中国を規制で締め上げるアメリカ

今日はこの話題です。
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1.中国での先端技術施設建設禁止


9月6日、アメリカ商務省のジーナ・レイモンド長官は、連邦政府から資金提供を受けている国内のテクノロジー企業に対し、「Chips and Science Act(通称CHIPS法)」について、「我々はCHIPSの資金を受け取る企業が国家安全保障を損なうことがないよう、ガードレールを設けるつもりだ……企業がこの資金を中国での投資に使うことは認められない」と、今後10年間、中国での「先端技術」施設の建設を禁止すると発表しました。

この指針は、アメリカ国内の半導体産業を強化することを目的とした500億ドル(約7兆2000億円)規模の計画の一環としてなされるものです。

CHIPS法とは、2021年6月に可決された上院のアメリカイノベーション・競争法(USICA)と対となる下院の法案として、今年1月25日に提出されました。

CHIPS法では、資金総額のうち約280億ドルをIntelやMicron Technologyといった最先端のロジックチップやメモリチップを製造する企業の支援に使われます。

このCHIPS法が誕生した切っ掛けは、昨今のチップ不足によって、アメリカの産業と軍隊が現在、国外で製造されるプロセッサーにどれだけ依存しているかが浮き彫りになったためです。Intelがこの10年、進化に苦戦する中で、台湾のTSMCや韓国のサムスンが主導権を握るようになりましたし、半導体産業の育成を目指す中国は、これらの企業に競合するSMICなどの国内半導体メーカーに補助金を提供しています。

商務省のレイモンド長官は「半導体業界におけるアメリカのリーダーシップを再構築することは、世界のリーダーであるアメリカの未来への"頭金"だ。CHIPS法は、アメリカの国家安全と経済競争力を支える産業において、アメリカが引き続きリーダーシップを発揮できるようにするものだ」と、CHIP法の目的は、半導体製造分野における技術的優位性を、TSMCやSamsungなどのアジア企業から取り戻すことにあると述べています。

そして、100億ドルは成熟した既存のチップの新たな製造能力や、SiC(炭化ケイ素)、カーボンナノチューブ材料関連の専門技術に投じられ、110億ドルは「国立半導体技術センター(National Semiconductor Technology Center:NSTC)」、先進パッケージングプログラム、そして最大3つの製造機関の創設に使われることが決定しています。

アメリカはCHIPS法で、国内の半導体産業を支援する見返りに中国での工場建設を禁止することで、最先端技術を盗まれないようにしようとしている訳です。


2.対中輸出規制


アメリカは、工場建設のみならず、製造装置や半導体製品に対しても中国への輸出規制を掛けています。

アメリカ政府は既に、線幅10ナノメートル(nm)以下の半導体が製造可能な装置の大半について、中国最大の半導体メーカーであるSMICに許可を得ず販売することを禁止しているのですけれども、7月に、この制限の対象を14nm以下の半導体が製造可能な装置に拡大しています。

ブルームバーグによると、アメリカはオランダや日本に対し、半導体製造に必要不可欠な主要技術を中国に販売するのを禁止するよう求めていると伝えていますけれども、あるいは更なる規制を要求してくるかもしれません。

また、アメリカの半導体メーカーのNvidiaとAMDは9月初めにアメリカ当局からAIチップの中国向け販売を停止するよう命じられたと明らかにしています。

イギリスの株式調査会社Arete Researchのシニアアナリスト、ブレット・シンプソン氏によると、中国メーカーは、AIアプリケーション開発においてアメリカの先を行っているのだそうです。

シンプソン氏は今回の規制に関して「中国政府は対抗措置として、国内のAIチップ関連の新興企業の取り組みを加速させていく可能性もある。しかし、こうした企業が、NVIDIAの新型プラットフォームH100はもちろん、『N-1』機能に匹敵するような大規模クラスタの商用化を数年の間に実現できるようになるまでには、まだ時間がかかるだろう……HiSiliconは、中国国内でも群を抜いて優れた能力を有していたが、もはや最先端の半導体チップを製造することはできない。今後、CambriconやBirenTechnologyなどの中国メーカーが、多彩な活動を繰り広げていくだろう」と述べ、世界をリードする中国のAI開発が、減速する可能性があると指摘しています。


3.日の丸半導体


半導体メーカーに補助金を入れるのは日本でも行おうとしています。

昨年12月20日、政府は、半導体工場の新増設に補助金を投入する改正法を成立させていますけれども、これは、日本半導体産業のシェアは急減しているからです。

1988年に50.3%あった日本半導体産業のシェアは、2019年に10%まで低下し、2030年にほぼ0%になってしまうことに危機感を持った経産省は、シェアの低下を止め、上昇に転じさせるために、半導体工場の新増設に補助金を投入する改正法を立案したのですね。

この改正法に基づき、今年6月に、TSMC熊本工場に最大4760億円が投入されることが決まり、翌7月にはキオクシア&WDの四日市工場に最大929億円が投入されることが決まっています。

ただ、いくら半導体工場が新増設されたとしても、そこで最先端の半導体製品が作られるとは限りません。

実際、TSMCが熊本工場で生産するのは、線幅22nm~28nmのいわば10年前の「お古」です。当然、最先端の技術ノウハウも蓄積されることはありません。

アメリカは、「自国の技術的優位性」を確保しようと様々な手を打ってきています。果たして、日本政府がそれをどこまで考えているか分かりませんけれども、もし、本気で「日の丸半導体」の復活を考えているのであれば、工場建設に金を出すだけではなくて、10年20年単位で、技術者、人を育てるという具合に腰を据えて取り組むべきだと思いますね。


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この記事へのコメント

  • 〉TSMCが熊本工場で生産するのは、線幅22nm~28nmのいわば10年前の「お古」です。
    違います。
    今回不足したLSIの生産は自動車用や機械に組み込まれるLSIです。それはちょうどこの線幅22nm~28nmで作られる「高信頼性LSI」なのです。いま日本や海外で多数必要とされているのがこの製品なのです。
    最先端のプロセス(10nm以下)ではCPU、GPU、Memoryが中心でこれらは信頼性という部分では自動車や機械などの高信頼性を求められるものには適応できないのです。
    2022年09月09日 16:39