

1.台湾海峡に避難した海保の巡視船
9月5日、海上保安庁の巡視船が台湾海峡を航行していることが明らかになりました。
航行した巡視船は「ざんぱ」「りゅうきゅう」「ぶこう」「らぐら」「うるま」「さど」「あさづき」「れいめい」の8隻。いずれの巡視船も尖閣諸島の警備を行っている中、この海域を通過した台風11号から一時的に避難するために台湾海峡に入ったようです。
当時の波高は沖縄石垣付近は6~10メートルあった一方、台湾海峡は2~3mくらいだったそうですから、こちらに避難するのも当然といえます。
過去を遡れば2019年9月にも、海上保安庁の巡視船9隻が台風を避けて台湾海峡に入った先例があったそうですけれども、いずれにしても、台湾海峡が「北京の海」ではなく国際水域であるという事実を改めて世界に知らしめた意味は小さくないと思います。
台風避難の自由作戦ですね。
— 斜め思考のアカウント🇯🇵💙💛 (@bwHBLG6IXpd1vH8) September 3, 2022
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2.台湾を侵略するための脚本
9月2日、台湾の呉外相は台北市内でアメリカABCニュースのボブ・ウッドラフ氏のインタビューに応じ、台湾政府は、台湾の主権と民主的な生活様式を守るために、自衛能力と民軍協力を強化することを約束すると述べました。
インタビューの内容の概要は次の通りです。
・中国が最近行っている戦闘機、艦船、無人機の挑発的な動員、認知戦、偽情報キャンペーン、サイバー攻撃はすべて台湾を侵略するための脚本の一部である主権、土地、民主的な生活ために戦い続ける、とは何とも力強い宣言です。
・アメリカ下院のナンシー・ペロシ議長の台湾訪問は、軍事行動を起こすための口実に過ぎない。
・台湾は中国からの圧力には屈しない。8月上旬の北京での演習以来、台湾を訪問し、台湾への支持を表明する国際的なアクターが増えている。
・中国の一方的な武力行使は地域の平和と安定を損なっている。国際紛争は国連憲章の原則に基づき平和的手段で解決されるべきだ。
・台湾は国際社会の責任ある一員として、両岸の平和と安定を維持するために尽力している。これを維持することが台湾の一貫した政策であり、すべての当事者の最善の利益にかなうものだ。
・北京が新疆、チベット、香港を厳しく管理し、台湾を威圧しようとしているのは、権威主義的な拡張主義の典型例である。世界の民主主義諸国は、北京の野望が世界の利益を破壊するのを阻止するために協力する必要がある
・台湾海峡の厳しい状況に直面して、我々は冷静に開発に集中し、国防能力と民間防衛意識を強化する。台湾政府と国民は、台湾を守るのは自分たちの責任であることを明確に理解している。私達は国、主権、土地、民主的な生活様式のために勇敢に戦い続ける。
先日、台湾軍が金門島付近で所属不明のドローンを撃墜していますけれども、こうした行動は、呉外相の言葉を裏打ちすることになります。
3.台湾有事における機雷戦
台湾有事および台湾海峡有事において、いろんな想定がされていますけれども、元海自掃海隊群司令部幕僚長で、笹川平和財団主任研究員の河上康博氏によると、海峡封鎖にも使用される機雷についてはあまり議論されていないのだそうです。
川上主任研究員によると、機雷戦は大きく次のように分類されるのだそうです。
・機雷敷設戦:機雷を敷設する作戦川上主任研究員は、台湾有事における中国による機雷敷設戦について、米海軍大学中国海洋研究所が2009年に発刊した「中国の機雷戦」を引用し、中国が台湾に対して機雷を敷設する地理的選択肢は、港湾などを除き台湾本島の西側および北側であり、その理由は、台湾本島の南側と東側は、沿岸から急激に水深が2000mに達することから、機雷敷設に適さないことを挙げ、それに同意すると述べています。
・対機雷戦 :機雷を排除あるいは除去または回避する作戦
・機雷掃海=機雷が攻撃対象とする船舶と同じ要素を発し機雷を騙して作動させて処分
・機雷掃討=機雷をソーナーで探知し、無人水中ビークルや水中処分員などにより爆破処分
従って、中国は台湾本島西側の台湾海峡の南北入口付近に機雷を敷設して、台湾及び台湾を支援する各国艦艇の侵入を阻止する機雷原を設定するとともに、台湾本島の西側及び北側に台湾軍艦艇の撃破を企図した機雷原を設定すると推察。
一方、台湾は、台湾海峡を挟んで西側の金門島などの島々の付近及び台湾本島の西側及び北側の沿岸海域に防御機雷原を設定する可能性が考えられると述べています。
