

1.セキュリティ・クリアランス
9月28日、高市早苗経済安全保障担当相が『BSフジLIVE プライムニュース』に出演し、「セキュリティ・クリアランス(適格性評価)」制度を取り上げました。
「セキュリティ・クリアランス」とは、公的機関及び関連する民間企業が人を採用する際、安全保障に関わる機密などを取り扱う個人の適性を評価し、情報にアクセスできる資格を与えることを指し、欧米をはじめ世界の多くの国では、この「セキュリティ・クリアランス」を義務付けるシステムを持っています。
この制度では、その人が従事するポジションのランクが上がれば上がるほど必要とされるクリアランスレベルも上がり、例えば国家で重要機密情報を取り扱うようなレベルになると、クリアランスレベルも最高位のものになります。
日本では行政官に対する適格性確認制度というものはあったのですけれども、法制化されたものではなく、機密情報に民間人がアクセスを必要とする際に混乱が生じていました。
2014年12月に施行された特定秘密保護法の中で、民間人を含む特定秘密取扱従事者には適格性を審査する適性評価が義務付けられたことで資格審査について法的根拠を持つに至りました。
その後、2017年5月に自民党政調会IT戦略特命委員会が「デジタル・ニッポン 2017」の中でセキュリティクリアランス制度の創設を提言。話題になりました。
海外では一般の民間企業でも採用時にはバックグラウンドチェックを実施することが普通で、ポジションによって経歴確認からリファレンス、違反行為のチェックや薬物検査などの項目についてチェックを受けます。これは組織の危機管理対策のベースとなっており、このお陰で民間企業が機密情報にアクセスできるようになり、各国が各々の技術開発に応用して成果を上げているという指摘もされています。
日本でもようやく経済界などから「セキュリティ・クリアランス」導入を求める声が出てきたのですけれども、身辺調査もするため、個人情報保護の観点から慎重論も根強くあるようです。
ただ、今年4月に自民党のデジタル社会推進本部が提言した「デジタル・ニッポン 2022」ではセキュリティ・クリアランスの文字が見当たらず、2022年5月に成立した経済安全保障推進法案にもセキュリティ・クリアランスは盛り込まれませんでした。
番組で司会の反町理氏から法案提出の時期を問われた高市経済安全保障担当相は「この秋はぜんぜん間に合わないです。いまどういう場合にセキュリティ・クリアランスが必要かということを洗い出しています」と回答しています。
2.中国という言葉を出さないでくれ
この番組の模様はネットの一部で今話題になっているのですけれども、それは「セキュリティ・クリアランス」だからではなく、それに続く高市経済安全保障担当相の暴露発言があったからです。
高市氏は先の発言に続けて「それと、大臣に就任した日に言われたのは、『中国という言葉を出さないでくれ』というのと、『来年の通常国会にセキュリティ・クリアランスを入れた経済安全保障推進法を提出すると口が裂けても言わないでくれ』と」などと発言。さらにサイバーセキュリティに話が及ぶと、「サイバーセキュリティは経済安全保障の一環だから、必要な法改正も私の担当にしてくださいと総理に申し上げて、断られてしまいました。ですから、いまサイバーセキュリティの担当ではございません。ただ、セキュリティ・クリアランスは、どうしても法改正して出したいというのが、私の強い希望です。しかし、内閣府の長は内閣総理大臣でございます。だから自分がやりたい、はい、法律案を書きなさいと役所の人に命令する権利は、私にはございません」と暴露しました。
高市氏は誰からそう言われたかについて口にはしませんでしたけれども、普通、大臣に就任した日に注文を付けられる人は、その任命者、すなわち総理しかありません。
他の報道でも岸田総理との会話を暴露したなどと、報じられているところをみると、誰もがそう思っているということです。
