ロシアとウクライナのへルソン攻防戦

今日はこの話題です。
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1.へルソンから撤退するロシア軍


8月13日、ウクライナ南部のヘルソン州に隣接するミコライウ州のキム知事は「愚かなロシア軍は、ドニプロ川の右岸を放棄することになった。右岸の司令部全体が川の方向に移動している」とSNSで発信し、ロシア側がヘルソンを放棄したことを示唆しました。

ウクライナ軍はヘルソン州で、ロシア軍が補給路として重視する橋を、米国供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」で攻撃し、通行不能にするなど戦果を上げてきました。

12日にはドニエプル川にかかるヘルソン州内の最後の橋を攻撃し、軍事物資などの補給をできなくしたとしています。

また、地元の抵抗運動も活発化しているという見方も出ています。

これについて、イギリス国防省は橋が破壊されたことで、「数千人のロシア兵が船での補給に頼らざるを得なくなっている」と分析しています。


2.ロシア軍は負け始めている


8月11日、イギリスのウォレス国防相は、ウクライナ侵攻を続けるロシアについて、占領は困難で侵攻は南部と東部に絞られてきたと述べ、攻勢は頓挫して「負け始めている」と指摘しました。

翌12日、ウクライナ軍の報道官は12日、空軍機がロシア軍が占拠する南部ヘルソン州の2カ所に空爆を行い、弾薬庫などを破壊したと発表しています。

このように反転攻勢に転じたウクライナ軍ですけれども、その鍵は、ウクライナに提供された西側のハイマースやMLRSだという指摘があります。

国際ジャーナリストの木村正人氏はハイマースやMLRSがウクライナに到着してからの戦局のタイムラインをみればそれは明らかだと述べています。そのタイムラインは次の通りです。
6月23日
ウクライナのオレクシー・レズニコウ国防相が「ハイマースが米国から到着」とツイート。同月25日から実戦配備。

6月29日
ウクライナ軍が黒海西部のズミイヌイ(蛇)島を奪還。ウクライナ軍は米国が供与した地上配備型対艦ミサイルシステム「ハープーン」でロシア軍の補給艦を攻撃。

7月15日
レズニコウ国防相が「初のMLRSが到着。戦場でハイマースの良き友になる。敵に慈悲は与えない」とツイート。提供国は明らかにせず。

7月19日
ウクライナ軍が南部ヘルソン州でドニプロ川のアントニフスキー橋を攻撃。ロシア軍は2月、この橋を通ってクリミア半島からヘルソン州に侵攻。ロシア軍の重要な補給路。

7月23日
ウクライナ軍がヘルソン州でドニプロ川の支流であるインフレット川のダリョフスキー橋を攻撃。

7月24日
ウクライナ軍がヘルソン州でカホフカ水力発電所ダムの橋を攻撃。

7月25日
レズニコウ国防相がウクライナ国営メディアに「ハイマースで50カ所のロシア軍の弾薬庫を破壊した。ロシア軍の兵站を遮断し、ウクライナ軍に激しい砲撃を加える能力を奪うものだ」と発言。ヘルソンにおけるウクライナ軍の反撃強まる。

7月31日
ウクライナ本土から約170キロメートル離れたクリミア半島セバストポリ市にあるロシア黒海艦隊司令部が改造ドローンによって攻撃され、6人が負傷。ロシアの海軍記念日に予定されていた祭典が中止に追い込まれる。

8月9日
ロシアが占領するクリミア半島のサキ軍用空港で複数の爆発が起き、1人が死亡、14人が負傷。ロシア空軍の戦闘機9機以上を破損・破壊した。ロシア空軍がウクライナを空爆する出撃拠点だった。前線から最短でも200キロメートル以上離れており、ハイマースから地対地ミサイル「MGM-140 ATACMS(エイタクムス、射程300キロメートル)」が発射された可能性が取り沙汰される。

