半島有事と内閣改造

今日はこの話題です。
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1.浜田・オースティン電話会談


8月16日、浜田防衛相とアメリカのオースティン国防長官の電話会談が行われました。防衛省の発表によると、その概要は次のとおりです。
 冒頭、浜田大臣から防衛大臣就任の挨拶を行い、オースティン長官から祝意が示された。

 両閣僚は、我が国のEEZ内への着弾を含む、今月上旬の中国による弾道ミサイルの発射を強く非難するとともに、地域におけるいかなる事態にも対応できるよう、閣僚レベルを含め、緊密かつ隙のない連携を図っていくことを確認した。また、両閣僚は、現下の北朝鮮情勢を踏まえ、日米韓の防衛協力の重要性について一致した。

 浜田大臣は、国家安全保障戦略等の策定を通じ、防衛力の抜本的強化に取り組む決意を述べた。オースティン長官は、これを歓迎し、両閣僚は、双方の戦略を擦り合わせていくことを確認した。

 両閣僚は、米軍再編計画の着実な進展のため、引き続き日米で緊密に協力していくことで一致した。
 両閣僚は、引き続き緊密に連携し、日米防衛協力を一層強化し、また、自由で開かれたインド太平洋の維持・強化に取り組んでいくことを確認した。
この会談について、浜田防衛相は会談後の記者会見の冒頭発言で次のように述べています。
先ほど、オースティン米国防長官と電話会談を実施をいたしました。私にとって防衛大臣就任後初の会談ということで、朝7時から7時半の30分間行いました。冒頭、私から就任の挨拶を行い、オースティン長官からお祝いの言葉をいただきました。また、私から、オースティン長官の新型コロナウイルス感染症への感染について、お見舞いの言葉をお伝えしました。

続いて、今月上旬の中国による弾道ミサイルの発射を強く非難するとともに、地域におけるいかなる事態にも対応できるよう、緊密かつ隙のない連携を図っていくことを確認をしました。また、現下の北朝鮮情勢を踏まえ、日米韓の防衛協力の重要性について一致しました。

さらに、私から、国家安全保障戦略等の策定を通じて、防衛力の抜本的強化に取り組む決意を述べ、オースティン長官との間で、日米双方の戦略を擦り合わせていくことを確認をいたしました。加えて、米軍再編計画の着実な進展のため、引き続き日米で緊密に協力していくことで一致をいたしました。

本日の会談では、オースティン長官と率直な議論を行うことができました。今後、オースティン長官とともに、日米同盟の抑止力・対処力の強化、また、自由で開かれたインド太平洋の維持・強化に向けて取り組んでまいりたいと思います。
浜田防衛相の発言は、先述した防衛省の発表と同じで特に追加されたところは見当たりません。ただ、筆者が注目しているのは、先日台湾を取り囲んで行われた中国の軍事演習には触れず、「北朝鮮情勢を踏まえ、日米韓の防衛協力の重要性について一致」としている点です。

この点については記者が質問しています。そのやり取りは次の通りです。
Q:昨日、中国軍が台湾周辺で軍事演習を行ったとの報道がありますが、その件についてお話はありましたでしょうか。

A:その件については、特にございませんでした。

Q:先ほど日米韓の3か国でミサイルのですね、演習を行ったと発表もありましたけども、このミサイル演習、北朝鮮への対応かと思いますが、それが行われたことの意義について、大臣の受け止めありましたらお願いします。

A:海上自衛隊はですね、8月8日(月)から14日(日)までの間、米海軍が主催する、日米豪韓加ミサイル警戒演習、いわゆる「パシフィック・ドラゴン」を実施をいたしました。具体的には、ハワイ諸島及び同周辺海・空域においてですね、護衛艦「はぐろ」が米国、豪州、韓国、カナダの艦艇とともに、弾道ミサイル標的の探知、追尾及び模擬発射を実施をし、弾道ミサイル対処に係る海上自衛隊の戦技力の向上を図るとともに、参加国間で「自由で開かれたインド太平洋」の維持、強化に向け、連携を強化を図りました。また、日米韓の3か国でデータ通信システムを連接し、訓練を実施をしました。本訓練は、本年6月11日の日米韓防衛相会談において一致した、3か国よるミサイル警戒及び弾道ミサイル探知・追尾訓練であります。防衛省・自衛隊としては、今後も引き続き3か国の連携を深めてまいりたいと思っているところであります。
浜田防衛相によると、中国の軍事演習は議題になかったというのですね。その代わり日米豪韓加ミサイル警戒演習、いわゆる「パシフィック・ドラゴン」について説明しています。


