

1.資産現金化先送り
9月2日、韓国の大法院(最高裁)の金哉衡(キム・ジェヒョン)大法官が退官しました。
金大法官は、いわゆる元徴用工の訴訟問題をめぐり、三菱重工業が韓国内資産の現金化命令を不服として行った再抗告について審理を担当していたのですけれども、ついにその判断を下す前に退官しました。
これで、日本企業の資産現金化問題は、先送りされることとなりました。
退任式で金哉衡大法官は「立法や政治の領域で解決することが望ましい事案なのに、裁判所の門を叩くケースが多くなっている……立法府で解決しなければならないすべての問題を司法府が乗り出して解決しようとしてはいけない。そうすることもできない……私は進歩でも保守でもない。裁判官を保守あるいは進歩に分類し、どちらか一方に閉じ込めようとすることは望ましくない」と挨拶したのですけれども、まるで、日韓問題を政治が解決できないのを司法に押し付けるな、といわんばかりの文言です。
元徴用工問題について、司法に責任を丸投げし、政治的解決を放棄したのは文在寅政権ですけれども、5月に就任した尹錫悦大統領は、日韓関係改善をめざす発言を繰り返しています。
実際、韓国外務省は7月26日、三菱重工に対する資産現金化命令を審理中の最高裁に意見書を提出。意見書は、韓国政府が「合理的な解決策を模索するため、対日外交協議を続けており、官民協議会などを通じて、原告側をはじめとする国内各界各層の意見を収集するなど多角的な外交努力を傾けている」とする内容で、現金化の最終決断に待ったをかけるものと見られていましたから、今回、金哉衡大法官が判断を下さすに退官したのは、政府の意向を酌んだといえなくもありません。
2.官民協議会
7月4日、韓国外務省は元徴用工訴訟問題を解決するため官民協議会を設置し、原告側や専門家から意見を聴取。朴振(パク・チン)外相が原告の自宅を訪れ、直接話を聞くなど原告や遺族らの説得を試みてきました。
官民協議会は何度か開催され、4回目の会議が9月5日に行われました。
4回目の会議後、外交部当局者は記者団に「この2ヶ月間、月に2回の割合で計4回の協議会を行っており、参加しなかった被害者側とも個別的に接触して、意見に耳を傾けてきた……様々な方法で被害者と支援団体などと意思疎通を続けていくが、協議会の形では今日が最後になる」とこの4回目で終了すると宣言しています。
では、協議会で話が纏まったのかというと、全然そんなことはなく、原告側は日本政府からの謝罪を求めるなど隔たりは依然大きく、協議会への出席を拒んだり、意見書の撤回を求めるなど反発が続いているようです。
外交部当局者によると、この日の4回目の会議では「最高裁判決の履行の主体と関連し、基金や財団などを新設するか、すでに活動している既存組織を活用する方法などが議論された……財源問題は国内企業と日本企業、被告企業、経済団体など様々な変数をめぐって議論が交わされた」と、原告側の立場を再度確認し、最高裁の賠償判決の履行案やその主体、日本側の謝罪問題などを集中的に話し合ったそうです。
今後は、韓国政府がこれまで議論された内容をもとに、大法院の賠償判決の履行に向けた案をまとめる方針だそうですけれども、韓国政府が検討していた日本企業の賠償金を税金で肩代わりする方法も、官民協議会では反対意見が多数を占めたそうです。
参加者たちによると、「政府が直接国家予算を使って賠償判決を履行することは望ましくも、適切でもない」という点で意見の一致を見たとのことですから、これが本当だとすると、韓国政府は「税金で肩代わりする案」を諦めたことになります。
3.まだ戯言をいうのか
では、税金で肩代わりできなければ、賠償金をどうやって確保するのかというと、あとは民間から集めるしかありません。要するに、財団方式です。
9月6日、韓国の文喜相元国会議長は、ソウルで開かれた日韓関係をテーマとしたセミナーで、議長在任中の2019年に自ら国会に提出した元徴用工問題をめぐる法案について説明しました。
法案は、日韓両国の企業と国民による自発的な寄付を財源とした基金から原告に補償する内容で、文氏は「韓国側の先制的な立法を通じて両国が懸案について協議し、譲歩する名分を与えられる」と法案の推進を訴えました。
もっとも、この法案は一度、廃案となり2020年に再度、発議されましたものの国会での審理は進んでいません。
この法案については、2019年11月のエントリー「文喜相の狡猾と機を窺う釣り野伏せ」で取り上げたことがありますけれども、慰安婦合意でつくった「和解・癒やし財団」も勝手に解散しておいて、まだ、戯言をいうのか、という感想しかありません。
これは既に韓国の国内問題です。いつまでも日本にタカるのは止めていただきたいし、日本政府も今のスタンスから一歩も引かずにい続けるべきだと思いますね。
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