

1.イジュームを電撃訪問したゼレンスキー
9月14日、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日に奪還した東部ハリコフ州の要衝イジュームを電撃訪問しました。
イジューム市議会前での式典に出席したゼレンスキー大統領は、犠牲者に黙祷し、ウクライナの国旗を掲揚しました。
ゼレンスキー大統領は現地で記者団に対し「ブチャでも見られたような、建物の破壊と殺害された人々の様子は衝撃的だ」と語り、自国や外国政府から派遣された捜査官らに謝意を示し「時間はかかるが、必ず裁きがあるだろう」と述べました。
また、ゼレンスキー大統領はSNSに「解放されたイジュームに青と黄色の旗がはためいている。ウクライナの全ての村や町でもそうなる」と抗戦の勝利を誓っています。
ウクライナ軍の情報機関は、ロシア軍に「パニック」と「戦闘拒否」が広がっていることが、傍受した会話からうかがえると述べていますけれども、その一方でウクライナの民間インフラに攻撃を仕掛けているとしています。
この日、ウクライナ当局は南部の都市クリヴィー・リフで、ダムに巡航ミサイルが最大8発撃ち込まれ、近くの川の水位が上昇したほか、住民の飲料水の供給が脅かされたと発表しました。
クリヴィー・リフ市の市長によると、市内2地区の通り22カ所ほどで被害が発生。ダムの決壊によって1秒間に100立法メートルの水が流れ出しており、川が危険なレベルまで増水していると説明しています。
これについて、ゼレンスキー大統領は、「クリヴィー・リフを水浸しにする」ことを狙った「テロ国家」だと述べ、「占領者はパニックを引き起こし、非常事態を作り出し、人々から光や熱、水、食料を奪おうとすることしかできない。それで私たちは屈服するか? とんでもない。向こうは相応の対応と報復を受けるのか? もちろんだ」とロシアを批難しています。
2.ウクライナ軍を襲う兵站問題
ロシア軍の民間インフラ攻撃について、一部には腹いせまがいの嫌がらせだという意見もあるようですけれども、もし長期戦を見据えたものだとすると、ウクライナもそれ相応の準備と覚悟が求められます。
なぜなら、奪還した土地のインフラが破壊されてしまったら、その維持コストが跳ね上がるからです。
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は、東部のウクライナ軍はロシアの反撃に対してより脆弱になる可能性があると警告していますけれども、奪還した地域は単に地面があるだけではありません。民が住んでいます。
つまり、彼らの生活の面倒をみる必要があるということです。その中心となるインフラが破壊されると、それを復旧させるか、住民を他の地域に避難させるしかありません。つまりウクライナ軍は、戦線を維持するだけでは駄目だということです。
奪還した土地のインフラが健在で、住民も歓迎してくれる場合は、弾薬は無理でも食糧や水の調達はより簡単になるでしょう。けれどもそれらが破壊された場合はいちいち別の場所から持ってこなくてはならなくなります。畢竟、兵站の問題が発生することになります。
3.騒めくロシア世論
ただ、それでも、ウクライナが大戦果を挙げたことには変わりなく、これがロシアには相当効いたようです。
ロシア国防省は当初、ハリコフ州からの撤退を「再配置」と説明していたのですけれども、ロシア国内では「敗退」との受け止め方が広がり、テレビ番組などで激論が交わされているそうです。
これについて、笹川平和財団・主任研究員の畔蒜泰助氏は次の様に述べています。
・言ってみればロシアの大きな敗北が明るみになった。そのタイミングでサンクトペテルブルクの市議会の方ででプーチンの辞任要求が出された。戦争開始当初はロシアの情報統制が効いていたんだと思う。ここにきてロシアの情報統制や政治統制があまり効果を見せなくなりはじめていることの表れだ。8月29日のエントリー「ロシアのフレアリングと安心のルーブル」で、首都モスクワでは侵攻前とほとんど変わらない日常が続いていることに触れましたけれども、畔蒜氏の指摘するようにロシア当局の情報統制が効かなくなってきたのだとすると、ロシア世論も揺らいでくる可能性があります。
・『ロシア国内の生活とウクライナの戦争は完全に別物ですよ』とある種のパラレルワールドだと言い方をする人もいるが、政府のやっていることに反対して生活が苦しくなっても嫌だから支持をする。ところが今回こういう形で敗北を喫した、戦争を支持している人たちのなかからも『こんなやり方じゃダメだ』『大動員すべきなんだ』という声が上がり始めている。ロシア国民が本当に戦争を実感せざるを得ない状況になっていく。パラレルワールドを維持できない可能性がある
その揺らぎが停戦の方に向かえばいいのですけれども、逆に戦争激化の方に向かうと、長期戦どころか、更なるエスカレーションになることも考えられます。
9月13日、ドイツのショルツ首相はプーチン大統領と1時間半にわたって電話会談を行いました。
ショルツ首相はプーチン大統領に対し、ロシアがウクライナの領土をこれ以上併合しようとしても「いかなる状況下であっても認めない」と伝え、停戦とロシア軍の完全な撤退、ウクライナの領土の一体性と主権に対する尊重をもとに、可及的速やかに外交的な解決策を見つけ出すよう要請していますけれども、それで、はいそうしましょうとなるのであれば、こんな状況にはなりません。
もはや、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領のどちらかが倒れない限り、この戦争は終わらないのではないかと思えてきました。
この記事へのコメント
金 国鎮
プーチンはウクライナ東部のロシア系住民の保護・救出を再三主張していたが
テレビの画面にはキエフに侵攻するロシア軍戦車の長い列だった。
ロシア軍からは今回の軍事作戦について説明できる軍人が出てこない。
ロシアからはプーチンとその側近から軍事作戦について度々説明があった。
軍事進攻して多数の市民が巻き込まれないならばともかく世界はそれを注視していた。
今回のウクライナ軍の軍事進攻に対してロシア軍から戦局の転換を図るために
ロシア軍の部隊を移動したと言う声明が出てきたが、ロシア軍からこうした声明が過去に
出てきた記憶がない。
もしかするとロシア軍の軍事作戦をロシア軍が取るのはこれからではないだろうか?
今まではプーチンを始めとするロシアの政治作戦であり、その結果多くの死傷者をロシア軍は
出してしまった。
ウクライナ軍を支える多くの外国製の武器支援とは何だろうか?
この結末は間もなく見えてくるだろう。