています。

まぁ、前回の所信表明から2ヶ月しか経っていませんから、変わりようがないといえばそれまでなのですけれども、両者を比較すれば分かるとおり、見出しの上では、今回の所信表明は前回のものをより詳しくしたものといえます。




2.早く行きたければ一人で進め


岸田総理の前回の所信表明演説では諺が引用されたことが一部で話題になりました。それは次のような諺です。

「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ皆で進め」

これは、アフリカでよく知られるフレーズとのことですけれども、特定の話者には結びついていないようです。

この諺の意味は、まんまこの通りで、特に解説は要らないと思いますけれども、こちらのブログでは、社会派ブロガーのちきりん氏とプロゲーマーの梅原大吾氏の対談本から次の下りを引いて説明しています。それは次の通り。
ウメハラ 知り合いから聞いたんですが、アフリカのことわざに「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ、みんなで進め」って言葉があるんだそうです。まさにそうだと思いますね。

ちきりん それ、よくわかります、日本企業ってね、日本人男性だけで意思決定をしたがるんです。女も外国人も入れたくない。日本人男性に関しても、仕事第一じゃない奴はダメ。価値観の違う奴は仲間に入れたくない。

理由は、そのほうが「早く行けるから」です。同じような価値観の人だけで意思決定すると、摩擦も少なく効率的にさっさと進める。

でも、インド人やら中国人やらシリア人やらが入り始めたら、「早く」は進めない。いちいちめんどくさい。でも、「遠くに行く」には、明らかにそっちのほうがいい。

多様性を欠く組織では刺激が少なくて発想が拡がらないし、クローズドな環境って人間関係が固定するので、遠慮や上下関係が生じる。

だから「遠くに行く」ためには、オープンで多様性に富んだ組織になることが必須なんです。でもその転換がなかなかできない。

ウメハラ 早く進むために最適化された組織は、遠くまで進むというレースでは力が発揮できないってことなんですね。

諺になるだけあって真理を突いています。


3.遠きに行くには、必ず邇きよりす


翻って、今回の所信表明ではどうだったかというと、やはり諺からの引用がありました。

「遠きに行くには、必ず邇(ちか)きよりす」と「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る」の二つです。

これは、どちらも「二、コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の見出しの中で引用されたものです。該当部分を引用すると次の通り
二 コロナ克服・新時代開拓のための経済対策

 「遠きに行くには、必ず邇(ちか)きよりす。」
 大きく物事を進めて行く際には、順番が大切です。
 スピード感を持って進めてきたワクチン接種の効果もあり、足下では、我が国の新型コロナの感染状況は落ち着いています。
 しかし、ワクチン接種が進んでいても、欧州では、ここに来て、過去最多の感染者数を記録する国も出ています。新たに報告されたオミクロン株が、多くの国でも確認されるなどのリスクも生じています。
 大事なのは、最悪の事態を想定することです。
 オミクロン株のリスクに対応するため、外国人の入国について、全世界を対象に停止することを決断いたしました。
 まだ、状況が十分に分からないのに慎重すぎるのではないか、との御批判は、私が全て負う覚悟です。国民からの負託は、こうした覚悟で、仕事を進めていくために頂いたと理解し、全力で取り組みます。
 新型コロナについて、細心かつ慎重に対応するとの立場を堅持します。感染状況が落ち着いていますが、コロナ予備費を含めて十三兆円規模の財政資金を投入し、感染拡大に備えることとしました。
 「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る。」
 米国第三十五代大統領、ジョン・F・ケネディの言葉です。
「遠きに行くには、必ず邇(ちか)きよりす」は『礼記』の『中庸』右第十五章「君子之道、辟如行遠必自爾、辟如登高必自卑」からの引用で、物事を行うには、順序を追って手近な事からやっていくべきだという意味です。

そして「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る」の方は、岸田総理が言及している通り、ジョン・F・ケネディ第35代大統領が1962年の演説で用いた言葉で、「今できることをしっかりやる」という意味で良く用いられます。

後者を「有事の備えは平時に行っておく」という意味に捉えるならば、武漢ウイルス感染が収まっている今の時期に行うのは理に適っていると言えます。

一方、前者についてですけれども、岸田総理は同じ所信表明の中で、ワクチンの3回目の追加接種を「八か月を待たずに、できる限り前倒し」すると述べています。

ワクチン接種を前倒しするといっているのに関わらず「遠きに行くには」と述べているということは、岸田総理にとって、ワクチン接種は「遠きもの」と認識しているということになります。