2.パシフィック・ドラゴン


「パシフィック・ドラゴン」は、8月8日から8月14日までの期間、ハワイ周辺海空域で行われたミサイル警戒演習で、海上自衛隊からは護衛艦「はぐろ(DDG-180)」が参加したほか、アメリカ海軍からはアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「フィッツジェラルド(Fitzgerald:DDG-62)」、「ウィリアムP.ローレンス(William P.Lawrence:DDG-110)」とF/A-18F戦闘機が、オーストラリア海軍からはホバート級駆逐艦「シドニー(Sydney:DDG-42)」、韓国海軍からは駆逐艦「セジョン・デワン(世宗大王:DDG-991)」、カナダ海軍からはフリゲート「バンクーバー(Vancouver:FFH 331)」が参加しました。

浜田防衛相が説明している通り、訓練は敵の弾道ミサイル発射情報が伝達されると米韓両軍と日本の自衛隊が探知・追跡したのち、その情報を共有し、邀撃する形で行われました。

「パシフィック・ドラゴン」は、2018年と2020年のリムパックでは、その実施について韓国軍は公開していなかったのですけれども、先日11日にシンガポールで行われた「アジア安保会議」で日米韓国3ヶ国の国防大臣が会談を行った結果、パシフィック・ドラゴンと三ヶ国によるミサイル警報訓練を定例化し、訓練したことも公開することになったようです。


3.我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威


当然ながら、北朝鮮も黙っていません。

韓国軍関係者は北朝鮮が8月17日未明に巡航ミサイル2発を発射したと明らかにしました。北朝鮮西部の平安南道から西側の黄海に向けて発射されたそうで、韓国軍と米軍が飛行距離や着弾地点など詳細な軌道を分析しています。

北朝鮮のミサイル発射は6月5日の弾道ミサイル発射以来で約2ヶ月ぶり。巡航ミサイルの発射は今年1月以来となります。

7月27日、北朝鮮の金正恩総書記は、朝鮮戦争「戦勝記念日」の行事で演説し、北朝鮮はアメリカとの「いかなる軍事的衝突にも完全に準備ができている」と述べています。

今年の防衛白書(P.78-79)では、北朝鮮について次のように言及しています。
北朝鮮は、過去6回の核実験に加え、近年、弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、大量破壊兵器や弾道ミサイル開発の推進及び運用能力の向上を図ってきた。技術的には、核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる。

さらに、2021年1月には金正恩委員長が「中長距離巡航ミサイルをはじめとする先端核戦術兵器」の開発に言及し、同年9月及び2022年1月には、北朝鮮は長距離巡航ミサイルの試験発射が成功した旨発表した。

また、非対称的な軍事能力としてサイバー領域について大規模な部隊を保持し、軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへの攻撃能力の開発を行っているとみられるほか、大規模な特殊部隊を保持している。加えて、北朝鮮は、わが国を含む関係国に対する挑発的言動を繰り返してきた。

北朝鮮のこうした軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている。

特に2022年に入ってから、北朝鮮は極めて高い頻度で、かつ新たな態様でのミサイル発射を繰り返しているほか、累次にわたり核武力の強化に言及するなど、国際社会に背を向けて核・弾道ミサイル開発のための活動を継続する姿勢を依然として崩していないのみならず、さらなる挑発行動に出る可能性も考えられ、こうした傾向は近年より一層強まっている。
この中で2021年に金正恩総書記が軍事力の強化策のひとつに「戦術核兵器」を挙げたことを取り上げていますけれども、北朝鮮の最近の弾道ミサイル発射の特徴についても詳述(P.91-93)しています。

その特徴は
①長射程化
②正確性や連続射撃能力などの向上
③奇襲的な攻撃能力
④低高度で変則的な軌道
⑤発射形態の多様化

の5つで、長射程化を巡っては22年3月に発射したICBM級の射程が1万5000キロメートルを超えうるとしています。


4.内閣改造はアメリカの圧力説


昨日のエントリーでは、先日の岸田総理の内閣改造は、中国との裏交渉の結果前倒しされた可能性について述べましたけれども、実はアメリカからの圧力だったのだ、という説もあるようです。

ジャーナリストの篠原常一郎氏は、今回の内閣改造について「米国からの働きかけがあったのでは?」という情報を入手したとして自身のメルマガで次のように述べています。
もう一つ、違った角度からの情報が入ってきました。米バイデン政権からの働きかけの存在です。

首相官邸筋から流されている情報なので、何らかの意図が込められているとは思いますが、この間の経過を振り返りながら新情報を織り込んで「内閣改造前倒しの真相」を考察してみましょう。