要するに、上述した海域に機雷原を設置することで、他国の侵入や、相手国の艦艇・揚陸艦の接近を阻止しようという訳です。
4.浮遊機雷に注意せよ
川上主任研究員は、台湾有事が発生した場合、軍事的合理性の観点から、「機雷戦」が現実のものとなる可能性が高いとし、日本が備えるべき2つの点について、次のように述べています。
(1) 「備え」による被害防止と対処(1)で取り上げられている「浮流機雷処分」というのは、地味なようでしっかり対応する必要があります。
台湾有事で機雷が敷設されたとの情報を得た場合、直ちに政府もしくは国家安全保障局(NSS)に「船舶安全情報室(仮)」及び「浮流機雷対策室(仮)」を設置し、オールジャパンで取り組むための態勢づくりが必要となる。
この場合、情報収集及び警戒情報発信体制と浮流機雷処分体制が必要である。情報収集及び警戒情報発信体制については、国交省、農林水産省、防衛省、海上保安庁、警察、自衛隊のほか、民間の商船、漁船などを含むあらゆる関係機関、関係者から通報を得る必要があるとともに、危険情報を得た海域付近に近づかないよう機雷警報の発信が必要となる。
処分体制は、海上自衛隊をはじめ、陸上自衛隊、海上保安庁、警察などの陸上爆発物およびテロ対策としての爆発物処理部隊をも動員して、海上自衛隊が保有する機雷処理のノウハウを共有、教授して、対処する必要がある。つまり、大量の機雷が漂流、漂着する場合、海上自衛隊の爆発物処理部隊のみでは、対応しきれないことが予想され、これについてもオールジャパンで行う態勢が必要である。また、このような事態を想定して、平時に浮流機雷の被害防止と対処について準備しておく必要がある。
(2) 集団的自衛権発動に係る準備と対応
これまでの分析から、台湾有事に際して、米軍から少なくとも対機雷戦に関しては、機雷排除要請がなされることが予測される。その理由は、
①台湾有事は、日米安全保障条約第4条に基づく協議対象であること、②朝鮮戦争に際し、GHQから日本政府に対し掃海艇の派出命令が出された経緯があること、および米国からペルシャ湾への掃海部隊派遣要請があったこと、③現在においても、米海軍沿岸海域戦闘艦(LCS)の対機雷戦能力は、当初計画されたとおりの戦力化がなされていないこと、および2023年までに、アベンジャー型掃海艦が全艦除籍となること、そして、④日本の対機雷戦能力は、戦後の航路啓開業務、湾岸戦争後の機雷処理の実績を含め、世界的に高いレベルにあることからである。
これに、浮流機雷が日本近海に漂流することを想定すれば、「存立危機事態」の要件を満たす可能性がある。その場合には、集団的自衛権が発動され、日本の対機雷戦部隊による台湾海峡及びその周辺海域に敷設された機雷排除が実行されることも想定される。
まさに2015年に国会で議論された機雷による「ホルムズ海峡危機」がそのまま「台湾海峡危機」として現実のものとなる。こうした事態にいかに対応するかについて、検討しておく必要がある。
たとえば台湾海峡に設置された機雷のワイヤーが切れ、浮遊した機雷が海流に乗って日本近海まで流れてくると、日本近海を航行する船舶への触雷、または漂着し人員被害が出ること、さらには、海上交通が麻痺あるいは遮断されることが予測されるからです。
過去には、第二次大戦末期、日本が東シナ海、南シナ海、台湾海峡、対馬海峡などに防御用として敷設した係維機雷が浮流し、日本の太平洋側沿岸及び日本海側沿岸に漂着したことや、朝鮮戦争において、北朝鮮が、上陸阻止用に敷設した旧ソ連製の係維機雷が日本の日本海側沿岸に漂着した事例があります。
特に北朝鮮が敷設した旧ソ連製機雷の浮流は、大陸からの北西風及び対馬海流に乗って、多くの浮流機雷が日本の日本海側沿岸に漂着、爆発しました。
この旧ソ連製機雷の浮流は、島根県沿岸部から能登半島、津軽海峡および北海道西側沿岸部を経て宗谷海峡に至るまで、漂流、漂着が急増。1952年2月には、新潟港に出入港する船舶は全くなくなり、津軽海峡では、当時本州と北海道を結ぶ青函連絡船の運航を停止する事態にまでなったそうです。
つまり、いくつかの機雷のわざと黒潮に乗せて浮遊させてやるだけで、日本のシーレーンを使い物にならなくさせることだって出来るということです。
日本政府、岸田政権にも、こうした地味ながら大きなダメージを与える攻撃に対する対応をしっかりと立てておいていただきたいと思いますね。
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