

1.日本哨戒機に火器管制レーダー照射しろ
2018年、海上自衛隊哨戒機に韓国海軍の駆逐艦が火器管制レーダーを照射する事件に関連して、韓国の文在寅前政権が、自衛隊機などに追跡レーダーを照射するなど積極的に対応するよう、軍当局に指示する指針をつくっていたことが明らかになりました。
韓国は2019年1月、「第三国航空機対応指針」を策定しています。
これは、公海で第三国の航空機が味方艦艇に近づいた場合、段階的に対応するよう指示する内容で、第三国航空機が1500フィート(約457メートル)以下に降りてきて近くまで接近すれば、味方艦艇は相互を識別した後、通信で警告するなどの4段階の手続きに従って行動するよう定めています。1次警告が通じなければさらに強硬な内容のメッセージを2次として発信するとしています。
ところが、これとは別に2019年2月、軍当局は「日哨戒機対応指針」というのを定めています。
これは「第三国航空機対応指針」より、1段階追加された5段階となっていて、日本軍用機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「火気管制レーダー照射」で対抗するように規定したものです。
当然ながら、火気管制を稼働し、レーダービームを航空機に照射するのは攻撃する意志があると相手に伝える行為になります。
この指針では、軍当局が日本海上の哨戒機に対して「追跡レーダー照射」段階を規定したことに加え、現場指揮官が自衛権としてこれを決定できるようにしていました。「慎重に実施せよ」という条件こそ付いていますけれども、一歩間違えれば武力衝突につながりかねない権限を現場指揮官に委ねていた訳です。
これについて、キム・ジンヒョン前合同参謀本部戦略部長は「日本は我々と政治的葛藤はあったが、軍事的衝突にまで続いたことはなく、事実上安保分野では協力する国」とし「日本が攻撃する可能性が高くないにもかかわらず指揮部が曖昧な命令で艦長に軍事的衝突を起こしかねない行動を委ねたのはやり過ぎ」と指摘。
更に「日航空機対応指針」がその名のとおり日本だけが対象となっており、中国やロシアを対象としていないことも問題だという指摘もあります。
2.日本に関係改善を求める尹錫悦
この「日航空機対応指針」を策定した2019年当時、軍内部からは「日本と戦争をしようということか」という批判が多く出ていたそうで、政府消息筋は「『日航空機対応指針』は青瓦台安保室が主導し、軍当局の原案よりも強硬に作った」としています。
もっとも、実際の前線では偶発的衝突が起こらないように相互の動きを事前に知らせていたようです。
国防部によると、日韓両国の軍用機が相手側軍艦側に飛行する場合、両側は積極的に情報を交換していたとのことで、たとえば、韓国軍艦の近隣に中国・ロシア軍艦が現れる場合、日本の哨戒機は識別・採証のために低高度飛行をする前に、韓国側にこのことを事前に知らせていたようです。
また別の政府消息筋は「韓国と日本の政治家が国内政治を意識して強硬基調を取る場合も、両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」と話しており、現場では「日航空機対応指針」は事実上有名無実だったとしています。現場レベルでは衝突しないようなんとか配慮していた訳です。
韓国国会国防委員会に所属する保守系与党の申源湜議員は、「日本海上哨戒機を特定して、別途の指針で現場指揮官に軍事的対応まで委任したというのは非常に危険な政策」としながら「軍事的に日本を例外的に優待するのもいけないが、特に強硬な措置を講じるのも不適切だ」と指摘し、国際法学者のイ・キボム延世大学法学専門大学院教授は「国家が自衛権を行使できるのは当然だが、自衛権行使に先立ち外交的関係も考慮しなければならない」と述べています。
国防部は申源湜議員に対し、指針の廃棄を検討中だと説明したそうですけれども、こんな話が今頃というか、尹錫悦政権になって出てきた。
韓国に詳しいジャーナリストの室谷克実氏は「指針をまとめたという国家安全保障室は当時、外交官出身者と昇進できなかった退役軍人などで構成されていた。現場の意向を反映せず、イデオロギー重視で政策を進めてきた文政権の象徴的事例だ。異常な指針が報じられた以上、日本政府は尹錫悦政権に説明を強く求めるべきだ。『そうでない限り、日韓関係の改善はない』と伝えるべきだろう」と述べていますけれども、筆者には、逆に尹錫悦政権が日本との関係改善を求めるためのボールを投げてきたように見えます。
3.日本企業の資産現金化の最終判断下さず
尹錫悦政権の擦り寄りは他にもあります。
8月19日、韓国大法院は、いわゆる徴用工問題で、三菱重工業の商標権や特許権など韓国内資産の売却(現金化)命令を巡る最終的な判断を下しませんでした。
大法院は2018年10月と11月、新日鉄住金(現日本製鉄)と三菱重工業に対しそれぞれ被害者への賠償を命じました。しかし、両社は賠償の履行を拒んだ為、両社の韓国内資産を強制的に売却するための法的手続きが進められています。
三菱重工業側は、徴用被害者を巡る問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みであり、不服があれば同協定に基づく第三国を含めた仲裁委員会を開催して議論すべきであり、韓国の裁判所が判断することではないと主張し、最終的な判断を保留するよう求める趣旨の再抗告理由補充書を提出していました。
上告の受理から4ヶ月以内の棄却は「審理不続行」となるのですけれども、4月19日に受理されたことから、それから4ヶ月後の8月19日に、審理不続行で三菱重工業の再抗告を棄却するとの見方が出ていました。
もし、再抗告が棄却されれば、三菱重工業の資産の現金化が実行され、日本との関係に大きな影響が出ることから政界を中心に大きな注目を集めていたのですね。
ところがそれが出なかった。これも擦り寄りの一種ではないかと思います。
4.どんな判決が出るか分からないが尊重する
8月19日、韓国の朴振(パク・ジン)外交部長官は国会外交統一委員会の全体会議で、この問題について「大法院の判断がどう出るかは分からないが、尊重する」と述べています。
この会議で野党議員が朴振外交部長官に対し、韓国の政府や企業が代わりに賠償して日本側への求償権を取得する「代位弁済」で問題を解決すべきでないかと指摘したのですけれども、朴外交部長官は直接の回答を避け、「意見を十分に取りまとめ、意思疎通のために努力し、この問題が望ましく解決されるよう外交的な努力を傾けていく」と回答しました。
現金化を巡っては、外交部が審理中の大法院に問題の解決に向けた外交努力を説明する意見書を大法院に提出していたそうなのですけれども、これについて朴外交部長官は「外交的な関係改善に向けてわれわれがこれまでしてきた活動を大法院に説明し、それを酌量してほしいという内容」と説明しています。
司法と行政、立法が独立しているのが建前である筈なのに、政府が大法院にそんな意見書を出すこと自体おかしな話です。平たくいえば、外交努力の結果が出るまで判決は出すな、あるいはもっと踏み込んで、現金化しないという判決を出せという圧力ではないかと思います。
忖度しろという意見書を出しておいて「どんな判決が出るか分からないが尊重する」という言い方など、脅しのように聞こえてなりません。
韓国政府は被害者の意見に耳を傾け、日本側と意思疎通し、接点を見出す外交的努力を続けるとしていますけれども、その一方で、主審の大法官(最高裁判事)が来月4日に退官するため、8月中には判断が下されるという見方もあります。
筆者は、8月末になっても判断を下さず、延々と引き伸ばしにかかるのではないかと思いますけれども、韓国の国内問題に日本は付き合う必要などありません。国際法を守れで突っぱね続けるべきだと思いますね。
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