そもそも、岸田総理が内閣改造(あわせて党役員人事の改変)を行う予定は、9月上旬とされていました。それが、参院選の結果を踏まえて開かれた8月3日から5日までのたった3日間の臨時国会が閉会した直後、首相官邸や自民党本部周辺から「8月10日に岸田総理は前倒しで内閣改造を断行する」という情報が流れました。

政治家、特に自民党国会議員にとっては何よりも重要なポストにかかわる問題だけに、「選挙も終わって盆休みだ」という永田町界隈に流れつつあった緩んだ空気は一気に吹き飛ばされてしまいました。

一夜明けた8月6日、「広島市への原爆投下から77年目」の日に広島市入りしていた岸田総理は、「内閣改造の前倒し」を記者会見で表明。理由として、新型コロナウイルス感染拡大や物価高への対応の強化、緊迫化する台湾情勢など諸課題を遂行するための新体制を早期スタートさせる必要性をあげました。

あわせて、7月8日の安倍晋三元総理暗殺の背景として旧統一教会と政治家との癒着問題がクローズアップされていたことに鑑みて、「新たに入閣する閣僚及び現職閣僚について世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を点検させる」考えも岸田総理は明らかにしました。そして、「社会的に問題を起こしている団体との関係の見直しも求める」とも付け加えています。

【中略】

官邸関係者から次のような話が出ています。

「8月5日より前に内閣改造の前倒しを岸田総理は全く考えていなかった。変わったのは、5日朝、台湾への電撃訪問を経て来日したペロシ米下院議長を首相公邸に迎えてからだ。朝食会談の席上、ペロシ氏から『切迫している○○○○に備えた政権の体制を一日でも早く整えてほしい』とのホワイトハウスからの意向を伝えられた岸田総理は驚愕した。米側からは更に具体的に、『健康問題で職務能力が明らかに落ちている岸信夫防衛相を直ぐに交代させるべき』とまで言われ、結局9月に予定していた内閣改造をひと月、前倒しにせざるを得なかったのだ」

【後略】
先日訪日したアメリカのペロシ下院議長が岸田総理に、切迫する何かに備えて政権の体制を整えてくれと要請したとのことですけれども、普通に考えれば、伏字の部分は台湾有事が真っ先に浮かぶと思われます。

実際、筆者は、8月2日のエントリー「覚醒させられた岸田総理」で、来日したヌーランド国務次官が日本政府に台湾有事が近いことを囁いたのではないかと述べました。

けれども、冒頭で取り上げた日米防衛省電話会談では、中国の台湾周辺での軍事演習にまったく触れず、北朝鮮情勢を取り上げたことを考えると、意外と、台湾有事よりも、朝鮮半島有事が近い可能性があるのかもしれません。

その観点で、再任された浜田靖一防衛相を見てみると、2009年3月、浜田防衛相は当時、北朝鮮が発射予定の「テポドン2号」とみられる長距離弾道ミサイルの日本領域内への落下に備えるため、自衛隊に破壊措置命令を出しています。

もし、岸田総理がペロシ下院議長から半島有事が近いので体制を整えてくれと言われたことをうけ、慌てて内閣改造をしたのだとしたら、水面下で中国と交渉し、中国が半島有事の際に介入しないでくれたら、日本は台湾有事に介入しないとバーター取引をした上で、過去の実績から対北朝鮮向けに浜田防衛相を再任した、などというシナリオも考えられなくもありません。

けれどもこれは、台湾をアメリカに任せて、半ば見捨てるということでもあり、政治的にはかなり大きな決断ということになります。

筆者は、岸田総理がそんな大胆な決断をしているとは思いませんし、中国と裏で手を握っているとも考えたくありませんけれども、対中、対北朝鮮と二正面作戦など出来ないこともまた事実です。

それでも、台湾が中国の手に落ちることは、台湾の工業技術が中国の手に落ちるだけでなく、中国の海洋進出を決定的なものにしてしまいます。

それは、日本のみならず世界にとっても大きなダメージになることは確実です。

このあたりの真実が明らかになることはなく、あってもずっと先のことでしょうけれども、台湾は何が何でも守るという選択肢は捨てないでいただきたいと思いますね。



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この記事へのコメント

  • Naga

    仮に中国と裏取引きがあったとしても、それが発揮されるような事態になって裏取引きを発動すると米国を怒らせるし、そもそも中国を信用するなどアホなことだと思いますが。
    また台湾か韓国のどちらかを捨てるなら韓国だと思います。
    どちらにせよ、そういう緊迫した事態に愚鈍な感じでの林議員が外務大臣というのは、首相はどういう考えなのでしょうか。しかも媚中派と言われてる人なのに。
    2022年08月20日 20:11