8月10日
ウクライナ軍がヘルソン州でドニプロ川のカホフカ橋を攻撃し、通行不能にする。

8月11日
ベラルーシの2つのテレグラムチャンネルが、ウクライナの国境から約30キロメートル離れたベラルーシ南東部ホメリのジャブラウカ軍用空港近くで夜、少なくとも8回の爆発音が聞こえ、閃光が見えたと伝える。この空港もウクライナ空爆の出撃基地だった。ベラルーシ国防省は10日午後11時ごろ、軍用車両のエンジンが炎上したとの声明を発表していた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、当局者が戦術について報道陣に話すのは「正直言って無責任」と箝口令を徹底する。
このように、ウクライナ軍が、ハイマース、MLRSを使って、ロシア軍の補給路を攻撃、兵站を潰す作戦にでたことで、確かに戦局が転換しつつある傾向がみられます。


3.虚栄心の発露や大声で発言する時ではない


前述のタイムラインで、8月11日にゼレンスキー大統領が箝口令を徹底したとあるのですけれども、11日、ゼレンスキー大統領は、軍の指揮官や国の当局者に厳しい口調で「防衛計画について公表する内容の具体性が乏しければその分、こうした防衛計画の実施に有利となる……あなた方は防衛や反転攻勢に向けた国の準備について述べる一言一句に責任を感じるべきだ……虚栄心の発露や大声で発言する時ではない」と対ロシア軍事作戦について口外しないよう当局者に警告しています。

ウクライナのドミトリオ・マルチェンコ司令官は、地元メディアのRBCウクライナとの会見でヘルソン州を年末までに解放するとの見通しを示しています。

そこで、マルチェンコ司令官は解放までの時刻表や期日を披露出来ないのは残念だとしながらも、「ヘルソン州の住民には同州を取り戻すまでの期間は誰もが予想するほど長くはないことを伝えたい。早く到来する」と主張。年末までの解放が目標なのかの質問には「100%」とし、「活発な交戦の段階も終えさせたい」と述べ、その後、局地的な軍事作戦はより多く起きるだろうとも指摘しました。

また、ロシアが2014年に併合したクリミア半島の奪回計画にも言及。「クリミアはウクライナの領土」とし、ヘルソン州、東部のルハンスク、ドネツク両州と同様に奪還するだろうと言明しました。

マルチェンコ司令官は、ウクライナ軍の作戦計画の一環として、ロシア側からクリミア半島につながる唯一の陸橋を標的に据える必要性にも触れています。ロシア領からの兵力補強などの方途を封じ込むためとした上で、「供与を約束され、必要とする兵器の量を保有し得るのなら、我々は来春、勝利を祝うことが出来るだろうと考えている」とロシア軍との戦闘の展望について楽観的な見通しをして、会見を締めくくっています。

確かに、現場司令官がこんなにペラペラと作戦計画を喋ってしまっては、ロシア軍もそれに対応してくることは目に見えています。これでは、ゼレンスキー大統領も喋るなと釘を刺す訳です。

ゼレンスキー大統領は件の動画でマルチェンコ司令官とは、名指ししていないのですけれども、ウクライナの国防当局者は「高位の軍将校1人」に対する調査が進行中だと明らかにしています。


4.へルソン奪還作戦失速


ウクライナ軍にヘルソン州奪還の作戦計画があるとウクライナの司令官自ら明らかにしてくれた以上、当然ロシア軍は対応してきます。

8月14日、イギリス国防省は「この1週間のロシアの優先事項は、ウクライナ南部を増強するための部隊の再配置であったようだ」とツイート。ロシア軍が、南部ヘルソン州などで戦力を増強しているとの見方を示しました。ウクライナ軍の奪還に備え、防御を強化する狙いとみられています。

アメリカのワシントン・ポスト紙によると、ロシア軍はへルソン州にこの1週間で約3千人を増派。ドニエプル川西岸に駐留するロシア兵は少なくとも1万5千人になったとした上で、偵察活動などを強化しており、攻撃に備えている可能性があるとしています。

件のワシントン・ポスト紙の記事「On the Kherson front lines, little sign of a Ukrainian offensive」の概要は次の通りです。
・ウクライナ、ミコライフ地方 - ウクライナ南東部の前線では、大規模な反攻が始まる兆候はほとんどない。

・ウクライナ軍第63機械化旅団の45歳の兵士ユーリは、「左側にも右側にも、頭の上にもある」と、この1週間で激しさを増した砲撃について語った。夜にはロシア軍が偵察に出かけ、微妙な位置にある農地を探っている。「より緊迫した状況だ」と彼は言う。