「早く行きたければ一人で進め」となる筈のところ、「遠きに行くには」ですから、少し矛盾していると感じなくもありません。

勿論、いろんな些末な手続きがあるから、「必ず邇きよりす」としたのかもしれませんけれども、筆者にはこの諺を出したのは、もしかしたら、武漢ウイルス対策とは別に党内への釈明の意味も込めているのではないかと見ています。


4.党内の政策決定プロセスを無視した岸田総理


自民・公明両党で合意した18歳以下の子どもを対象にした10万円相当の給付をめぐっては、高市政調会長が「自公の幹事長、自民党総裁と公明党代表が話して、このような結論になった」と述べたように、政調会長の頭越しに決まっていった経緯があります。

通常、法案は党の政調審議会と総務会の全会一致がなければ、法案は閣議決定できず、国会にも提出できないという慣習となっているプロセスがあります。

この政調審議会と総務会で法案についての説明が不十分だと差し戻し、もしくは再検討、内容削除ということもあるのだそうです。

嘉悦大学教授の高橋洋一氏によると、岸田政権は経済対策についても、高市政調会長や福田総務会長が反対していたにも関わらず、それらをすっとばして決めてしまったということで、あり得ないと批判しています。

当然ながら党内でも批判の声が上がっている筈で、その声に対する釈明として、これからはちゃんと党の政策決定プロセスを踏みますよ、という意味も込めてこの諺を使ったのではないかという気もしてきます。




5.評価されるのは国民を守り抜く姿勢


12月3~5日にかけて、読売新聞が行った全国世論調査で、岸田内閣の支持率は62%と前回11月の56%から6ポイント上昇し、不支持率も22%と前回から7ポイント低下しました。

特に、武漢ウイルスの変異株「オミクロン株」に対する政府の水際対策は高い支持を集め、世界からの外国人の新規入国を停止したことについて聞くと、「評価する」が89%に達し、「評価しない」はわずか8%でした。

これについてジャーナリストの門田隆将氏は「オミクロン株の入国制限が功を奏したか。“林外相起用はそれほど問題にならなかった”と岸田首相が誤解するとまずい。政権は林外相や金子農相、茂木幹事長等、訪中したい媚中派のオンパレードなので…」とツイートしています。

確かに勘違いすると拙いと思います。



読売は、この世論調査について「新規入国停止『評価』89%」という記事で、武漢ウイルス対策が評価されたからだとしています。

一方で媚中派と叩かれている岸田政権が新規入国停止が評価された。

もし、これらに共通点があるとすれば、それはおそらく「国民を守り抜く姿勢」が評価されたということではないかと思います。

素早い新規入国停止は、文字通り、武漢ウイルスの脅威から国民を守る姿勢を示しました。

また、10月に「言論NPO」と中国国際出版集団が行った共同世論調査でも、日本側の調査で中国の印象を「良くない」とした人は、90%を超えています。中国の人権侵害や絶えざる軍拡などをみれば、中国に近づけば近づくほど、脅威に晒されると感じるのは普通のことだと思います。

先日、安倍元総理が「台湾有事は日本有事」と発言したのが高く評価されているのも、中国の脅威を感じているからでしょう。

従って、もし、岸田総理が林外相を訪中させ、媚中の振舞いをしようものなら、たちまちのうちに支持率は下落するのではないかと思います。

岸田総理は今回の所信表明で「新しい資本主義」の説明として次のように述べています。

我々には、協働・絆を重んじる伝統や文化、三方良しの精神などを、古来より育んできた歴史があります。だからこそ、人がしっかりと評価され、報われる、人に温かい資本主義を作れるのです。

"温かい"という言葉は、確か河野太郎氏が総裁選出馬会見で「ぬくもりのある社会」といったような気がしますけれども、岸田総理がいう「人がしっかりと評価され、報われる、人に温かい資本主義」というのは、なにも資本主義だけでなく法案作成においても同じ筈です。

政調審議会や総務会で議論され、練られてやっと仕上げた法案を無視して頭ごなしに決められてしまっては、そこで頑張った人は全然評価されていないことになります。

こんな「人に温かくない政策決定」をやっておいて「人に温かい資本主義」と言われても鼻白んでしまいます。

果たして岸田総理が、法案作成で、政調審議会や総務会と通すプロセスを踏んで「必ず邇きよりす」を行うのかどうか。岸田総理の所信表明が本物なのかどうかはそこで分かるのではないかと思いますね。


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