

1.社会主義現代化強国
9月9日、国際非政府組織のシンクタンク「国際危機グループ」のアマンダ・シャオ上級アナリストが都内で記者会見を行いました。
シャオ氏は、中国の習近平政権が建国100年にあたる2049年に向けて掲げる「社会主義現代化強国」の目標と、台湾統一が「今や明白に関連付けられている」と説明し、「2049年までに統一を行わなければならないという暗黙のスケジュール」を意味すると説明しました。
ただ、シャオ氏によると、「中国は水陸両面から侵攻する軍事的準備は整っておらず、内外への発言も近い将来の侵攻開始を模索していることを示唆していない……当座の最善の解決策は、武力による統一に伴うリスクが大きいことを、中国指導部に分からせることだ」と、中国の早期台湾侵攻には否定的な見方を示しながら、米台や、日本などの同盟・パートナー国が侵攻に伴う軍事・経済的コストを明確にする必要性や、台湾の防衛力強化を訴えました。
そして、日本については、地理的に近い台湾の有事が「日本周辺の領海・領空に影響を及ぼさないと考えるのはより困難になっている」とし、有事の回避は「日本の国益」と語っています。
中国は結党100年までは経済成長を重視した「小康社会の建設」を推進してきたのですけれども、今年の共産党結党100周年を機に、政策の大きな転換をしようとしています。
それがシャオ氏の指摘した「社会主義現代化強国」というものです。
社会主義現代化とは、国家の統治体系と統治能力の現代化に加え、全人民が平等に発展する権利が保障され、生活水準の格差が縮小し、「共同富裕」が確実に進むことを目的としたもので、2017年の第19回党大会では、2049年の建国から100年の節目の年に「社会主義現代化強国の建設」が目標として掲げられました。
「共同富裕」については、8月17日に開催された中央財経委員会で議論されたのですけれども、その中で習近平主席が「『共同富裕』とは社会主義の本質的要求であり、中国現代化の重要な特性である」と強調。具体的な政策として再分配が挙げられました。
これは、企業から労働者への給与等を支払う「第1次分配」、税制度を通じて低所得者へ再分配を行う「第2次分配」、そして、高額所得者による寄付等からなる「第3次分配」からなり、習近平政権は、この基本的制度を確立するとしています。
シャオ氏は、この2049年を台湾統一の期限としているというのですね。
2.燃料や食料もまったく足りない
シャオ氏は日本に対して、台湾有事への準備を行うべきだと述べているのですけれども、日本の現状はお寒い限りです。
9月12日、陸自が沖縄の離島への侵攻など中国との有事を想定し、迫撃砲やロケット弾といった弾薬が現状より20倍以上も必要だと見積もっていることが明らかになりました。
更に、陸自の弾薬の7割近くは冷戦時代にロシアの侵攻に備えた北海道に備蓄し続け、九州・沖縄には1割弱しか備蓄していないことも明らかになっています。
8月26日のエントリー「自衛隊は国民を護り切れるか」で、自衛隊の継戦能力の欠陥について取り上げましたけれども、それが具体的な数値として浮き彫りになった形です。
なぜそうなっているかというと、そもそも備蓄拠点が偏っているからです。
陸自の補給処は火砲などの弾薬や燃料のほかに車両、化学・通信・衛生の装備を保管したり整備したりする後方支援拠点なのですけれども、支処と出張所合わせて全国に27ヶ所あります。
この27ヶ所の内訳は、北海道10、東北3、関東7、関西3、九州4となっており、沖縄には支処、出張所が一つもありません。関東が7なのに対して北海道が10もある。如何に北海道が広いといえども全国の補給処の三分の一以上が北海道に集中しているのは、いかに対ロシアという冷戦期構造のままであったかを物語っています。
現状は、沖縄の部隊には弾薬などの物資を必要に応じて九州などから輸送する他なく、沖縄の部隊は車両や装備の整備の際も九州などに送っています。現行の補給拠点の態勢であれば、対中有事でもこうした輸送を行わざるを得ず、実効的に対処することは難しいでしょう。
政府高官は「九州・沖縄では燃料や食料もまったく足りない」と指摘していますけれども、ここは早急に対応する必要があるかと思います。

3.南西諸島に火薬庫増設
流石にこの事態に岸田政権も静観している訳にはいかなかったようです。
9月6日、浜田防衛相は、日経新聞のインタビューで次のように述べました。
――台湾有事を想定すると弾薬や火薬庫の不足、部隊の機動展開能力で懸念があります。九州南端から与那国島にかけての南西諸島は、青森から山口までの距離があります。有事において、九州から弾薬を運んでくるなどと悠長なことはできません。
日本の防衛を全うするには航空機、艦艇などの装備品のみならず、これらに搭載する弾薬についても十分な量を確保していくことが重要だ……沖縄本島と九州本島の間の島嶼に港湾施設や燃料タンクなどの整備を検討している。奄美大島の瀬戸内分屯地における火薬庫の整備などを推進したい。持続性、強靱性や機動展開能力など必要な防衛力を抜本的に強化する。
浜田防衛相は、奄美大島の陸上自衛隊瀬戸内分屯地への弾薬庫の増設を挙げ、「スタンド・オフ・ミサイル」の保管を念頭におくとしていますけれども、防衛省は令和4年度概算要求で、弾薬等について次の要求を挙げています。
3 持続性・強靭性の強化各種弾薬が3000億足らずで本当に足りるのかと思ってしまいますけれども、これすら用意できないようでは話になりません。岸田政権は、財務省のポチになることなく、自衛隊の継戦能力の向上・整備に努めていただきたいと思いますね。
(1)継続的な運用の確保
平時から有事までのあらゆる段階において、部隊運用を継続的に実施し得るよう、弾薬及び燃料の確保、自衛隊の運用に係る基盤等の防護等に必要な措置を推進するとともに、各種事態に即応し、実効的に対処するため、装備品の可動率確保のための取組を推進する。
空対空ミサイル(AIM-120 )
○ 継続的な運用に必要な各種弾薬(2,537億円)
・ 航空優勢、海上優勢の確保に必要な対空ミサイル、魚雷の取得(376億円)
・ 能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)の取得等(614億円)
・ 標準型ミサイルSM-6の取得(207億円)
○ 火薬庫の整備(99億円)
○ 小型の攻撃型UAVの運用に係る研究(0.3億円)
小型の攻撃型UAV等導入の検討のため、小型の攻撃型UAV等の運用要領を研究
○ 小型の攻撃型UAVからの防護に係る研究(1億円)
車両への器材搭載による小型の攻撃型UAVの探知・迎撃手段について研究
○ 滞空型UAVの試験的運用(50億円)(P13参照)
○ 無人機雷排除システムの整備(12億円)
護衛艦(FFM)に対機雷戦機能を付与するため、機雷の敷設された危険な海域に進入することなく、機雷を処理することを可能とする無人機雷排除システムのうち、水上無人機(USV)を取得
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