・この地域はクリミアに淡水を供給する上で極めて重要であり、2014年の半島の不法な併合以来、ロシアはこの問題で何十億ルーブルもの損失を被っている。また、将来的にロシアが黒海の宝石と呼ばれるオデッサを目指して南方へ軍事プッシュする際の重要な足がかりとなる地域でもある。

・ヘルソン地方の村から逃げ出した住民たちは、ロシア軍が増援を送り込んできたと語り、政府関係者はこうした部隊の動きを警戒している。

・クリヴィエリ市の軍政部長オレクサンドル・ビルクル氏は、「やつらは、もう潜伏している」と述べた。「敵が陣地を固めようとしているのは知っている。敵は全線にわたって大砲を大幅に増強している」と、日曜日に陣地視察から戻った後、60マイルに及ぶ前線について述べた。

・ウクライナは前進に必要な基本的な大砲や装甲車を欠いているため、前線のはるか後方での作戦に重点を置いている。

・ウクライナ軍はここ数ヶ月、ロシアの支配から村を次々と奪還してきたが、兵士たちは開けた土地で無防備になり、ほとんど停滞している。

・戦争が始まって以来、休むことなくここで戦ってきたユーリは、「隠れる場所はどこにもない」と言った。彼の部隊は、最新の対戦車兵器と1944年製造のソ連製機関銃というごった煮のような装備で、ここでは戦線を維持することに重点を置いている。

・ウクライナ軍当局は、より大規模な攻撃開始の時期について口を閉ざしているが、その前に西側諸国の兵器の供給がもっと必要だと言う。ある治安当局者は、ウクライナは1,200マイルに及ぶ前線のどこでも本格的な攻撃を開始する能力がないと認めている。

・ウクライナ軍司令官ドミトロ・マルチェンコ少将も今週のインタビューで、欧米の軍事支援の「小出し」は攻撃的行動の実行を「非常に困難」にしていると述べたが、この動きはすぐに変わると楽観的な見方を示している。「この援助の全パッケージを手に入れたら、我々の反撃は非常に早くなると思う」と述べ、ヘルソンの人々に「少し我慢」するよう促した。「皆が期待しているほど長くはかからないだろう」とも付け加えた。

・ここ数日、ロシアはウクライナ東部の都市への新たな攻撃を開始した。

・国防相の顧問であるユーリイ・サク氏は、「敵が軍を動かし、われわれが戦術や作戦を変えるため、ほぼ毎日状況が変わる」と述べた。「事態は変化し、計画も変更される」。ウクライナ軍南部司令部の広報担当者ナタリア・フメニウク氏は、反攻は実現可能な方法で「すでに起こっている」とし、進展は「少しずつ」であるとし、紛争が「ハイブリッド戦争」であることを指摘した。

・ロシアは補強を続けている。先週だけで約3000人の部隊がヘルソン地方に到着し、ドニエプル川の西岸にいるロシア軍の数は少なくとも1万5000人になったと情報アドバイザーは述べた。

・キエフに拠点を置くロシアの調査研究団体「コンフリクト・インテリジェンス・チーム」のアナリスト、キリル・ミハイロフ氏は、そのほとんどが空挺エリート部隊で、数ヶ月にわたって前線を支えてきたロシア軍の消耗を補強していると語った。

・「2週間前、彼らは大きな機材を持ってやってきた」と、ヘルソン近郊のノヴォヴォロンツォフカから来た42歳の男性は言い、そこにいる両親と連絡を取り合っている。「彼らは家の中に基地を作っている。6月11日に小さな村マライネを離れた65歳の女性は、占領初期にはほとんど見えなかったロシア軍が、逃げる前の数日間、大量に動き始めたと語った。「彼らは塹壕を掘っていた」と彼女は言った。

・このような部隊の動きは、ロシアがこの地域で新たな攻勢を準備しているのではないかという懸念を抱かせる。しかし、ロシアはここ数カ月でウクライナ軍が奪還した村のいくつかを取り戻そうとするかもしれないが、大規模な作戦を展開する手段もないと、アナリストや当局者は述べている。

・ヘルソン市周辺の部隊は、ウクライナを縦断する天然の防御壁である川の向こう側におけるロシアの唯一の足場であり、補給路は非常に脆弱ないくつかの隘路を通過する必要がある。