当然ながら、高市氏の発言はネットで反響を呼びました。曰く「高市さん、面白いなぁ やっぱりこの位言える人でないと、世界を渡り合えないね。スカッとした」とか「高市さんのこのぶっちゃけた事はある意味 今の政府は親中まっしぐらって事が改めて露呈しているよね」とか「口が裂けても言ってはいけないことをはっきり言い切る高市早苗さん最高です」などヤンヤの喝采です。
3.覚悟を決めた高市経済安保相
この発言について政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「自分の政治的な思惑だけで発言するなら、『閣僚をやめてくれ』という話になりますよ。もともと前任だった小林鷹之氏の留任が受け入れられず、岸田首相から要請されて『お役をいただいた限りは全力で働いていく』と明言したわけです。 自分の思いどおりにならないからといって、首相との会話を暴露するなら、高市さんだって会話を暴露されても文句を言えません。信頼関係を壊してまで暴露するなんて、"宣戦布告" みたいなものですよ。 暴露するなら大臣を辞任してから言うべきです。『私をクビにしてください』と言うなら覚悟が感じられますが、『明日クビになったらすいません』ですから。覚悟もなく暴露しているのでしょう」と手厳しく批判していますけれども、筆者には全てわかった上での覚悟の「宣戦布告」に聞こえました。
おそらく、高市氏は次期総裁選を目指す腹を固めたのだと思います。
そのためには、自分を総裁候補として推してくれる仲間の議員を20名集めなければなりません。前回の総裁選に出馬できたのは、安倍元総理が後押しして議員を貸してくれたからだと言われていますけれども、どの派閥にも属していない高市氏は、どこかの派閥に入って、そこから推薦してもらうか、自分の派閥を立ち上げなければならないのですね。
昨年の総裁選中、自民党内でまことしやかにささやかれていたのは、安倍元総理の清和会新会長就任に伴い、高市氏を清和会に復帰させるのではないかということでした。
けれども、唯一絶対の後ろ盾であった安倍元総理はなく、清和会には、高市氏の入会に「絶対に反対する」と断言する議員もいるそうです。
岸田総理が内閣改造をする前の7月、ある自民党衆議院議員は、高市氏について「安倍元首相の後ろ盾を失った高市早苗氏の政調会長留任は、相当難しい情勢だ。リベラル派である岸田首相とは元々ウマが合わず、自分の信じる政策へ一気に突っ走っていく高市氏の政治手法には、麻生副総裁、茂木幹事長が面白く思っていない。高市氏に近い関係者は『ここで高市氏を外せば、保守系を捨てたと思われかねない』と反発するが、いったんは表舞台から姿が消えるだろう……ただし、安倍元首相の死後、清和会の事実上の最終意思決定は森喜朗元首相が下すとされており、高市氏は森元首相との関係は悪くない。首相の座を狙うには厳しいが、一定の存在感は示していく」と漏らしていたそうです。
それでも、蓋を開けてみれば、高市氏は改造内閣で、経済安全保障担当相となりました。
ただ、これも閣内に取り込んでおけば、非主流派として勝手な行動をさせないという一種の「飼い殺し」という見方もできなくもありません。
その意味では、高市氏は、この曝露発言で、担当相を更迭されるかもしれないと分かった上で、仮にそうなったら、非主流派として自派閥を作ればよいと覚悟を決めたのだと思います。
一方、岸田総理が実際に高市氏を更迭できるかというと、あの発言の後で更迭したら、自分は媚中派だと自ら宣言するも同じですから、やりにくいでしょう。少なくとも自民党保守層の支持は離れていくと思います。
となると、このまま高市氏を「飼い殺し」し続けるのか。
そうなったらそうなったで、高市氏はこれからも何等かの形で「暴露」発言なり、安全保障関連での強硬発言を行って、存在感を高めていく可能性は十分あると思います。
ネットでは、高市氏の後ろ盾にアメリカがついたなんて意見もあるようですけれども、本当ならば、これから色んな動きが出てくるかもしれません。
安倍元総理の国葬儀を無事終えた岸田内閣の支持率がどうなるか分かりませんけれども、高市氏は、ポスト岸田への狼煙を挙げたのではないかと思いますね。
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