・これらの補給路は、ウクライナの新しいアメリカ製ロケットシステム「HIMAR」に対して脆弱であることが証明されている。また、クリミアへの攻撃で、ウクライナはモスクワの南方作戦の主要な軍事供給拠点であるロシア軍事施設の中心を攻撃する能力を実証した。

・ウクライナが反攻を行うのであれば、「時間は刻々と過ぎている」と「コンフリクト・インテリジェンス・チーム」のアナリストのミハイロフ氏は言う。10月にはぬかるみの季節になり、軍の移動が難しくなる。

・劣勢に立たされたウクライナは、ハイブリッド戦術も駆使している。ウクライナに潜伏中のジャーナリスト、コンスタンチン・リジェンコ氏は、「ウクライナでは、地元住民の多くが占領に敵対している」と指摘する。ロシア兵は攻撃を恐れて、すでに街中で姿を見せないのだという。

・ロシア連邦保安庁(FSB)の諜報員や警察官など残っている者は、HIMARの攻撃を恐れて、病院の下や市街地の民間の場所に拠点を移していると、リジェンコは言った。

・クリミアでの攻撃を考えると、ロシアのヘルソンへの支配は危うい、とワシントンのシンクタンク、シルバード・ポリシー・アクセラレータの会長、ドミトリ・アルペロビッチ氏は言う。「ロシアは近いうちにヘルソンから撤退すると思います。「兵力の補給が難しくなっているのだ」と述べた。

・それは、たとえ非現実的であっても、ウクライナの黒海沿岸をすべて占領し、ロシアが支配するモルドバの沿ドニエストルとの接続を確立するというロシアの目標を阻むことになるだろう。

・ロシアは戦略的に意味のない作戦でも兵士を犠牲にすることを厭わないが、ウクライナは通常、慎重にしか進めないという指摘もある。「ウクライナ軍は、ロシアのように、指導者の野心を満たすために、国民を大砲の餌のように戦場に放り出すような愚かなことは決してしない」と国防相の顧問であるユリー・サックは言った。「問題はその代償だ」。

・ロシアは、ドニエプル川の東岸に位置するヘルソン県の地域では、軍事的な弱点が少ない。プーチンの念願であるクリミアへの「陸の橋」とその淡水供給には、この領土が不可欠だ。

・侵攻後最初の数日間で、ロシア軍はこの地域の運河のダムを爆破し、プーチンを長い間激怒させてきた。ウクライナはロシアの半島占領を受け、2014年に水路を堰き止めた。かつては肥沃だった農地が乾燥した不毛の平地に変わり、クレムリンは何十億もの補助金を支払い、新たな水事業への投資を余儀なくされた。

・この地域は、プーチンが激しい戦いなしに手放すことはないだろう。

・ウクライナは攻勢をかけるに十分な兵力を持っているが、より高性能の兵器がなければ、成功の見込みがほとんどない攻勢で軍隊を無駄に死なせてしまう危険性があるとサックは言う。

・ウクライナ軍の中には、すでにその代償を払っている部隊もある。ウクライナの第28機械化旅団は6ヶ月近く、南部戦線で戦い、ミコライフ市郊外でロシア軍の電光石火の進撃を食い止めた。

・第28機械化旅団は、ミコライフ市近郊でロシア軍の進撃を食い止めながら、ヘルソン市近郊で戦果を挙げている。前線で最も優れた装備と専門的な訓練を受けた部隊であるにもかかわらず、広い草原でロシア軍の砲撃が行われ、多くの兵士が負傷し死亡している。

・7月下旬、第28機械化旅団のヴィタリイ・ヒュリエフ司令官は戦死し、仲間の兵士たちは彼の仇を討つつもりでいる。
このようにへルソンはクリミヤに真水を供給する為の重要な拠点である一方で、開けた平原であるが故に、隠れるところもなく、砲撃され放題の土地であるというなんとも守りづらい所だと解説されています。

前述した、マルチェンコ司令官はこの戦争は来年春まで続くと見ていることを会見で明らかにしていますけれども、果たして、あと半年で決着がつくのかどうか。

マルチェンコ司令官はクリミアを含め、ヘルソン州、ルハンスク、ドネツクを奪還するとしていますけれども、半年で決着がつかなければ、決着するまで戦争は継続するのだろうと思います。現時点ではいきつくところまでいかない限り、終戦にはならない状況なのではないかと思いますね。


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